異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤVSリキヤ

 

 モリガンは、世界最強の傭兵ギルドと言われている。支部すら持たぬほど小規模で、本部の警備も無人兵器に依存しているほどの規模だが、そのメンバーの戦闘力は1人で騎士団の一個大隊に匹敵すると各国から評価されている。

 

 その傭兵たちの頂点に立つのが――――――俺たちの父である、リキヤ・ハヤカワだ。

 

 冒険者になるために情報を集めていた頃は、『ハヤカワ』というファミリーネームのせいなのか、よく親父たちの活躍を耳にしていたし、母さんたちからも親父の活躍を聞かされた。商人とか冒険者たちの噂話はさすがに誇張し過ぎだという話もあったけど、親父と共に戦った母さんたちから聞いた親父の本当の戦果は、まさに怪物と言っても過言ではない。

 

 〝狩った”転生者の人数は、俺たちが10歳の時点で2000人を超えており、更に最強の吸血鬼として知られているレリエル・クロフォードを単独で撃破したという。

 

 あらゆる転生者を狩り続ける、最強の転生者(怪物)。現時点ではこのリキヤ・ハヤカワこそがこの世界で最強の存在なのではないだろうか。

 

 その最強の男から――――――――俺は、逃げ切らなければならない。

 

 俺を睨みつける銃剣付きのトレンチガン。その恐るべきショットガンを持つ男の瞳の鋭さは、銃剣の切っ先の鋭さを凌駕している。

 

 ここでこの男と戦う必要はない。もう鍵は手に入れているのだから、逃げ切るだけでいいのだ。あの海底遺跡でエリスさんと遭遇した時と似た状況だが―――――今、俺の周囲には仲間がいない。

 

 ラウラは狙撃準備をして待機している事だろう。ナタリアやカノンたちは、城の郊外からチャレンジャー2で援護砲撃を繰り返している。実質的に、この男からは俺だけで逃げ切らなければならない。

 

 親父の装備はトレンチガンとスコップ。ホルスターの中にはハンドガンらしき武器も収まっているが、コートの裾のせいでどんな銃なのかははっきりと見えない。

 

 こっちの武器は隠密行動を前提に選んだ武器ばかりだ。メニュー画面さえ開ければすぐにいつもの武器に切り替えられるんだが………そんな暇があるとは思えない。何しろ、相手は最強の転生者だ。レベルが自分よりも上の転生者を容赦なく葬り、数多のクソ野郎を〝駆除”することによってこの世界を密かに守り続けてきた男なのだ。俺たちが生まれる前から戦い続けているこの男が、その隙を見逃すとは思えない。

 

 俺の得物はソードオフ・ショットガン。しかも2発しか装填できない水平二連タイプである。それに対して親父のトレンチガンは弾数が多いし、しかも『スラムファイア』と呼ばれる高速連射が可能なのである。

 

 スラムファイアとは、トリガーを引きっ放しにしつつハンドグリップを引く〝ポンプアクション”を繰り返すことで、まるでセミオートマチック式の銃のように散弾を連射する射撃方法である。実際にトレンチガンは第一次世界大戦と第二次世界大戦の接近戦で、その威力と凄まじい連射速度で猛威を振るっている。

 

 銃身を切り詰めたとはいえ、向こうの方が散弾は拡散し辛い。それゆえに射程距離も長い。しかし俺の銃は銃身をかなり切り詰めているため、散弾をぶちかますにはかなり距離を詰めなければならない。

 

 ハンドガンやアサルトライフルで応戦するべきだろうかと思った瞬間――――――悩みつつ睨み続けるだけだった俺に、ついに親父が先制攻撃を開始した。

 

「!」

 

 ぴくりと親父の人差指が動いた瞬間、俺は右へと思い切りジャンプして、飾られている鎧の陰へと飛び込んだ。トレンチガンの銃声が広間に轟き、発射された散弾が空気を食い破る。

 

 ハンドグリップを引く音と、排出された薬莢が落下する音が聞こえてきた。これで親父のショットガンには、もう2発目の散弾が装填されている。トリガーを引くだけで、再び獰猛な散弾が襲い掛かって来るのだ。

