異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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若き日のモリガンの傭兵

 

 過去や未来に行く事ができたら楽しいだろうな、と今までに何度も思ったことはある。科学が発展すれば、誰かがタイムマシンを発明してくれるのではないか。そんなありえない事に憧れていた頃の俺がもし今の俺と同じ経験をしたら、きっと喜ぶだろうか。

 

 科学のおとぎ話が、現実になったのだから。

 

 俺たちが3歳の頃に壊滅し、放棄された筈のネイリンゲンの屋敷。かつては少女の幽霊が出没すると言われ、街の人々からは恐れられていた幽霊屋敷だ。モリガンが本部にしてからは街を守るための重要な拠点としてネイリンゲンの象徴にもなっていた屋敷が、俺たちの目の前にある。転生者たちの攻撃で破壊され、とっくに廃墟になっている筈の屋敷が、まるで幽霊のようにそこに存在しているのである。

 

 現れたのは屋敷だけではない。俺たちを育ててくれた速河力也(リキヤ・ハヤカワ)に瓜二つの少年も、俺たちの目の前にいる。

 

 いや………瓜二つというよりは、本人だろうか。

 

 漆黒のオーバーコートにも似た制服の肩には、見覚えのあるエンブレムが刻まれているのである。2枚の真紅の羽根が重なったようなデザインの、モリガンのエンブレムである。

 

「え、えっと………」

 

「ん? 依頼じゃないのか?」

 

 ど、どうしよう………。ここが21年前のネイリンゲンだって決まったわけじゃないけど、明らかにここは昔のネイリンゲンだろ………。今のネイリンゲンはダンジョンと化しているし、モリガンの本部も今ではただの廃墟だ。

 

 もし仮にこの少年が俺たちの親父だったとしたら、俺たちが未来からやってきたあんたの子供たちだって事は告げるべきなんだろうか? そっちの方が動きやすくなると思うが………信じてくれるだろうか。

 

 何と言えばいいのか分からず、俺は冷や汗を浮かべながら必死に言葉を考え始める。

 

「………ところでさ、お前ら」

 

「はっ、はい?」

 

「背中に背負ってるのは銃か?」

 

「え? ………あ」

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? や、ヤバい! そういえば護身用にいつもの武器を装備したままだった!

 

 俺たちの時代でも同じだけど、この世界に銃は存在しない。あくまで戦いの主流は魔術や剣で、火薬を使った銃のような兵器は存在しないんだ。つまり、銃を持っているという事は転生者か、その転生者の関係者だと言っているようなものなのである。

 

 しかも―――――――それを見抜かせてしまった相手が悪い。

 

 よりにもよって、若き日の親父と思われる黒髪の少年だ。モリガンのエンブレムが真紅の羽根になっているという事は、少なくとも転生者との戦いを経験し、この異世界で悪事や蛮行を続ける転生者を狩る『転生者ハンター』を名乗り始めた頃だと考えるべきだろう。

 

 一番ピリピリしてた頃じゃねえか! おいおい、拙いぞ。親父は1人で転生者を絶滅寸前まで追い込んでしまうほどの実力者なんだ………!

 

「え、ええと、これは………はい、銃です。AN-94です」

 

「ロシア製か。話が合いそうだが………てめえら、転生者か?」

 

 優しそうな雰囲気はいつの間にか消え失せていた。目つきが更に鋭くなり、狩りに連れて行ってもらった時ほどではないけれど、ぞっとしてしまうほど冷たい親父の目が俺とラウラを睨みつけていた。

 

「き、聞いてください。俺たち、実は………転生者の子供なんです」

 

「なに?」

 

 事実だよ。未来のあんたの子供だぞ。

 

 とりあえず、俺たちが未来からやってきた事は隠しつつ、極力本当のことを言おう。下手に目配せをすればバレてしまいそうなので、ラウラには目配せはしない。出来るならばいつもみたいに俺の考えていることを察してくれるとありがたい。

 

「転生者の子供………?」

 

「は、はい。父が転生者なんです」

 

