異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
漆黒の刀身を受け止めた瞬間、腕がそのまま砕けてしまうのではないかと思ってしまうほどの衝撃が、手首から肩の付け根まで貫いた。自分の骨が砕けてしまったと誤認してしまうほどの衝撃と運動エネルギーだが、俺の骨格は人間と同じ形状ではあるものの強度は別物である。対物(アンチマテリアル)ライフルの近距離射撃で辛うじて貫通できるほどの硬さの骨が悲鳴を上げるのだから、この剣を振り下ろしてきた剣士の一撃がどれほど重いのかは想像に難くない。
転生者を一刀両断にできるほどだと言っても過言ではないだろう。衝撃でまだ骨がびりびりする左手に力を込め、漆黒のバスタードソードを受け止めた左手の大型ソードブレイカーを押し返し、距離を取りながら呼吸を整える。
「―――――――よし、ここまでにしよう」
「え? あっ、はい」
てっきりまだ剣術の訓練を続けるのかと思っていたんだが、もう切り上げてしまうのだろうか。少しがっかりしてしまうが、よく考えてみれば転生者である上にキメラでもある俺の骨が悲鳴を上げるほどの剣戟を何発も受け止めていれば、いずれ本当に腕の骨が折れていた事だろう。うん、ここで止めておいた方が正解かもしれない。
剣を鞘に戻した若き日の母さんは、満足したように笑いながら肩を回し始めた。俺もまだびりびりする左手を回し、得物を鞘の中へと戻す。
それにしても、さすが母さんだ。21年後と比べると攻撃の受け止め方が甘いような気がするけど、鋭さは殆ど変わらない上に剣戟が重い。初代転生者ハンターの妻として共に転生者と戦い続けていたのだから、鍛えられるのは当たり前という事か。
「すごいわね。エミリアと互角なんて………」
「ど、どうも」
ナイフを鞘に戻すと、俺たちの訓練を見物していた金髪の女性に声をかけられた。
一見すると貴族の女性が好んで身に着けるドレスを黒くしたようにも見える制服に身を包んでいるのは、モリガンの傭兵の1人であり、のちに俺たちの仲間でもあるカノンの母親となる若き日のカレンさんだ。娘であるカノンと同じく蒼い瞳はややつり上がっており、微笑むと強気な女性のように見える。まあ、そのように見えてしまうのは目つきだけではないだろう。彼女の強い意志と今まで身に着けてきた技術が、あのような凛とした雰囲気を放っているに違いない。
単なる金髪のお嬢様ではないということは、一目瞭然である。
「ねえ、剣術はどこで学んだの?」
「ええと、両親からです。みんな傭兵だったので………両親の技術を真似して、あとは自分なりにアレンジしたんです」
「なるほど………要するに、我流ね?」
「ま、まあ………」
「ふむ、我流か。それにしてはラトーニウス式の剣術の流れを汲んでいるようだが………」
実際、ラトーニウス式の剣術はある程度参考にしている。
母さんの故郷でもあるラトーニウス王国は、21年後でも同じだが他国と比べると魔術の発展が遅れている。オルトバルカ王国の騎士団でも1つの分隊に10人は魔術師が配備されることになっているが、ラトーニウス王国にとって魔術師は貴重な人材であるために出し惜しみする傾向があり、その人数も少ないため、1つの分隊どころか1つの大隊に10人いれば多い方だという。
そのため騎士団の兵力は剣士に偏っており、その影響で剣術が発達したと言われている。それゆえに俺たちの時代でもラトーニウス式の剣術は剣士にとってポピュラーの剣術であり、オルトバルカ王国の騎士団でも剣術の参考にするほどだという。要するに、剣術の名門だ。
ラトーニウス王国で実際に訓練を受けてきた母さんの剣術は、まさにこれだ。硬い外殻を持つ魔物を断ち切るために剣戟は重いうえに素早く、その習得も容易い。更に自分なりに好きな攻撃へと派生させることが容易いという理想的な剣術である。
それと、エリスさんの変則的な攻撃と、親父の我流の剣術の3つを参考にしたのだから、俺もラトーニウス式の剣術の影響を受けているという事になる。
「母は元々騎士団でしたので………」
「ほう、ラトーニウスのか?」
「はい」
「なるほどな。では私の先輩という事か」
いやいや、あなたの事ですよエミリアさん。
「それにしても、タクヤ君って本当にエミリアにそっくりよねぇ………」
「ああ、私もびっくりしたよ。てっきりドッペルゲンガーかと……あはは」
