異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤとラウラが実戦に行くとこうなる

 

 血液の比率を10%から30%まで変化させつつ、水の入ったバケツにペンキを少しずつ混ぜていく光景をイメージする。特に何色のペンキをイメージしろと言われたわけではないので、どうでもいい話かもしれないがペンキの色は何色でもいいだろう。ちなみに俺の好きな色は蒼なので、ペンキの色は蒼にしておく。

 

 水面に落ちた蒼いペンキが、まるで煙が吹き上がるかのようにバケツの底へと向かって吹き上がっていき、水を蒼く染めていく。そこまで素早くイメージした俺は、そっと目を開けて自分の腕を見下ろしてみた。

 

「おお………」

 

 いいぞ。初めてやった時よりも硬化の速度が上がっている。

 

 蒼い外殻に覆われた腕を眺めた俺は、軽く手を握ったり、動かしてみる。外殻を生成したことによって動きが阻害されることは特に無いようだ。硬化する前と身体を動かす感覚は変わらない。

 

 愛用の大型トレンチナイフを手に取った俺は、試しにナイフの切っ先を硬化した外殻に軽く突き立ててみた。当然ながら手応えはまるで分厚い装甲の塊にナイフを突き立てたような感覚で、ナイフは金属音を立てながらあっさりと弾かれてしまう。

 

 まだ親父ほどの防御力はないみたいだが、この調子で訓練を続けていればいつかは親父並みの防御力になるかもしれない。ちなみに親父の外殻の防御力ならば、20mm弾くらいならば弾く事ができるらしい。

 

 一般的なアサルトライフルで使用される弾丸は5.56mm弾。大口径のものやバトルライフルでも7.62mm弾となっているから、砲弾である20mm弾を弾く事ができるということはかなり防御力が高いということになる。まさしく戦車や装甲車並みの防御力だ。

 

「ふにゅう…………!」

 

 俺の隣では、親父にこの能力を教えてもらってからずっと苦戦を続けているラウラが、少しずつ腕に外殻を生成しているところだった。彼女の外殻の色は俺と真逆で、まるで血のように紅い。

 

 生成する速度は俺よりも遅く、じわじわと硬化するような感じだけど、彼女も少しずつ苦手な硬化を身につけつつあるようだった。

 

「ど、どうかな?」

 

「おお。出来てるよ、ラウラ。ほら。……俺と同じだ」

 

「えへへっ。色は違うけど……タクヤとおそろいだね」

 

 そう言いながら硬化した腕で俺の腕を握るラウラ。彼女の外殻もなかなか硬いけど、おそらく防御力ならば俺の方が上だろう。彼女には驚異的な視力とエコーロケーションがある分、外殻の生成は苦手だと親父は言っていた。苦手な分野を放置すればいいというわけではないが、彼女は遠距離戦を得意とするし、訓練でも俺と一緒に戦う事を前提にしているから、硬化が苦手でも問題はないと思う。

 

「頑張ったね、お姉ちゃん」

 

「えへへっ。ねえ、タクヤ。ごほうびになでなでしてよぉ」

 

「はいはい」

 

 こうして俺に甘えてくるのは、昔から変わっていない。

 

 ラウラの頭の上に手を乗せた俺は、いつものように優しく彼女の頭を撫で始めた。ふわふわした赤毛を撫でる度に彼女の優しい香りが舞い上がる。

 

「よお、硬化のほうはどうだ?」

 

「あ、パパ!」

 

 子供部屋のドアを開けて入って来たのは、俺たちにこの能力の使い方を教えてくれた張本人だった。ラウラの頭を撫でているところを目撃した親父は苦笑いしながら俺の方を見てきたが、ラウラの声を聞いた途端に元の顔つきに戻ると、俺たちの硬化した腕をまじまじと見つめ始めた。

 

「へえ、ラウラもここまで硬化できるようになったか!」

 

「うんっ! 頑張ったから、タクヤになでなでしてもらってたのっ!」

 

「そ、そうか。優しい弟でよかったなぁ」

 

「えへへへっ。早く大きくなって、タクヤのおよめさんになりたいなぁ………」

 

 そんなことを言い出すラウラ。それを聞いても親父は苦笑いするだけだ。気持ちよさそうな顔をしているラウラを撫で続けながら親父の顔を見上げると、親父はこっちを見下ろしながら何故か頷いてきた。

 

 諦めろって事か? このままヤンデレのお姉ちゃんと一緒に成長して、ラウラを嫁に貰えって事なのか!?

