異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者との戦い

 

 ラガヴァンビウス駅の壁面は一部を除いてレンガで造られているため、いつもレンガ造りの建物の壁をよじ登って鬼ごっこをやっていた俺たちにとっては登るのは容易かった。まるで何度も乗ったことのある愛用の自転車で道を走るようにすいすいと壁をよじ登った俺は、風に吹き飛ばされないように左手でハンチング帽を抑えながら、眼下の線路を見下ろす。

 

 あと2分で、あの線路をエイナ・ドルレアン行きの列車が通る。その瞬間に屋根の上に飛び降りて乗り込めばいいだろう。律儀に切符を買っている時間はない。

 

 今のうちに武器の点検をしておこう。そう思った俺は、腰のホルスターに収まっているプファイファーを引き抜く。一応スコープを覗き込んで確認してみるが、特にPUスコープの照準が狂っている様子はない。しっかりと金具で固定されていることも確認した俺は、銃をホルスターに戻した。

 

 あと1分だ。俺のお姉ちゃんは何をしている?

 

「ふっ、ふっ………ふにゃあ………!」

 

「おう、お疲れ」

 

 どうやら今到着したばかりらしい。後ろを振り向くと、スナイパーライフルを背負ったラウラが呼吸を整えながら立っていた。

 

 俺と彼女は私服姿なんだが、ラウラの私服は胸元が大きく開いているし、スカートもミニスカートだ。胸元と黒いニーソックスを穿いている彼女の足を凝視していると、一瞬だけ彼女のスカートが風で揺れ、彼女の穿いているパンツが見えてしまった。

 

 柄はピンクと白の縞々かぁ……。悪くはないし魅力的なんだが、普通のスカートかズボンにすればいいのに………。

 

「あと30秒だな。……ほら、ラウラ」

 

「あっ、ありがと」

 

 腰のホルスターを外し、中に納まっていたMP443ごとラウラに渡す。室内戦になるため、スナイパーライフルとSMG(サブマシンガン)しか銃を持っていない彼女はSMGだけで室内戦をやる羽目になってしまう。さすがにそれは危険だ。

 

 俺からハンドガンを受け取った彼女はホルスターを腰に吊るすと、ハンドガンを引き抜いて点検を始めた。一通り点検を終えた彼女はホルスターにハンドガンを戻し、深呼吸を開始する。

 

『――――10時15分発、エイナ・ドルレアン行き24号が発車致します』

 

 機関車が蒸気を排出する音に混じってうっすらと聞こえてきたアナウンス。あの転生者が乗り込むのはこの24号だろう。これ以外にエイナ・ドルレアン行きで10時15分発の列車はない。

 

「来るぞ、ラウラ。………あれ? お前って高所恐怖症じゃないよね?」

 

「うん、大丈夫だよ。何だか小さい頃を思い出すね」

 

「ああ、よくこんな場所から飛び降りたっけ」

 

「そうそう。それでママったら、いつも顔を青くしちゃって………あはははっ」

 

 俺たちは身体が頑丈なキメラだから大丈夫だといつも親父が言ってたのに、過保護なエリスさんはいつも俺たちが危ない事をしているところを目の当たりにすると顔を真っ青にしてたっけ。心配かけちゃってたよなぁ……。

 

 あの人は俺にとってもう1人の母親だ。冒険者になって立派な大人になったら、ちゃんと彼女にも親孝行をしよう。もちろん、ここまで鍛え上げてくれた親父にもな。

 

 前世の親父みたいなクソ野郎にはこんなことはしないぜ。

 

 やがて、足元から巨大な金属の車輪が駆動する音が聞こえてきた。レールの上を転がる車輪の音と、蒸気を排出する音。機関車がついに動き出したらしい。

 

 ちらりと下の線路を見てみると、駅のホームからついにフィオナ機関を搭載した漆黒の機関車が姿を現していた。フィオナ機関を搭載している胴体はまるで太い円柱を横倒しにしたような形状で、その周囲には無数の細かい配管が設置されている。それらを保護する金属板で覆われた胴体の最後部には運転席があり、運転手が目の前の装置に向かって魔力を流し込みながら、近くにある圧力計を確認していた。外見はまるで煙突のない蒸気機関車のようだ。

 

 高圧の魔力で機関車を動かすため、機関車の後ろには冷却用の水を満載した冷却水車が連結されている。客車が連結されているのはその後ろからだ。

 