「父親が? ………どうせ女を何人も抱いてその度に子供を作ってるようなろくでなしなんだろ?」

 

 い、いや………2人抱いてますね………。ろくでなしではないけど。

 

「ふにゅ、私たちのパパはろくでなしじゃありませんっ!」

 

「ら、ラウラ………」

 

「パパはとっても優しい人なんですっ! 私たちを狩りに連れて行ってくれるし、家族も大事にする人だし………」

 

「………すまない。失礼なことを言ってしまったな」

 

 未来の自分の事ですよ、力也さん。あんた数年後に母さんとエリスさんを姉妹そろって妻にしますからね。それで俺たち生まれるんですよ。

 

 真相を話したらこの人びっくりするだろうなぁ………。

 

 まあ、信じてもらえるわけはないだろうけど。

 

「それにしても、珍しいな………そんな転生者がいるなんて」

 

「ええ、大半はクソ野郎ですから」

 

「ああ、同感だ。………ところで、お前らは何でここにいるんだ? 依頼じゃないんだろ?」

 

 そうだった。何でここに来たのか説明しないと。とりあえず警戒するのは止めてくれたみたいだから、今なら信じてもらえるだろう。

 

「ええと、実は仲間とはぐれてしまいまして………」

 

 とりあえず、仲間とはぐれたという事にしておこう。冒険者のパーティーとはぐれてしまって、彷徨っていたらネイリンゲンに辿り着いたという事にしておけば信じてもらえるだろう。

 

「ん? 冒険者か?」

 

「ええ」

 

「なるほどねぇ………。まあ、行くあてがないなら上がってけよ。空き部屋はあるからいざとなれば寝れるし、飯も出す。安心しろ、金は取らないから」

 

「えっと………お姉ちゃん、どうする?」

 

「ふにゅう………すみません、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

「おう、気にすんな。………ところで、お前」

 

 屋敷に入るために踵を返し、門を開けて中に入ろうとしていた親父が、ちらりと俺の顔を見た瞬間に門へと伸ばしていた手を止めた。俺たちが未来からやってきたという事がバレてしまったのかと肝を冷やしたが、先ほどの声と比べると警戒心は見受けられない。疑問が浮かんだから問い掛けてみたような軽い声音だ。

 

 何だ? 

 

「ちょっとフード取ってみろ」

 

「え?」

 

 フード? 何で?

 

 フードを取るために手を伸ばした俺は、転生した後の自分の容姿を思い出してはっとした。前世の俺はごく普通の男子だったんだが、今の俺は母親に似過ぎたせいで少女とよく勘違いされる不遇な男子である。しかもその母親は、のちにこの速河力也の妻になるエミリア・ハヤカワだ。

 

 目の前に仲間にそっくりな奴がいることに気付いたんだろう。ただのそっくりな男子と言えば誤魔化せるだろうか。

 

 ゆっくりとフードを外し、片手で蒼い髪をフードの外に引っ張り出す。漆黒の革のコートから躍り出たポニーテールが揺れ、花と石鹸の香りが混ざり合ったような甘い匂いをネイリンゲンの草原にばら撒く。

 

 角を隠すためのフードだったんだが、角が伸びない限りバレることはないだろう。

 

 俺の素顔を目の当たりにした若き日の親父と思われる少年が、目を見開きながら口を開く。まあ、フードをかぶっていた見知らぬ冒険者の素顔が自分の後の妻にそっくりなんだからな。

 

「え………え、エミ……リア………?」

 

「えっ?」

 

「え、エミリアだったのか!? おいおい、驚かさないでくれよ。じゃあこっちの赤毛の子は? 友達か?」

 

「い、いや………ひ、人違いです。俺はタクヤって名前なんです」

 

「えっ? ………ああ、確かに人違いだな。エミリアはこんな貧乳じゃないし………」

 

 巨乳ですからね、俺のお母さん。

 

「というか、タクヤって男の名前じゃないか。お前の親父さんも娘に可哀そうな名前を付けるもんだなぁ」

 

 ちょっと待て。このクソガキ、もしかして俺の事を女だと思ってんのか?

