異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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九稜城への潜入作戦

 

 新政府軍と九稜城の偵察が終わったら、森の中でナタリアたちと合流する手はずになっていた。無線で彼女たちの現在位置を確認しながら倒木を飛び越え、巨木の幹をすり抜けて森の中へと入っていくと、少しだけ広くなっている場所に仲間たちが隠れているのが見えた。

 

 彼女たちは警戒していたのか、俺たちの足音を聞くと素早くサイガ12の銃口を向けてきたけど、俺とラウラだということに気付くと慌てて銃口を下ろしてくれた。敵に撃ち殺されるのは許容できる死に方だが、仲間に撃ち殺されるのはごめんだ。俺を撃った仲間を永遠に後悔される結果になってしまう。

 

 緊張とストレスのせいなのか、もし殺されるならラウラに殺してほしいと考えてしまった俺は、頭を右手で軽く叩いてから仲間たちに手を振る。

 

「早かったな、ナタリア」

 

「まあね。………どうだった?」

 

「厄介だ」

 

 まず最初に、俺とラウラが偵察してきた情報を彼女たちに伝えよう。

 

 俺の短い言葉と表情で、ナタリアは俺たちが手に入れてきた情報が悪いものばかりだという事を察したらしく、目を細めながら「何があったの?」と報告を促す。

 

「新政府軍はもうエゾに上陸してる。………しかも、オルトバルカ王国の最新型の装甲艦までご一緒だ」

 

「そ、装甲艦………!?」

 

 装甲艦の戦闘力は、今までの帆船の比ではない。

 

 魔物の突進であっさりと真っ二つにされていた帆船とは異なり、装甲艦は船体を堅牢な装甲で覆われている。しかも最新鋭の高出力型フィオナ機関の採用により、船速は帆船を遥かに上回る。大型の魔物が襲いかかってきても、十分に回避できるほどの速力だ。

 

 しかも――――――大砲やガトリング砲のような兵器を搭載していた。

 

 従来の帆船の武装は、大型のバリスタ程度のお粗末なものばかりだった。それで敵の船を攻撃しつつ時間を稼ぎ、一緒に乗り込んでいる魔術師が魔術で敵の船を撃沈するという戦法が取られていたのである。それゆえに火力は極めて貧弱で、魔術師がいなかった場合は敵の船の撃沈は不可能と言われている。

 

 しかし、もしあれが大砲だった場合は、魔術師がいなくても砲撃の知識がある乗組員が健在である限り敵艦を撃沈するのは容易だ。しかも連射速度に優れるガトリング砲を搭載しているという事は、対空戦闘能力も高いということを意味する。

 

 全ての性能で帆船を上回っている上に、設計や機能が科学によって合理化されているのである。あの装甲艦ならば、1隻でも帆船の大艦隊を殲滅することは造作もないだろう。

 

 装甲艦や戦艦とは、今の時代では最強の兵器の1つなのである。

 

「圧倒的な数の歩兵で前進し、装甲艦の砲撃で援護する作戦なんだろうな。ちなみに、歩兵の人数は新政府軍と騎士団を合わせて10000人前後だ」

 

「嘘でしょ………? 九稜城の守備隊は4000人くらいだったのに………!」

 

 10000人対4000人。装備の性能でも、人数でも最早旧幕府軍は劣勢だった。

 

 だが、俺が仲間に報告した情報はまだ序の口である。―――――本当に厄介な敵が、その10000人の先頭に立つ可能性があるのだから。

 

「しかも――――――俺たちの親父と母さんもいた」

 

「!?」

 

「リキヤおじさまが………!?」

 

 双眼鏡で、確かに確認した。

 

 王国の装甲艦の甲板に、母さんと親父がいたのだ。しかもどちらも見慣れたスーツ姿ではなく、モリガンの制服姿だった。

 

 モリガンは極めて小規模な傭兵ギルドで、一般的なギルドが小規模でも20人前後の人員を堅持しているのに対し、モリガンのメンバーは10人未満。当然ながら支部もなく、現在はエイナ・ドルレアンに本部があるだけだ。

 

 しかもその本部を警備する歩哨を用意できるほどの人数もいないため、警備は無人兵器に依存しているという有様だ。そんな規模で本当に世界最強の傭兵ギルドだなのかと疑いたくなるが、その戦果を見てみると人員不足は最強の傭兵たちを生み出すための対価だったのだと思えてくる。

 

 まず、設立してからすぐにたった2人で無数の魔物を殲滅。しかも、作戦に参加した若き日の親父と母さんは無傷で、騎士団が戦場に向かった頃には穴だらけの魔物の死体が転がっていただけだったという。

 

