異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
こんなに燃えている雪山の斜面は、見たことがない。轟音と何かの断末魔が轟くシベリスブルク山脈へと飛翔するEH-60Cのキャビンのドアを開け、雪の中から吹き上がる火柱を目の当たりにしたアールネは、KP/-31の曲銃床を右手で握りながら息を吐いた。
(これが………異世界の武器の威力なのか………!)
破壊力ならば、タクヤたちとの共闘で目にした。
弓矢よりも遠距離から凄まじい破壊力の弾丸を放ち、剣を手にした恐ろしい盗賊が接近してくる前に木端微塵にしてしまう、異世界で生み出された銃という兵器。自分たちもその銃を支給されているし、それよりも遥かに強力な兵器をいくつも貸し与えられている。その訓練も経験したのだから、どんな破壊力を秘めているのかは理解しているつもりだった。
しかし、より大きな破壊力の兵器が実戦で使われるのは初めてだし、アールネもその破壊力を目の当たりにするのはこれが初めてだった。銃の破壊力を更に大きくした代物だろうという予想は正鵠を射ていたが、その破壊力は予想以上だったと言わざるを得ない。
いつもは静かな雪山で火柱が荒れ狂い、燃え上がっているのだから――――――。
『間もなく降下地点です』
「ロープを準備しろ! 降下準備だ!!」
今からあの雪山に、自分たちも降下する。
目的はニパとサシャの救出と、奮戦を続ける
現代兵器を使っての実戦は、これが初めてだ。里の戦士たちの筆頭であるアールネも緊張していたが、緊張をあらわにするわけにはいかない。アールネが動じないからこそ仲間たちはついてくる。いつでもアールネは仲間たちの先陣を切り、敵を追い払ってきたのだ。だから自分が一度でも怯んでしまえば、たちまち他の戦士たちも怯んでしまう。
飛翔するEH-60Cの隣に、スタブウイングを装着した1機のコマンチが近づいてきた。機首には『03』と描かれており、ブラックホークと比べればすらりとしている胴体にはテンプル騎士団スオミ支部のエンブレムが描かれている。
そのコマンチのキャノピーの向こうでこちらに手を振っているのは、『無傷の撃墜王』の異名を持つ弟である。
タクヤの捜索から帰ってきた彼を見た時は、てっきりタクヤを回収して戻ってきたのではないかと思った。イッルの乗っていたブラックホークは、武装を全て取り外した代わりに医療用の装備やエリクサーを満載した救命用のヘリである。仲間の元へと送り届けるのではなく里へと戻ってきたという事は、ヘリに搭載されている装備では治療し切れないほどタクヤが重傷を負っているのではないかと心配したアールネだったが、幸いなことにキャビンの中は無人で、使用された形跡のない医療設備だけがドアの外から入り込んできた雪に晒されていた。
イッルの報告では、タクヤは無事だったという。どうやら雪崩に巻き込まれて意識を失った彼を、雪山を通りかかった転生者が救助していたらしい。
戦友の1人が無事だったことは喜ばしいのだが、その場で歓声を上げられない出来事が既に起こっていた。ニパとサシャが撃墜されたという知らせが入り、アールネたちはブラックホークと最後のコマンチを投入しての救出作戦を実行しようとしていたのである。
実戦用の3号機を操るのは、もちろん無傷の撃墜王と呼ばれるイッル。コールサインは『カワウ1-3』となる彼の機体でガンナーを務めるのは、イッルの親友でもあるヨハンである。イッルよりも2つ年上の青年だが、幼少の頃からアールネたちと一緒に冒険者ごっこをして遊んだ友人の1人であり、戦士となったのはイッルよりも1年前となる。
救出作戦に参加するのは、EH-60C1機とコマンチ2機。そしてブラックホークのキャビンの中には、里の戦士たちの中でも訓練の成績や実戦での戦果が高かった6人の精鋭が乗り込んでいる。
『カワウ1-2、先行する』
『カワウ1-3、先行します』
