異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
全てを凍てつかせようと手を伸ばしてくる雪を、120mm滑腔砲の勇ましい咆哮が薙ぎ払う。発射された砲弾の外殻部が空中分解したかのように剥がれ落ち、中から出現した槍にも似た鋭い砲弾が姿を現す。
戦車の装甲を貫通する砲弾を、生物の皮膚と筋肉が防ぎ切るのは不可能であった。APFSDSが想定している相手は、生物ではなく戦車などの強靭な装甲。つまり、いくらデーモンでも眼中にないのである。
金属の槍がデーモンの肉体をあっさりと抉り取り、胸板に大穴を開ける。着弾した瞬間の衝撃と、APFSDSが纏っていた運動エネルギーの鎧によって肉体は更に抉られ、人間を容易く握りつぶしてきた剛腕までもが千切れ飛ぶ。
これで、
こちらは燃料が底を突く寸前で、デーモンへの攻撃力となる粘着榴弾も残り3発しかないため慎重に戦っているとはいえ、あのレオパルト2A4の乗組員たちは練度がかなり高い事がうかがえた。
力任せに砲弾を放ち、機関銃で薙ぎ払うだけではない。敵の数が減り始めている状態とはいえ、油断することなく相手に効果的な砲弾を瞬時に選択し、それを砲手が的確に標的へと叩き込んでいる。車長の指示だが、装填手と砲手の技術も高いという事を証明している戦果である。
特に砲手の命中精度は凄まじい。先ほどから前を進むレオパルトはデーモンから放たれる魔術をひたすら左右に移動して回避しているのだが、その回避の最中だろうと関係なく標的に砲弾を叩き込んでいるのだから。
チャレンジャー2にもカノンという優秀な砲手がいるが、もしかしたら2人の命中精度は同等なのではないだろうか。モニターを見下ろしながらそう思ったナタリアは、砲塔のすぐ横を何かが突き抜けていったかのような音を聞き、唇を噛み締めながらペリスコープを覗き込んだ。
今しがたの音は、デーモンの魔術が掠めていった音だろう。球体状の闇属性の魔力の塊が、チャレンジャー2の砲塔の周囲に増設されたスラット・アーマーを掠めていったのである。
走行しながらの戦闘となっているため、既に戦車の速度について来れるデーモンのみが敵と言っていい。足の速さが人間と変わらないグールたちは、もう置き去りにされている。
「次の目標、3時方向のデーモン!」
「装填完了です、ナタリア」
「発射(アゴーニ)!」
「発射(アゴーニ)!!」
なけなしの粘着榴弾の1発が、120mmライフル砲から飛び出していく。
滑腔砲とは違い、ライフリングを持つライフル砲から放たれた1発の粘着榴弾は、まるで長大なライフルから放たれた銃弾のように回転しながら躍り出ると、チャレンジャー2の右側から魔術による遠距離攻撃を繰り返していたデーモンへと襲い掛かった。
まるで滑走路から離陸したばかりの飛行機のように舞い上がるかと思いきや、カノンが放った砲弾は段々と高度を落とし始める。ペリスコープから見れば外れたのではないかと思える砲撃だが、その砲弾が落下したのは、ナタリアが指示したとおりの標的である。
めき、と骨格が粘着榴弾の直撃でへし折れたような音が聞こえた気がした。こんな遠距離で骨の折れる音が聞こえるのだろうかと違和感を感じたナタリアが、幻聴だろうと思った頃には、そのデーモンの上半身は粘着榴弾が生み出した爆風に包み込まれていた。
「粘着榴弾、のこり2発」
「ラウラ、燃料は!?」
「もうほとんど残ってないよ!」
粘着榴弾が1発あれば、カノンがそれを必ず命中させた場合に限って1体のデーモンを確実に撃破できるということになる。つまり、そのように考えればチャレンジャー2にはあと2体のデーモンを撃破出来る火力が残されていることになるが、問題はやはり燃料である。
砲弾を2発撃ち尽くすよりも先に、燃料が底を突いてしまうのではないか。もしそうなれば砲弾を残したままチャレンジャー2を放棄する羽目になる。
『
「えっ? ええ、聞こえるわ」
『そっちの燃料は?』
「そろそろ限界よ。砲弾もあと粘着榴弾が2発しか………」
『了解。戦車を放棄する時は伝えて。あの
「タクヤから………?」
自分たちの武器という事は、いつも使っている銃を預かっているという事なんだろうか。
タクヤを拾ったのは彼女たちらしいが、タクヤは見ず知らずの転生者たちに仲間の武器を預けるほど、彼女たちを信用しているという事なのだろうか。転生者ハンターの息子として生まれた彼が気を許す転生者ならば確かに信用できるが、武器を預けるのは迂闊なのではないだろうか。
