異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
潜水艇になったような気分を感じながら、再び息を吸い込んで海の中へと潜る。遠退いていくカモメたちの鳴き声と、段々と変質していく波の音。夏だというのにひんやりした海の中では海藻とイソギンチャクが、まるで俺たちに手を振るかのように揺らめいている。
海藻の森の間をすり抜けていくあの小さな魚は何だろうか? 虎のように黒と黄色の縞々模様で、形状はサメをイワシくらいに小さくしてしまったような姿をしている。獰猛な魚ではないのか、俺たちを見つけてもむしろ怯えて海藻の中へと潜り込んでしまったから、肉食ではないのだろう。
あまり島から離れ過ぎると今度は海中の魔物のテリトリーに入り込んでしまう可能性があるので、適当なところで引き返すつもりだ。ステラはがっかりしてしまうかもしれないが、これから海は何度も訪れることになるだろうし、もっと彼女が見たことのないような光景を目にするかもしれないのだから。
少し深めに潜り、海藻とイソギンチャクの真上を通過する。フジツボが付着している岩の傍らを通り抜け、海藻の中から浮上してきた小さな魚たちと並走しつつ、ステラが息継ぎをしたがるまで泳ぎ続ける。
ちなみに俺とラウラの肺活量は人間を上回っているため、それなりに長い時間潜っていることが可能だ。これもサラマンダーの遺伝子の恩恵なんだろうか。
とんとん、と再びステラの小さな手が俺の背中を叩く。そろそろ彼女は息継ぎがしたいらしい。
自分の胸を抑えながら合図する彼女に向かって頷いた俺は、小魚の群れとの並走を止めて浮上を始めた。
そういえば、いつか潜水艦とかも生産してみたいな。さすがに乗組員をそろえるのは大変なので、カスタマイズで莫大なポイントを消費して機関部とか魚雷発射管などを自動化するしかなさそうだけど。
ちなみに、親父たちも昔に経験した大規模な戦闘で、駆逐艦や空母を投入した際にはそうやって可能な限り自動化し、人手不足を補うために乗組員を削減していたという。俺が今まで貯めてきたポイントの倍以上を使う大規模なカスタマイズを、よく実現できたものだ。
その際に親父たちが投入した戦力は、近代化改修したエセックス級空母1隻、タイコンデロガ級巡洋艦1隻、アーレイ・バーク級駆逐艦2隻、ワスプ級強襲揚陸艦3隻だという。エセックス級空母以外はアメリカ軍が使用している水上艦ばかりで、そのエセックス級はアメリカ軍が第二次世界大戦で使用していた旧式の空母だ。しかも自動化だけでなく近代化改修までしているのだから、どれだけポイントを消費したんだろうか。
そんな艦隊を準備するポイントは俺にはないが、旧式の潜水艦くらいなら辛うじて生産できるかもしれない。
俺の能力で生産できる兵器や武器は、現代兵器の場合は実際のその兵器のコストも反映されているらしい。旧式の兵器や安価な武器ならば低いポイントで生産できるというわけだ。
だから旧式の潜水艦をいつか作ってみたい。個人的にはフランスの『スルクフ』を作ってみたいな。潜水艦なのに20.3cm連装砲を搭載しているという奇妙な潜水艦だ。
大型の潜水艦の甲板の上に巨大な連装砲が搭載されている船体を思い浮かべつつ、ステラをコアラのように背負ったまま再び海面へと浮上する。片手で顔を拭きながら後ろを振り返ってみると、いつの間にか島から予想以上に離れていた。浜辺の上ではナタリアがこっちに向かって手を振っているのが見える。
やばいな、そろそろ戻ろう。あまり島から離れ過ぎると本当に魔物に襲われるかもしれない。
武器を持っているなら対抗できるが、さすがにステラを背負ったままキメラの能力だけで応戦するのは自殺行為だ。
「ステラ、そろそろ戻ろう」
「そうですね。残念ですけど………離れ過ぎるのは危険です」
生き残ったサキュバスの少女を背負い、あの砂浜を離れた時はこんなに海の水は冷たかっただろうか? 島から離れたことに気付き、海水の温度も下がっているような気がすると思いつつ島に向かって泳ぎ続ける。
俺の背中に乗りながら、ステラは何度か後ろに広がる大海原を振り返り、ため息をついていた。やはり、もっと海の中を見てみたかったんだろうか。
まあ、このまま泳いで戻っても面白くないだろう。ステラのためにサービスしてあげるとするか。
「ステラ、もう少し潜るか?」
「い、いいんですか?」
「ああ。帰り道だけどな。別の角度から海の中が見えるぞ」
「お願いします、タクヤ!」
目を輝かせながらそう言ったステラに「おう」と返事をしてから、息を吸い込む。ステラも俺と同じく息を吸い込んでから、息を吸い終えたという合図に肩をトントンと叩いた。
頷いてから再び海の中へと潜り込み、どんどん深く潜っていく。海底で揺らめく海藻の群れに沈み込んでしまうほど潜航し、口や鼻から微かに出た気泡を海中に刻みつけながら、サキュバスの少女のために海の中を泳ぐ。
すると、再び海藻の中から小さな魚たちが浮上してきて、俺とステラの隣に集まり始めた。俺たちを外敵ではなく魚の仲間だと判断してくれたのだろうか? ほんの少し上へ浮かぼうとしても、その魚たちは俺たちについてくる。
おいおい。このままついて来たら、ラウラたちに釣り上げられて夕飯にされちまうぞ。
俺とステラの周りに集まってきた魚たちを見まわしながら、俺は彼女が息継ぎしたがるまで魚たちとの並走を続けた。