EH-60Cの両脇を飛翔していた2機のコマンチが、速度を上げて戦場へと向かっていく。胴体のウェポン・ベイがすぐに展開し、機内に収納されていた対戦車誘導ミサイルのヘルファイアがあらわになる。
一撃でデーモンを撃破してしまうほどの破壊力を持つそれを携えた2機のコマンチは、まるで伝説の槍を手にしてドラゴン退治へと向かう騎士のようだった。
いよいよ、現代兵器を使用した初めての戦いが幕を開ける。先行する2機のヘリを見送りながら、アールネは初めて戦士になった時の事を思い出していた。今感じている緊張感は、やはり初めて経験する戦いになるからなのか、あの時の緊張感に似ている。
初めて持つ弓。初めて持つ銃。
初めて目にする魔物。初めて目にする標的。
(へへっ………懐かしい感覚じゃねえか)
もう、こんな感覚を感じることはないだろうと思っていたアールネ。新米の戦士だった頃を思い出していた彼に、操縦士の『降下準備願います!』という声が送り届けられる。
ロープを掴み、キャビンのドアの向こうから流れ込んでくる風の中へと躍り出る準備をしている彼の目の前で、先行した2機のコマンチがついに牙を剥いた。
ウェポン・ベイから放たれた対戦車誘導ミサイルが、雪山の斜面へと向かって突き進んでいく。最新型の戦車さえも木端微塵に粉砕する現代兵器という騎士の槍が、傷ついて死にかけている仲間を脅かすデーモン共に先制攻撃を仕掛ける。
その槍は、墜落したコマンチの周囲を徘徊していたデーモンとグールたちに容赦なく突き立てられた。
純白の軌跡を残しながら殺到したヘルファイアが、みしり、とデーモンの屈強な上半身にめり込む。凄まじい速度で激突してきたその一撃は屈強なデーモンの内臓や骨格を粉砕し、それだけで絶命させる破壊力を持っていたのだが、ヘルファイアは単なる激突する兵器ではなく、戦車を吹き飛ばすために開発された対戦車ミサイルである。激突して相手を打ちのめすだけでは、終わらない。
デーモンの上半身に突き刺さった直後、そのヘルファイアの胴体が膨れ上がったかと思うと、灰色に塗装されたミサイルの外殻を緋色の煌めきが突き破り、瞬く間にデーモンと傍らのグールたちを包み込んだ。
緋色の爆風が彼らの肉体を焼き尽くし、破片と共に吹き飛ばしていく。
『降下開始!』
「行けぇッ!!」
機内から取り出した
対戦車ライフルだけでも重装備だというのに、ハイエルフの中では珍しく屈強な彼にとってはこの程度の重量は当たり前である。
降下しながら撃墜されたニパ機の状態を確認したアールネは、今すぐにロープを離してそのまま落下し、敵を蹴散らしながら墜落したコマンチに駆け寄りたくなった。分厚い手袋で掴んでいるために、降下する速度はかなり減速されている。このまま落下して足を追っても、自分の根性なら大丈夫なのではないか。戦士の筆頭として冷静沈着な彼がそう思ってしまうほど、撃墜されたコマンチの損傷は酷かった。
機体の後部に被弾したらしく、テールローターへと伸びる胴体の後部は後端付近でへし折られていた。肝心のテールローターは、まるでローターの部分だけドリルでくり抜かれてしまったかのように抉り取られており、メインローターも墜落した際の衝撃で全壊している。
テールローターを失って斜面に墜落したカワウ1-1は、まるでまだ飛び立とうと足掻く鳥のように機首を天空へと向ける形で横たわっていた。キャノピーやスタブウイングも破損しており、機首の機関砲の砲身も折れ曲がっている。
出火していないのは僥倖だが、あんなに損傷した状態でニパたちは生きているのだろうか。幼少の頃から親しかった仲間の1人を案じながら斜面に降り立ったアールネは、すぐに走り出すようなことはせず、仲間たちが全員降りて来るまでSMG(サブマシンガン)を構えて周囲の警戒を始めた。
「降下完了!」
『こちらカワウ3-1。これより航空支援に移る』
「了解。容赦すんなよ」
『了解!』