 

 あのね、俺は男ですからね。母親のせいでこんな少女みたいな容姿だけど、男として生まれたからタクヤっていう名前を付けられたんだ。ちゃんと息子も搭載してるんだぜ?

 

「あ、あの………」

 

「ん?」

 

「俺、男なんです」

 

 気を取り直して門を開けようとしていた親父が、再び凍り付く。がっちりした両手は見事にぴたりと止まり、鋭い目はまるでポカンとしているかのように丸くなったまま門の向こう側を見据えている。

 

「………う、嘘つくなって。貧乳の美少女なんだろ?」

 

「息子ついてます」

 

「………」

 

 辛うじて言葉を発した若き日の親父の疑問を即答で一蹴する俺。親父は再び動かなくなり、草原の草を揺らす風の音しか聞こえなくなる。

 

 け、結構混乱してるんだね………。

 

「………お、男だったの?」

 

「男です」

 

「ふにゅ、タクヤは私のとっても可愛い弟なんですっ♪」

 

「きょ、姉弟だったんだ。確かに似てるな………」

 

 そう言いながら今度こそ門を開ける若き日の親父。ところどころ錆びついた門が軋みながらスライドしていき、懐かしいモリガンの屋敷の庭があらわになる。

 

 それほど大きくない花壇には所狭しと花が植えられ、入り切らない花は大小さまざまな鉢に入れられている。カレンさんかフィオナちゃんが育てているのだろうか。貴族の屋敷と比べれば狭い庭だけど、金持ちだという事を主張している派手な庭よりも、こういうある程度狭くて控えめな庭の方が俺は好きだ。

 

 正面の玄関を開け、中に入って行く親父についていく。少し傷の付いたブラウンの扉の向こうに広がっていたのは、やはり幼少の頃に何度も訪れたあの屋敷と同じ広間だった。右手には食堂へと通じる通路があり、その通路の途中には地下室へと続く階段がある。この屋敷の地下室は射撃訓練場になっていて、カレンさんの父親が用意してくれた設備を使ってよく射撃訓練をしていたんだ。危ないからとなかなか入れてもらえなかったんだけど、銃には触らずに見学するだけということで親父がこっそりと入れてくれた事があった。確かあの時は、ちょうど若き日のシンヤ叔父さんが射撃訓練をやってたような気がする。

 

 広間の正面にはイスとテーブルがあり、リビングみたいな感じになっている。その奥には裏庭へと通じる裏口があって、その裏庭ではよく母さんが剣の素振りをやっていた。裏庭は薪割りとか格闘戦の訓練に使っていたという。裏庭の奥には戦車を格納しておく格納庫や飛行場があったらしいんだけど、それらを新設したのはエリスさんが仲間になった後らしい。そういえば、この時点でエリスさんは仲間になっているんだろうか。

 

 左手に見える階段を上がりながら、俺はそう思った。ラウラの母親であるエリス・ハヤカワ――――――結婚する前はエリス・シンシア・ペンドルトン――――――は、最初からモリガンの一員だったわけではないという。

 

 エリスさんがモリガンの一員となったのは、俺の母であるエミリア・ハヤカワの許嫁であるジョシュアという男が、調子に乗ってネイリンゲンへと侵攻したことに端を発する。その侵攻の前にエリスさんが率いる騎士団の分隊が派遣され、親父たちと戦ったという話を聞いた。エリスさんが仲間になったのは、ジョシュアに裏切られたことと親父に説得されたかららしい。

 

 あの人、元々は敵だったんだな。今では夫にデレデレな奥さんだけど、若き日のエリスさんってどんな人だったんだろうか。さすがにラトーニウス騎士団時代もあんなエロくてマイペースな人ではなかったと祈りたいところだ………。

 

 2階に上がると、親父は応接室に俺たちを招き入れた。ソファとテーブルが置かれたシンプルな部屋で、依頼が来た時はここでクライアントから話を聞いていたという。俺たちが遊びに来た時は裏庭でギュンターさんに遊び相手になってもらうか、訓練の見学ばかりだったから、ここに足を踏み入れるのは初めてだ。

