異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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もう1つの属性

 

「あ、あの、あなたは………?」

 

 一緒に列車から飛び降りたエルフの少女が、アサルトライフルを構える俺の顔を見上げながら傍らで呟いた。彼女の顔には暴行を受けた後が残っていて、頬や額には青痣がある。顔を殴られたらしく、鼻血を流した痕まであった。彼女が商人の所でどんな扱いを受けてきたのか想像した俺は、こんなに苦しい思いをしている人々を平気で商品として売るような輩に弾丸を叩き込んでやりたくなったが、その怒りはまず先にあの車両の中から出て来るであろう転生者に叩き込むべきだ。

 

 傷だらけの彼女を安心させるために「助けに来た」とだけ言った俺は、構えていたFA-MASfelinのホロサイトを覗き込み、いつでも転生者が飛び出してきた瞬間に蜂の巣にしてやる準備をする。

 

 ラウラは一足先に列車から飛び降りて狙撃準備を整えている筈だ。転生者が姿を現せば、すぐに7.62mm弾を遠距離からお見舞いしてくれることだろう。室内戦になるのではないかと警戒していたんだが、あいつらが最後尾の車両を貸し切りにしていてくれたおかげで、俺とラウラの両方が得意な距離で戦う事ができるようになった。これならばレベルに差があっても勝機はある。

 

 今の俺のレベルは30。9年間も魔物退治を続けていたにしては低いかもしれないが、俺たちが戦っていた相手はハーピーやゴブリンやゾンビばかりだった。最初は苦戦したりビビっていたんだが、だんだん慣れて来てからは瞬殺できるようになった。だが、弱い魔物とされているせいなのか途中から全くレベルは上がらなくなってしまったため、俺のレベルは30で止まっている。

 

 親父や母さんたちにもっと手強い魔物を倒しに行きたいと何度も言ったんだが、特に過保護なエリスさんは許してくれなかったし、こればかりは親父も許してくれなかった。

 

 ステータスは、攻撃力が890で、防御力が880になっている。スピードはやや低めの798だ。しかもあのメニュー画面では自分のステータスだけではなく転生者ではない仲間のステータスまで見る事ができるようになっているらしく、ラウラにもレベルとステータスが用意されていた。とはいえ正式な転生者としてのステータスではなく、あくまで転生者のレベルに換算した数値らしい。

 

 ラウラのレベルは俺と同じく30。ステータスは、攻撃力が俺と同じく890で防御力はやや低めの770。その代わりスピードは、俺以上の960だ。

 

 俺は攻撃力と防御力重視で、ラウラは打たれ弱い代わりにスピードと攻撃力特化というわけか。彼女はあまり前衛として戦わせない方が良いのかもしれない。

 

 ホロサイトの向こうで炎上していた車両の壁が、突拍子もなく吹き飛んだ。炎を纏いながら舞い上がった壁の一部が蒼空に陽炎をまき散らし、再び線路の上へと落下する。

 

 車両の壁を吹っ飛ばした張本人は、間違いなくあのデブだろう。ナックルダスターで顔面をぶん殴られた上に、俺の事を美少女だと勘違いしていたバカに違いない。

 

「酷いじゃないか………」

 

 吹き飛んだ壁の穴から、右手にバスタードソードを持ったデブが姿を現す。身に着けていた貴族のような派手な服は爆風で派手に引き裂かれた上に汚れていて、脂肪だらけの丸い顔は真っ黒になっている。

 

 派手な服を着て貴族のふりをしているよりも、あのデブにはまるで太ったゴブリンのようなこっちの格好の方がお似合いだ。レンズに亀裂が入ったメガネをかけ直したデブは、ゆっくりと線路の上に降り立つと、剣を地面に突き立てて両手を広げる。

 

「君。その子は僕が買った奴隷なんだよ。返してくれるかな?」

 

「………」

 

 俺があのデブに引き渡してしまうのではないかと警戒し、俺の手にしがみつくエルフの少女。ラウラはこの光景を見ているのか、耳の無線機からは姉の唸り声が聞こえてくる。

 

「あ、そうだ。君も僕の所に来てメイドとして働かない? 最近は産業革命のおかげで儲かってるから、ちゃんと給料も出すよ? それに、君はメイド服が似合いそうだし。へへへっ」

 

 ふざけんなよ、このデブ………。

 

 俺にメイド服だと!? 俺は男なんだけど!? パンツの下見てみるか!? 