スオミの里が保有するEH-60Cには、大量の武装が搭載されている。攻撃が本職となるコマンチと比べても遜色ないほどの火力を有したブラックホークが、攻撃に参加するために彼らの頭上から飛び去っていく。
救出部隊の主な装備は、SMG(サブマシンガン)のKP/-31やモシン・ナガンM29。1名のみSKSカービンで武装したライフルマンが含まれている。数名はライフルグレネードが発射できるようにライフルを改造されているが、ライフルグレネードでデーモンを撃破するのは難しいだろう。やはり歩兵で相手にできるのはグールだけである。
「いいか、デーモンは俺たちには荷が重い。グールだけを狙え」
「了解」
頭上を飛び去ったブラックホークが旋回し、味方のコマンチを追いかけ回すかのように魔術を連続で放っていたデーモンを睨みつけた。グレーとホワイトの迷彩模様のヘリも、ついに攻撃を開始するのだ。
ブラックホークに装備されているのは、19発のロケット弾を装填できるポッドである。スタブウイングにそれぞれ3基ずつ装備されたその破壊力は、敵の地上部隊を攻撃するために開発された戦闘ヘリやガンシップにも匹敵する。
味方機がロケット弾を放ったら突撃する。仲間たちもそのタイミングでの突撃がベストであるという事を理解しているらしく、目を合わせると仲間たちは首を縦に振った。
『カワウ3-1、斉射(サルヴォ)!』
そのロケットポッドから―――――――ついに、純白の無数の銛が放たれる。
まるでマシンガンの掃射のように、円柱状のロケットポッドから立て続けにロケット弾が躍り出る。機関銃や機関砲の砲弾でも十分に強力だが、こちらはロケット弾である。一発一発の破壊力はそれらの比ではない。
解き放たれた小型のロケット弾たちは、まるで獲物へと群れで襲い掛かろうとする蛇の群れのようだった。瞬く間に雪山の空を純白の煙で埋め尽くし、ブースターから噴射される炎で加熱しながら異世界の地表へと放たれたロケット弾の群れは、突撃してきたブラックホークを撃墜しようと魔術の詠唱を始めていたデーモンに次々に突き立てられた。
数多の冒険者を叩き潰してきた恐ろしいデーモンの巨躯が、殺到したロケット弾が生み出す爆炎に包まれる。緋色の光が膨れ上がる度に肉体が爆ぜ、肉片や四肢が千切れ飛ぶ。
ロケット弾の掃射の餌食になったのは、デーモンだけではない。頭上のヘリを応戦するために槍を放り投げ、呻き声じみた声を発しながら剣を振り上げていた彼らにも、ロケット弾の群れは喰らい付いたのである。
古めかしい防具を纏った人間と変わらぬ存在が、ロケット弾の爆発に耐えられるわけがない。彼らの呻き声は爆音にあっさりと飲み込まれ、彼らの身体も同じように、爆風に包まれ、焼き尽くされていく。
ロケット弾を吐き出し終えたブラックホークが、焼け焦げた肉片の散らばる斜面の上を飛び去っていく。もう十分に獲物を仕留め、満足した猛禽のように。
猛禽は満足したかもしれないが、地上に降り立った獣たちは全く満足していない。これから仲間を助けなければならないし、まだ獲物にありついたわけではないのだ。
「突っ込むぞぉッ!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」
今の掃射で、厄介だったデーモンは倒れた。残っているのは、あの掃射で運よく生き残ってしまった哀れなグールの敗残兵のみ。
グールやデーモンは、死者の怨念の集合体である。あらゆるダンジョンの中で命を落としていった彼らの悔しさは、アールネたちにも理解できる。スオミの戦士たちは少数精鋭の猛者ばかりだが、常に戦死者を出さずに勝利してきたわけではない。
時には、戦友が戦場から帰って来ない事がある。里の墓地の中に墓が増えていて、その墓に見慣れた名前が刻まれていることもある。
狩りや遠征に行っている最中に、親しい親友が命を落としていることもあるのである。幼少の頃は共に戦士たちの元で訓練を受け、一人前の戦士となって武器を手にした戦友が帰らぬ人となるのは、珍しい事ではない。
悔しいのは死者だけではない。戦友に置いていかれる仲間も、同じく悔しいのだ。
