異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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スオミ支部

 

 スオミ族がテンプル騎士団に協力してくれるようになったのは喜ばしい事だ。少数精鋭の戦士たちで構成される彼らは雪山や雪原での戦いに精通しているし、大昔には少数の戦士たちだけでオルトバルカ騎士団に大損害を与えたという実績を持つ。既に錬度の高い彼らが現代兵器で武装すれば、心強い味方になってくれるに違いない。

 

 しかし、彼らの専門はあくまでも侵略してきた敵を待ち伏せ攻撃で叩き潰し、その後は不意打ちを繰り返すゲリラ戦で戦力をひたすら削り取っていく〝防衛戦”である。相手の攻撃を防ぎつつ反撃と奇襲を繰り返し、最終的に敵を撃退するような戦い方を得意としているのだ。つまり、逆に攻撃を仕掛けるようになった場合、不慣れな戦い方で苦戦することも予想される。

 

 それは訓練で補うしかないだろう。そう思いながら、俺は仲間たちと共に里のすぐ近くにある大昔の炭鉱跡地の響き渡る銃声を聞いていた。

 

 結局、ニパ以外の戦士たちにもアサルトライフルを試してもらったのだが、何人かはフルオート射撃の反動(リコイル)に耐えられる者はいたものの、大半が小口径のフルオート射撃でも耐えることは出来ず、アサルトライフルよりも古めかしいボルトアクションライフルを正式採用する方針となった。ハンドガンの弾薬を使用するSMG(サブマシンガン)は元々反動も少ないので、こちらは彼らに気にいられているようだが、汎用性の高いアサルトライフルを持たないというのは正直に言うとやや不安である。

 

「まあ、ハイエルフは華奢な人が多い種族だから………仕方ないわ」

 

「そうだよな………」

 

 ハイエルフは、この異世界に住んでいる種族の中でも華奢な部類に入る種族だ。だから一般人の持ち上げられるような剣を持ち上げられないというのは珍しい話ではない。

 

 それを考慮すれば、ボルトアクション式のライフルを主力武器とするのは合理的な判断なのかもしれない。

 

 今しがた雪の積もった炭鉱の広場で訓練をしているのは、主力武器となるモシン・ナガンM28を持つ兵士たちだ。既に彼らの編成は済んでいるので、現在は編成された部隊ごとに訓練を行っている状況だ。

 

 スオミの里の歩兵たちは、大きく分けて『ライフルマン』、『工兵』、『砲兵』、『特技兵』の4つに分けられる。

 

 ライフルマンはオーソドックスな種類であり、ボルトアクションライフルとハンドガンを主な武装とする一般的な兵士である。ライフルを使っての射撃が主な任務だが、中にはスコープを搭載したスナイパーライフル型のモシン・ナガンでの狙撃を実施する狙撃兵も含まれている。現代の軍では一般的なライフルマンとスナイパーは別々の部隊に編成されるようになっているんだが、使用する銃の弾薬が同じであることと、想定している交戦距離がアサルトライフルの射程よりも長く、やや狙撃のような射撃となることから、別々の部隊としてではなく同じ部隊に編成することにした。中にはセミオートマチック式のシモノフSKSカービンを装備する者も含まれている。

 

 工兵は破壊工作や塹壕の用意などを行う歩兵である。ライフルマンのように積極的な攻撃は行わないものの、スオミの里のお家芸とも言える防衛戦闘に欠かせない塹壕を掘る部隊でもあるし、爆弾を用いた破壊工作もスオミの戦士たちが想定しているゲリラ戦には欠かせない。全く戦闘に参加しないというわけではないのでちゃんと武装しているけど、スコップやC4爆弾などの装備も携行する必要があるため、武装はSMG(サブマシンガン)とハンドガンという軽装になっている。また、元々スオミの里の戦士も人数が少ないため、工兵の規模もそれほど大きくない。

 

 砲兵はその名の通り、大型の対戦車砲や迫撃砲を運用する役割を持つ兵士の事である。遠距離から砲撃して敵の部隊や魔物の群れに大打撃を与えるスオミの里の〝矛”ともいえる攻撃的な部隊であり、規模はライフルマンの次に多い。『アハト・アハト』の愛称で有名なドイツ製の8.8cmFlak18を対戦車砲に改造した8.8cmPaK43をはじめ、一般的なサイズの迫撃砲であるBM-37や、超大型迫撃砲として有名なM-43も運用する。それ以外にも炭鉱に設置した〝ある秘密兵器”も彼らが運用する手筈になっている。携行する武装は工兵と同じで、自衛用のSMG(サブマシンガン)とハンドガンのみである。