 

 デブの気色悪さに青ざめつつ、ニヤニヤと笑う転生者を睨みつけていた。こいつに負けたら俺も奴隷にされて、メイド服を着せられるんだろうか?

 

 小さい頃から母さんに似ているせいで、よく女に間違われてきた。もう17歳になっているというのに、服を着て鏡の前に立ってみれば、男というよりは「男の服を着ている少女」にしか見えないし、体格もずっと訓練を続けて筋肉を付けているというのに、服の上からでは胸の小さい普通の少女にしか見えない。この女子みたいな容姿に拍車をかけているのは、九分九厘この髪型だろう。何で母さんと同じポニーテールにしなければならないんだろうか。

 

 今度、試しにリーゼントにしてみるかな? そうすれば男子に見えるだろうか?

 

「断る。この子は渡さない」

 

「へえ、いいね。クールで強気な美少女は大好きだよぉ……へへっ」

 

 何か言い返そうと思ったが、俺が口を開くと同時に転生者は剣を地面から引き抜いた。痛めつけて強引に連れて行くつもりなんだろう。

 

 こっちは銃を向けているというのに、あのデブはニヤニヤ笑ったまま正面に立っている。あいつは転生者なのだから、この世界の技術ではまだ銃は製造できていないという事を知っている筈だ。銃に詳しくないとはいえ、こっちが銃を持っているという事は転生者だと予測できないんだろうか?

 

 そんな考察をしている間に、爆破された車両が発する炎と陽炎が舞う草原を銃声が突き抜けていった。俺の後方でスナイパーライフルを構えていた頼もしいお姉ちゃんが先制攻撃を仕掛けたらしい。

 

「うぐぅ!?」

 

 いきなり狙撃されるとは思っていなかったデブの腹に、7.62mm弾の先端部が突き刺さる。まるでボディブローを叩き込まれたかのようにデブが腹を抑えて崩れ落ちると同時に、突き抜けていった銃声をその残響が追いかけていく。

 

 レベルが同等ならば今の一撃で終わる筈だが、俺たちよりもレベルが上で、こっちの攻撃力が相手の防御力のステータスを下回っていた場合は、大口径の7.62mm弾の直撃でも肉体を貫通することは出来ないという。昔に親父もステータスの高い転生者と戦って苦戦したらしい。だからあの親父は、ステータスに差があっても強烈な攻撃を叩き込めるように、大口径の武器をおすすめしてきたんだ。

 

 当時の親父の装備は、7.62mm弾をぶっ放すアサルトライフルとプファイファー・ツェリスカを2丁装備し、背中にはなんと82mmの迫撃砲を搭載したアンチマテリアルライフルを装備していたらしい。普通ならば絶対にありえない装備だが、こんな重装備でも転生者ならば素早く動き回れるし、反動も転生者の身体能力ならば殆ど無視できる。転生者だからこその重装備というわけか。

 

「痛ってぇ………」

 

「チッ」

 

 こいつもレベルが高かったか。起き上がったデブの贅肉で覆われた腹に命中した7.62mm弾は貫通しておらず、先端部がめり込んだだけだったようだ。

 

「もう1人仲間がいたのかな? もしかして、そいつが君に銃を渡した転生者?」

 

 転生者は俺だよ、馬鹿。

 

 そう思いながら、今度は俺が攻撃を仕掛けた。構えていたFA-MASfelinのトリガーを引き、5.56mm弾のフルオート射撃をお見舞いする。7.62mm弾よりも威力は落ちるため、この弾丸があのデブを貫通することはないだろう。この攻撃は牽制だ。適度に痛みを与えて怒らせ、攻撃を回避してから強烈なカウンターを叩き込んでやる。

 

