異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

16 / 534
異世界で産業革命が起こるとこうなる

 

 ホロサイトとブースターの向こうで、5.56mm弾の群れに食い破られた哀れなハーピーが、血と羽根を蒼空の中にまき散らしながら墜落していく。

 

 ハーピーは弱い魔物とされているが、動きが非常に素早いために矢を命中させるのはかなり難しく、常に飛んでいるため剣戟で叩き落すのは不可能と言われている厄介な魔物でもある。巨大な鳥の胴体に人間の頭をくっつけたような姿をしており、口の中には巨大な牙が何本も生えている。あの牙に噛みつかれたら簡単に手足を食い千切られてしまう事だろう。

 

 だが、そのハーピーたちが俺たちに爪や牙を振るう事は出来ないだろう。俺たちが持つ銃の銃弾は矢よりも弾速が速いし、威力も桁が違う。見たことのない武器に弾丸を叩き込まれたハーピーたちは次々に断末魔を上げながら、草原に墜落していくだけだ。

 

 マガジンの中の弾丸を撃ち尽くしたAK-12から、空になったマガジンを取り外す。新しいマガジンを取り付けようとしたんだが、まだ生き残っていた3体のハーピーが、まるで激昂したような雄叫びを上げながら急降下してきたため、再装填(リロード)を断念する羽目になった。

 

「チッ」

 

 左手でマガジンを装着しつつ、アサルトライフルのグリップから離した右手を腰のホルスターへと素早く伸ばす。ホルスターの中に納まっていたハンドガンのMP443のグリップを掴み、まるで早撃ちを披露するガンマンのように一瞬でホルスターの中から銃を引き抜く。

 

 射撃訓練で早撃ちの練習をよくやるんだが、その練習のおかげで、ハンドガンを素早くホルスターから引き抜けるようになった。右手で引き抜いたハンドガンを急降下してきたハーピーに向けた俺は、数秒後にはこいつの9mm弾で貫かれているハーピーをアイアンサイトの向こうから睨みつけ、にやりと笑う。

 

 あばよ。

 

 トリガーを引いた直後、マズルフラッシュの中から飛び出した1発の弾丸がハーピーの顔面を食い破った。弾丸を叩き込まれたハーピーがぐらりと揺れるのと同時にスライドがブローバックし、空になった薬莢が回転しながら地面へと落下していく。

 

 続けてその後ろにいたハーピーにも照準を合わせるが、トリガーを引く寸前に1発の弾丸がそのハーピーの首筋を貫いたため、俺は最後尾にいたハーピーへと照準を合わせ直すことになった。

 

 ハンドガン用の9mm弾よりも威力の大きな7.62mm弾に首筋を貫かれたハーピー。そいつを撃ち落としたのは、俺の後方にいるスナイパーライフルを構えた赤毛の少女だろう。

 

 彼女の銃声の残響を聞きながら、俺は最後の1体に向かって9mm弾をぶっ放した。

 

 さすがに離脱しようとしたのか、ハーピーがわずかに高度を上げたせいで、頭に叩き込まれる筈だったその弾丸は橙色の羽毛に覆われた胸元へと喰らい付いた。他の魔物と違って身を守るための外殻や鱗を持たないハーピーの防御力は貧弱だ。矢で射抜かれるだけでも容易く死んでしまうほど脆い魔物が、更に強力な銃弾に耐えられる筈がない。

 

 強制的に上昇を断念させられたハーピーは、奇妙な泣き声を発しながら俺の傍らへと落下した。

 

「………こいつで全滅かな?」

 

「――――――そうみたい。ソナーにも反応はないし」

 

 一応周囲を見渡してから、もう一度ソナーで周囲に魔物がいないか確認するラウラ。彼女のソナーならばもし透明になる能力を持っている魔物でもすぐに発見できる。

 

 だが、反応が無いという事はこれで魔物は全滅という事だ。俺はMP443をホルスターの中へと戻すと、傍らで絶命しているハーピーの死体から羽を何本か抜き取った。ハーピーの羽根は洋服などの素材に使われることもあるし、様々な装飾にも利用される。武器に利用される素材と言えば爪や牙くらいだろう。

 

 肉は食えるため、王都の露店に行けば銅貨3枚くらいで販売されている。焼き鳥やフライドチキンにして食べるし、シチューやカレーライスの具材にもされる肉だ。鶏の肉と同じだな。

 

 羽と肉は後で服屋と肉屋に売りに行くとしよう。冒険者の資格を持っていれば、冒険者を管理する『王立冒険者管理局』に依頼して代わりに売却してもらえるから各地にある管理局の支部まで持って行くだけでいいんだが、俺たちはまだ冒険者ではないため、持って行っても代わりに売却はしてもらえない。

 

 俺たちが生まれる前から傭兵ギルドや冒険者ギルドは存在していたんだが、管理する組織が存在しなかったため、個々のギルドが好き勝手に依頼を受けているような状態だったらしい。だが最近は各国がダンジョンの調査に力を入れ始めているため、彼らを管理するための管理局と呼ばれる組織が設立されたんだ。

 

