異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
雪の中を突き進んでいくにつれて、段々と感じ取っていた寒さが別の物へと変質していくのが分かった。今までの寒さは、純粋な雪や氷の寒さ。冬の感覚である。しかし今の彼女が感じ取っている感覚は、極寒の真っ只中で感じるような〝寒さ”ではない。
相手の恐ろしさを知ってぞくりとしてしまうような、恐怖。その恐怖が生み出す寒さだった。
ステラが感じたという〝変な感じ”とは、このような感覚なのだろうか。車長用のハッチと装填手用のハッチの上に設置されたロシア製重機関銃のKordの射撃準備を済ませたナタリアは、ふと隣のハッチから顔を出しているステラを見た。
彼女は魔力の扱い方に長けたサキュバスの生き残りだ。彼女が感じ取ったという気配と、怨念という仮説は、十中八九正鵠を射ている事だろう。魔力の気配を感じ取る精度はメンバーの中でステラが最も高いのだ。彼女の仮説を疑えるわけがない。
息を呑み、再び照準器を覗き込もうと正面を向きかけたナタリアの視界の中で、ステラの手がぴくりと動いた。既に点検を終えていたKordのグリップを握り、ステラは素早く照準器を覗き込む。
「――――――来ました」
「………ッ!」
雪のせいで正面は見えないが――――――確かに、先ほどから感じていた恐怖と威圧感を混ぜ合わせたような感覚は、より濃くなっている。
「ステラちゃん、敵が何かは分かる?」
「おそらく………これは〝グール”と〝デーモン”です」
ステラの仮説を聞いた瞬間、ナタリアは目を見開いた。
グールとデーモンは、どちらも闇属性の魔力を持つ魔物に分類されている。基本的に両者は、大昔に大虐殺が起こっていたり、処刑場に使われていたような怨念が集まり易い場所で自然発生すると言われている魔物で、その正体はやはり怨念の集合体だと言われている。
前者はまだ弱い部類の魔物だ。すっかり乾燥したミイラのような人型の魔物で、ボロボロの鎧や剣で武装している。特に魔術を使って来ることもないし、攻撃手段は持っている武器を使うか、接近して鋭い牙で敵を食い殺す程度なので、危険度はゾンビよりも少し上という程度である。しかし単独で現れることは殆どなく、常に20体以上で出現するため、ダンジョンなどで遭遇した場合は包囲されないように戦わなければたちまち食い殺されてしまうだろう。新人の冒険者も戦う事が多い魔物であるため、図鑑や教本などでは真っ先に『囲まれるな』と記されている。
そして、後者は――――――中堅の冒険者でも危険と言われている、厄介な魔物だ。闇属性の魔物の中でも凶暴な存在で、ドラゴンなどの大型の魔物を除けば最強クラスと言われている。かつてタクヤたちが遭遇したトロールと同じく、そこに存在するか否かでダンジョンの危険度が変動するほどの戦闘力を持っている。
「………数は?」
「グールはおよそ200体。デーモンは50体です」
「そんな………」
グールだけならば、燃料が半分になっているこのチャレンジャー2でも切り抜けることはできただろう。グールのサイズは成人男性と変わらず、攻撃方法も近距離攻撃か弓矢程度なので、装甲を貫通される心配もないし、群れで突撃してくるだけなので、最悪の場合は砲弾や銃弾すら使わずに轢き殺せばいい。
しかしデーモンが50体もいるという報告は、かなり絶望的であった。デーモンのサイズはゴーレムと同等で、小型の個体でも2m以上の身長である。しかも強力な魔術を活用してくる上に、戦車の装甲を粉砕しかねないほどの筋力を持っている。更に背中には悪魔を彷彿とさせる翼まで持っているため、空中から奇襲を仕掛けてくる事もあるのだ。
グールの群れと合わせて、敵の数は250体。圧倒的な数の敵を、燃料が半分となったたった1両の戦車で突破する事ができるだろうか?
(正面突破………? 粘着榴弾をフル活用して吹っ飛ばせば………いえ、リスクが高いわ。せめて………戦闘ヘリの支援か、戦車がもう1両あれば………!!)