「あはははははっ。力也のやつから聞いたわ。かなりびっくりしてたらしいわね?」
「うぐ………ゆ、幽霊とか、怖い話は、その………どうしても苦手なのだ………」
21年後は克服してるんだろうか。もし元の時代に戻ったら、母さんの前で怖い話でもしてみようかな。母親になってからは転生者を当たり前のように瞬殺できるほどの実力者になっているから、克服してるよね。あんなに凛々しくて強い母さんが21年後も幽霊でビビってる姿は想像できないな。
「と、とりあえず、剣術の訓練はこれで終わりだ。ありがとな、タクヤ」
「はい、こちらこそありがとうございました、エミリアさん」
ぺこりと母さんに頭を下げてから、カレンさんにも挨拶して裏口へと向かう。正面の入口と比べると結構小ぢんまりとした木製の扉を開け、昼間は沈黙している小さなランタンが駆けられた短い廊下を進んで広間へと出た俺は、用意してもらった俺たちの部屋へと向かって階段を上がりつつメニュー画面を開いた。
そろそろ何か新しい武器を作っても良いだろうか。それともカスタマイズかアップグレードをやってもいいかもしれない。
生産済みの武器や兵器は、カスタマイズ以外にアップグレードをすることが可能なのだ。カスタマイズが何かしらの装備を取り付けたりする事ができるのに対して、アップグレードは武器の強度を強化したり、刀身の切れ味を上げたりする事ができる。基礎的な性能を底上げする事ができるという機能だ。剣やナイフなどが恩恵を受けやすいが、元々弾薬や弾速などで威力が決まる銃などの現代兵器はあまり恩恵を受け辛いというデメリットもある。
例えば、戦車だ。アップグレードで車体の防御力を上げることはできるがほんのわずかしか向上しないため、それよりはカスタマイズで複合装甲を増設した方が少ないポイントで防御力を上げる事ができる。半面、剣などの武器ならば強度を上げて刀身を折れ辛くする事ができるし、切れ味を上げて攻撃力を上げる事ができる。
まあ、現時点でのポイントはまだ少ないからな。もう少し我慢しよう。
階段を上がり、メニュー画面を閉じてから書斎のドアを開け、中へと入る。
「ただいま、ラウラ」
「あっ、お帰りっ!」
部屋の中に入った瞬間、部屋の中にあるベッドに腰を下ろしていた少女がいきなり立ち上がったかと思うと、ニコニコと笑いながら両手を広げ、部屋の中に入ったばかりの俺の胸に飛び込んできた。
俺よりもほんの少しだけ背の小さい彼女の髪が顔を包み込み、その彼女は俺の胸板にくっついて頬ずりを始める。その度に甘い香りが舞い上がり、俺は顔を赤くしてしまう。
「えへへっ、訓練お疲れ様っ♪」
「お、おう。汗臭くない?」
「全然大丈夫だよっ。タクヤはいつでもいい匂いだもん♪」
「あはははっ。ごめんね、ちょっと上着脱ぐから」
「はーいっ!」
物足りそうな顔をした彼女は、俺の顔を見上げてから頬にキスをすると、まるで小さな子供がはしゃいでいるかのようにベッドへと飛び込み、そのままごろごろしはじめた。
俺たちのために用意してもらった部屋は、普段はあまり使っていない書斎だという。本棚の中には所狭しと分厚い図鑑やら辞書が並べられ、それらの上に降り積もった埃が堅苦しさをより一層強めているような気がする。
しかも思ったよりもスペースがあるため、まるで図書館にでもやってきたような気分になってしまう。降り積もった埃と古い本の発する紙の臭いは、例え窓を開けたとしても全てこの部屋から消え去ることはないだろう。
本棚を壁際へと移動させ、ベッドやタンスなどの最低限の家具が用意された即席の寝室に寝泊まりすることになるのは、俺とラウラの2人だけ。持っていた荷物も最低限のものばかりなので、部屋の中には荷物が殆ど置かれていない。
木製のハンガーにテンプル騎士団の制服の上着をかけ、グレーのワイシャツの胸元から紅いネクタイを外す。ボタンもいくつか外して息を吸い込んだ俺は、後ろの方に置いてあるベッドを振り返った。
それなりに広い部屋だし、2人寝るのだからベッドを2つ並べているのがごく普通の光景なんだろうけど………なんでベッドが1つだけなんだよ。
本棚を壁に寄せてもまだ結構スペースがある書斎に、タンスと壁の鏡とベッドが置かれた即席の寝室。置かれているベッドは1つだけである。2人用のダブルベッドならまだ分かるよ。2人用だからね。………でもさ、何で1人用のやつが1つなの? お姉ちゃん、ダブルベッドでは不服なの?