 

 片方のショットガンをホルスターへと戻し、大慌てで腰のホルスターからPL-14を引き抜く。サプレッサーを外してほんの少しだけ軽量化させたそれを鎧の陰から突き出すと、反対側でショットガンを構えている親父に向かって連射した。

 

『マイホームよりヘンゼル、応答して』

 

「どうした!?」

 

『状況は!?』

 

「パパと交戦(親子喧嘩)中!」

 

 鎧の陰から飛び出し、ジャンプ中に連続でトリガーを引く。今度は牽制ではなく、命中させることでダメージを与える目的での攻撃である。だから連射で怯ませるのではなく、命中させるためにしっかりと照準を合わせていた。

 

 だが――――――ドットサイトのカーソルの向こうには、親父の姿がなかった。黒いコートを身に纏った恐ろしい赤毛の男の姿が、見当たらない。

 

 猛烈な威圧感を感じた俺は、はっとしながら銃口をそちらへと向け、トリガーを引いていた。その威圧感を発していた男の正体は、やはり俺の親父だった。俺が射撃の目的を切り替えたことを察し、トリガーを引かれる前に素早く回避していたのである。

 

 普通の転生者ならば、相手とのステータスの差が大きければこんな戦い方はしないだろう。一般的に転生者同士の戦い方では、自分の防御力のステータスを相手の攻撃力のステータスが下回っている場合、銃弾は命中しても皮膚を打ち据えるだけだし、剣戟が命中しても斬られることはない。痛みはあるけれど、致命傷になることはないのだ。だから転生者は相手のステータスが自分よりも低いと理解すると、全く回避をせずにステータスと能力に頼り切った〝だらしない戦い方”をする。

 

 しかも親父の場合、外殻で弾丸を弾く事も可能だ。親父ほどの反射速度ならば、マズルフラッシュを目にしてから外殻を生成しても十分に弾丸を防御できるだろう。

 

 だが、親父は外殻を使わない。第一、防御力には頼らない。

 

 相手の攻撃を見切り、全て躱すつもりなのだ。

 

「くっ!」

 

『傭兵さん………? ヘンゼル、傭兵さんと戦ってるの!?』

 

「ああ! 逃げたいところだが、逃げる隙がない!!」

 

『そんな………!』

 

 ナタリアが絶句すると同時に、親父に向かって撃ち続けていたPL-14のマガジンが空になる。ブローバックしたまま動かなくなったスライドを一瞥して舌打ちしつつ、空になったマガジンをグリップの中から切り離し、新しいマガジンを装着する。

 

 再びハンドガンをぶっ放そうとしたが――――――その時、親父の目つきが更に鋭くなった。

 

 何かを察知したのだろう。その目つきを目にした瞬間、俺はいつも一緒にいる姉の目つきを思い出していた。ラウラはエリスさんに似ているとよく言われる少女だけど、戦闘中の彼女はエリスさんよりも親父に似ている。あの鋭い眼つきも、何かを察知した時の彼女と同じだった。

 

 親子なのだから、当然だろう。ラウラはエリスさんと親父の間に生まれた娘なのだから。

 

 唐突にハンドグリップから手を離し、トレンチガンを片手で持つ親父。ポンプアクション式のショットガンを装備している以上、片手で撃つことは出来ても、同じように片手でポンプアクションをすることは困難だ。それゆえに、ポンプアクション式やボルトアクション式の得物は、両手で使用することが鉄則なのである。

 

 親父のような百戦錬磨の傭兵が、その鉄則を無視するわけがない―――――。

 

 すると、親父はその左手をホルダーの中のスコップへと伸ばしていた。取っ手を掴んで勢いよく引っ張り、そのまま思い切り振って折り畳み式のスコップを展開すると――――――それを頭の高さまで振り上げつつ、身体を後ろへと逸らした。

 

 その直後、ガギン、とそのスコップに何かが激突し、煩わしい金属音を奏でる。一瞬だけ出現した火花が火薬の臭いのする広間を彩り、弾けた金属の発する臭いが火薬の臭いに混ざり合う。

 

「――――――やはり、ラウラも一緒だったか。お前たちは本当に仲が良いな」

 

「………!」

 

 馬鹿な………! 遠距離からの.338ラプア・マグナム弾の狙撃を見切っただと………!?