ナタリアはそう思っていたが、これで白兵戦となった場合の火力は保証された。チャレンジャー2の燃料と砲弾が尽きて放棄する羽目になったら、真っ先にレオパルトの方へと武器を受け取りに行けばいいのだから。
「了解! 助かるわ!」
『それはどうも。ところで、前方のデーモンは見える?』
「え?」
ペリスコープを覗き込み、前方から魔術を立て続けに放ってくるデーモンを確認する。爆走する2両の戦車の前方には、先ほどから大砲の砲弾を思わせる紫色の球体を放ってくる2体のデーモンと、まるでその2体に援護してもらっているかのように接近してくるデーモンの姿が見える。
あの少女の車長が言っているのは、あの小規模な群れの事だろう。確かに先ほどからあの魔術は鬱陶しいと思っていたし、先ほど砲塔を掠めたのはあの後方の2体のうち片方の魔術であった。
「ええ、見えるわ」
『右側の後衛をお願い。前衛ともう片方はこっちで片付ける』
「1両で2体を………?」
『いいわね?』
「りょ、了解! カノンちゃん!」
「了解ですわ!」
1両の砲撃で、2体のデーモンを同時に相手にするというのか。
彼女は自分たちの技術と戦車に自信を持っているのか、それともただ自信過剰なのかもしれない。前者ならば頼もしい限りだが、後者ならばただでさえ疲弊しているこちらがカバーに回らなければならない。
先ほどから凄まじい勢いで戦果をあげているレオパルトの戦闘力が高いということはもう理解している。だが、ナタリアはまだタクヤを助けてくれたクランたちを信用しているわけではない。
彼女たちもそうなのではないか。ナタリアは半信半疑だったが、タクヤが武器を託している以上は信用できる相手と判断するべきなのかもしれない。
「――――――
「発射(アゴーニ)!」
彼女の号令で、2発目の粘着榴弾がライフル砲の砲口から飛び出していく。標的はクランから指示された右側の後衛だ。ついさっき魔術を外し、続けて詠唱へと突入している。
直撃しても複合装甲を貫通される恐れは無いが、全く損害を受けないというわけではないだろう。当たり所が悪ければ何かしらの機能が破損し、使用不能になる可能性もある。なによりも、元々チャレンジャー2は他の
「ラウラ、右! 散開して!」
「了解!」
密集していれば、流れ弾が味方に命中する可能性があるし、逆に味方を狙った流れ弾を喰らう可能性もある。密集隊形が機能するのは、防御力と攻撃力だけでなく、物量でも相手を上回っている場合のみである。どれか1つでも欠けた状態で突っ込めば、逆に大損害を受けてしまう。それゆえに少数で戦う場合は適度に散開するのが鉄則だ。そうすれば、少なくとも一網打尽にされて壊滅させられるという醜態を晒すことはない。
ぐん、とチャレンジャー2の巨体が右側へと逸れ始めた。砲弾のように飛来した魔力の塊が車体の左側を掠め、ひしゃげてしまったスラット・アーマーを揺らす。
その魔術を放ってきたデーモンの上半身が――――――――消し飛んだ。
カノンの一撃は見事なカウンターとなった。魔術を放ってきたデーモンの顔面が砲弾の直撃で潰れ、その直後に生じた爆炎で焼き尽くされる。その爆風魔瞬く間にデーモンの上半身を喰らい尽くすと、燃え残った下半身を雪の上に置き去りにして消滅してしまう。
「さすがカノンちゃん!」
「いつかステラもぶっ放してみたいです」
「ふふっ。では、後でお任せしますわね♪」
車長の席で崩れ落ちていくデーモンの下半身を凝視していたナタリアも、周囲を警戒しながらカノンを労おうとしたその時だった。
今しがた仕留めたデーモンの隣にいた別のデーモンの胸板を、砲弾のようなものが貫いたのである。一瞬だけ見えただけだが、その砲弾はデーモンを仕留めるよりも前から血肉を纏っていたように見えた。まるでもう獲物を食い殺した獅子が、別の獲物に襲い掛かったかのように、その砲弾の先端部は血に塗れていたのである。
「!?」
気が付くと、もう前衛のデーモンも同じように風穴を開けられ、崩れ落ちていくところであった。自動装填装置を搭載していたのだとしても、絶命した前衛のデーモンが崩れ落ちる途中の段階で後衛を撃破するのは不可能だ。
つまり、今の
まず前衛のデーモンを瞬時に仕留め、更にそのまま後衛で魔術を放ち続けていたデーモンを貫いたのだ。驚異的な貫通力を持つ砲弾でも、直撃すれば当然ながら弾道に狂いが生じる。一直線に並んでいたとしても、そのまま狙えば2体とも仕留められるようなものではない。1体を仕留めることはできても、2体目は暴れ馬と化した砲弾に委ねるしかないのだ。
(ほ、本当に1両で2体のデーモンを………!)