タクヤが雪崩に巻き込まれて行方不明となっている上、貴重な現代兵器を生産する能力を持たないメンバーだけとなっているため、リスクの高い戦法は避けなければならない。燃料も少なくなってきているし、銃弾や砲弾を全て使ったとしても殲滅し切れない可能性があるほどの数なのだから、正面突破など言語道断である。
その時、ナタリアはスオミの里の事を思い出した。
スオミの里は、現在ではテンプル騎士団の支部として機能している。里の周囲には防衛のための対戦車砲や迫撃砲が配備されているし、里の近くにある炭鉱の跡地にはヘリポートや、タクヤが用意した〝秘密兵器”も配備されている。距離もまだそれほど離れていないため、さっそく救援を要請してみるのが最善かもしれない。
早くも彼らを頼る羽目になってしまったが、意地を張ってこのままメンバーを全滅させるよりは、スオミの戦士たちに借りを作っておくべきだ。しかもスオミの里に配備されている戦闘ヘリは、アメリカ軍に配備されることはなかったものの、極めて高い性能を持つコマンチが4機。更に汎用ヘリのブラックホークも2機配備されている。
「ステラちゃん、スオミの里に救援要請を」
「了解です。タクヤの捜索もお願いしますか?」
「ええ、彼らの方がこの雪山には詳しい筈よ」
「了解(ダー)」
ハッチから再び車内へと戻っていくステラを見守ったナタリアは、息を吐いてから照準器を覗き込んだ。
今すぐに支援を要請したとして、ヘリポートから飛び立ったヘリが到着するまでの時間はおそらく15分。デーモンが50体もいるのは脅威だが、燃料が半分になっているとはいえ、こちらはイギリスが誇る第3世代型の
15分ならば、持ちこたえられる。
そう思った直後、雪の向こうに翼の生えた巨大な影がちらりと見えた。
赤黒い皮膚に覆われた巨躯。城壁を思わせる分厚い胴体から伸びるのは、銃口で堅牢な筋肉に覆われた剛腕だ。鍛え上げられた人間の筋肉とは桁が違う。鍛え上げられた〝人間”ではなく、あれは鍛え上げられた〝巨人”と言うべきだろうか。
体つきは人間に似ているが――――――首から上と背中は、まさに悪魔であった。
顔は人間というよりは山羊を彷彿とさせる。頭からは闇のように真っ黒な長い頭髪が触手のように垂れ下がり、獣を思わせる恐ろしい双眸を覆い隠している。側頭部からは巨木の枝のように太い山羊の角が生えており、先端部には禍々しい真紅の炎が灯っていた。
悪魔のような巨大な翼と、ドラゴンのように長大な尻尾を持つ怪物。あらゆる冒険者を剛腕で叩き潰し、闇属性の魔術で消し去ってきた恐ろしいデーモンの隊列が、グールを従えて迫っていた。
「カノンちゃん、砲撃用意!」
『できていますわ!』
先制攻撃は、重機関銃よりも砲弾の方が良い。粘着榴弾でグールの群れもろともデーモンを吹き飛ばす事が出来れば、15分以上持ちこたえる事も可能だろう。
「ラウラ、後退して!」
『了解(ダー)っ!』
「目標、12時方向! 隊列中央のデーモン!」
タクヤがいれば、勝てるだろうか。
重機関銃から手を離し、砲塔の中へと戻ってモニターをタッチしながら、ナタリアはあの少女のような容姿の少年の事を思い出していた。
かつて、幼少期の彼女を救ってくれた傭兵の息子。父であるリキヤ・ハヤカワから訓練を受け、冒険者となったあの少年は、ナタリアから見れば常識外れだが頼もしい大切な仲間だ。
強敵と遭遇する度にその強敵を打ち倒し、欺いて逃げ切る彼は、やはりあの燃え盛るネイリンゲンでナタリアを救ってくれた彼の父を彷彿とさせる。少々卑怯者だが、彼の背中もリキヤ・ハヤカワのように勇ましい。
だからこそ、一緒にいると安心する。
(………しっかりしなさい。タクヤがいなくても、切り抜けてやるんだから!)
