異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者がエリスに連れ去られるとこうなる

 

 氷の破片が冷気をまき散らしながら舞う。エリスのハルバードを躱す度に、ハルバードを覆っている冷気が俺の身体を掠めていく。

 

「ちっ………!」

 

 俺はAK-47の銃身の右側に装着された、両刃の銃剣をちらりと見た。彼女のハルバードを弾いていた俺の銃剣の先端部は、まるで彼女のハルバードのように氷で覆われている。先ほど彼女のハルバードの攻撃を受けたタクヤと同じだ。あのハルバードに触れたら、たちまち氷漬けにされてしまう。

 

 迂闊に彼女のハルバードには触れられないな。

 

「あの氷に気を付けろ!」

 

「分かっている!」

 

 タクヤは氷漬けにされてしまった。せっかく3対1で戦えると思っていたんだが、これではアドバンテージがない。

 

 相手が氷を使ってくるならば、炎で対抗してやる!

 

 装着していたAK-47を腰に下げ、背中に背負っていたロケットランチャー付きのOSV-96を取り出し、素早く銃身を展開した俺は、通常の弾丸が入ったマガジンではなく別のマガジンを装着してから、銃口をエリスに向けた。

 

 OSV-96が使用する弾薬は12.7mm弾。たった今装填したのは通常の弾薬ではなく――――――炎の弾丸とも言える『焼夷弾』である。相手が氷を使ってくるのならば、炎で対抗するまで。エリスの得意とする攻撃を考えれば最も効果があると言える。

 

 俺は彼女に照準を合わせると、エリスが突っ込んで来る前にトリガーを引いた。

 

 マズルフラッシュの中から飛び出たのは、まるでマズルフラッシュの輝きをそのまま纏ったかのような真っ赤な弾丸だった。被弾した敵兵を粉砕し、火達磨にするための焼夷弾が、熱気を放ちながら轟音と共にエリスへと向かって突っ込んでいく。

 

 エリスはすぐにその場から右に向かってジャンプした。ただでさえ12.7mm弾をガードするわけにはいかないのに、それが自分の氷を打ち破れるほどの炎を纏った弾丸に変わったのだから、彼女はこの攻撃を回避するしかない。ガードすればハルバードが粉砕されるかもしれないし、熱量でせっかく展開した氷が融解させられてしまうかもしれないからな。

 

 焼夷弾を回避したエリスを熱風が襲う。炎を纏って冷気の中を突き抜けて行った弾丸が残した熱風の刃がエリスに叩き付けられる。

 

「今だ!」

 

「やぁッ!!」

 

「!!」

 

 エリスが焼夷弾を回避した瞬間、AKS-74Uからバスタードソードに持ち替えていたエミリアが斬り込んだ。

 

 姿勢を低くしながらエリスに急接近し、左斜め下から右上に向かってバスタードソードを振り上げる。エリスは氷で覆われたハルバードでそれをガードしようとするけど、氷で覆われている筈のハルバードの柄の表面には、溶けかけた氷が少しだけ残っているだけだった。

 

「なっ………!?」

 

 驚くエリスを見つめながら、俺はニヤリと笑う。

 

 彼女のハルバードの氷が溶けた原因は、さっき俺がぶっ放した12.7mm焼夷弾の熱だった。

 

 さっきまで散々12.7mm弾を回避していたんだから、この一撃も回避されてしまうだろう。だからこいつで直接彼女を狙うのではなく、隙を作り出すことにしたんだ。

 

 エリスは焼夷弾を避けるために右に向かってジャンプした。つまり、彼女の利き腕である左腕が持っていたハルバードは、彼女の体よりも近い距離で焼夷弾の熱風に襲われたということになる。氷に覆われている場所に剣戟を叩き込むと剣まで凍り付いてしまう恐れがあったため、こうしてあらかじめ氷を溶かしておくことにしたんだ。

 

 こうすれば、エミリアが氷漬けになることはない!

 

「くっ!」

 

 エリスは氷に覆われていない柄でエミリアの剣戟をガードした。彼女はそのままエリスに押し返されないように、バスタードソードを押し込む。

 

「姉さん………!」

 

「姉さんと呼ぶなと………言ってるでしょうッ!」

 

「何故だ!? 昔はあんなに優しかったのに!」

 

「うるさいッ!」

 

 エリスは絶叫しながらエミリアを押し返そうとする。だが、エミリアがバスタードソードを押し込んでいるため、なかなかエミリアは離れてくれない。

 

 この間に俺が狙撃するべきか?