『さすが
『ま、マジで当たった………!?』
『自身持て
どうやら、レオパルトの車内でも砲手が労われているらしい。
これで前方にいたデーモンを仕留める事ができたが―――――――残る粘着榴弾は、1発のみである。
しかも、底を突きかけているのは砲弾だけではない。
「ナタリアちゃん、もう燃料がない………!」
「くっ………仕方がないわ、戦車を放棄! 直ちに友軍と合流を!」
ついに、チャレンジャー2の燃料が尽きてしまう。このまま車内に残っていれば、デーモンたちからの集中砲火を喰らう可能性があるため、素早く脱出して味方の戦車と合流し、武器を受け取ることが望ましい。
「ごめんなさい、燃料が尽きたわ。合流するから武器の準備をお願い」
『了解(ヤヴォール)。木村、速度落として! ケーター、装填は良いから外に出て。機銃で弾幕を張りつつ武器の受け渡しを!』
『任せろ! ハッチ開けるぞ!』
「みんな急いで!」
車長のハッチを開け、砲塔の上に乗りながらナタリアはカンプピストルを引き抜く。炸裂弾を発射するとはいえ、あくまでも小型の炸裂弾であるためデーモンの撃破は難しいだろう。しかし、コンパクトでありながら火力もあるため、役に立つ武器である。
「ラウラ、待って」
「ふにゅ?」
カンプピストルを構えて周囲を警戒しながら、ナタリアはハッチから出てきたラウラを呼び止めた。出来るならば、燃料が少ないにもかかわらず戦車を操り、必死に魔術を回避し続けてくれたラウラを労いたいところだが、それはこの戦いが終わってからだ。
今は、彼女に託さなければならないことがある。
「武器を受け取ったら、タクヤの所に行って」
「え?」
「大丈夫。随伴歩兵は3人いるわ。………だからあんたは、タクヤを助けてあげて。お姉ちゃんなんでしょ?」
「ナタリアちゃん………」
彼女の頭の上にそっと手を置いたナタリアは、いつもタクヤがラウラを撫でている時のように優しく彼女を撫でた。
「あいつの隣にいるのは………きっとラウラが一番似合うと思うの。だから助けに行ってあげて。いいわね?」
「………うんっ」
ラウラはいつも、タクヤと共に戦ってきた。
彼と同じ日に生まれ、腹違いの姉弟として幼少の頃から一緒に訓練を受けて冒険者となった。だからメンバーの中で最もタクヤと連携を取ることができるのは、彼女だけである。
だから、託す。
自分が行ったとしても、タクヤの足手まといになるかもしれないから。
それに―――――――彼の隣は、ラウラが一番似合うから。
「ひゃはははははははははははっ!」
狂ったような笑い声が、雪山の斜面にこだましていた。その笑い声を纏って振り下ろされる剣も、やはり持ち主の狂気と同じである。
刀身は鮮血のように紅く、一見すると刀身の素材にルビーを使っているのではないかと思ってしまう。しかしその刀身の中心部に埋め込まれているのは、まるで人間の骨のような形状をした物体だ。その骨を思わせる軸が柄の下部まで伸びており、その柄の下部には人間の手首から先がくっついているのである。
以前に戦った時も、俺はこの得物を目にした。先に戦っていたラウラたちが言っていたんだが、その禍々しい剣は吸血鬼が自分の腕を引き千切り、剣にしたものだという。