車内で軍帽をかぶり直したナタリアは、モニターに表示されているデーモンの巨体を睨みつけながら命令を発した。
「――――――
「発射(アゴーニ)ッ!!」
カノンが発射スイッチを押した直後、雪の中にチャレンジャー2の咆哮が響き渡った。
スオミの里の近くには、かつて鉄鉱石の採掘に使われていた炭鉱の跡地が存在する。地中の鉄鉱石を掘りつくし、無数のトンネルが地中で絡み合っているだけの迷宮と化している場所だが、今までならば静寂が当たり前だったその炭鉱跡地からは、エンジンが発する轟音が響いていた。
雪を引き連れた風を切り裂く、戦闘ヘリのメインローター。それを胴体の上に乗せているのは、グレート灰色に塗装された獰猛な兵器である。
テンプル騎士団の本隊からスオミ支部へと支給された虎の子のコマンチが、採掘場のヘリポートから飛び立とうとしているのだ。
ステルス性よりも攻撃力を重視するため、普段ならばスマートなコマンチの胴体にはロケットポッドを搭載したスタブウイングが搭載されていた。胴体のウェポン・ベイには対戦車誘導ミサイルの『AGM-114Aヘルファイア』も搭載されている。
スオミの里には訓練機も含めて4機のコマンチが配備されているが、今回の支援要請で出撃するのはそのうちの2機だ。コマンチに加え、雪崩で行方不明となったタクヤの捜索のため、救命用に配備されているUH-60Qも出撃することになっている。こちらには武装は一切装備されておらず、ドアガンも搭載されていないため、戦闘に参加することは不可能だ。
『ニパ、本当に大丈夫なの?』
コマンチのコクピットで最終チェックをしているニパに無線で話しかけてきたのは、スオミの里がテンプル騎士団スオミ支部となる前から共に飛竜に乗って戦ってきた、『無傷の撃墜王』の異名を持つイッルだった。
本来ならば彼も別のコマンチに乗り、あらゆる攻撃を回避しつつ敵を殲滅してきた空中戦の天才としてテンプル騎士団の本隊を支援するべきだが、その役目は既にニパが担当することになっている。イッルが兄のアールネから言い渡されたのは、戦闘ヘリではなく救命用のUH-60Qを操縦してタクヤを捜索し、彼を連れ帰ることだった。
飛竜に乗っていた頃から野生の飛竜の攻撃を全て回避し、操る飛竜に傷一つつけずに帰ってくるのが当たり前だったからこそ、彼には無傷の撃墜王という異名がある。戦闘に参加させるべきかもしれないが、救出するべきタクヤの事を考慮すると、被弾した経験のないイッルに救命用のヘリを操縦させるのは正解と言える。
それに、不運とはいえ優秀な技術を持つニパもいるため、支援するための人員は十分に足りていた。
「心配すんなよ、イッル。お前はコルッカの奴を助けてやれ。………それに、不運な俺が救出に行ったら、運が悪くてコルッカを見つけられないかもしれないし、連れて帰ってくる途中で墜落しちまうかもしれねえからな」
イッルと呼ばれているエイノ・イルマリ・ユーティライネンは、才能と幸運を併せ持つ男だ。里の中で野生の飛竜の撃墜数が最も多いのは彼で、二番目に多いのはニパという事になっているのだが、ニパが頭角を現したのはイッルよりもずっと後である。
飛竜に乗ってからすぐに多くの飛竜を撃墜したイッルに対し、ニパはひたすら努力して、やっと彼に追い付き始めたのだ。
だからこそ、幸運で才能のあるイッルに仲間の命を託す。
『無理しないでね、ニパ』
「はいはい。―――――サシャ、チェックは?」
「問題ないぞ」
ガンナーを担当する同い年のサシャに質問すると、ニパがイッルと話をしている間にチェックを終えていたサシャがすぐに返事を返してきた。几帳面で真面目な男だが、彼も何度も実戦を経験してきたスオミ族の戦士の1人である。
隣では、機首に「02」と描かれたコマンチの2番機がもう飛び立っているところだった。無事に飛び立っていく2番機を見送っていた整備士が、炎の灯ったままの松明を持ち、今度はニパとサシャの乗るコマンチの正面へとやってくる。
この作戦では、ニパたちのコールサインは『カワウ1-1』。たった今飛び立った2番機は『カワウ1-2』となっている。支援作戦ではなく、タクヤの救出に向かうイッルのUH-60Qのコールサインは『カワウ2-1』となっていた。