 マガジンが空になるまでフルオート射撃を続け、空になったマガジンを取り外す。新しいマガジンを取り出しながら、耳を塞いでいたエルフの少女に「ここにいろよ!」と伝えると、新しいマガジンを装着してコッキングレバーを引き、今度はセレクターレバーを3点バースト射撃に切り替えた。

 

「ラウラ、普通の弾丸じゃ無理だ! 強装弾を!」

 

『了解!』

 

 俺が今アサルトライフルに装填したマガジンの中に入っているのは、先ほど連射していた5.56mm弾ではなく、その5.56mm弾の内部に入っているガンパウダーの量を増やして攻撃力を向上させた強装弾と呼ばれる弾丸だ。ラウラにもスナイパーライフルの弾薬を、通常の7.62mm弾からスナイパーライフル用の強装弾に変更するように指示を出してある。

 

 アサルトライフルの強装弾でも貫通は出来ないだろうが、ダメージは与えられるだろう。それにラウラのスナイパーライフルの強装弾ならば、もしかするとあの転生者の身体を貫通できるかもしれない。もし貫通できないのならば、キメラの能力を使ってぶち殺すだけだ。

 

 余談だが、弾薬のガンパウダーを減らした弱装弾と呼ばれる弾薬も存在する。これを使った場合は攻撃力が低下するものの、反動は小さくなるため命中させやすくなるんだ。

 

 5.56mm強装弾を3点バースト射撃で叩き込みつつ突っ走る。デブはさすがに何度も弾丸を命中させられるのが嫌になったらしく、剣を大雑把に振り回し始めるが、騎士たちが使っているような剣の刀身は全く弾丸を弾いていない。どれだけ振り回してもすべて空振りになっている。

 

 転生者がステータスで強化してもらえるのは攻撃力と防御力とスピードのみ。だからレベルが上がっても動体視力や剣術まで強化されるわけではないし、スタミナもちゃんと自分で鍛え上げない限り上がることはない。あの転生者は、おそらく自分の能力に頼り切って全然鍛えていなかったんだろう。脂肪だらけの腹を揺らしながら、少し剣を振り回しただけなのに息切れを始めている情けない転生者を見てため息をついた俺は、アサルトライフルでの射撃を中断し、ライフルを背中に背負ってからナイフとアパッチ・リボルバーをホルスターの中から引き抜いた。

 

「そんな小さいナイフで、剣に勝てるわけないだろぉ!?」

 

 ニヤニヤ笑いながら剣を振り上げるデブ。だがその剣を振り下ろす速度は、何度も俺たちを鍛え上げてくれた母さんの剣戟よりも遥かに遅い。俺たちの母さんの方が、このデブの100倍以上速いね。

 

 剣術を重視すると言われているラトーニウス王国騎士団で訓練を受け、騎士団を離反した後も毎日素振りの訓練をしていたストイックな母親なんだ。母さんが身に着けた技術をこんな楽ばかりしているデブが追い越していい筈がない。

 

 あまり努力家を冒涜するんじゃねえ。

 

 振り下ろされる前に大型トレンチナイフを胸に突き立ててやろうかと思っていたんだが、その前に振り下ろしていた最中のデブの腕がいきなり後ろに向かって突き飛ばされた。俺はこんな至近距離でデブの呻き声を聞く羽目になるのかと顔をしかめてしまったが、銃声の残響がデブの呻き声をかき消してくれた。

 

 1発の7.62mm強装弾が、ボロボロの服で覆われたデブの腕に喰らい付いたんだ。ちらりとデブの腕を見上げてみると、ラウラのぶっ放した7.62mm強装弾は貫通していなかったが、今度はめり込むだけでは終わらず、先端部がデブの肘の辺りに突き刺さっていた。

 

 接近戦を仕掛ける俺を援護するために、振り下ろされる途中の腕を正確に撃ち抜いたんだろう。頭を撃ち抜くよりも難易度の高い狙撃をスコープを装着していないスナイパーライフルで成功させた姉の狙撃技術に改めて驚愕しながら、俺は容赦なく右手の大型トレンチナイフを突き出す。

 

 刀身は贅肉に擦り傷のような小さな傷をつけた程度だったが、俺は続けてナイフを振り下ろし、左手のナックルダスターでボディブローを叩き込んだ。

 