「えへへっ。これでタクヤとくっついて寝れるっ♪」
くっついてから襲うつもりだろ………。
ベッドの上で横になりながら尻尾を横に振るラウラを見て苦笑いした俺は、ワイシャツから外したネクタイを畳んでタンスの横に置き、カレンダーの方をちらりと見た。
今日は9月21日。実は、明日は俺とラウラの誕生日なのである。
同じ日に生まれた俺とラウラは、当然ながら誕生日も同じだ。先に生まれたのがラウラだから彼女が姉という事になっているけど、彼女が生まれてから数分後に俺も生まれている。
2人そろって乙女座ということだな。………そう、俺まで乙女座なのだ。
よく女に間違えられる容姿に加えて乙女座か。そこまで徹底的に女にしようとしておいて、何で俺は男として生まれてしまったのだろうか。まあ、それも嫌な話だけど、いっそのこと女として生まれていた方がまだ困ることはなかったかもしれない。
とりあえず、気付かないふりをしておこう。誕生日だと気付いていないふりをしたままこっそり街に行って、彼女のためにプレゼントを買うのだ。そして夕食の後にでも「誕生日おめでとう」って言いながら渡せば、ラウラは喜んでくれるに違いない。
何をプレゼントしようかな。ラウラは何でも喜んでくれそうだけど………。あっ、そう言えばラウラってあまり髪型を変えることはないんだよな。いつもロングヘア―のままで、俺みたいにポニーテールにしたり、ナタリアみたいにツインテールにすることはあまりない。一時期だけツーサイドアップにしていた頃があったけど、すぐにやめてしまったし。
うーん、髪留めとかリボンを持って来てる様子もないし、そういうのをプレゼントしようかなぁ………。
髪型を変えたラウラの姿を想像してニヤニヤしていると、書斎のドアがノックされる。「どうぞ」と言うよりも先にドアノブが回転を始め、やがてブラウンのドアの向こうから、浅黒い肌の巨漢が姿を現した。
身長は明らかに180cm以上はあるだろう。もしかしたら190cmくらいかもしれない。短い金髪からは肌と同じ色の長い耳が伸びており、ハーフエルフだという事が分かる。一見すると盗賊団とかギャングのリーダーに見えてしまうような風貌だけど、身に着けている黒い制服とそのエンブレムで、モリガンの傭兵の1人だという事は理解できた。
「おう、2人とも。風呂入っていいぞ。今上がったから」
「あ、はい」
彼はモリガンの傭兵の1人であるギュンターさん。この21年前の年齢は17歳で、のちにカレンさんと結婚してカノンの父親になる男性である。
もう夕方だ。夕食の前に風呂に入ってしまえという事なんだろう。
うーん、このままここでお世話になるのもいいんだけど、何だか悪い気がするなぁ………。
「タクヤ、お風呂入ろうよっ♪」
「お、おう」
メニュー画面を開いて服装をタッチし、着替えを出しておく。この服装だけは他のメニューとは違い、身に着けたことのある衣服が勝手に登録される仕組みになっている。そのためポイントを消費して服を生産しなくても、いつでも着たことのある服を取り出して身に着けることが可能なのだ。
しかも武器や兵器と同じく12時間経過すれば勝手に洗濯されるため、自分たちで服を洗う必要がない。
着替えを持った俺は、同じく着替えを手にしたラウラに片手に抱き付かれながら一緒に部屋を後にし、階段を上がった。幼少の頃はよく遊びに来た屋敷だけど、まさか過去にタイムスリップしてここでお世話になるとは思わなかったよ。冒険者になってから不思議な事ばかり体験しているような気がする。
モリガンの屋敷の風呂場は3階にある。廊下の一番奥にあるドアの向こうは脱衣所になっており、その向こうが風呂場らしい。
俺たちの生まれた時代は産業革命で発展したため、各家庭に水道があるのは当たり前だが―――――――この時代は一部の貴族や王族の屋敷以外に水道はなく、一般的な庶民は井戸から水をくみ上げ、それで身体を洗っていたという。産業革命で世界を発展させたフィオナちゃんには感謝するべきだけど、その水道が一般的ではない時代に、特に水道があるわけでもないのに風呂場を3階に作ったのは大きなミスだと思う。なぜならば、裏庭の井戸から水をたっぷり入れた重たい桶を持って3階まで上がり、浴槽に入れて火で温めなければならないのだから。