「ラウラ!」

 

「行くよ!」

 

 冷却水車が駅のホームの中から出た時点で、俺とラウラは客車の屋根に向かってジャンプしていた。まだ駅から出発したばかりだから列車の速度は遅い。あの転生者がどの車両に乗っているのかは分からないが、あまり後ろの車両から飛び乗ろうとして待ち過ぎると飛び乗る難易度が高くなる。

 

 煙突は存在しないため、煙に邪魔されることもない。発射したばかりの列車の屋根に飛び乗るのは、高い場所からそのまま飛び降りるのと何も変わらない。

 

 片手でハンチング帽を抑えながら、俺は客車の屋根を踏みつけた。足の裏から噴き上がって来る衝撃を抑え込みながら姿勢を低くし、ラウラも無事に飛び降りたのを確認する。今の衝撃でPUスコープの照準が狂っていないか確認しておくことにした俺は、素早くプファイファー・ツェリスカを引き抜いて点検を開始。狂っていなかったことを確認してから移動を開始する。

 

「ラウラ、エコーロケーションで転生者の位置は分かる?」

 

「待ってね………」

 

 ベレー帽が飛ばされないように手で押さえながら両目を瞑るラウラ。

 

 彼女の脳の中には、イルカよりも小型のメロン体がある。そのメロン体のおかげで、彼女はイルカや潜水艦のソナーのように超音波で敵の位置を知る事ができるんだ。だからもし敵がスモークグレネードを使ったとしても、彼女には何の意味もない。煙幕の中や霧の中に逃げ込んだとしても、彼女はこのエコーロケーションで敵の位置を知り、正確に弾丸をお見舞いする事だろう。

 

 キメラという変異が生んだ、最強のスナイパーというわけだ。

 

 ちなみに俺も親父から狙撃を教わっているから苦手ではないんだが、ラウラみたいな真似は出来ない。それと彼女はボルトアクション式のライフルを好むが、俺はセミオートマチック式の方をよく使う。俺の本来の目的はラウラの援護と前衛だから、連射が利くライフルの方が合うんだ。

 

「―――――最後尾の車両に、鎖みたいなのに繋がれてる子がいるよ。そこじゃないかな?」

 

「さすがだな。最後尾か」

 

 9年間も彼女はエコーロケーションの訓練も並行して行ってきているため、短距離での探知ならばソナーでの索敵というよりは、もう透視に近い。もちろん索敵できる範囲も非常に伸びており、精度は落ちてしまうけど最大で2km先までの探知が可能だ。

 

「えへへっ。頑張って鍛えたんだもん」

 

「これなら敵も逃げられないな」

 

「うん、タクヤもお姉ちゃんから逃げられないね!」

 

 お姉ちゃん、怖いよ。

 

 目を虚ろにさせながら「えへへ、逃がさないんだから」と小声で言い始めた姉にぞっとしながら、俺は屋根の上から落ちないように客車の最後尾を目指す。

 

 この列車は貸し切りではなく、普通の乗客も乗っている筈だ。もし貸し切りならば機関車を客車から切り離し、C4爆弾を大量に仕掛けてから奴隷の少女を解放した後に起爆する作戦を立てていたんだが、まずは転生者の様子を確認しなければ。

 

 先ほど駅の外から見張っていた時は、護衛の数は6人くらいだった。どこかの傭兵でも金で雇ったのか制服は身に着けておらず、服装はバラバラだった筈だ。武器も剣や小型のクロスボウくらいで、銃を持っている気配はない。

 

 最近は転生者の数が少し増えてきたらしいが、銃を使ってくる転生者は比較的少ないという。その転生者が銃に詳しくないからなんだろうか? でも、もし標的の転生者がミリオタだった場合は厄介だ。だから油断はできない。

 

「切符の提示をお願いしまーす」

 

「おっと」

 

 車両と車両の間を移動していく車掌にも見つからないようにしないと。

 

 車掌が客車の中に入って行ったのを確認して胸を撫で下ろした俺は、俺の隣で同じようにぞっとしていたラウラの顔を見て笑ってから、後ろの車両へと移動を続けた。

 

 やがて最後尾の車両に到着する。列車が走る音と風の音で、車両の中の音は全く聞こえない。窓から覗き込みたいところだが、発見されては元も子もないからな。

 

「ラウラ、もう一回頼む」

 

「はーいっ」

 