 

 ふ、ふざけんな! 俺はハーレムを作るつもりだったのに……!

 

「ここまで硬化できるなら、もう実戦に連れて行ってもいい頃だな」

 

「マジ!?」

 

「本当!?」

 

「ああ。ちょうど騎士団から小規模だが魔物を発見したという報告が入った。数日前の掃討作戦の生き残りみたいだな。ちなみにゴブリンが4体だ」

 

 ゴブリンか……。魔物の図鑑の一番最初に載っていたな。

 

 130cmから140cmくらいの身長を持つ小型の魔物で、魔物の中では非常に弱い。知能も低いんだが腕力は非常に強く、パンチの威力は騎士団の鎧を容易くへこませてしまうほどだ。防具を身に着けていない状態で攻撃を受ければたちまち体中の骨を粉砕されてしまうことだろう。

 

 しかも、基本的に単独行動はしない。少なくても3体で群れを作って行動する。過去には100体以上の大規模な群れが他の国の街に攻め込み、街を壊滅させたという事もあるらしい。

 

「銃があれば楽勝だろう。……どうだ、行ってみるか?」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「よし」

 

 楽しそうに笑いながら頷いた親父は端末を取り出すと、素早く端末の画面を連続でタッチ。2秒くらいでラウラ用のスナイパーライフルとSMGを出現させてから彼女に手渡し、更に画面をタッチしてから俺用のアサルトライフルとハンドガンを出現させる。

 

 ラウラが装備するスナイパーライフルは、いつも訓練で使っているSV-98。7.62mm弾を使用するロシア製のボルトアクション式スナイパーライフルで、やはりスコープは装備していない。装備しているのはバイポットだけだ。

 

 そして彼女が受け取ったSMG(サブマシンガン)は、ロシア製SMGのPP-2000だ。まるでサムホールストックのようにグリップと繋がっているフォアグリップが特徴的な銃で、ハンドガン用の弾薬である9mm弾を使用する。本当ならば折り畳み式の銃床があるんだが、ラウラは親父に頼んで銃床を取り外してもらっているらしい。装着しているのはライトとオープンタイプのドットサイトだ。

 

 俺も親父から受け取ったアサルトライフルの点検を始める。親父が貸してくれたのは、最近よく訓練で使っているロシア製アサルトライフルのAK-12。ロシアの最新型アサルトライフルだ。AK-47譲りの頑丈さは健在で、しかも汎用性も高くなっている。AK-47の弱点だった命中精度の悪さも改善されている優秀な銃だ。様々な弾丸を発射可能だが、俺はいつもはM16やM4と同じ弾薬である5.56mm弾を使用している。

 

 魔物相手には大口径の7.62mm弾がおすすめだと親父に何度も言われたんだが、まだ俺は8歳だ。いくらキメラでも反動のでかい7.62mm弾をフルオート射撃するのは無理がある。だから今のところは5.56mm弾を使用することにして、その弾丸を弾いてしまうような敵が現れた場合は銃身の下に装着されている40mmグレネードランチャーをお見舞いすることにしている。銃身の上にはホロサイトとブースターを装着し、近距離だけでなく中距離での射撃でラウラをサポートできるようにしている。

 

 サイドアームであるハンドガンは、他の武器と同じくロシア製最新型ハンドガンのMP443だ。頑丈でバランスが取れているし、汎用性も高い。しかもラウラのPP-2000と同じくハンドガン用の9mm弾を使用するため、もし彼女のSMGが弾切れを起こしてしまっても、このハンドガンの弾薬を分けてあげる事ができる。