 

「まあ、座ってくれ。あ、紅茶とコーヒーだったらどっちがいい? 個人的には紅茶をおすすめしたいんだが………」

 

「えっと、紅茶でお願いします」

 

「ふにゅ、私も」

 

「はいよ」

 

 小さい頃から紅茶をよく飲んでたからな。コーヒーも好きだけど、俺はどちらかというと紅茶の方が好きだ。特にジャム入りの紅茶は1人でタンクデサントする時には必需品になっている。

 

 シンプルな応接室で待っていると、ティーカップを乗せたトレイを手にした親父が戻ってきた。テーブルの上にティーカップを置き、おまけにジャムの入った瓶を真ん中に置いて「もし良ければどうぞ」と言った親父は、自分の分の紅茶をテーブルに置くと、向かい側のソファに腰を下ろす。

 

 やっぱり、この少年は俺たちの親父なんだろうか。輪郭は親父と全く同じだし、雰囲気も似ている。それに顔つきも面影があるから、彼の老後の姿があっさりと想像できてしまう。

 

「俺は速河力也(はやかわりきや)。このモリガンのリーダーだ」

 

「えっと、俺はタクヤ。こっちの赤毛の子は姉のラウラです」

 

「よ、よろしくおねがいしますっ」

 

 さすがにファミリーネームは名乗れないな。母さんに似ている上にハヤカワっていうファミリーネームなんだから、下手をすれば感付かれる。幸いこの世界ではファミリーネームがないというのは珍しい話ではないので、名前だけでも怪しまれることはない。

 

 それにしても、やっぱり同じ名前か………。屋敷やモリガンの服装の状態から見ると、やっぱりここは21年前のネイリンゲンだというのは間違いないらしい。ということは、目の前にいるこの男はやはり俺たちの父となる男なんだろうか。

 

「よろしくな。で、2人は――――――――」

 

「――――――力也、今帰ったぞ!」

 

 親父が話し始めようとしたその時、部屋の入口の方から凛とした少女の声が聞こえてきた。

 

 その凛とした声にも、聞き覚えがある。幼少の頃からずっと聞いている声だ。凛々しさと勇ましさを兼ね備えたその声は、ただ凛々しいだけではない。まるで小さな子供が親に体験した出来事を話そうとしているかのような無邪気さもある。

 

「おう、エミリア。お帰り」

 

「うむ。聞いてくれ、今日の依頼はすぐに―――――――む? 来客か?」

 

 やはり、母さんの声だった。正確に言えば若き日の母さんだ。

 

 転生者である親父にとって一番最初の仲間であり、ラトーニウス王国から駆け落ちじみた逃走劇を繰り広げた親父の妻になる少女。騎士団の頃から鍛え上げられた剣術はまさに努力の塊と言えるほどで、俺たちの母はそろそろ40歳になるというのに剣術の鋭さは健在である。

 

 部屋に入ってきたのは、黒い軍服のような制服に身を包んだ蒼い髪の少女だった。髪型は結婚した痕と同じくポニーテールで、黒いリボンで後ろ髪を結んでいる。腰には騎士団が採用しているようなバスタードソードを下げているけど、デザインが違う事からオーダーメイドの剣だという事が分かる。凛々しさと無邪気さを兼ね備えた少女を見上げた親父は、ニヤニヤ笑いながら言った。

 

「ああ。………見てくれ、エミリア。びっくりするぞ」

 

「む? ………なぁっ!?」

 

 ニヤニヤと笑う親父を訝しんでから、ちらりとこっちを見下ろす母さん。母親になってからも若い容姿のままなんだけど、さすがに21年前と比べるとこっちの方が若い。というか、若干幼い感じに見えてしまう。母親になった後の母さんは騎士団の教官になっていてもおかしくない雰囲気と威厳を放ってるけど、こっちの若い母さんにはまだあどけなさがある。

 