腕が切断されてもすぐに再生できる吸血鬼だからこそ、そんな痛々しい戦い方ができるのだ。
それに、そんな得物で斬られてたまるか。
後ろへと少しだけジャンプして剣戟を回避しつつ、両手のCz75SP-01を目の前の吸血鬼へと向ける。装備されている銃剣は通常の銃剣であるため、これで斬りつけても吸血鬼はすぐに再生してしまうが、装填されている弾丸は奴らの弱点である銀の弾丸である。
「ギャハハハハハハハハハッ! おいおいクソキメラ、逃げてんじゃねえよ! とっとと斬られて肉片になりやがれェェェェェェェェェェェェェェ!!」
「うるせえんだよ、クソ野郎が」
振り下ろされた剣戟を右へと回避しつつ、くるりと反時計回りに素早く回転する。俺を切り刻もうとしていた吸血鬼も応戦しようとしているが、俺はもう銃口を向けている。こっちはトリガーを引くだけでいい。
どちらが先に攻撃できるかは、言うまでもないだろう。
ズドン、と銃声とマズルフラッシュが荒れ狂う。漆黒のスライドがブローバックし、小さな薬莢が銃の外へと躍り出る。
至近距離での射撃だ。躱せるはずがない。
案の定、吸血鬼のこめかみに何の前触れもなく風穴が開いた。吸血鬼の頭が気味の悪い笑顔のままがくん、と揺れ、風穴から鮮血を流しながら雪原へと崩れ落ちていく――――――――。
普通の吸血鬼ならば、勝負はついていた事だろう。銀の剣や矢で射抜かれた吸血鬼は、その傷を再生させる事が出来ずに人間と同じように死んでしまうという。しかし、伝説のレリエル・クロフォードのような強力な吸血鬼の場合は、銀の剣で切り刻まれても、聖水で攻撃されてもすぐに再生し、モリガンの傭兵たちを苦しめたという。
ぴくり、と崩れ落ちていく吸血鬼の手が動いた瞬間に、俺はこの吸血鬼が普通の吸血鬼ではないという事を悟った。
今まで格上の相手と戦う事の方が多かったため、慢心することに慣れていない。それが功を奏したという事なんだろうか。無意識のうちに生じていた警戒心のおかげで、俺はその一撃を避ける事ができた。
「!」
念のため、胸板から頭にかけて外殻で降下させた状態で後ろへと回避する。目の前を真紅の剣が駆け上がり、俺が纏う白い防寒着のフードを掠める。
どうせ吸血鬼を殺したと油断しているところを切り裂くつもりだったんだろう。下衆な手を使うものである。………いや、俺もそういう手は使うからな。不意打ちをするのではないかと察する事ができたのは、同じような戦い方をする卑怯者だからなのだろうか。
「チッ、バレてたか」
「同じ手を使うんでね」
「ハハハハッ。てめえも卑怯者って事か」
「勘違いすんな、吸血鬼(ヴァンパイア)。俺は比較的善良な卑怯者さ」
「ヒヒヒヒヒッ………生意気なんだよ、クソガキがッ!!」
激昂した吸血鬼が剣を振るう。左右に持つ自分の腕で作った剣を振り払い、俺が後ろに下がるとすぐに前に突進してくる。そして剣を振るい、俺への追撃を何度も続ける。
なかなかしつこい奴だ。前に出て攻撃する事しかしない。
ハンドガンを連続でぶっ放すが、命中するのは肩や腕ばかりだ。立て続けに弾丸が命中しているんだが、この吸血鬼は頭や胸元に被弾しないように、被弾しながら突っ込んでくる。
くそ、やっぱり動体視力も人間以上か………!