 

 アンチマテリアルライフルだとエミリアまで巻き込んでしまう可能性がある。ならば、アサルトライフルかリボルバーで狙撃した方がいいだろう。

 

 エリスの身体能力はかなり高いが、防御力は他の騎士たちと変わらない筈だ。それに彼女は人間だから、吸血鬼のような再生能力を持っているわけでもない。

 

 俺はアンチマテリアルライフルを右肩に担ぎながら、左手でホルスターの中からプファイファー・ツェリスカを引き抜いた。装着されているスコープを覗き込み、カーソルをエリスの腹に合わせる。

 

 その時だった。スコープのカーソルの上の方で必死にエミリアのバスタードソードを受け止めていたエリスのハルバードの柄が、再び氷に包まれ始めたんだ。

 

 まさか、氷を再構築しているのか!?

 

「拙い! エミリア、下がれッ!!」

 

 あのままでは、エミリアの剣が氷漬けにされる。もしかしたらそのまま彼女まで氷漬けにされてしまうかもしれない。

 

 エミリアも再び凍り付き始めたハルバードの柄に気が付いたらしく、すぐにバスタードソードを押し込むのを止め、エリスから距離を取ろうとする。

 

 だが、彼女がエリスに体重をかけるのを止めた瞬間、エリスは右手をハルバードから離してエミリアの袖を掴み、彼女を再び引き寄せた。そのまま凍結していくハルバードをエミリアに近づけていく。

 

「エミリアぁっ!!」

 

「し、しまった………!」

 

 エミリアの体に押し当てられたハルバードの柄が完全に凍り付き、その氷がエミリアの体を少しずつ凍結させていく。俺は彼女が氷漬けにされてしまう前にプファイファー・ツェリスカで狙撃しようと思ったが、背後から他の騎士たちが剣を振り上げながら接近してきたため、エリスを狙撃する事が出来なかった。

 

「邪魔するんじゃねぇッ!!」

 

「がぁッ!!」

 

 右肩に担いでいたアンチマテリアルライフルの銃身を接近してきた騎士の頭に叩き付け、兜ごと頭蓋骨を木端微塵にしてやる。潰れた頭の上にアンチマテリアルライフルの銃身を置いたまま後ろを振り返り、エリスを狙撃してエミリアを助けようとしたけど、カーソルの向こうに見えたのは既に氷漬けにされてしまったエミリアの姿だった。

 

 持っていたバスタードソードも、一緒に氷漬けにされている。

 

 思わずスコープから目を離し、銃口を下げてしまった。

 

「そ、そんな………! ―――がッ!?」

 

 銃口を下げて呟いた瞬間、いきなり後頭部を何かに殴りつけられた。ぐらりと俺の体が揺れ、目の前にいきなり地面が出現する。

 

 ステータスのおかげで防御力は強化されているが、攻撃された際の衝撃は全く軽減されない。倒れながら後ろを振り向いてみると、大きなハンマーを担いだ騎士が俺の背後に立っているのが見えた。

 

 こいつが邪魔しやがったのか………!

 

 エミリアが氷漬けにされたせいで、俺は動揺していた。その隙に背後から接近されてしまったらしい。

 

 そのまま地面に頭を叩き付ける羽目になってしまう。俺は何とか起き上がろうとしたけど、俺が起き上がってそいつに反撃するよりも先に、エミリアを氷漬けにしたエリスが、冷気と氷の粒子を纏いながらゆっくりと歩いてきた。

 

 起き上がろうとするが、もう一度ハンマーで背中を殴られる。ダメージは全く無いんだが、まるで衝撃が俺を押さえつけるかのように地面に釘付けにしてくる。

 

「………諦めなさい」

 

「くそったれ………!」

 

 彼女の白い手が、俺の身体に触れた。エミリアと同じく白く細い手。しかし、纏っているものは違う。エミリアは誇りと意思を纏っていたが、彼女の姉であるエリスは―――――哀しみのような冷たいものを纏っていた。

 

 明らかに、騎士が纏うものではない。

 

 その哀しみの原因を探るよりも先に、俺の身体を包み込んでいった。

 

 くそったれ、身体が動かない。力を込めてもこの氷を砕くことは出来ないようだ。

 