 彼女はソファに座っているのがただの客人かクライアントだと思っていたんだろう。すぐそこに自分に瓜二つの少年が座っているとは思わない筈だ。

 

 案の定、ソファの横から回り込んでこっちを覗き込んだ若き日の母さんのリアクションは思った通りだった。目を見開き、右手で俺を指差しながらかなり混乱している。

 

「なっ、な、な、なぜ私がもう1人いるんだ!? ふ、双子の姉妹がいたのか!? 初耳だぞ!?」

 

「は、初めまして。俺は―――――――」

 

「りっ、力也! こいつは何者だ!? ギュンターのいたずらか!? それとも、ど、ドッペルゲンガーというやつか!?」

 

「お、落ち着けって。彼は―――――――」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 力也、何とかしてくれぇっ!」

 

 ちょっと待って。リアクションが予想以上だった。

 

 え? あ、あれが母さんなの? 毎朝剣の素振りを欠かさず、自分に厳しくて凛々しいエミリア・ハヤカワと同一人物なの? ちょっと待って、この人こそそっくりさんなんじゃないの?

 

 涙目になりながら、若き日の母さんは大慌てで親父の座っているソファの陰へと隠れると、親父の肩を掴み、首が千切れるのではないかと思ってしまうほどの勢いで思い切り振り始めた。ちょっと、母さん。親父が白目になってる。おい、しかも泡まで吹いてる。

 

 お願いだから手加減してあげて。出来れば落ち着いて。俺は未来のあなたの息子ですから。ドッペルゲンガーじゃありませんよ。

 

「ふにゃあっ!? ちょ、ちょっと! パ………力也さんが死んじゃう!」

 

「えっ? あっ、ああ! 力也ぁ!! おい、しっかりしろ! 死ぬなぁっ!!」

 

「あ………ぁ………ぁぁ………」

 

 死にかけてんじゃねえか!

 

 頭を押さえながら辛うじて起き上がった親父は、「ああ、大丈夫。慣れてるから」と言いながら頭を振り、息を吐いた。タフな親父だなぁ………。頑丈さは結婚前からなのか。

 

 というか、親父を殺さないでくれよ。親父が死んだら俺たちは存在しないんだからな。

 

「えっと、こっちのエミリアにそっくりなのがタクヤ。男の子らしい。で、こっちの赤毛の子がラウラだ。2人とも姉弟で冒険者なんだそうだ」

 

「ふむ………取り乱してすまない。その………怪談とか、怖い話は苦手なのだ………」

 

「き、気にしないでください。俺も苦手ですから………」

 

「2人とも、パーティーからはぐれちまったらしくてな。行くあてがないらしいからここで面倒を見たいんだが、大丈夫か?」

 

「ああ、問題ないぞ。空き部屋は………書斎が空いてるな」

 

 書斎? 確か、この隣にある部屋だな。古い辞典みたいなのがびっしりと本棚に並んでる、ちょっとした図書館みたいな部屋だったような気がする。

 

「書斎でもいいか? ベッドとかは運んでおくからさ」

 

「あ、はい」

 

「ありがとうございますっ!」

 

「おう、決まりだな。じゃあ………何人か仕事で出払ってるけど、地下に信也とミラのやつがいる筈だから挨拶しておこう。ついてきてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 叔父さんとミラさんかぁ………。後に夫婦になる2人に今から会いに行くんだな。

 

 過去にタイムスリップするというありえない現象を体験する羽目になったけど、なんだか楽しくなってきた。でも、いつまでもこの時代にいるわけにはいかない。早いうちに元の時代に戻る方法を探さないと。

 

 なあ、ラウラ。

 

 ちらりと隣を見ると、ラウラも真面目な表情でこっちを見ながら頷いていた。

 

 俺たちにはメサイアの天秤を手に入れるという目標がある。親父たちが倭国の戦いの事後処理で足止めされている間にヴリシア帝国へと向かうつもりだったんだが、このまま過去に留まっていては親父たちの追撃を許す結果になる。

 

 過去を見てみるのも面白いが――――――――早いうちに元の世界に戻らなければ。

 

 

 


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