 さらに、あのレリエル・クロフォードと交戦している。ヴリシア帝国での戦闘では撃破することは出来なかった上に、メンバー全員が死にかけるという大損害だったようだが、レリエルを撃破寸前まで追い詰めて撃退したという。相手の戦闘力を考えれば、これは大勝と言える大戦果だ。

 

 そして、ネイリンゲンに侵攻してきたジョシュア率いるラトーニウス騎士団を、モリガンのメンバーだけで迎撃して守り抜いている。

 

 これほどの大戦果を常にたたき出す傭兵ギルドのメンバーたちは、1人で騎士団の一個大隊並みの戦闘力を持つと各国から評価されており、全盛期はまさにあらゆるクライアントから引っ張りだこ状態で、他の傭兵ギルドには全く仕事が回らなくなった時期があるほどだったという。

 

 そのメンバーの中でも特に戦闘力が高いのが、俺たちの両親たちである。

 

 特にリキヤ・ハヤカワはあのレリエル・クロフォードを討伐し、数多の転生者を葬り続けている最強の転生者なのだ。

 

「勝ち目がないじゃない………!」

 

「旧幕府軍は? いきなり九稜城で決戦を挑むつもりか?」

 

 親父と戦わなくてもいい。俺たちは鍵を手に入れて逃げるだけでいいのだから。

 

 絶望するナタリアを諭す代わりに、俺は彼女にも手に入れた情報を報告するように促す。

 

「いえ、いきなり決戦ではないわ。九稜城の前にある『フタマタグチ』と『マツマエグチ』の二ヵ所に兵力を展開して、そこで新政府軍を迎え撃つつもりみたい。もう兵力はそこに展開している筈よ」

 

「つまり、九稜城の守りはある程度手薄になっているという事だな?」

 

「そういう事になるわね。………すぐ仕掛ける?」

 

「もちろん」

 

 確かに親父と戦う事になれば勝ち目はない。はっきり言って、親父の戦闘力はエリスさんの倍以上だ。エリスさんに勝たなければ、親父に勝利することは不可能である。

 

 だが、戦う必要はない。大仕事を引き受けている傭兵はクライアントとの契約の影響でなかなか身動きが出来ないものだ。契約を破ればギルドの信用は失墜するし、それ以前に自分の仕事を投げ出すという事にもなる。

 

「―――――フタマタグチとマツマエグチの守備隊には粘ってもらおう。その隙に俺たちは九稜城へと潜入し、新政府軍の到着前に鍵を手に入れる」

 

「そうすればおじさまとも戦わずに済むということですわね?」

 

「そういう事だ。……潜入は少人数の方が良いだろうな」

 

 強敵と戦う時は、仲間と連携した方が良い。現代の魔物との戦い方でも味方との連携は鉄則と言われている。しかし、潜入の場合はその鉄則はむしろ足枷となる。

 

 少人数の方が目立たない。場合によっては、むしろ単独の方が動きやすいこともある。しかし連携を全くしないわけではなく、潜入する者以外にはあくまで〝間接的なサポート”をお願いする予定だ。

 

「人数はどうする? とりあえず俺は潜入担当に立候補するが………」

 

 すると、ナタリアはため息をついた。何か呆れさせるようなことを言っただろうかと思っていると、彼女は腰に手を当てながら苦笑する。

 

「せめて2人で行きなさい。………まあ、あんたと立派に連携できるメンバーは1人しかいないけど」

 

 そう言いながら彼女がちらりと見た〝立派に連携できるメンバー”は………俺の傍らでミニスカートの中から伸びた尻尾を小さく振っていた、赤毛の少女だった。

 

 確かに、俺と言葉を交わさずに連携を取れるのは彼女しかいない。ナタリアやカノンたちと全く連携を取れないというわけではないのだが、幼少の頃から常に一緒に訓練を受けてきたラウラが一番連携が取れるというのは明白だった。だからナタリアは、ラウラを同行させようとしているのだろう。

 

「ラウラ、お願いね」

 

「了解、ナタリア大佐!」

 

 絶望的な状況だというのに、嬉しそうに笑いながらナタリアに敬礼するラウラ。場違いな表情だけど、彼女の笑顔を見た瞬間に絶望が薄れ始めたのが分かった。

 

 俺だけでなく、他の仲間もラウラの笑顔を見て安心いたらしい。ナタリアはにやりと笑いながら軍帽をかぶり直し、倒木の上に座っていたステラもランタンの明かりの中で頷く。カノンも「ええ、お姉様が適任ですわ」と言って太鼓判を押してくれた。

 

「じゃあ、私たちは九稜城の外周でサポートをするわ。場合によってはチャレンジャー2での援護砲撃とか、陽動も考えてるんだけど………」

 