風呂場の準備は当番制で、ギルドの当番の中では一番の重労働だという。
脱衣所のドアを開け、出来るだけラウラの方を向かないように服を脱ぐ。近くにあったタオルを腰に巻いて尻尾を隠し、髪留めを外してポニーテールをやめ、とりあえずラウラが服を脱ぎ終えるまで待つ事にする。
それにしても、俺も髪を下ろすとエリスさんやラウラにそっくりなんだな。まあ、エリスさんと母さんは姉妹だし、ラウラは俺の姉なんだからそっくりなのは当たり前だろう。もし髪を赤く染めたら彼女はびっくりするだろうか。
小さい頃からラウラとはほぼ毎日風呂に入っていたんだけど、彼女が服を脱ぐ間はこうして必死に目を逸らすのはいつもと変わらない。特に、成長してスタイルが良くなり始めてからは俺の必死さも比例して上がっていた事だろう。
「お待たせっ!」
「お、おう」
ゆっくりと振り返ると、にこにこと笑いながらバスタオルを身体に巻いたラウラが待っていた。機嫌が良い時の彼女の癖で、バスタオルの中では彼女の柔らかい尻尾が左右に揺れている。さらさらしている赤毛の中からは彼女の角が伸びているのが見えた。俺の角とは異なり、根元の方は真っ黒なんだけど先端部に行くにつれてまるでルビーのように紅くなっている。
風呂場の扉を開けると―――――――あの荒れ果てたネイリンゲンで泊まった時と比べると、遥かにきれいな風呂場が俺たちを待っていた。とはいえ、スペースは一般的な前世の世界の家庭の風呂場程度だけど、こっちの世界の庶民の風呂場は産業革命以降でも前世の世界より狭く、貧しい感じがする。産業革命以前のより貧しかった庶民たちの家には風呂場がある方が少なく、大半は井戸の近くでの水浴びで済ませていたという家庭もあるため、風呂場があるのは恵まれているということなのである。
浴槽の中には熱々のお湯がたっぷりと入っており、その脇にはシャンプーや石鹸が置かれている。後は大きな桶が2つと低い椅子が1つ用意されていた。
「ふにゅ。タクヤ、お姉ちゃんが背中洗ってあげるね♪」
「ん? いいの? いつも逆だろ?」
「いいじゃん。ほらっ♪」
いつもはラウラから洗っているんだけど、今日は逆なのかな?
とりあえずお言葉に甘えておこう。タオルを巻いたまま低い椅子に腰を下ろすと、ラウラは桶で浴槽の中からお湯をすくい取り、俺の髪を濡らしてからシャンプーを付け、髪を洗い始めた。
不器用な事が多いラウラだけど、小さい頃から続けているせいなのか髪や身体を洗うのは上手だ。でも自分で自分の髪や身体を洗うのは苦手らしい。きっと俺の身体と髪ばかり洗っていたせいなんだろう。おかげで彼女の身体と髪を洗うのは俺の仕事である。
大変なんだぞ、ラウラを洗ってあげるのは。俺のお姉ちゃんは超弩級戦艦なんだから。
「流すよー♪」
「はーい」
髪についていたシャンプーを流してもらい、濡れた髪をタオルで吹く。前世ではごく普通の男子高校生だったからこんなに髪を流すことはなかったんだけど、やっぱり髪が長いと洗うのは大変だよ。なかなか泡が流れないし、ちゃんとタオルで拭いたと思ってもまだ濡れてるんだから。
続けて今度は身体を洗ってくれるらしく、ラウラが石鹸でタオルを泡立て始める。
「えへへっ。タクヤって女の子みたいに見えるけど、ちゃんと筋肉ついてるよね」
「まあ、鍛えたからな」
「ふにゅー………腹筋も凄いよ。ちゃんと割れてる」
細身だけどね。
泡立ったタオルを持ったラウラが、背中の汚れを順調に落としていく。彼女は俺が好む力加減までちゃんと把握しているらしく、力を入れてほしいところではちゃんと力を入れてくれるし、逆に優しく洗ってほしいところはちゃんと力を抜いて優しく洗ってくれる。言わなくても、彼女は俺の好みを知っているのだ。