 

 特技兵はこの4つの歩兵の種類の中で、一番癖の強い部隊かもしれない。主な武装はSMG(サブマシンガン)とハンドガンなんだが、この部隊はロケットランチャーの使い方の訓練も受けているため、もし敵の転生者が戦車を投入してきた場合は彼らが大活躍することになるだろう。雪原をスキーで素早く移動し、高速で敵の戦車に接近しながらロケットランチャーを叩き込んだり、SMG(サブマシンガン)の掃射で敵兵を薙ぎ倒し、肉薄して火炎瓶を放り投げていく特殊部隊のような存在だ。実際にも前世の世界で勃発したソ連とフィンランドの冬戦争において、フィンランド軍はスキー部隊を編成し、ソ連軍に大損害を与えている。

 

 歩兵部隊の中核はこの4種類の歩兵だ。それ以外にも少数になるが戦車やヘリを運用する人員の訓練も行っている。

 

 最終的には諜報部隊も設立し、各地に派遣して悪さをしている転生者についての情報収集も行いたいものだが、それを実施するためには諜報活動の訓練もしなければならないし、なによりスオミの民はみんなアルビノのハイエルフということで目立つため、諜報活動は今後の協力者に頼んだ方がいいだろう。それに俺たちもずっとここに滞在しているわけではない。急いであの山脈を越え、3つ目の天秤の鍵を手に入れなければならないのだ。

 

 予定通りならば明日の朝にはこの里を出発する予定だったんだが――――――もう少しだけ、この里でお世話になることになってしまった。

 

 なんと、俺たちが越えていく予定だったシベリスブルク山脈のほぼ全域に、かなり強烈なブリザードが発生しているというのである。この極寒の気候に慣れているスオミの里の人々も立ち入れないほどの猛吹雪となっているらしく、さすがにそんな吹雪の真っ只中を素人の俺たちが越えていくのは不可能と判断したため、吹雪が収まるまでは里に滞在することになった。

 

 長老の予測では、おそらく3日程度で収まるらしい。出来れば早く出発したいところだが、その3日間は里の戦士たちの訓練に使わせてもらおう。組織の強化のためでもあるのだから。

 

「おーい、ハユハー!」

 

「ふみゅ?」

 

「ん?」

 

 訓練しているスオミの里の戦士たちを見守っていると、雪だらけになった階段を数人の男性が駆け上りながら俺たちに声をかけてきた。特徴的な白い防寒着の胸元と左肩には、テンプル騎士団のスオミ支部を意味するエンブレムが刻まれている。

 

 ちなみにスオミ支部のエンブレムは、蒼空を思わせる蒼い十字架の下部で2枚の白い羽が交差しているようなデザインで、十字架の左斜め上には真っ赤な星が描かれている。蒼い十字架はスオミの里の象徴らしく、その象徴に合うようにそのエンブレムをデザインしたという。

 

 カッコいいエンブレムだなと思いながら彼らの防寒着を眺めていたんだけど、ハユハって誰だ? 俺たちの仲間にハユハって名前の奴はいないぞ?

 

 聞き慣れない名前を聞きながら、俺は改めて頭の中で仲間たちのフルネームを思い出してみるが、やはりハユハという名前が含まれている仲間はいない。

 

「あっ、私の事かな?」

 

「え、ラウラ?」

 

 何で? ラウラってフルネームはラウラ・ハヤカワだよな? 俺の知らない間にハユハっていうミドルネームでも付いてたのか? ラウラ・ハユハ・ハヤカワ………? 