 

 俺の武器よりもラウラの武器の方が射程距離が長いため、おそらく今回は彼女をサポートすることになるだろう。ゴブリンの足の速さは人間とあまり変わらないから、連射速度の遅いボルトアクション式のライフルでも接近される前に十分に片付けられる筈だ。

 

「では、1時間後に出発する。それまでに武器の調整をしておくこと。いいな?」

 

「はいっ!」

 

「了解!」

 

 いよいよ実戦に連れて行ってもらえる。

 

 もしかしたら1発も撃たないで終わるかもしれないとは思ったが、俺はドキドキしながらアサルトライフルを肩に担ぎ、ラウラと一緒に地下室へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 北国だからなのか、もう夏だというのに草原を駆け抜けてくる風は暖かい。春よりも少し暖かくなったような風を吸い込みながら、重々しい防壁の外に広がる開放的な草原を双眼鏡で見渡す。

 

 特に遮蔽物もない草原だから、ターゲットはすぐに発見する事ができた。防壁へと向かって歩いてくる4つの小さな人影を発見した俺は、すぐにそのレンジファインダーを搭載した双眼鏡でズームインし、距離の測定を開始しつつ標的を確認する。

 

 双眼鏡の向こうに映っているのは、オリーブグリーンの表皮を持つ人間にそっくりな魔物だった。人間よりは小柄だけど手足の太さは鍛え上げた成人男性のように太く、指先からは鋭い爪が伸びている。中には棍棒を持っている奴もいるが、その棍棒を持っている奴以外は丸腰だ。

 

「目標を確認。距離、900m」

 

「りょ、りょうかい………!」

 

 双眼鏡から目を離し、隣で狙撃準備を始める姉を見守る。初めて魔物を目にしたラウラはかなり緊張しているらしく、両手を震わせながらバイポットを展開してライフルを構えている。

 

 俺もかなり緊張している。動物を銃で撃ったことはあるが、肉食動物よりも遥かに凶暴な魔物に銃を向けるのはこれが初めてだ。彼女に伝えた敵との距離が間違っていないかもう一度確認した俺は、地面に伏せて狙撃準備に入ったラウラの隣に伏せる。

 

 親父は今頃、どこかから俺たちの事を見守っていることだろう。もし俺とラウラが危険な状況になったら加勢してくれるらしい。

 

「ラウラ、落ち着いて」

 

「ふっ、ふにゅ………っ!」

 

「大丈夫。………俺が隣にいるから」

 

「う、うん。………だっ、大丈夫………!」

 

 伏せながら頷き、アイアンサイトを覗き込むラウラ。吹いてきた暖かい風からは、ラウラの甘い香りがした。

 

 彼女の香りのおかげで少し落ち着く事ができた俺は、標的を双眼鏡で確認しながらどいつから攻撃するべきか考え始める。1体だけ棍棒を持っている奴がいるから、こいつから仕留めるべきだろうか? 

 

「よし、ラウラ。一番奥にいる奴は見える? 棍棒持ってる奴」

 

「うん、見える」

 

「そいつから始末しよう。距離が600mくらいになるまで待ってね」

 

「分かった」

 

 冒険者になったら、かなりの数の魔物と戦う事になるだろう。ゴブリンを目の当たりにして緊張している場合じゃない。

 

 接近された時に備え、AK-12も射撃準備をしておく。ブースターをホロサイトの後ろに展開し、フルオート射撃からセミオート射撃に切り替えた俺は、再び双眼鏡を覗き込んで距離を確認した。

 

「………700m。狙撃準備」

 

「………!」

 

「目標、最後尾」

 

 標的はこっちに向かって歩いているだけだ。立ち止っているのと変わらない。ラウラならば命中させられる筈だ。

 

 でも、今の彼女はまだ緊張している………。親父が獲物を狙っていた時のように、俺がぞっとしてしまったあの鋭い目つきではない。

 