だから――――――仲間を守ろうとする。墓石の表面に、これ以上戦死した仲間の名前を刻ませないために。
雪の上を、銃を手にしたハイエルフの戦士たちが駆ける。目指すのはグールたちの隊列の向こうに横たわるコマンチの残骸。その中から、かけがえのない2人の仲間を救い出すために。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
走りながらアールネはKP/-31のトリガーを引き続けた。SMG(サブマシンガン)にしては長い銃身から立て続けにマズルフラッシュが躍り出し、無数の9mm弾が雪の上を駆け抜ける。
早くも生き残ったグールたちがアールネたちへと襲い掛かってきたが、銃にボロボロの剣で挑むのは自殺行為としか言いようがない。しかも、連射の利かないボルトアクションライフルが相手だったのならば、相手の射手がうっかり弾丸を外す確率も高かっただろう。
しかし、先陣を切るアールネが手にしているのは、現代でも活躍し続けているSMG(サブマシンガン)である。威力はライフルほどではないが、その連射速度はボルトアクションライフルとは比べ物にならない。しかも剣は接近しなければ攻撃できないが、接近戦はSMG(サブマシンガン)の独壇場と言える間合いである。
生者を葬ろうと接近してきたグールがあっという間に蜂の巣になる。9mm弾に貫かれてもまだ攻撃を続けようとするグールがいたが、生き残ってしまったグールは後続の戦士の放つモシン・ナガンM29のライフルを叩き込まれ、すぐに雪の中へと倒れていった。
現代兵器の破壊力は、やはり弓矢よりもすさまじい。
射程距離や破壊力はバラバラだが、あらゆる要素で弓矢を上回っている。弓矢には音がしないという利点があるが、それもサプレッサーを装着すれば克服できるという汎用性を現代兵器は持ち合わせているのだ。
この世界には存在しない技術の塊。それを自由に生み出せる転生者は、やはり牙を剥かれれば脅威となる。
味方は防具を身に着けていない。こんな雪山で防具を身に着ければ機動力は落ち、魔物の餌食になってしまうからだ。だから各国の騎士団が防具を採用する中でも、スオミの里の戦士たちは防具を全く着用しない。防御力に期待するのではなく、相手の攻撃を確実に躱すことで無傷で帰る。それがスオミの戦士たちの戦いである。
つまり、彼らにとって鎧の音は敵の発する音でしかない。
「兄貴、後方からグールが!」
「何!?」
SKSカービンの連射でグールを撃ち抜いていた射手が、コマンチの残骸の逆方向を指差しながら叫んだ。音が聞こえる以上は敵が接近しているということだが、その音はあまりにも多過ぎる。
後方を振り返ったアールネは―――――――歯を食いしばりながら、斜面の下から駆け上がってくる敵の群れを睨みつけた。
彼らの後方では、タクヤを回収したという転生者たちの戦車と、ナタリアが指揮を執るチャレンジャー2が未だに奮戦を続けている。戦車の速度は歩兵の走る速度を上回っているため、最大速度で走行しながらの戦闘になれば肉薄することは不可能だ。
恐ろしい敵とはいえ、身体能力はたいして人間と変わらないグールならば、戦車に置いていかれるのは当たり前である。しかも肉薄しなければ攻撃できないのだから、戦車を負えば置き去りにされる。あの機動力について行くことができるのは、歩幅の大きなデーモンだけである。
その置き去りにされたグールたちが――――――――群れとなって、後方からアールネたちへと殺到してきたのである。
既に前方のグールは壊滅しつつある。雪の向こうにふらつく人影が見えるが、銃声が轟く度に頭を粉々に砕かれて倒れていくだけだ。前に進むだけならばもう問題はない。
しかし―――――――後方のグールたちに呑み込まれれば、いくら現代兵器を持っていたとしても一巻の終わりだ。
『兄さん、急いで! 援護する!!』
「イッル!!」