 必死にもがきながら、俺は氷漬けにされるまでエリスを睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリス様、被害が甚大です」

 

「問題ないわ。エミリアは確保したから、残存兵力を集めて撤退するわよ」

 

「はっ! この男と、エミリアにそっくりな奴はどうします?」

 

「連れて行きましょう。ジョシュアが仕返しをしたがっていたし、この飛び道具を解析できるかもしれないわ。こっちのそっくりな奴は………どうしましょう? 一応連れて行った方が良いかしら」

 

「了解しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さんッ!」

 

 マークスマンライフルのスコープから目を離し、僕は絶叫した。

 

 エミリアさんがあの女の騎士に氷漬けにされた直後、兄さんの背後委から接近していたハンマーを持った騎士が、そのハンマーで兄さんの後頭部を思い切り殴りつけたんだ。いくら転生者でも、あんな大きなハンマーで後頭部を殴打されては意識を失ってしまう。

 

 兄さんは持っていたアンチマテリアルライフルとリボルバーを手放しながら、地面に崩れ落ちた。

 

 なんということだ。あのままではエミリアさんと兄さんが連れて行かれてしまう!

 

「くっ!」

 

 マークスマンライフルのM14EMRのスコープを覗き込む。遠距離狙撃を前提としているスナイパーライフルよりも命中精度では劣るけれど、これくらいの距離ならば中距離用のライフルの命中精度でも問題はない筈だ。僕は兄さんとエミリアさんとタクヤ君を連れて行こうとする女の騎士を狙撃するために、カーソルを彼女の後頭部に合わせる。

 

(シン、一斉射撃が来る!)

 

「なっ!?」

 

 スコープから目を離し、僕は塀の向こうにいる騎士たちの隊列を凝視した。既に生き残った騎士たちが塀の外に集結し、屋敷に向かって弓矢を構えている。

 

「構えッ!」

 

 隊列の中で、ロングソードを掲げた騎士団が絶叫する。

 

「一斉射撃が来るぞ! 隠れろぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 3階の窓から、ギュンターさんが絶叫したのが聞こえた。僕も慌ててM14EMRのバイボットを折り畳みながら部屋の中に隠れ、弓矢の一斉射撃に備える。

 

 ミラもPDWでの射撃を断念し、部屋の中に隠れた。

 

「放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 指揮官の野太い絶叫が響き渡った直後、無数の弓矢が一斉に騎士たちの隊列から放たれた。屋敷の壁や窓に何本も矢が突き刺さり、部屋の中にも矢たちが飛び込んで来る。

 

 この射撃は僕たちを仕留めるための射撃じゃない。エミリアさんと兄さんとタクヤ君を連れて逃げるために、僕たちを足止めにしておくための一斉射撃だ。つまり、再び僕たちが窓から銃を向けて射撃しようとしても、騎士たちはもう3人を連れて馬車で去っているということになる。

 

 僕は窓から再びアメリカ軍で採用されているマークスマンライフルを突き出してスコープを覗き込んだけど、やっぱり塀の向こうには走り出した騎士団の馬車が残した砂塵しか見えなかった。あの防具を身に着けた騎士たちの隊列は全く見当たらない。

 

「そんな………!」

 

 スコープから目を離し、僕は呟いた。

 

 兄さんとエミリアさんが、ラトーニウス王国の騎士団に連れて行かれてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タクヤ、これでいいのね………?」

 

 これが、歴史を変えないための戦い方。

 

 あの子がわざとママに負けて連れて行かれたのは、すぐに理解できた。ここでママとの戦いに勝利してしまったら、歴史が大きく変わってしまう。下手をすればママは最終的にパパの仲間にならなくなってしまうかもしれないし、最悪の場合は死んでしまうかもしれない。そうなったら、エリス(ママ)リキヤ(パパ)の娘である私はいなかったことになってしまう。

 

 それを防ぐために、あの子はわざと負け、わざと拘束された。この結果は、あの子の計画通りなんだ。

 

 だから私は、逃げていくラトーニウスの騎士たちを追いかけなかった。でも、できるなら今すぐに追いかけたい。あの薄汚い騎士たちを皆殺しにして、ママやみんなを連れ戻したい。

 

 ママには早くエミリアさんと仲直りして欲しい。それに、タクヤを私から引き離そうとするなんて許せない………!