「距離600m。――――発射(ファイア)ッ!」

 

「う、撃つよっ!」

 

 俺が報告した直後、隣で伏せていたラウラが、ついにスナイパーライフルのトリガーを引いた。

 

 風の音しか聞こえなかった草原を、スナイパーライフルの銃声が蹂躙する。残響を引き連れながら駆け抜けて行った轟音の中を突き抜けていくのは、ラウラが放った1発の7.62mm弾。

 

 ゴブリンたちはいきなり聞こえてきた銃声でびっくりしたらしい。まるで脅かされた子供のように慌てふためきながら唸り声を発するだけだ。

 

 ラウラの狙撃は命中したのか………?

 

 数秒間双眼鏡をのぞき続けたが―――――風穴を開けられて後ろに崩れ落ちた奴は1体もいなかった。

 

「は、外れた………!」

 

「ふにゃあっ! ご、ごめんなさいっ!!」

 

 謝りながら大慌てでボルトハンドルを引くラウラ。おそらくさっきの弾丸は上に逸れてしまったんだろう。緊張していたせいなのかもしれない。

 

「もう少し下を狙って。今のは上に逸れたんだ」

 

「わ、分かった。えっと、もう少し下………下を狙って…………!」

 

 双眼鏡で標的の位置を確認する。まだこっちの居場所はバレていないらしい。でも、もう1発撃てば居場所がバレてしまう恐れがある。

 

 もう1発撃ったら移動しよう。

 

「距離570m。落ち着いて、ラウラ」

 

「だ、大丈夫……! 今度はちゃんと当てるよっ!」

 

「よし…………発射(ファイア)」

 

「ふにゃっ!」

 

 もう一度トリガーを引くラウラ。去り始めていた先ほどの銃声の残響が新たな銃声に上書きされ、再び草原が蹂躙される。

 

 その直後、双眼鏡の向こうで慌てふためいていたゴブリンの胸に7.62mm弾が飛び込んでいったのが見えた。獰猛な7.62mm弾に容易く胸を食い破られたゴブリンは、大きな牙が何本も生えている口からよだれと共に鮮血を吐き出すと、剛腕で胸の風穴を抑えながら後へと崩れ落ちた。

 

「め、命中! 胸に当たった!」

 

「やったぁっ!」

 

「ラウラ、移動するよ。ここにいるのが見つかったかもしれない!」

 

「ふにゃ!? わ、分かった!」

 

 大慌てでスナイパーライフルを背負って立ち上がるラウラ。俺も双眼鏡を首に下げると、アサルトライフルを抱えながら立ち上がる。

 

 仲間を殺されたゴブリンたちは激昂して吠えながら、俺たちが狙撃していた地点へと向かってきているようだった。あのまま狙撃していても接近される前に全て仕留めることは出来たかもしれないが、初陣で突進してくる恐ろしい魔物を迎え撃つのは無理があるだろうし、先ほどみたいに緊張して外してしまった場合、ボルトハンドルを引いている間に接近を許してしまうかもしれない。

 

 ラウラを連れて別の場所へと移動した俺は、再び2人で地面に伏せながら双眼鏡を覗き込む。ゴブリンは先ほど俺たちが狙撃していた地点に向かって突っ走っているだけで、俺たちを見つけたわけではないらしい。

 

「次は先頭を走ってる奴を狙おう。いける?」

 

「うん、頑張るよ。………ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

 双眼鏡から目を離して隣にいる姉の方を見ると、ラウラはアイアンサイトを覗き込みながら言った。

 

「あいつらやっつけたら、ご褒美が欲しいな」

 

「何がいい?」

 

「えっとね………な、なでなでがいいな。タクヤのなでなでは気持ちいいの」

 

「あはははっ、分かった。いっぱいなでなでしてあげる」

 

 き、キスって言われなくてよかった………。

 

 もしキスって言われてたら俺まで慌ててしまっていた事だろう。ラウラは性格が幼いから、俺が何とか彼女を落ち着かせなければならない。

 