ハンドガンを再装填(リロード)するふりをして、俺は銃をホルスターへと戻し――――――――デーモン用に用意していたある物を取り出す。
グールやデーモンなどは人間の怨念の集合体だ。そのようなタイプの敵にも、吸血鬼の弱点である聖水や銀は効果がある。そのため、怨念から発生する魔物が徘徊しているようなダンジョンに向かう冒険者は、売店や教会から銀や聖水をありったけ買っていくという。
俺が取り出したのは、まるで太い円柱状の金属にグリップを取り付けた奇妙な物体だった。一見すると短い棍棒のように見える武器だが、これの用途は相手をぶん殴ることではない。安全ピンを引き抜いてから敵に向かって放り投げることで、真価を発揮するのだ。
それは、戦車を破壊するために開発されたソ連製対戦車手榴弾のRKG-3だった。現代ではロケットランチャーや対戦車地雷が使われているため、対戦車手榴弾は廃れてしまっている。
本来ならば、投擲すると小ぢんまりとしたパラシュートのようなものが展開し、それで角度を調整しながら戦車に突っ込むように調整されているんだが、このRKG-3は対吸血鬼用に改造されているため、そのパラシュートもオミットしている。
『対吸血鬼手榴弾』と言ったところか。内部には炸薬と、吸血鬼が苦手とする聖水がこれでもかというほど詰めてある。安全ピンを引き抜いてから数秒後に炸裂し、広範囲に聖水をばら撒く仕組みだ。
人間などにとって、聖水は普通の水とあまり変わらないが、吸血鬼にとっては硫酸や王水のように強力な酸性の液体のようなものだ。吸血鬼の身体に付着すると、彼らの身体はあっという間に溶けてしまうのである。
それでもすぐに再生してしまう可能性があるが、銀の弾丸よりもこちらの方がより強烈だ。
安全ピンが引き抜かれた音を聞いた吸血鬼の剣戟が、警戒したのか一瞬だけ鈍った。回避しようと思っていたんだが、俺はその隙に逆に踏み込んでタックルをお見舞いすると、吹っ飛ばされていく吸血鬼に向かって、引き抜くと同時に安全ピンを抜いていた対吸血鬼手榴弾を放り投げる。
彼らにとって手榴弾は未知の武器でしかないが、その手榴弾の近くにいたら危険だという事は理解したのだろう。吸血鬼が慌てて逃げようとするが――――――――逃げられないように、爆発するまでの時間を短めに調整してたんだよ。
聖水は俺たちに害はないからな。
「グオォォォォォォォォォッ!?」
次の瞬間、逃げようとしていた吸血鬼の両足がいきなり砕け散った。側面から飛来した何かが吸血鬼の片足を貫通し、そのままもう1本の足まで貫通して、逃げようとしていた彼を足止めしたのである。
しかも、倒れ込んだ方向には―――――――――爆発する寸前の対吸血鬼手榴弾が転がっていた。
まるで自分から手榴弾に飛びつくかのように倒れた瞬間、彼の身体の下から一瞬だけ閃光が煌めいた。炸薬によって内部の聖水が飛散し、周囲の吸血鬼を殺傷するように改造していたんだが、その飛散する聖水を全て浴びる羽目になったその吸血鬼の身体は、フライパンの上で溶けていくバターのようにどんどん溶けていく。
予想外のダメージを与える事ができたが………今の狙撃は誰だ? ラウラか?
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! タクヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「えっ? ―――――――とむきゃっとっ!?」
聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、後ろから誰かが凄まじい勢いで全力疾走してくる感じがして―――――――俺は雪の上に突き飛ばされていた。
わ、脇腹が………!
起き上がろうとしたんだけど、すかさず何かが俺の上にのしかかってくると、胸板に頬を擦り付け始めた。引き剥がそうとする両手をのしかかっている人物の両手が押さえつけ、更に尻尾を巻きつけて逃げられないようにしてしまう。
「会いたかったよぉ………ぐすっ、無事でよかったぁ………タクヤぁ………っ!」
「ら、ラウラ………」
「もう………お姉ちゃんから離れたら、ダメだよ………?」
「はははっ。………ごめんね、お姉ちゃん」
心配かけちゃったな………。
彼女を抱き締めてあげようと思ったけど、両手はまだ押さえつけられたままだ。まだ戦闘中だから早く話して欲しいんだけどなぁ………。
「この………クソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ラウラ!」
「うん! もうお姉ちゃんは大丈夫だよっ!」
まだ戦いは終わってない。早く、この吸血鬼をぶちのめさなければならない。
彼女には慣れてもらってから起き上がると、あの吸血鬼は身体を再生させながら俺たちを睨みつけていた。まだ身体中が溶けたままになっており、肩や顔の半分は溶けてしまった皮膚の再生の途中だ。
ちらりとラウラの武装を確認する。サイドアームだけというわけではなく、ちゃんとクランたちから武器を受け取ってきたらしい。デーモンやグール用に銀の弾丸を装填してあるから、彼女に弾丸を渡す必要はないだろう。
「なんだ、2人ともいるじゃねえかぁ………! よし、そっちのガキは八つ裂きにして、姉の方は生け捕りにして犯してやる…………! ヒヒヒッ!!」
「お前じゃ無理だな」
「あ?」
確かに厄介な再生能力だし、剣戟も前より素早い。
でも―――――――俺たちだって戦いを経験してきたんだ。
「俺を殺すのは無理だし………俺のお姉ちゃんを犯すのは、絶対に許さん」
「ふにゅっ、お姉ちゃんはタクヤのものだもんっ♪」
ダネルNTW-20を構えるラウラの隣で、俺も2丁のCz75SP-01を構えた。