 

 仲間たちと共に首を傾げていると、ラウラがいつもの笑顔を浮かべながら説明してくれた。

 

「えっとね、オルトバルカ語では私の名前は『ラウラ』って読むんだけど、古代スオミ語だと『ハユハ』って読むらしいの。面白いねっ♪」

 

 そ、そうだったのか………。つまり、スオミの里の人から見れば、ラウラ・ハヤカワじゃなくてハユハ・ハヤカワという名前になるって事か。

 

 面白そうに笑いながら、足元の雪にオルトバルカ語の文字で自分の名前を書き始めるラウラ。現在のこの異世界で共通語とされているオルトバルカ語の文字は英語のアルファベットに似ているし、語感も英語のように聞こえる。

 

 ラウラの事をハユハと呼びながら上がってきた数人の兵士たちは、みんなモシン・ナガンM28を肩に掛けていた。スコープを装備している奴はいないけど、モシン・ナガンを装備しているという事は全員ライフルマンなのか。最前線で戦う部隊だから、実戦でも彼らには頑張ってもらいたいものだ。

 

「ハユハ、もう一回狙撃を教えてくれよ」

 

「どうしても当たらなくてさぁ………」

 

「ふみゅ、良いよ♪ じゃあ、ちょっと教えてくるね!」

 

「はーい」

 

 数名のライフルマンたちを引き連れ、階段をスキップしながら下りていくラウラ。彼女がスキップする度に揺れる大きな胸を見ると思わず顔を赤くしてしまうけど、雪の積もった金属製の階段の上でスキップしたら転んでしまわないだろうか。な、何だか危なっかしいなぁ………。

 

 だ、大丈夫かなぁ………。お姉ちゃん、大丈夫? 転ばない?

 

 17年間も彼女とずっと一緒にいるんだけど、どうしてもあんな危なっかしいことをしている姉の姿を見てしまうと、弟として心配になってしまう。一緒に育ったわけだけど、前世の世界で生きていた分を含めれば俺の方が年上だし………。

 

「タクヤ」

 

「ん? ステラ、どうした?」

 

「見てください」

 

「ん?」

 

 階段を下り、的の方へとスキップしていくラウラ。俺のコートの袖を引っ張ったステラが指差しているのは、その彼女がスキップする度に揺れている胸だった。

 

 しかも注目しているのは俺たちだけではない。よく見ると、訓練している他の少年や青年たちも、いきなりスキップしながら訓練に飛び入り参加してきた赤毛の美少女の胸に釘付けになってるじゃねえか。

 

 おい、あれ俺のお姉ちゃんだからな。

 

「あんなに揺れてます」

 

「う、うん」

 

「ですが、ステラがスキップしても全然揺れません」

 

 そう言いながら自分の胸を見下ろし、両手でとんとんと叩いてからため息をつくステラ。彼女はパーティーの中で最も小柄で、胸も仲間の中で一番小さい。前々からラウラの魔力を吸う時は彼女の胸を触りながら羨ましそうにしていたのを度々見たことがあるが、やっぱり小さいのを気にしているんだろうか。

 

 じっと自分の胸を見下ろしてから、もう一度ステラはラウラの胸を凝視する。もうスキップするのを止めて射撃を始めているけれど、彼女の方が胸が大きいというのは火を見るよりも明らかである。

 

 うん、あれは超弩級戦艦ラウラですな。46cm砲を搭載した超大型の戦艦に違いない。

 

「タクヤ、ラウラの胸はどうして大きいのですか?」

 

「………」

 

 ごめんなさい、分かりません。

 

 ラウラの場合はエリスさんに似たんだろうな。顔つきとか性格も似ているし。胸が大きくなったのは母親の遺伝なんじゃないだろうか? 父親の遺伝はありえないよね。というか、親父の遺伝で胸が大きくなったらヤバいだろうが。

 

「き、きっと遺伝じゃないかな? えっと、ラウラのお母さんも巨乳だし………」

 

「………ステラのママも、貧乳でした」

 

 遺伝かよ!?

 

 そういえば、サキュバスの子供の遺伝子は基本的に母親の遺伝子で、父親の遺伝子は母親の遺伝子に上書きされる形で無視されるらしいから、実質的に生まれてくる女の子は母親とほぼ同じという事になる。つまりステラのお母さんも、ステラと同じく小さかったんだろうか。

 

「だ、大丈夫だって。成長すれば――――――」

 

「ステラはもう37歳なのですが」

 

「うっ」

 

 そ、そうでした………。この子、パーティーの中で最年長だったんだ。もう成長してるじゃないですか。

 

「それに、ママもステラと同じく小柄でした」

 

「はぁ!?」

 

「あらあら、お母様も幼女でしたのね♪」

 

「か、カノンちゃん………」

 

 おいカノン、何でよだれ垂らしてるんだ。お前は何を考えてるんだよ………。

 

「パパは小柄で幼い顔つきの女性が好みだったそうです」

 

「なるほど、ステラさんのお父様はロリコンでしたのね?」

 

「はい。ですので貧乳は大歓迎だったそうですが、ステラはどうしてもラウラのように大きな胸が羨ましくて………」

 

 段々とラウラの胸を見つめるステラの目つきが虚ろになっていく………。そ、そんなに羨ましいのか!? 