「うがぁっ!?」

 

「鈍すぎるぞ、デブッ!!」

 

 左手を引き戻しながらアパッチ・リボルバーの刀身を展開し、右手を振り下ろしてナイフの刀身を叩き付ける。大型トレンチナイフの刀身を右斜め上へとそのまま振り上げ、振り上げ切ったところで逆手持ちに持ち替えつつ左手のアパッチ・リボルバーのナイフで追撃。相変わらずナイフの刀身はかすり傷しか付けられていないが、俺にはまだこいつを倒すための切り札が残っている。

 

 逆手持ちにした大型トレンチナイフを、まるでハンマーを叩き付けるように思い切りデブの肩に向かって振り下ろした。デブは連続で攻撃を喰らっていたせいで体勢を崩しており、ガードは全く出来ていない。ナイフで剣に勝てるわけがないと言っていた奴が圧倒されているところを冷たい目で見下ろしながら、俺は更に突き立てたナイフを押し込んだ。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 サバイバルナイフの刀身を大型化したような刀身が、デブの肩に突き刺さった。皮膚と筋肉を貫いた刀身を強引に引き抜き、剣を落として片手で傷口を押えるデブの転生者。贅肉で覆われた腹を蹴り飛ばした俺は、ブチギレしたデブが反撃してくる前に後ろにジャンプして距離を取りつつ、左手をポケットの中へと伸ばす。

 

 血の付いた大型トレンチナイフを構えたまま右手を突き出すと、俺は全身の魔力を右腕へと集中させ――――――魔術の詠唱を開始した。

 

「出でよ、無慈悲なる爆風よ。我が眼前の怨敵を、その炎で蹂躙し給え………!」

 

「くっ、今度は魔術を―――――」

 

 やっぱり、詠唱を始めた俺の右腕に気を取られるデブ。あいつはあまり銃には詳しくないみたいだが、魔術は警戒しているようだ。

 

 だからこそ、俺が今から繰り出す攻撃は、こいつが予想できない攻撃となる。

 

 転生してから親父に散々いたずらした時のような笑みを浮かべた俺は、まんまと俺の右腕ばかりを見ている馬鹿に向かって、左手でポケットから引っ張り出したあるものを放り投げた。

 

「―――――C4爆弾ッ!!」

 

「何ぃッ!?」

 

 俺たちはキメラだ。体内にはもう属性に変換済みの魔力があるから、その属性の魔術を使う場合は詠唱する必要はない。なのにわざわざ魔術の詠唱を始めたのは、次の攻撃が魔術による攻撃だと思い込ませるためのフェイントだ。

 

 幼少の頃から、こんなフェイントを多用しないと勝てないような両親(化け物)と戦わされてるんでね。狡賢い戦いが得意になっちまったのさ!

 

 放り投げた爆弾の代わりに起爆装置を取り出していると、逃げようとしていたデブが、今度はラウラに片足を撃ち抜かれた。7.62mm強装弾は貫通せずに右足の太腿に突き刺さっている。

 

「さすがだ、お姉ちゃん」

 

『可愛い弟のためだもんっ!』

 

 可愛いなぁ………。

 

 家に戻ったらなでなでしてあげよう。そうすると、お姉ちゃんも喜ぶし。

 

 大喜びするラウラの顔を想像してニヤニヤした俺は、左手の起爆スイッチを押した。

 

 デブに向かって放り投げられていたC4爆弾が、再び線路の上で弾け飛ぶ。車両を易々と突き上げて吹き飛ばしてしまった爆風が膨れ上がり、線路もろとも地面を抉り始める。片足を撃ち抜かれていたデブもその爆風と衝撃波にあっけなく喰らい付かれ、そのまま炎に呑み込まれてしまった。

 

「爆弾の扱いも得意分野なんでね」

 

 ポケットの中にはまだあと1つC4爆弾が残っているが、おそらくこいつの出番はないだろう。

 

 ラウラの狙撃のおかげで、俺の切り札を確実に命中させるための手は打ってあるのだから。

 

「……お嬢ちゃん、走れるか?」

 

「え?」

 

「あっちに仲間がいる。……とにかく、俺から離れろ」

 