『
離陸する準備をしている最中に、今度はイッルと比べると野太い男の声が聞こえてきた。今回の支援作戦の編成を決めた男の声である。
操縦桿をしっかり握りながら、ニパは「どうぞ、兄貴」と笑いながら答えた。
『いいか? ハユハたちからの報告だが、敵はグールとデーモンの群れだ。グールは怖くないが、デーモンの魔術には気を付けろ。あいつらの詠唱はすぐに終わるからな』
「はいはい」
『よし、頼む。――――――カワウ1-1、離陸せよ』
「了解、離陸する!」
合図用の松明を振り上げた整備士に手を振ってから、ニパはコマンチと共に真っ白な空へと飛び立って行った。
雪崩の跡は、もう見えなくなっている。
降り注ぐ新しい雪に埋め尽くされた斜面は、他の雪山の斜面と全く変わらない。稀に雪の中から伸びる倒木の凍り付いた幹も、雪崩に巻き込まれてしまった哀れな倒木の1本なのか、それとも元々そこにあった倒木なのか判別することは出来ない。
もちろん、チャレンジャー2が残した筈のキャタピラの跡も見つけることは出来ず、俺は何の変哲もない斜面を見下ろしながら息を吐いた。
「………こちらタクヤ。ナタリア、応答せよ。……………くそ、壊れちまったか………」
耳に装着していた無線機は、やはり壊れているようだった。何度かナタリアたちを呼び出そうと試みたが、やはり応答はない。
ノイズに嫌気が刺した俺は、その無線機を耳から外すと、メニュー画面を開いて装備から解除した。壊れてしまったのならば新しい小型無線機を生産するしかない。スオミの里の戦士に装備を支給する際にかなりポイントを使ってしまったが、無線機1つに使用するポイントは僅か100ポイントだ。惜しむほどの量ではないし、仮にポイントが多かったとしても、仲間と合流するためには生産せざるを得ないだろう。
「随分ハイテクな感じのメニュー画面ね」
「まあね」
もちろん、転生者と同じ能力を持つ事はクランたちに説明済みだ。さすがに日本の男子高校生がこの異世界に転生したという事は言っていない。あくまでも、転生者の息子だから能力まで引き継いだのかもしれないと説明しただけだ。
新しい無線機を生産した俺は、さっそく調整してから耳に装着して電源を入れる。これなら応答してくれるだろうか?
仲間たちが応答してくれることを祈りながら、俺は呼びかけた。
「チャレンジャー2、応答せよ」
しかし―――――――やはり、応答はない。
くそ、どういう事だ? 離れ過ぎてしまったのか?
もしかしたら、もう仲間たちと合流できないのではないかと思ってため息をつこうとしたその時だった。
人間よりも発達したキメラの聴覚が、風の音以外の音を探知したのである。明らかにそれは自然の発する音ではない。何かが作動するような音と、マシンガンの連射を思わせる凄まじい轟音。遠くから聞こえてきている筈なのに、レオパルトの上に乗っていても聞こえてくる。
何の音だ? 銃声ではないな………。ヘリか?
音の聞こえてくる方向へ、試しに背負っていたOSV-96を向けてスコープを覗き込む。ロケットランチャーを外し、代わりに長い銃剣を装着して随分と軽くなったアンチマテリアルライフルを構えながら空を見渡していると――――――スコープのカーソルの向こうに、その轟音の発生源が見えた。
胴体の真上で回転するメインローターと、胴体から左右に延びたスタブウイング。そのスタブウイングにはまるで航空機に搭載されるような爆弾にも似た燃料タンクが取り付けられていて、攻撃用の武装は見当たらない。
機体は白とグレーの迷彩模様に塗装されており、機首には見覚えのあるエンブレムが描かれているのが見えた。下の方で交差する2枚の純白の羽根と、中央に鎮座する蒼い十字架。左上の方には、小さくて真っ赤な星が描かれている。
「スオミの里のブラックホーク………?」
あのエンブレムは、テンプル騎士団スオミ支部のエンブレムだ。武装を全く搭載していないという事は、救命用に配備したUH-60Qだろうか。
どういうことだ? ナタリアやラウラたちが俺の救出を要請してくれたって事か?