 

 俺は何とか慰めようとするが、なかなかどうやって慰めればいいのか思いつかない。変な事を言えば逆効果になる可能性もあるからな。慰めればいいというわけではない。

 

「ステラさん、おっぱいの大きなお姉様から毎日魔力を吸っていれば、ステラさんもいつか大きくなる筈ですわ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 カノォォォォォォォンッ!? ちょっと、何言ってんの!? 

 

 なんてこった。カノンの奴、ラウラを生け贄にしやがった………! こいつ、ステラへのアドバイスと言うよりは幼女に襲われてるラウラの姿が見たかっただけなんじゃないか?

 

 ちらりと彼女を見てみると、カノンはよだれを拭って笑いながらウインクしやがった。可愛らしいウインクなんだけど、そのウインクと笑顔の原因はお前の下心だよね? 

 

「では、さっそく今夜やってみます!」

 

「ええ。楽しみにしておりますわ♪」

 

 たっ、楽しみぃッ!?

 

 ラウラ、気を付けろ。今夜からはカノンの下心のせいで、ステラにかなり魔力を吸われる羽目になるぞ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドン、と豪快な銃声が立て続けに響き渡り、続けてボルトハンドルが彼女の白い手によって後ろまで引かれていく。微かに白い煙を吐き出し、回転しながら雪の中へと排出されていくのは、内包した炸薬を炸裂させ、弾丸を送り出すという役目を終えた金属の薬莢。

 

 既に雪の中へと沈んだ薬莢の数は、もう10本になる。それだけ弾丸を放っているにもかかわらず、彼女が銃口を向ける先に立っている的には、未だに風穴は1つしか開いていない。

 

 スコープを取り付けていないモシン・ナガンM28で、400m先の的を狙っているのに風穴が1つしかないという状況を一般人が目の当たりにすれば、未だに命中したのは1発だけなのだろうと思うに違いない。実際に俺も幼少期の彼女の射撃訓練に付き合っていた時、風穴が1つしか開いていない事を外していると〝勘違い”し、彼女にスコープの装着を奨めてしまっている。

 

 しかし、あれは外したわけではない。ラウラにとっては、これが普通なのだ。

 

 ――――――彼女の放った弾丸は、全て最初に開いた風穴を通過しているだけなのだから。

 

 クリップを使って再装填(リロード)したラウラが、再び7.62mm弾をど真ん中に開いた風穴へと送り込む。またしても風穴が増えることはなく、ほんの少しだけ弾丸によって風穴の縁が削れた程度だったが、弾丸は風穴を予定通りに通過し、反対側に屹立する岩肌に激突して消えていった。

 

 訓練用の弾薬を全て撃ち尽くしたところで、ラウラはやっとアイアンサイトから目を離した。モシン・ナガンをくるりと回してから肩に掛け、後ろで彼女の狙撃を見守っていた俺たちに向かって微笑みかける。

 

 戦闘中の鋭い目つきから一瞬で可愛らしい笑顔を浮かべた彼女に向かって、見学に来ていたスオミ族の戦士たちが一斉に歓声を上げた。

 

「す、すげぇ!! あんなに離れてるのに、あの望遠鏡みたいな部品使ってなかったぞ!?」

 

「しかも全弾真ん中の風穴を通り抜けてたよな!? 何だあれ!?」

 

「べ、別格だぁ………真似できねえよ………」

 

「ハユハちゃん可愛いなぁ………!」

 

 大人気じゃないか、ラウラ。

 

 ちなみに今の訓練のために用意されていた弾薬は20発。ストップウォッチを使ったわけではないので正確ではないが、彼女は1分間でその弾薬を全て撃ち尽くした上、400m先の的に全弾命中させている。

 