 冒険者になるためには管理局に申請し、資格を取得しなければならない。特に試験があるというわけではないので申請すれば簡単に資格を手に入れる事ができるんだが、冒険者になるためには17歳以上にならなければならないため、まだ8歳の俺たちは資格を取得する事ができない。あと9年はこうして弱い魔物と戦いながら訓練を積み続けるだけだ。

 

「よし、羽と肉は売っちゃおう」

 

「うん。これで今月のお小遣いも増えるねっ!」

 

 魔物を倒しに行くようになってから、俺たちは親から小遣いを渡されなくなった。小遣いが欲しいのならば自分で魔物を仕留めて素材を売り、その金を小遣いにしろという事らしい。そうすれば魔物との戦闘の経験も積む事ができるし、親から小遣いをもらうよりも金を稼ぐことは出来る。さすがに家族を養えるほどの金額は稼げないけどな。

 

「ふにゅ? ねえ、このハーピー、光ってるよ?」

 

「何だって?」

 

 死体から羽を毟っていると、他の死体から羽を毟っていたラウラがそう言った。彼女が羽を取っていた死体を見てみると、その死体の腹の辺りが蒼白く輝いている。

 

 やがてその光はハーピーの腹を離れると、死体の上で蒼白い光の球体へと姿を変えた。

 

「ああ、武器がドロップしたんだ」

 

「武器が出たの?」

 

「うん」

 

 ラウラや家族には、俺が親父のように能力や武器を生み出す能力があるということを教えてある。さすがに正体が転生者だという事は教えていない。親父も、転生者の息子だから端末の機能まで何故か引き継いでしまったのかもしれないと話を合わせてくれている。

 

 蒼白い光に歩み寄った俺は、その光に向かって左手を伸ばした。すると蒼白い光がまるで割れたガラスのように崩れ始める。崩壊していく蒼白い光の球体の中から姿を現したのは、小さなリングをいくつもつなげたようなグリップと、リボルバーのシリンダーをくっつけたような奇妙な物体だった。

 

「お、アパッチ・リボルバーだ」

 

「なにそれ?」

 

「リボルバーだよ。折り畳み式のナイフも装備されているし、この穴の開いたグリップに指を入れてナックルダスターとしても利用できるんだ。もちろん射撃もできる」

 

 そういえば、この武器はハーピーからドロップすることになってたな。

 

 アパッチ・リボルバーは第一次世界大戦前にベルギーで製造された特殊なリボルバーだ。ナックルダスターとリボルバーのシリンダーを合体させたような形状をしていて、ラウラに説明したとおりナックルダスターとしても利用できるし、折り畳み式のナイフも装備されている。銃身が存在しないため命中精度はかなり低いし、使用する弾薬も小口径の7mm弾だから威力はかなり低いが、銃撃以外にも攻撃が出来るという珍しい銃だ。

 

 あとでカスタマイズしておこう。左手に持つナックルダスターの代わりに使えるかもしれない。

 

「ねえ、お姉ちゃんにも見せて?」

 

「いいよ。ほら」

 

 ドロップしたばかりのアパッチ・リボルバーをラウラに渡した俺は、彼女にこの銃の説明をしてから、再びハーピーの羽根を毟り始める。

 

 魔物などからドロップした武器は俺にしか見えないと思っていたんだが、どうやら俺以外の仲間にも見えるようだ。そして、俺が敵を倒さなくても、俺の仲間が倒した場合も武器はドロップするようになっているらしい。

 

 だからラウラもドロップした武器を見る事ができるし、彼女が俺の仲間になっている状態でラウラが魔物を倒せば、彼女が倒した魔物からも武器がドロップする可能性があるというわけだ。

 

「よし、そろそろ帰ろう」

 

「うんっ!」

 

 持ってきた袋に毟った羽根を詰め終えた俺は、頭や首筋を撃ち抜かれている死体を肩に担ぎながらラウラと手を繋いだ。彼女は嬉しそうに笑いながら俺の手を握ると、一緒に背後に見える王都の防壁へと向かって歩き出す。

 

 彼女がヤンデレになってしまった時はぞっとしたが、最近は他の女の子と会う事もないから、いつもラウラは俺に甘えて来るだけだ。もう8歳になったというのに、この同い年の姉は小さい頃と同じように常に一緒にいる。

 

 もしかしたら、17歳になって冒険者になるまでずっと俺に甘えるつもりなんじゃないだろうか?

 

「ふにゅ?」

 

「どうしたの?」

 

「ねえ、あの人たちは何をやってるの?」

 

 手を繋いで歩きながら、防壁の方を指差すラウラ。今まで魔物から街を守り抜いてきた分厚い防壁の外に何十人も人が集まり、木材や鉄骨を地面に敷いて何かを作っているようだ。防壁の傍らでは、足場の上に乗った作業員らしき人たちが、分厚い防壁の表面にペンキで印をつけている。

 

 一旦担いでいたハーピーたちの死体を地面に下ろした俺は、索敵に使っている双眼鏡を覗き込んだ。

 

 草原の真っ只中へと向けて真っ直ぐに伸びる2本の鉄骨。その鉄骨を繋いでいるのは木の板の隊列だ。

 

 あれは何を作ってるんだ? 列車のレールか………?