ありがたい事だが、救命用ヘリで救出された一番最初の人物が俺になるとはね………。
「ヘリ……? まさか、転生者か!?
「まて、ケーター! あれは俺たちの味方だ!」
「なに?」
「スオミの里に配備してきたブラックホークだ。それにあれは救命用のタイプだから、武装は全く積んでない」
移動中にテンプル騎士団の事も話しておいた。転生者ハンターを世界中に配備し、蛮行を繰り返す転生者の駆逐を行うという大規模な計画を耳にした彼らは驚いていたけど、この計画に賛同してくれるだろうか。
そう思いながら空を見上げると、どうやら接近中のブラックホークも俺たちの事を発見したらしく、徐々に高度を落とし始めているのが分かった。
『コルッカ?』
「イッルか?」
すると、いきなり無線機から優しそうな少年の声が聞こえてきた。ノイズが混じっているが、おそらくこれはアールネの弟のイッルの声だろう。救命用のヘリに無傷の撃墜王を乗せたのか。
『大変だよ、コルッカ! ハユハやナタリアたちから支援要請があったんだ!』
「なに?」
支援要請………!? つまり、魔物かなにかと遭遇して戦ってるって事か?
拙い。きっと彼女たちは雪崩に巻き込まれた俺を探すために雪山の斜面を戦車で走り回っていた筈だ。燃料は減っているに違いない。それに、肝心な現代兵器を生産できる俺がいない状態での戦闘という事は、手持ちの武器の弾薬を全て使ってしまえば、12時間経過するまで彼女たちは武器が使えなくなってしまう。
戦車に乗っていたのに支援を要請するという事は、敵はかなりの大規模な群れか、強力な魔物なんだろう。俺も早く行かなければ………!
「イッル、場所は分かるか!?」
『このまま斜面を登っていけば合流できる筈だよ!』
「分かった!」
「待って」
「何だ?」
いきなりクランに呼ばれた俺は、アンチマテリアルライフルを折り畳み、車長用のハッチから身を乗り出してヘリを見上げていたクランの方を振り返った。
「私たちも行くわ」
「いや、俺だけでいい。クランたちまで巻き込むわけには――――――」
彼女たちまで巻き込むわけにはいかない。ナタリアたちが支援要請を出すほどの相手なのだから、危険な相手だという事は想像に難くない。現代兵器で武装しているとはいえ、命を落とす可能性はある。
だから救援には俺とスオミの里の戦士たちで行くつもりだ。だが、クランの強気な目つきは、明らかに俺のその意見を否定しようとしている目つきだった。
「巻き込む? ………ふふっ。勘違いしないで、
「だが………!」
「それにね」
微笑んだ彼女は、静かにレオパルト2A4の装甲を撫でた。元々真っ白に塗装されていた装甲の上には雪が降り積もっているが、どれが雪なのかは見分けがつかない。〝
まるで幼い子供を愛撫する母親のように砲塔の装甲を撫でたクランは、胸を張りながら言った。
「年老いた老兵(ティーガー)から名前を受け継いだこの子にも、ちゃんと牙はあるのよ?」
曽祖父の異名を受け継いだレオパルト。彼女はどうやら、この戦車にかなり愛着があるらしい。
確かにレオパルトの性能は高い。仲間たちの救援に最強クラスの
助けられてばかりじゃないか………!
「………分かった。手を貸してくれ、クラン」
「当たり前よ。――――――木村、速度上げて!
「「「了解(ヤヴォール)ッ!!」」」
「イッル、俺はこのまま戦車で突っ込む。お前は里でコマンチに乗り換えて支援に向かってくれ」
『了解!』
よし、これで仲間たちと合流できるぞ。
反転して里の方へと戻っていくイッルのブラックホークを見送った俺は、クランたちと共に戦う準備を始めるのだった。