 しかも、朝っぱらからカノンの下心が生んだ迷信を信じたステラに魔力を大量に吸われた後だというのに、命中精度はあまり変わっていない。しかも幼少期の射撃訓練に使っていたSV-98よりも命中精度の劣るモシン・ナガンM28を使って、ベストコンディションとは言えない状態でこの成績なのだから、彼女の狙撃の技術は極めて高いという事になる。

 

 あの親父が「狙撃でラウラに負けた」と言うほどなのだから、この世界にラウラに勝る狙撃手はいないだろう。彼女が仲間だからこそ、安心して戦える。

 

「いえーいっ♪ タクヤ、見てた!? お姉ちゃん頑張ったよ!」

 

「凄いじゃないか。ちゃんと見てたよ」

 

「えへへへっ♪ じゃあ、ご褒美になでなでしてほしいなぁ………♪」

 

 お安い御用だ。

 

 静かに彼女がかぶっているベレー帽を取って、ふわふわしているラウラの赤毛を優しく撫でると、彼女は幸せそうにしながら防寒着の中から尻尾を伸ばし、その尻尾を左右に向かって元気に振り始めた。

 

 スオミの里の戦士たちが協力してくれることになった際、もう既に俺たちの正体が人間ではなくキメラという新しい種族だという事は、アールネたちの目の前で宣言している。もしかしたら気味悪がられるのではないかと思っていたんだけど、嫌われている気配は全くない。

 

 むしろ、まるで飼い主に頭を撫でられる犬のように尻尾を振るラウラの姿は、スオミ族の少年や青年たちに大好評らしい。頭を撫でながら周囲を見てみると、ラウラと同じように幸せそうな顔をしながら、尻尾を振る彼女を戦士たちが見守っている。

 

「よう、コルッカ」

 

「ああ、アールネ。おはよう」

 

 ラウラの頭を撫でていると、その戦士たちの群れの中からやけに身体のでかいハイエルフの男がこっちへとやってきた。肩にはモシン・ナガンM28をかけているが、長い銃身のライフルだというのにSMG(サブマシンガン)なのではないかと思ってしまう。それほどアールネの身体はでかい。

 

 親父やギュンターさん並みだよな、この体格。190cm以上はあるんじゃないか?

 

 彼らに自己紹介した後、俺たちはもうリュッシャとは呼ばれなくなった。それどころか盗賊との戦いに参加した俺は、彼らから『コルッカ』と呼ばれるようになっている。

 

 どうやらコルッカと言うのは古代スオミ語で『狙い撃つ者』を意味するらしく、スオミ族の勇猛な戦士のための称号らしい。たった一度の戦いでそんな称号を受け取ってしまっていいのだろうか。

 

「今日が最後だな………。明日の朝には出発するんだろ?」

 

「ああ。なんだか寂しいが………」

 

 今日が、スオミの里に滞在する最終日となる。

 

 ヘリの操縦訓練も兼ねて山脈の様子を確認しに行ったイッルによると、ブリザードも徐々に弱まっており、明日の明け方にはもう山脈に入っても問題ないと言う。だからスオミの里で戦士たちの訓練を行えるのは、今日が最後だ。

 

「そういえば、〝あれ”の調子はどうだ? 訓練はやってるんだろ?」

 

「おう。まさにスオミの里の秘密兵器だぜ」

 

 やっぱりな。

 

 昨日の訓練中も、炭鉱の広場の方からやけにでかい爆音がずっと聞こえていたんだ。

 

 スオミの里の近くには、もう鉄鉱石が採掘できなくなったために大昔に廃棄された炭鉱が存在する。坑道や竪穴は当時のままになっているらしく、それを利用して地下壕にしようとしていたんだが、地下壕の構築と同時に秘密兵器の配置も進んでいる。

 

 現在はそれを操作する要員の訓練の真っ最中だけど、実用化できるようになれば少なくともスオミの里の近辺ではかなり強力な支援が期待できる事だろう。

 

 その秘密兵器を目にしたスオミの里の人々は、それに『スオミの槍』という愛称を付けているという。

 

「さあ、訓練開始だ」

 

 今日が滞在の最終日だ。彼らの強化のためにも、銃の扱い方をしっかりと教えてから旅立つとしよう。

 

 

 

 

 




※フィンランドではシモ・ヘイヘのことを「シモ・ハユハ」と言うそうです。
※冬戦争では、シモ・ヘイヘ以外にもスロ・コルッカという狙撃手が大活躍しています。

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