「陽動ねぇ………」

 

 フタマタグチとマツマエグチを守るために、守備隊が出払っているおかげで九稜城は手薄だろう。しかし、守備隊を全員出撃させたとは考えにくい。それに、仮にも九稜城は旧幕府軍の本拠地だ。仮設の駐屯地とは違って簡単に陥落させるわけにはいかないから、少なくとも主力部隊が戻って来るまで時間を稼げる程度の守備隊は残っている筈である。

 

 陽動を行えばその守備隊の注意を逸らすことは出来るだろう。しかし、そうすれば今度はナタリアたちが危険な状態にさらされる。いくら最新型の主力戦車(MBT)とはいえ、キューポラから爆弾を放り込まれて乗組員がやられれば動けなくなってしまうのだから。

 

 陽動を仕掛けるという作戦には賛成だが、たった3人でチャレンジャー2を操り、陽動という役目を果たせるだろうか。

 

「………あ、いいこと思い付いた」

 

「ふにゅ?」

 

 これなら目立つぞ。

 

 チャレンジャー2と同じくイギリスの兵器で、第二次世界大戦中に設計された代物なんだが………絶対にこれは目立つ。

 

「よし、さっそく作戦を立てよう。それに潜入用の装備も用意しないと」

 

 メニュー画面を開きながら、俺はそう言った。

 

 作戦通りに行けば―――――親父が到着する前に鍵は入手できる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ開拓されていない森を抜けると、小ぢんまりとした市街地が見えてきた。オルトバルカやラトーニウスの街並みよりも小さく見えるのは、2階建てや3階建ての建物が殆どなく、1階建ての木造の建物ばかりで構成されているからだろう。劣勢の軍の本拠地という事もあるのか、活気は全くなく、通りに並ぶ露店には何も品物が並んでいない。店主たちもだるそうに近くに座り込むか、寝転んでいる状態だ。

 

 旧幕府軍に優先的に食料が提供されるため、市民たちには殆ど食料がいきわたらなくなっているのだろう。

 

 その小ぢんまりとした市街地の中心に―――――巨大な城が鎮座していた。

 

 周囲は堀に囲まれ、その堀の内側には分厚い城壁が用意されている。それは西洋の要塞と似通った建築様式だけど、その城壁の内側にある城の建築様式は前世の世界でも何度も見た〝東洋の城”だった。

 

「あれが九稜城か」

 

 旧幕府軍の本拠地である九稜城を双眼鏡でにらめつけた俺は、その天守閣を確認してから双眼鏡を下ろす。

 

 侵入できそうな場所は正面の門くらいで、それ以外では堀を泳いでから城壁をよじ登る羽目になりそうだ。後者はキメラの身体能力なら容易いから問題ではないんだが、やはり予想通りに城を警備するための最低限の守備隊は残っているらしく、正門の前には鎧に身を包んだサムライたちが薙刀を手にして警備している。

 

 幸い堀を渡るための橋は広いが―――――チャレンジャー2の重さに耐えられないのは火を見るよりも明らかだった。

 

 だから、チャレンジャー2は移動させない。街の郊外の森の中で待機させ、ここで固定砲台として支援砲撃してもらう。

 

 くるりと後ろを振り向き、砲塔の後部に腰を下ろす。既にモスグリーンの迷彩模様に塗装されているチャレンジャー2はかなり発見し辛くなっている筈だが、もう一押しするという事でカノンとステラが両サイドのスラット・アーマーに木の枝やツタを絡み付かせているところだった。

 

 作業する2人を見下ろしつつ、車外に出していたホットプレートの上からポットを拾い上げ、お湯を紅茶のティーバッグの入った迷彩模様のマグカップに注ぐ。少し間を置いてからティーバッグを取り出してストロベリージャムを少し入れ、マドラーでかき混ぜてから、そのマグカップを傍らで装備の点検をするラウラに手渡した。

 

「あっ、ありがとね」

 

「おう」

 

 自分の分もすぐに用意し、俺もストロベリージャム入りの紅茶を飲みつつ装備の点検を始める。

 

 今回の潜入は、俺とラウラの2人で行う。俺が潜入してラウラが狙撃で支援するという役割分担だ。だから俺の装備は銃身の短いアサルトライフルと、使いやすいハンドガンと、室内で戦闘になった際のソードオフ・ショットガンの3つとなる。

 

 まずアサルトライフルは、ロシア製のA-91というライフルを選んだ。ラウラの使うグローザの改良型でもあり、まるでフランス製アサルトライフルのFA-MASを更にコンパクトにし、銃身の下にグレネードランチャーを取り付けたような外見をしている。

 