 

 でも、これも歴史を変えないため。ここで私が耐え切れずにタクヤを奪還するために追撃してしまったら歴史が変わってしまう。タクヤの思惑通りにならなくなったら、あの子は怒るかな?

 

「タクヤ………」

 

「うぐ………た、たすけ―――――――ガァッ!?」

 

 まだ生きていた騎士に左手のグローザを向け、私はトリガーを引いた。

 

 お前らなんか、死んでしまえ。私の大切なタクヤを連れ去ろうとする奴らや酷い事をする奴らは、みんな死んでしまえばいい。………いや、私が殺す。タクヤの姉として、弟は私が絶対に守る。あの子を殺そうとする奴らがいるならば、私が全員根絶やしにする。大国がタクヤを殺そうとしているのならば、その国を滅ぼすまで。

 

 うん、そうだよ。タクヤのためだもん。

 

 だから、死ね。

 

 胸を撃ち抜かれて崩れ落ちた死体の頭に、もう1発7.62mm弾を撃ち込む。大口径で破壊力のある弾丸を喰らった死体の頭が弾け飛び、頭蓋骨の破片や肉片が飛び散る。私も汚い返り血を浴びてしまったけど、拭い去らずにそのまま逃げていく騎士たちの荷馬車を見つめていた。

 

「………殺してやる」

 

 このネイリンゲン侵攻の黒幕は――――――――エミリアさんの許嫁である、ジョシュアという男らしい。その男はパパたちに返り討ちにされて死ぬらしいんだけど、私が殺しても大丈夫かな?

 

 どうせパパたちが殺すんだし、私が殺しても大して歴史は変わらない筈。

 

 なら、私が殺す。ママやパパたちを苦しめたクソ野郎を、私が狩る。

 

「きゃははははははははっ………楽しみだよ、タクヤ」

 

 早く―――――――狩りたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  荷馬車の荷台の上で、私はネイリンゲンで私と戦った少年が持っていた1.7mくらいの槍のような武器を見つめていた。先端部にはT字型の部品がついていて、傍から見れば槍のように見えるんだけど、この武器は槍ではなく飛び道具だ。

 

 ハルバードでもガードできないような何かを放ってくる飛び道具だったわ。おそらく、騎士団の大型の盾でも防御することは出来ないでしょうね。

 

 しかも、高熱を発する何かを射出することも出来るようだったわ。

 

 槍のような武器の上には、望遠鏡のような部品が取り付けられていた。私は少しだけこの槍のような武器を持ち上げると、その望遠鏡のような部品のレンズを覗き込んだ。

 

 遠距離の敵を確認するために、騎士団も望遠鏡を使っているけど、この武器に搭載されている望遠鏡のような部品は騎士団の望遠鏡よりも遠くを見る音が出来るようになっていたわ。この望遠鏡を覗きながらあの飛び道具で攻撃すれば、かなりの超遠距離から敵を狙撃する事が出来るわよ。

 

 防御が出来ない上に、超遠距離から狙撃が出来る武器だとでもいうの!?

 

 これがモリガンの武器………!

 

「恐ろしい武器ね………。いったい誰が作ったのかしら?」

 

「奴らの仲間も、このような武器を持っていました」

 

 一緒に荷馬車に乗っていた騎士がそう言った。

 

「誰が作ったんでしょう? 優秀な鍛冶屋でもあの街にいたんですかね?」

 

「いや、ハイエルフやダークエルフの技術ではないのか?」

 

 荷馬車の上で仲間の騎士たちが仮説を次々に建て始めるけど、明らかにどの仮説も外れているわね。

 

 もしこの武器を作ったのがハイエルフやダークエルフならば、使う時に魔力を流し込まなければならない筈よ。でも、ネイリンゲンでこの少年と戦った時、全く魔力は感じなかったわ。

 

 魔力を全く使わない武器ということね。

 

 もしこの武器を騎士団の魔術師たちが解析する事が出来れば、ラトーニウス王国騎士団は世界最強の騎士団になる。ヴリシア帝国やオルトバルカ王国の騎士団を蹂躙する事が出来るようになるわ。

 

「エリス様、クガルプール要塞です」

 

 荷馬車を引く馬の向こうに、巨大な防壁が見えてくる。オルトバルカ王国とラトーニウス王国の国境近くにある、クガルプール要塞だった。

 

 高い防壁で囲まれている要塞で、ラトーニウス王国側の方には街もある。かつてこの少年がエミリアを連れ去る時にたった2人で突破し、ジョシュアの左腕を吹き飛ばしていった場所でもあるわ。