 もう一度両目を瞑り、エコーロケーションを使うラウラ。今度の索敵範囲は列車全体ではなく最後尾の車両だけに限定しているため、索敵の精度は劇的に上がっていることだろう。彼女にとってはこの車両の屋根を外し、中を直接見ているようなものなのかもしれない。

 

 超音波を最後尾の車両に放出し、索敵を終えたラウラが静かに瞼を開ける。

 

「―――――車内には8人。6人は護衛で1人は転生者だね。もう1人は奴隷の子だよ」

 

「最後尾だけ貸し切りってわけか?」

 

「多分」

 

「よし」

 

 いいぞ。もし他の乗客もいるならば面倒だったが、この車両だけ貸し切りならば乗客を巻き込む可能性はなくなる。

 

「俺が車両を切り離す。そしたら車内にスモークグレネードを投げ込んでくれ」

 

 メニュー画面を素早く開いて画面をタッチし、スモークグレネードを20ポイントで生産。生産したてのスモークグレネードをラウラに預けておく。

 

「投げ込んだ後は?」

 

「車両が減速するまで待機したら飛び降りて、車両から距離を取ってくれ。出来れば転生者もついでに仕留めたいんだが、もし無理だったら頼むよ」

 

「了解」

 

 踵を返して連結部に向かおうとすると、いきなり俺の肩をラウラの柔らかい手が掴んだ。そのまま振り向かせられた直後、彼女の甘い香りが俺を包み込む。

 

 俺の事が心配なのか、ラウラは胸に顔を押し付けてくる。俺は抱き付いてきた彼女の頭を撫でてあげようと思ったが、それよりも先にラウラが顔を上げ、炎のように真っ赤な瞳で俺の顔をじっと見つめてきた。

 

「………無茶はしちゃダメだよ?」

 

「おう、任せろって」

 

「本当かなぁ……? パパも若い頃から無茶をする悪い癖があったらしいから………」

 

 母さんから聞いたことがある。親父は若い頃から無茶をして、よく戦いが終わればボロボロになっていたという。その度に母さんやエリスさんは心配して、よく無茶をした親父を咎めていたって何度も俺に話してくれた事を思い出した。

 

 どうやら俺は、あの親父に似ているらしい。でも俺は賭け事はしない主義だ。ちょっとでもリスクがでかいならば、リスクが小さい方を選ぶ。

 

 心配してくれた姉を思い切り抱き締めた俺は、彼女の耳元で「任せてくれよ、お姉ちゃん」と囁くと、手を離してから今度こそ踵を返した。

 

 屋根の上から連結部へと静かに下りた俺は、最後尾の車両のドアの窓がカーテンで覆われていることを確認してからにやりと笑った。これならばバレることもないだろう。片手でハンチング帽を抑えたまま、右手の指先だけを一瞬で硬化させる。17歳の男子にしてはやや白い少女のような肌が一瞬で蒼い外殻と人間よりも長い漆黒の爪に覆われたのを確認した俺は、指先に魔力を集中させる。

 

 すると、爪先に蒼い粒子が出現した。その粒子は周囲の空気を加熱しながら成長していき、まるで溶接に使われるバーナーのような炎の刃へと成長していく。

 

 これもキメラの能力の1つだ。俺の身体の中にはサラマンダーの血も流れているんだが、サラマンダーは元々炎を操る強力なドラゴンとされている。その血が体内にあるせいなのか、俺と親父の体内に存在する魔力はあらかじめ炎属性に変換済みになっているんだ。

 

 本来ならば魔術を使うには詠唱するか、魔法陣を描いて魔力を流し込み、魔力を別の属性に変化させてからぶっ放さなければならないんだが、この体質のおかげで詠唱をする必要はないし、魔法陣も描かなくていい。まるで銃をぶっ放すかのように狙いを定め、炎をお見舞いしてやるだけだ。

 

 しかも炎を自由自在に操れるから、汎用性も高い。

 

 俺はこの蒼い炎以外にもう一つの属性を操れるんだが、まだその属性の出番じゃない。

 

 俺はバーナーのように放出した炎を、列車の連結部へと近付けた。飛び散る火花から身体を守るため、保護具代わりに身体の正面を外殻で覆っておく。

 

 蒼い炎に触れた連結部の太い金属が、真っ赤に変色して火花を散らしながら溶けていく。そのまま少しずつ指を左から右へとずらしていき、連結部を溶断していく。

 