 本来ならば7.62mm弾を使用するライフルなんだが、今回は潜入だし、反動もできるだけ小さい方が使い易いという事で使用する弾薬は5.56mm弾へと変更している。交戦する距離も近距離になるだろうという事と、遠距離の敵にはラウラに対処してもらうという事でキャリングハンドルの上に搭載したのはオープンタイプのドットサイトのみ。銃口にはサプレッサーを装着してある。

 

 サイドアームとなるのは、同じくロシア製ハンドガンのPL-14。9mm弾を使用するバランスの良いハンドガンだ。外見はソ連軍が採用していたトカレフTT-33を更にがっちりさせたような形状をしている。

 

 こちらにもドットサイトとサプレッサーを装着しており、念のためにライトも装着してある。

 

 室内戦を想定して持ち込むことにしたソードオフ・ショットガンは、もちろん前に海底神殿でドロップした水平二連型のショットガンだ。有鶏頭と呼ばれるタイプで、銃身の後部からは上にでっかい撃鉄(ハンマー)が突き出ている。グリップの形状は一般的なピストルグリップではなく、マスケットを思わせるストレートグリップと呼ばれる古めかしいデザインだ。ちなみに、片手での射撃を想定しているのでイングリッシュ先台という方式を採用している。

 

 更にこの銃は複合銃と呼ばれるタイプの銃で、2つの銃身の下に1つだけ小さな銃身が搭載されている。そこにも小型の弾丸である.22LR弾を1発だけ装填できる仕組みになっているらしく、それのトリガーはショットガン本体のトリガーを覆うフィンガーガードの後部にある。つまり、グリップを握ると中指の位置に.22LR弾発射用のトリガーがあるということだ。

 

 そのソードオフ・ショットガンを2丁腰の後ろのホルスターに突っ込み、マグカップに残っていた紅茶を全て飲み干した。香ばしさと甘酸っぱさが混ざった香りを放つマグカップを砲塔の上に置き、ラウラの装備も確認する。

 

 彼女は狙撃での援護を担当するため、スナイパーライフルを装備している。今回の作戦のために選んだのは――――――イギリス製スナイパーライフルの、L96A1というライフルだ。

 

 命中精度が極めて高い優秀なボルトアクション式のライフルであり、サムホールストックとマガジンが特徴的な銃である。スコープが見辛いというラウラのためにスコープを取り外し、代わりに照準用の大型ピープサイトを搭載しておいた。それと、やはり潜入なのでサプレッサーも装着している。使用する弾薬は猛烈なストッピングパワーと優れた命中精度を誇る、スナイパーライフル用弾薬の代名詞でもある.338ラプア・マグナム弾だ。

 

 連射し辛いスナイパーライフルをメインアームとするラウラのために、サイドアームは対照的に連射しやすく軽量なマシンピストルを選択した。今回の彼女のサイドアームは―――――――ロシア製マシンピストルの、スチェッキンである。

 

 マカロフの銃身を伸ばしたような外見のマシンピストルで、本来ならば9×18マカロフ弾を使用するんだが、俺のサイドアームと弾薬を合わせるという事で9×19mmパラベラム弾を連射するように改造してある。銃身を延長して命中精度を高めたほか、ドットサイトとレーザーサイトを取り付けており、更にこいつの木製ホルスターをグリップに装着することでSMG(サブマシンガン)としても機能するようにしてある。フルオート射撃を想定しているため、マガジンは通常のマガジンではなくドラムマガジンを小型化したような〝スネイルマガジン”に変更した。

 

 余談だが、スネイルマガジンと木製の銃床を持つドイツ製のハンドガンにルガーP08ランゲ・ラウフと呼ばれる銃がある。

 

「この紅茶美味しい………。ふふっ、また飲みたいな」

 

「じゃあ、倭国を無事に出たらいくらでも淹れるよ」

 

「うん、お願いね♪」

 

 尻尾を振りながら紅茶を飲み干したラウラは、微笑みながら俺の頬にキスをすると、砲塔の側面に立て掛けておいたL96A1を拾い上げて背中に背負った。傍らに置いてあった漆黒のベレー帽をかぶり、息を吐いてから目つきを鋭くする。

 

 彼女はエリスさんに似たようだが、親父からはしっかりと獰猛な部分も受け継いでいる。このように目つきが鋭くなった時の彼女の雰囲気は、まさに親父と同じだった。

 

 フタマタグチとマツマエグチを守備する旧幕府軍がどれだけ粘ってくれるかは不明だが、出来るだけ粘ってくれることを祈ろう。その間に鍵を手に入れて逃げられればいいんだが、新政府軍には親父と母さんがいる。あまり長時間粘るのは不可能な筈だ。

 

 だから、その前に鍵を手に入れなければならなかった。

 

 

 


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