 なんだか、弟じゃなくて兄になった気分だ。前世は一人っ子だったんだよな。妹か姉が欲しいって何回も思った事を思い出した俺は、思い出し笑いをしながら再び双眼鏡を覗き込んだ。

 

「―――――発射(ファイア)ッ!」

 

 銃声が草原に響き渡る。マズルフラッシュの煌めきを突き破って飛び出した7.62mm弾は暖かい風が吹く草原を疾走し、ゴブリンに風穴を開ける前に風に風穴を開けていく。

 

 ゴブリンは走っている最中だ。当たるんだろうか………?

 

「!!」

 

 俺がそう思った瞬間だった。先頭を走っていたゴブリンのこめかみに風穴が開いたかと思うと、人間よりも小さな頭を木端微塵に粉砕されたゴブリンが、血と肉片をまき散らしながら崩れ落ちたんだ。

 

 走っている最中のゴブリンの頭に、弾丸を命中させやがった……!

 

 ボルトハンドルを引く音が聞こえて、俺はぞっとした。いつもの彼女ならば、標的に弾丸が命中すればはしゃぎ出す筈なんだが、今のラウラは全くはしゃぐ気配がない。

 

 違和感を感じながら隣の姉を見てみると、いつの間にか彼女の目つきはあの甘えん坊の姉の目つきではなく、獲物に狙いを定めている時の親父のような鋭い目つきになっていた。

 

 ラウラの目を見て再びぞっとした俺は、すぐに再び双眼鏡を覗き込む。姉の目つきでビビっている場合じゃない。早く標的を確認しなければ……!

 

「きょ、距離は570m。まだ気付いてない」

 

「………了解」

 

 元気いっぱいなラウラとは思えないほど冷たい声で再びぞっとしながら、俺は彼女に「よし、発射(ファイア)」と指示を出す。

 

 彼女はもう全く緊張していないらしい。4回目の銃声が草原を蹂躙し、風が1発の弾丸に次々に貫かれていく。

 

 残っているゴブリンは2体だが、俺はどちらを狙えばいいのか指示を出した覚えはない。ラウラはどっちを狙った……?

 

 そう思いながら双眼鏡を覗き込んでいると―――――突然、その残っていた片方のゴブリンの頭に風穴が開いた。先ほどヘッドショットされたゴブリンのように頭を砕かれ、崩れ落ちるゴブリン。俺が命中したとラウラに報告するよりも先にボルトハンドルを引く音が聞こえ、再び傍らで銃声が轟いた。

 

 5発目の7.62mm弾が草原を突き抜けていき、残った最後の1体の側頭部に喰らい付く。左側の側頭部と後頭部を頭蓋骨もろとも抉り取られたゴブリンは、鮮血が噴き出す頭を抑えながら、まるで酔っぱらったかのようにくるりと回ると、そのまま崩れ落ちて動かなくなった。

 

「………め、命中」

 

「―――――えへへっ。これでタクヤになでなでしてもらえるっ!」

 

 500m以上の距離からスコープなしで、4体のゴブリンを狙撃で仕留めちまった……。しかも外したのは1発だけだ。

 

 他にも魔物がいないことを確認しながら立ち上がった俺は、1発も撃っていないAK-12を背負うと、双眼鏡を首に下げてからラウラに手を貸した。スナイパーライフルのバイポットを折り畳んでいたラウラは大喜びで俺の手を取ると―――――そのまま抱き付いてきた!