 やがて真っ赤になっていた連結部から噴き上がる火花が姿を消し、ゴーレムの剛腕のような連結部を切り離された最後尾の列車が置き去りにされ始めた。徐々に離れていく前の車両に向かってニヤニヤ笑いながら頭上のハンチング帽を振った俺は、屋根の上から俺の溶断作業を見物していたラウラに向かって親指を立てる。

 

 まるでこれからいたずらをする悪ガキのようににやりと笑ったラウラは、俺の傍らにジャンプして下りてくると、スモークグレネードの安全ピンに指をかけながら俺に向かって頷いた。俺も頷いてから車両のドアに手をかけ、一瞬でドアを開く!

 

 その直後、安全ピンを抜いていたラウラが、車両の中にスモークグレネードを放り込んだ。いきなり開いたドアと離れていく前の車両を目の当たりにして驚いたらしく、中から護衛や転生者と思われる男の狼狽する声が聞こえていたが、そのやかましい声たちは車内で炸裂したスモークグレネードの真っ白な煙に呑み込まれる羽目になった。

 

「GO!」

 

 ラウラに合図された直後、俺は背中に背負っていたFA-MASfelinを構えて車内へと足を踏み入れていた。片手で剣を抜きながら口元を抑えて咳き込んでいた男に5.56mm弾のフルオート射撃を叩き込み、崩れ落ちようとしている男の身体を強引に蹴飛ばして押し倒す。そのまま死体を踏みつけながらもう1人の男に向かってFA-MASを発砲。真っ白な煙の中で、黄金色のマズルフラッシュが煌めく。

 

 銃声の残響と狼狽する男たちの声の中から、微かに咳き込む少女の声が聞こえてきた。咳き込む声が聞こえてきた方向を睨みつけた俺は、まだ咳き込み続ける少女の声を頼りにそちらへと走りながら、左手を腰のホルスターへと伸ばしてカスタマイズ済みのアパッチ・リボルバーを引き抜く。ナイフの刀身を収納しているカバーの側面にあるスイッチを押して刀身を展開し、少女の近くでわめいているやかましいデブの顔面をアパッチ・リボルバーのナックルダスターでぶん殴ってから、展開したばかりのナイフの刀身を鎖へと突き立てた。

 

 男たちのやかましい声を、断ち切られた鎖の金属音が飲み込む。素早く刀身を収納してアパッチ・リボルバーをホルスターへと戻した俺は、いきなり車両に入り込んできた俺の顔を見て目を見開く痩せ細ったエルフの少女の手を引き、今度は車両の外へと向かって走り出した。

 

 走りながらメニュー画面を開いて素早くC4爆弾を生産。60ポイントを使って3つ生産し終えてからすぐにそのうちの1つを装備し、車両の床に放り投げてから、俺はエルフの少女と共に減速を始めていた客車の後方のドアを蹴破って線路の上へと飛び降りる。

 

「お、おい、奴隷が美少女にさらわれたッ!!」

 

 俺は美少女じゃねえ。男だって。

 

 やっぱりこの顔つきとポニーテールのせいなのかなぁ………。でも、この髪型を止めようとするとラウラに猛反対されるんだよな。

 

 そんなことを考えながら無事に線路の上に着地すると、蹴破られた後方のドアからこっちを見てデブが喚き続けているのが見えた。あのデブの顔面には殴られた痕があり、鼻からは鼻血が流れ出ている。

 

 あ、さっきぶん殴ったのはあいつだったのか。

 

 そんなことを考えながら、片手で握っていたC4爆弾の起爆スイッチを押し込んだ。

 

 その直後、列車に置き去りにされた哀れな最後尾の車両の下部に一瞬だけ緋色の火の玉が出現したかと思うと、爆炎として膨れ上がったその火の玉に突き上げられた車両の車輪が線路のレールから浮き上がった。膨れ上がった爆風は狭い車両の中を駆け回ると、次々に窓から炎の剛腕を突き出して暴れ回り、車内を蹂躙する。

 

 護衛の男たちは今の爆発で即死したことだろう。あわよくば転生者も爆死してくれればよかったんだが、おそらくあのデブは生きていることだろう。

 

「こちらヘンゼル。奴隷を救出した」

 

『了解』

 

 無線機にそう報告してから、俺はアサルトライフルの銃口を炎上する客車へと向けた。

 

 

 

 

 

 


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