 

 防壁の門がゆっくり開き、エミリアを連れ去ってきた私たちを迎え入れてくれる。要塞の防壁の内側では、守備隊の騎士たちが整列して私たちを出迎えてくれた。

 

「よくやった、エリス」

 

「ジョシュア………」

 

 荷台の上から氷漬けになったエミリアを部下に下ろしてもらっていると、整列している騎士たちの向こうから派手な防具に身を包んだ金髪の少年がやって来るのが見えたわ。

 

 派手な装備を身に着けて、自分の一族がどれだけの力を持っているのか見せびらかそうとするのは貴族の悪い癖なのかしら? ジョシュアも、その悪い癖に取りつかれた貴族の1人と言っても過言ではないかもしれないわね。

 

 彼は氷漬けになったエミリアに近づいていくと、右手で彼女の頬を撫で始めた。

 

「久しぶりだね、エミリア。会いたかったよ」

 

「………凍傷になるわよ。さっさと手を離しなさい」

 

 彼がエミリアの頬を撫でているのを見たくなかっただけよ。彼が凍傷にならないように心配したわけではないわ。

 

 それに、このモリガンの傭兵に惨敗した挙句、貴重な戦力でもあるフランシスカを失い、クガルプール要塞から飛竜を強奪されるという醜態を晒して私に頼る羽目になったというのに、図々しい奴ね。

 

「彼も連れて来たわ」

 

「………へえ」

 

 荷台の上から、氷漬けになった少年を地面に下ろす。自分の左腕を吹っ飛ばした恨めしい相手を対面したジョシュアは、気を凍っている彼の頭を踏みつけながら彼を見下ろした。

 

「彼の武器も一緒よ。魔術師ならば解析できるかも」

 

「良くやった、エリス。さすがは我が王国の切り札だな」

 

「それで、彼はどうするの?」

 

「武器とギルドの事について吐かせてから処刑する。………指令、彼を痛めつけてやってくれ」

 

「はい、ジョシュア様」

 

 ニヤリと笑いながらジョシュアに返事をしたのは、このクガルプール要塞の司令官だった。初老の司令官は部下に命令すると、少年を要塞の地下にある牢獄へと連れて行かせる。

 

「エミリアは?」

 

「ナバウレアに連れて行こう。―――その前に、僕も彼を痛めつけてから行く。エリス、君も来い」

 

 地下にある牢獄であの少年を拷問してからナバウレアに行くつもりなのね。

 

「ねえ、この子はどうするの?」

 

「え?」

 

 そう言いながら、私は忌々しいエミリアにそっくりな容姿の子を荷馬車の荷台から下ろした。不意打ちに失敗して返り討ちにされ、氷漬けにされている無様な蒼い髪の子を見下ろしたジョシュアに、私は問い掛ける。

 

 計画通りならば、エミリアは1人だけの筈。予備のエミリアが用意されていたという計画は全く聞いていない。

 

「………何これ?」

 

「予備じゃないの?」

 

「知らないぞ。何だこいつ?」

 

「一緒にいたのよ。何とか氷漬けにしたけど、なかなか腕の立つ子だったわ」

 

 どうやら、ジョシュアも知らなかったみたいね。という事はただのそっくりな子という事なのかしら? それとも、父上たちが勝手に用意したの?

 

 まあ、エミリアは確保したんだし、後はナバウレアで儀式をすればこの計画は成功する。そうしたら私はジョシュアの元を去って自由に生きる事にしましょう。それでやっと、忌々しいエミリアから解放されるのだから。

 

 ―――――――でも、本当に自由になれるのかしら?

 

 計画が終わった後の事を考えると、エミリアが必死に私の名を呼ぶ姿が目に浮かぶ。小さい頃は一緒に絵本を読んだり、おままごとをして遊んだ大切な家族だったのに………。

 

 いえ、もうあの子は家族じゃない。

 

 そう、家族じゃない。エミリアと言う名前を付けられた、ただの忌々しい存在。私を束縛する妹の姿をした鎖に過ぎない。鎖に繋がれているのならば、解放されて自由になりたいと思うのは当たり前よ。

 

 私は荷馬車の荷台に再び乗せられた氷漬けのエミリアを見つめてから、ジョシュアの後について行った。

 

 

 

 

 


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