 

「わあっ!?」

 

「ふにゅー………タクヤっ!」

 

 いきなり抱き締められたせいで、せっかく立ち上がった俺は再び草原の上にラウラと一緒に押し倒されてしまう。

 

「――――――よう、2人とも」

 

「お、親父……」

 

 押し倒した俺の上で頬ずりを始めたラウラを何とか引き離そうと足掻いていると、ハンチング帽をかぶった私服姿の親父が、狩りの時にも使っていたリー・エンフィールドを担ぎながらこっちへとやって来た。親父は愛娘に押し倒されている息子を見下ろして苦笑いすると、ハンチング帽を取ってから頭を掻き始める。

 

 見捨てないでよ、お父さん。このままじゃ俺のお嫁さんが実のお姉ちゃんになっちゃう。

 

 無言で手を伸ばす俺を無視した親父は、苦笑いしたまま草原の向こうで倒れている4体のゴブリンの死体を見つめた。

 

「……よし、あいつらから素材を取る練習もしてみようか」

 

「素材?」

 

 頬ずりを中断して顔を上げるラウラ。俺はその隙にラウラを引き離して起き上がると、草の上に落ちていた自分のハンチング帽を拾い上げた。

 

「お前ら、冒険者になりたいんだろ? なら、これから魔物の素材を取る練習もしないとな。……ついて来い」

 

 漆黒のボウイナイフを鞘から引き抜き、ゴブリンの死体へと向かって歩いていく親父。ゴブリンのうち3体は頭が吹っ飛ばされてるんだが、素材は取れるんだろうか?

 

 冒険者の仕事はダンジョンの調査だが、ダンジョンの調査は非常に危険でリスクが高いため、資金が足りない冒険者のパーティーやギルドは魔物の素材を売って資金にすることがあるらしい。中にはダンジョンの調査にはいかず、魔物の素材の販売を生業にしてしまっている冒険者もいると聞いたことがある。俺たちが目指すのはちゃんとダンジョンの調査をする冒険者だが、魔物の素材を売れば資金になるため、素材の取り方もここで学んでおくべきだろう。

 

 ボウイナイフを抜いたまま、親父はラウラに頭を吹っ飛ばされたゴブリンの傍らにしゃがみ込んだ。俺たちが追い付いてきたのを確認した親父は、まだ痙攣を続けているゴブリンの腕を掴みながらこっちを振り返った。

 

 ゴブリンの腕は太い筈なんだが、親父の腕と比べるとかなり細く見える………。親父の腕ががっちりし過ぎているだけなのかもしれない。

 

「いいか? ゴブリンから取れる素材は、主に骨や内臓だ。内臓は薬の素材に使われるし、骨は武器の素材や家を建てるための素材にも使われるんだ」

 

「ねえ、パパ。どうやって素材を取るの?」

 

 首を傾げながら尋ねるラウラ。すると親父はナイフを逆手持ちにすると、切っ先を静かにゴブリンの腕に突き付けた。

 

 まさか、そのナイフで抉り出すのか……!?

 

「こうやって、ナイフで取り出すんだ」

 

 親父は笑顔でそう言うと、俺がラウラの目を隠そうとした瞬間に、そのナイフをゴブリンの腕へと突き刺した。何とか骨を抉り出す前に両手でラウラの目を隠した俺は、息を吐いてから親父を睨みつける。

 

 こ、この馬鹿親父ッ! ラウラにトラウマが出来たらどうするんだよッ!?

 

「ふにゃあっ!? た、タクヤ、何も見えないよぉ………」

 

「み、見ない方が良いよ……」

 

 ボウイナイフでゴブリンの筋肉を切り裂き、血管を断ち切ってから骨を鷲掴みにする親父。骨を引っ張りながら軟骨に刃を当てて少しずつ切り、血まみれの骨をゴブリンの剛腕の中から少しずつ取り出していく。

 

 グロ過ぎる………。ラウラが見たら大泣きするぞ。

 

「ねえ、パパは何をしてるの? ぐちゃぐちゃって聞こえるけど………血の臭いもするし………」

 

「な、ナイフを弄ってるだけだよ」

 

 冒険者になったらこうやって素材を取らないといけないのかよ……。外殻や鱗だったら簡単に取れそうなんだが、骨とか内臓はこうやって取り出さないと駄目なのか。

 

 俺はラウラの目を抑えながら息を呑み、骨を取り出す親父を見守っていた。

 

 

 


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