 

 いくら人間よりも身体能力が高いキメラとはいえ、遠距離からの狙撃を見切って回避するのはほぼ不可能だ。しかもラウラは姿を消している。姿を消している状態の彼女は、親父でも発見するのは難しい筈である。

 

 これは最早、見切ったというよりは〝直感”なのだろう。長年戦場で戦い続けて身に着けた凄まじい感覚。激戦の真っ只中で研磨された感覚が、親父にラウラの狙撃を教えたのだ。

 

『み、見切られた………!?』

 

 無線の向こうから聞こえたのは、ラウラの驚愕する声。

 

 しかし、彼女の狙撃を見切ってスコップを使って防御しつつ回避したとはいえ、いくら軍用のスコップでも.338ラプア・マグナム弾の貫通力を撥ね退けるほどの防御力を持ち合わせている筈はない。よく見てみると、親父が手にしている折り畳み式の軍用スコップは、ラウラの弾丸に貫通されており、漆黒の表面には風穴が開けられていた。

 

 あくまであのスコップは、弾丸を阻むために盾にしたのだろう。弾き返す目的ではなく、弾丸を遮ることによって自分に着弾するまでの時間を遅延させ、その隙に身体を逸らして回避するためにスコップを使ったに違いない。

 

 だが、何にせよ狙撃を見切って回避するというのは、信じがたい離れ業としか言いようがない。

 

 これがモリガンの傭兵の力か………!

 

「くそったれ!」

 

 ハンドガンをホルスターに戻し、ソードオフ・ショットガンを引き抜きつつ今度は距離を詰める。銃剣を取り付けて銃身を切り詰め、接近戦に特化したトレンチガンを持っている相手に対しては無謀な先鋒と言えるかもしれないが、今の親父は肝心なトレンチガンから片手が離れている。12ゲージの散弾ならば、キメラの外殻でも防御は可能だ。そして片手が離れている以上、ポンプアクションで次弾を装填するのは困難。つまり最初の一撃を防御すれば、親父は銃剣で応戦せざるを得ない!

 

 それに対して、こっちは水平二連型とはいえソードオフ・ショットガンだ。しかも複合銃に改造してあるから、1発ずつとはいえ.22LR弾も装填してある。銃剣はオスのキメラにのみ備わっている外殻付きの尻尾で受け流せばいい。

 

 念のため、今のうちに身体の正面を外殻で覆って防御しておく。

 

 その直後、左手でスコップを持っていた親父のトレンチガンが火を噴いた。早いうちに外殻で防御しておいてよかったと安心しつつ、俺は衝撃に殴打される準備をしながら散弾の群れの中へと飛び込んだ。

 

「ぐっ――――――」

 

 やっぱり、至近距離で喰らう散弾は強烈だ。もし外殻で防御していなかったら、今頃肉片と内臓を床にばら撒いて死ぬ羽目になっていた事だろう。

 

 いや、そんな強烈な攻撃を躊躇せずに息子に向かってぶっ放してきたという事は―――――俺が散弾を防御することは承知の上だったのか?

 

 まさか、もう見切られている?

 

 ぞくりとした直後―――――――親父が、トレンチガンの銃剣を床へと突き立てた。

 

 どうやって応戦するつもりなのか、俺はすぐに察した。今の射撃の後は、続けざまに散弾で射撃するのではなく、そのまま白兵戦を挑むつもりだったのだ。だからスコップを手放さずに、逆にショットガンの方を手放したのである。

 

 外殻の硬化を解除しかけていた頬を、軍用スコップの先端部が擦過した。もし外殻を解除していたら頬が切り裂かれていた事だろう。

 

「このッ………!!」

 

 辛うじてスコップの一撃を躱し、親父の胸板にショットガンの銃口を突きつける。自分の育ての親に実弾をぶっ放したくはないが――――――この親父は、実弾で撃たれたとしても死ぬことはないだろう。

 

 ごめん、親父。

 

 そのままトリガーを引こうとした瞬間―――――――いきなり、俺の身体が浮いた。

 

 えっ………?