 

 この世界には魔術や魔物が存在するんだが、機械は全く存在しない。基本的に移動手段は徒歩か馬車で、列車や車のような乗り物は存在しないんだ。飛竜の背中に乗って移動することも出来るが、騎士団以外でそんな移動方法を使っているのは裕福な一部の貴族か王族だけだという。

 

 そういえば、フィオナちゃんが前に機械を発明したって言ってたな。社内では『フィオナ機関』と呼ばれている動力機関で、人間の魔力を動力源とする機械らしい。

 

 親父は「蒸気機関の動力源を魔力に変えたような代物」って言ってたが、どんな機械なんだろうか?

 

 確かにそんな動力機関があるならば、列車を動かすことも出来るだろう。

 

「お父さんなら知ってるんじゃない?」

 

「じゃあ、帰ってきたら聞いてみようよ!」

 

「そうだね」

 

 十中八九列車の線路だとは思うんだがな。

 

 双眼鏡から目を離した俺は、再びハーピーの死体を肩に担ぎ、ラウラと一緒に防壁へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラガヴァンビウスの街並みが、徐々に変わり始めている。

 

 レンガ造りの建物が連なる街並みは変わらないんだが、少しずつ高い建物が増え始めている。高くても3階建てくらいだった建物の群れの中には5階建てのアパートや巨大な工場が建設され、工場から突き出た槍のような煙突が真っ白な煙を吐き出し続けている。

 

 中世のヨーロッパのような街並みが、徐々に産業革命が起きていた頃のイギリスの街並みに変貌しつつあった。

 

 この王都の街並みを変化させたのが、モリガン・カンパニーという大企業の製薬分野を指揮する天才技術者だ。製薬分野に所属していながら機械の研究も行っている彼女が生み出した『フィオナ機関』によって、この異世界に産業革命が起きようとしている。

 

 魔術が存在する異世界の人々にとって、自分たちの体内に存在する魔力は魔術を発動させるためのエネルギーでしかなかった。だから魔力の使い道は魔術を発動させるだけで、魔力を使って機械を動かすという発想はなかったんだ。

 

 でも、その天才技術者は親父たちが使っていた兵器を見て、魔力を魔術に使うのではなく、動力源にして巨大な機械を動かすという事を思いついた。現代兵器を見て思いついた彼女は研究を続け、ついにその『フィオナ機関』を完成させたんだ。

 

 魔物を倒し終えた俺たちは、親父や母さんたちと一緒にモリガン・カンパニーが所有する工場の1つを訪れていた。工場が建っているのはまさに変わり始めた街並みの中心で、フィオナ機関を生み出した張本人もここにいる。

 

 薄暗い工場の中心に、照明で照らされながら鎮座していたのは楕円形のずんぐりとした燃料タンクのような金属の塊だった。タンクの周囲はまるで骨組みのように無数の配管やケーブルが覆っていて、太めの配管には圧力計や紅いバルブが取り付けられている。

 

「これが……フィオナ機関…………」

 

「ふにゃあ………!」

 

 このスチームパンクな感じの物体が、これから機関車に搭載される装置らしい。高さは2mだけど、実際は横倒しにされて搭載されることになっているようだ。そのため圧力計の目盛りは横向きになっている。

 

『既に試作型でテストは済んでいますので、近いうちに機関車に搭載する予定になっています』

 

 俺たちに説明するのは、真っ白なワンピースに身を包んだ白髪の少女だ。姿は幼い気もするけど、まるで成人の女性のように落ち着いている。傍から見れば12歳くらいの少女に見えるかもしれないが、実は彼女があの異世界初の動力機関を生み出した張本人なんだ。

 

 彼女の名はフィオナ。俺が生まれた時にも部屋の中にいた、あの白髪の少女だ。親父が率いていた傭兵ギルドの一員であり、そのころから新型のエリクサーの研究を始めていた天才技術者だ。それ以外にも治療用の魔術にも精通していて、激戦の際には何度も彼女に傷を癒してもらったようだ。

 

 フィオナちゃんは大昔に死んでしまった少女の幽霊であるため、親父が初めて出会った時から姿が全く変わっていないらしい。

 

 説明を終えたフィオナちゃんは、改良されたフィオナ機関をまじまじと見つめる俺たちの方へふわふわと浮きながらやってくると、傍らに舞い降りてから微笑んだ。

 

『きっと、2人が大人になる前には列車がたくさん走ってますよ』

 

「じゃあ、いつか私たちも列車に乗れるってこと!?」

 

『はい。楽しみにしていてくださいね?』

 

「はーいっ!」

 

 ついに、この異世界で産業革命が始まる。

 

 この天才技術者が生み出した装置が、この世界を変えるんだ。俺たちの世界と同じうように、いつかは馬車の代わりに自動車が走る世界に変わるかもしれない。彼女のこの発明も、間違いなくこの世界の教科書に載る事だろう。

 

 異世界で車が走るのを想像した俺は、ワクワクしながらもう一度フィオナ機関を凝視した。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。