 デブがあの爆風の中からブチギレしながら姿を現す前に逃がしておこう。彼女まで巻き込むわけにはいかない。目を見開きながら戦いを見ていたエルフの少女の傍らに駆け寄ってそう言った俺は、彼女が俺に聞き返さずに走って行ったのを確認すると、耳に装着していた無線機に向かって通達する。

 

「アレ使うぞ」

 

『了解。じゃあもう終わるの?』

 

「ああ。転生者って弱いんだな」

 

 ラウラとの通信を終えてから、まるでウォーミングアップする格闘家のように両腕を回す。俺はサラマンダーの血を持つ親父の遺伝子を受け継いだキメラだが、受け継いだのは親父の炎属性だけじゃない。

 

 今から繰り出すのは――――――母親譲りの2つ目の属性だ。

 

 血液の比率を30%に変化させつつ、体内で変圧を開始する。血液の流れが少しだけ早くなると同時に両腕が蒼い外殻で覆われ始める。親父とは色の違う俺の外殻だ。

 

 いつもならば外殻を纏って魔力を使おうとすれば炎が出るんだが、今の俺の両腕が纏っているのは―――――蒼白い電撃だった。

 

「くっ……!」

 

 爆風の中から更にボロボロになって姿を現すデブ。電撃を纏っている俺を見て目を見開いたが、まだ戦いを続けるつもりらしく、再び剣を構える。今まで端末が与えてくれるステータスと能力で敵をねじ伏せてきた自分が負けるわけがないと思い込んでいるんだろう。

 

 だが、残念ながらお前の負けだ。こいつはもう回避できない。

 

「そんな電撃なんかでぇッ!!」

 

「バーカ。こいつは600KVだぜ」

 

 普通の絶縁体では防御できねえよ。絶縁体が一瞬で燃え尽きちまうからなぁッ!!

 

 電撃を纏った両腕をデブへと向かって突き出しながらにやりと笑った俺は、必死に俺へと突っ込んで来るデブに向かって言った。

 

「それと、俺は美少女じゃねえ。――――――男だ」

 

「えっ?」

 

 お前は男にメイド服を着せようとしてたんだよ、ホモ野郎ッ!! 俺は絶対にメイド服なんか着ないからなぁッ!!

 

 女だと思われていた恥ずかしさと怒りを思い出した俺は、ニヤニヤ笑うのを止めると、目を細めながら両腕の電撃を掌に集中させた。

 

「―――――――ゲイボルグッ!!」

 

 両腕の魔力が更に膨れ上がったような気がした。外殻を割って外に噴き出しそうなほどの勢いの魔力を何とか受け流した直後、ラガヴァンビウスの防壁の外に広がる草原を、蒼白い雷が駆け抜けて行った。

 

 予想以上の勢いで放たれた雷の塊に驚愕したデブは大慌てで剣を投げ捨て、横へとジャンプして逃げようとしたが――――俺が放った電撃の塊は、まるで逃げ出したネズミを追い詰める大蛇のように頭をデブの方へと向けると、そのまま直進を継続する。

 

 俺はただ体内の魔力を電撃に変換し、思い切り圧力をかけてぶっ放しただけだ。ミサイルみたいに追尾するように設定した覚えはない。

 

 追尾した原因は、まだデブの身体にめり込んだまま残っているラウラの弾丸だった。突き刺さったままになっているその弾丸が、避雷針の代わりとなって高圧の電撃を導いたんだ。

 

「なっ―――――」

 

 自分の身体に残っている弾丸が、雷が追尾してきた原因だとまだデブは気付いていないらしい。彼は絶叫しながら立ち上がって逃げようとしたが、いくら転生者でも走って雷から逃げられる筈がなかった。まるで狼に喰らい付かれるウサギのように背後から雷に呑み込まれたデブは、自らの断末魔まで雷の駆け抜ける轟音にかき消され、蒼白い光の中で消滅していった。

 

「――――あばよ、デブ。滅茶苦茶弱かったぜ」

 

 両腕の硬化を解除した俺は、蒼白い雷の残光を見つめながら呟いた。

 

 

 

 

 


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