 

 腹の辺りを何かに突き飛ばされ、俺の頭が下を向いてしまう。凄まじい衝撃に撃ち抜かれる中、俺はその衝撃の正体を知る羽目になった。

 

 いつの間にか、親父の左足が曲げられたまま持ち上げられていた。そしてその膝は、俺のみぞおちに正確にめり込んでいる。

 

 トリガーを引く直前に膝蹴りを喰らったのだと理解した瞬間、みぞおちで産声を上げた激痛が、瞬く間に全身にその痛みをばら撒き始めた。呻き声を上げようとしても、変な声しか出す事ができない。息を思い切り吸い込もうとしても、なかなか空気が吸えない。

 

 そういえば、何度も模擬戦やってた頃はみぞおちに強烈な攻撃喰らって、呼吸できなくなってたな………。

 

「動きは成長しているが――――――――判断力がまだ未熟だ、同志タクヤチョフ」

 

「………ッ!」

 

 次の瞬間、がつん、と猛烈な衝撃が頭に覆い被さってきたかと思うと、まるで金属の柱をスコップで殴りつけたかのような金属音が、吹っ飛ばされていく俺を見送ってくれた。

 

 大きく揺れる自分の頭。辛うじて、振り抜かれた直後のスコップの先端が見える。親父の野郎、あれで俺の頭を殴りやがったのか………。

 

『タクヤぁっ!!』

 

 ラウラ、やっぱり………この親父、強過ぎるよ………。

 

 床に叩き付けられてから、やっと息が吸えるようになってきた。必死に空気を吸い込んで呼吸を整えつつ、ホルダーの中からエリクサーを取り出して中身を全て飲み干す。

 

 くそ、俺はキメラの能力をフル活用してるっていうのに、親父はまだキメラの能力である硬化すら使ってないぞ………!

 

「タクヤよ、俺たちは怪物だ。………人間では絶対に打ち勝てないから、奴らは俺たちの事を怪物と呼ぶ」

 

 辛うじて立ち上がった俺の目の前で、親父はスコップを肩に担ぎながら言った。

 

「そして――――――その怪物でも倒せないから、俺は〝魔王”と呼ばれるのだ」

 

 人間では、怪物を倒す事ができない。どんな武器を造り出し、どんな魔術を身に着けていても、怪物を打ち倒すことは出来ないのだ。だからこそ人々は大昔からそのような存在を怪物と呼び、恐れ続けてきた。

 

 その怪物でも倒せないからこそ―――――『魔王』。

 

 親父は何年も前から、その魔王になっていたのだ。

 

 ただの称号ではない。レリエル・クロフォードを倒した時から、正真正銘の魔王になっていたのである。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 船の名前

 

騎士団長「ハヤカワ卿、実は近々クイーン・シャルロット級の3番艦と4番艦が進水する予定なのですが」

 

リキヤ「ええ、聞いていますよ」

 

騎士団長「はい。それで3番艦の名前は決まったのですが、4番艦の名前が決まっていなくて………」

 

リキヤ「なるほど。名前を一緒に考えてくれというわけですな?」

 

騎士団長「いえ………あなたも我が国に貢献してくださっているという事で、女王陛下がぜひ4番艦にハヤカワ卿の名前を――――――」

 

リキヤ「!?」

 

エリス「あらあら、戦艦にダーリンの名前が付くのね!?」

 

エミリア「うむ、素晴らしい事ではないか」

 

リキヤ「あのー………は、恥ずかしいので他の人の名前にしてもらえませんかね?」

 

騎士団長「女王陛下からのご命令なのですが………」

 

リキヤ(くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 4番艦の名前が『リキヤ・ハヤカワ』になるだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?)

 

騎士団長「まあ、ハヤカワ卿のご意見も大切ですし………女王陛下には伝えておきます」

 

リキヤ「ああ、すいません」

 

騎士団長(仕方ない。名前は『クニャージ・リキノフ』にしておこう)

 

 完

 

 


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