最初は恥ずかしいと思っていたし、彼女が成長してスタイルが良くなってからはなおさら恥ずかしいと思っていたけど、彼女に甘えるのも悪くないかもしれない。
そのとき、何の前触れもなく、暖かくて湿った何かが俺の右耳を静かに愛撫した。
「ん………ッ!?」
「ふにゃー………タクヤ、美味しそう………♪」
「お、おい、ラウラ………?」
いつの間にか、俺の肩の辺りを洗っていた筈の彼女の手は止まっていた。泡に包まれたタオルは床に置かれ、代わりに彼女の両手は俺の背後から胸板の方へと絡み付いている。ラウラに背後から抱き締められているのだと理解した瞬間、抱き付いていたラウラがそっと顔を覗き込んできた。
微笑んでいるけど、彼女も恥ずかしいらしい。顔は紅くなり、角も伸びている。
静かに顔を近づけてきた彼女を拒むわけにはいかない。いつものように受け入れることにした俺は、彼女の唇を奪った。
そっと唇を離し、ほんの少しだけ互いの顔を見つめ合う。
「えっと………ご、ごめんね、いきなり………」
「だ、大丈夫………。そ、その………びっくり……したけど、俺も………ラウラの事、好きだし………」
「ふにゃっ!? ………ば、バカ……」
ご、ごめんなさい………。
顔を赤くしたままのラウラに身体を洗ってもらい、身体を流してから俺も同じように彼女の髪と身体を洗う。身体を洗っている最中、俺もラウラみたいに仕返ししてやろうかと思ったけれど、無言の状態でそんな事をするのは気まずかったので何もせず、てきぱきと身体を洗い、泡を流してから2人で浴槽へと入る。
それなりに幅のある浴槽なので、2人で横に並んでもまだスペースがある。俺とラウラは2人で横に並んで浴槽の中へと入ると、まだ無言のままお湯の中で手をつなぎ、互いの尻尾を絡み合わせた。
「………あ、あのね、タクヤ」
「ん?」
「わ、私ね、小さい頃からの夢は………えっと、タクヤのお嫁さんになることなの」
「う、うん」
小さい頃から何度も言っていた。親父がラウラに将来の夢を聞くと、彼女は幼い時からずっと笑顔で「タクヤのお嫁さんになるのっ♪」と答え、親父と母さんを困らせていたものだ。
もう明日で18歳になるというのに、相変わらずラウラの夢は変わらないようだ。好みの男子はどんな人なのかと聞くと「タクヤが大好きなの」と答えるし、おそらく今後も彼女が好きになるような男性は現れないだろう。
「そ、そうなんだけどっ………た、タクヤはどう思う………?」
「え?」
「こんな不器用なお姉ちゃんだけど………えっと、迷惑じゃない………?」
「………め、迷惑じゃないよ。むしろ………か、可愛いと思う」
「………………か、可愛い?」
「う、うん。だから、その…………俺、お姉ちゃんの事が………大好き」
「………!」
いきなりお湯の中で握っていた彼女の手が消えたと思った瞬間、潜水艦のミサイルが海面から飛び出すかのように、お湯の表面からいきなりラウラの白い手が伸びてきた。あっという間に抱き締められた俺はびっくりしたけど、次の瞬間にはまたしても唇を彼女に奪われてしまう。
下を絡ませてからゆっくりと唇を離す。身体を動かそうとすると、浴槽の縁にすっかり伸びてしまった角の先端部がごつん、と当たった。
「お姉ちゃんも、タクヤの事大好きだよ。………ねえ、それじゃあ………大人になったら、お姉ちゃんのこと、お嫁さんにしてくれる………?」
普段の俺だったら、きっと悩んでいた事だろう。
でも――――――――今の俺は、悩む事ができなかった。
なぜならば、もう答えが出ていたからだ。彼女の質問にどう答えるべきなのか。俺を愛してくれるラウラに何と答えればいいのか、もう理解していた。
「―――――――た、旅が終わったら………お、俺の………お嫁さんになってください………」
「………う、うんっ!」
これで、俺のお嫁さんになるというラウラの夢は叶ってしまったな。
親父と母さんはラウラが怖いからという理由で首を縦に振っていたし、エリスさんはきっと全面的に応援してくれるだろう。………問題ないじゃん。
顔を真っ赤にしながら、俺とラウラは浴槽の中でしばらく抱き締め合っていた。