その時、イッルの操るコマンチが再びアールネたちの頭上を通過して行った。温存していたロケットポッドからの掃射で接近してくるグールたちを薙ぎ払い始めるが、その爆風の向こうからは火だるまになったグールたちがまだ接近してくる。
さすがに、たった6人の戦士たちだけでは勝ち目はない。航空支援がなければ相手をするのは無理だ。
『早く助けに行って!!』
「くっ………頼むぞ、イッル! ―――――続け!」
ブラックホークと2機のコマンチがグールの相手をしているうちに、ニパとサシャを救い出すしかない。
もう既に、前方の敵は壊滅状態。撃ち漏らしたグールを始末しながら突っ走るだけでいい。
後方で轟く機関砲の咆哮が、彼らの背中を押してくれているようだった。全力で突っ走りながらグールを薙ぎ倒し、銃剣で貫きながら残骸へと向かう。もたもたすればイッルたちがグールを撃ち漏らすかもしれないし、サシャとニパを助けられないかもしれない。
「ニパ! サシャ!!」
銃を腰の後ろに戻し、何とか辿り着いたコマンチの残骸に掴みかかる。分厚い手袋で機首へとよじ登り、砕けかけたキャノピーを掴んで持ち上げようとするアールネ。もうキャノピーの縁は歪んでおり、持ち上げようと力を込める度に悲鳴を上げたが、彼はそのまま強引にキャノピーを押し上げてからコクピットの中を覗き込んだ。
生まれて初めて嗅ぐ、計器がショートした悪臭。溶けた配線の被覆が発するゴムの臭い。
その悪臭の中で―――――――2人の戦友が、横たわっていた。
「おい、しっかりしろ! おい!!」
「あ、あに………き………?」
「ニパ! おい、こら! サシャ!! 寝てんじゃねえ!!」
まるで喧嘩をしている相手に掴みかかるかのように強引にニパの胸元を掴み、彼をコクピットの外に放り出す。助け出すというよりは、席を変われと言わんばかりに放り出しているようにしか見えない。しかし、放り出されたニパを受け止めるために機首の下で待っていた仲間たちが、すぐに彼の身体を受け止める。
「おい、大丈夫か!?」
「良かった、生きてたよ! しっかりしろ、エリクサー飲むか!?」
「さ、サシャ………も………」
「大丈夫だ!」
機首によじ登っているアールネを見上げたニパは、相変わらず屈強な戦友を見上げながら息を吐いた。
みんな華奢な男が多いというのに、どうしてアールネだけこんな馬鹿力の持ち主なのか。実はハイエルフではなくハーフエルフなのではないかという噂もある彼の屈強さは、実戦の最中でも健在である。
彼は既にサシャをガンナーの座席から引っ張り出し、まるでロケットランチャーを抱えているかのように肩に担いでいたのだから。
「イッル、2人を救出したぞ!」
救出というよりは、コクピットから追い出したようなものである。
『了解! こっちは敵の数が多過ぎるよ………! これじゃ、弾丸が………!』
「くそ………」
救出した後はブラックホークで回収して里へと連れて帰るべきだが、まだナタリアたちの戦いは続いているし、後方から接近するグールもまだまだ残っているという。
ブラックホークの武装まで投入して何とか持ちこたえている状態のようだ。自分たちを回収するためにブラックホークを離脱させれば、グールの突破を許すことになりかねない。
「―――――――仕方がない。………みんな、〝スオミの槍”を使うぞ。里に連絡を」
切り札を投入すれば――――――――あのグールを一掃できるかもしれない。
スオミの里に、まだ切り札があるのだ。
コマンチやブラックホークも切り札と言えるほど強力な兵器である。相手の攻撃をかわしながら、一撃必殺の対戦車ミサイルやロケットで地上を薙ぎ払う事ができるのだから。
しかし――――――――里の名前を冠するほどの破壊力を持つ兵器が、まだ残っている。
使用するには長老であるマンネルヘイムの承認が必要になるほどだが―――――――投入すれば、あの怨念の群れを容易く薙ぎ払ってしまう事だろう。
切り札を投入する決心をしたアールネは、早くも無線機に向かって手を伸ばしていた。