久しぶりの海水浴を堪能しているうちに、蒼空が段々と赤くなり始めていた。今夜出発するわけではなく、ここで一泊してから倭国へと向かう予定になっているため、夕食を用意しなければならない。
もちろん、食材に使うのは昼間のうちにここで調達した食材だ。調達する事ができたのは野草、キノコ、鶏肉、魚、木の実の5種類だ。中にはサバイバルで口にしたことのある食材もあったし、それ以外の食材もステラが釣った魚を除いて全て図鑑に載っていたものばかりだったから、毒がないのは分かっている。
40ポイントで生産した包丁を使い、手作りのまな板の上で野草やキノコなどの食料を次々に切り刻んでいく。小さい頃から母さんに料理を教えてもらっていたし、前世でも料理をやっていた経験はあるので、食材を包丁で切るのはお手の物だ。
それに俺は切り裂きジャックだからな。料理する時に切り裂きジャックって名乗ると、かなり善良な切り裂きジャックになってしまう。ただのコックじゃないか。
「ふにゅ、お姉ちゃんも手伝う?」
「え? あー、大丈夫。ラウラは休んでて」
「大丈夫なの?」
「おう」
………ラウラの料理は、かなり下手である。
小さい頃に料理を作っている俺の真似をして、彼女も夕飯を作った事があった。作ったメニューはカボチャのシチューで、自分たちの愛娘が一生懸命に料理を作ったと聞いた親父や母さんたちは大喜びしたんだが………鍋の中身を見た瞬間、全員絶句していた。
カボチャのシチューは、普通ならば黄色かオレンジ色の美味しそうなシチューの筈なんだが、ラウラが作ったカボチャのシチューは、まるで色んな化学薬品を何種類も混ぜたかのようにどろどろしていて、何故か紫色に染まっていたんだ。
しかも、その危険なシチューを見て絶句している間に鍋は徐々に溶けていくし、薄紫色のガスみたいな気体もどんどん鍋の中から漏れ出ていた。でも、せっかくラウラが頑張って作ったのだから残すわけにはいかないと思ったのか、親父は「おお、美味しそうじゃないか! ラウラはお母さんみたいに料理が上手なんだな!」と全く演技とは思えないほど嬉しそうな声で言い、全て1人で完食してしまったのである。
明らかに食ったら即死しそうなほど危険な料理だったんだが、あの親父は娘を悲しませないために、そのカボチャの猛毒シチューを完食したんだ。さすがにラウラにばれないようにこっそりと回復用のエリクサーを呑みながらシチューを食べていたけど、あの時の親父はかなり立派だった。
もちろん、次の日から3日間も高熱を出していたけどな。
ちなみにエリスさんもかなり料理が下手で、結婚する前から親父はエリスさんの料理を残さずに食べていたという。無論、傍らには回復用のエリクサーを常に用意していたらしい。
さすがに俺は親父のようにラウラの料理に耐えられるような胃袋は持っていないので、彼女に料理をさせるわけにはいかない。もし彼女に料理を作らせたら、倭国に行く前に死んでしまう。
「タクヤ、ご飯はまだですか?」
「おう、もう少し待っててくれ」
切り刻んだ野草とキノコをまな板の上に置いたまま、俺はもう一つのまな板の上にステラの釣ったでっかい魚を置いた。内臓を取り出してから骨ごとぶつ切りにし、切り身からできるだけ骨や小骨を取っておく。後はその切り身を、塩と水を入れておいた岩の鍋の中へと放り込み、指先から炎を出して薪に火をつける。
そのうちに他の魚もまな板の上に乗せ、同じように内臓を取り出しておく。ステラが釣ったでっかい魚に比べれば小さい魚ばかりだから、骨や小骨を取り出す必要はないだろう。持ち歩いている荷物の中から塩が入っているケースを取り出してふりかけ、木で作った串を刺してからその魚たちを日の近くに刺しておく。
あとはさっき切り刻んだ野草とキノコを鍋の中に入れて、岩を削って作った無骨な蓋を閉める。このまま待てば塩味のスープになる。白米が食べたいところだが、さすがにここで白米は調達できないので諦めよう。
「さてと、この木の実はデザートだな」
俺とナタリアが収穫してきたこの木の実は、『ラトーニウスパイン』という名前がついている小型の木の実だ。見た目は小さなヤシの実に見えるが、味はパイナップルに似ているという。ラトーニウス王国の南部ではよく売られているらしく、母さんやエリスさんも小さい頃はデザートに食べていたらしい。
とりあえず、そのまま氷水に入れて冷やしておこう。真水はラウラと俺の能力を組み合わせればいくらでも生成できるので、使い過ぎても問題はない。
既にラウラに用意してもらった氷水を入れた木製のボウルの中に、収穫したパインを洗ってから放り込む。スープと魚の塩焼きを完食し終えた頃には、十分に冷えている筈だ。
「本当に料理が得意なのね」
「まあね。母さんに教わったんだけど」
前世でも経験してるんだけどな。喜んでくれたのは俺の母さんだけで、あのクソ親父は礼を言うどころか「不味い」って言っていつも残してたけど。
母さんに褒められた時は本当に嬉しかったなぁ………。転生してからこっちの母さんにも褒めてもらった時は、前世の事を思い出して泣きそうになってしまった。
「ねえ、後で私に料理を教えてくれない?」
「え? だってナタリアも十分上手いだろ?」
「いいじゃん。タクヤのを見てると勉強になるし」
俺の料理は母さんから教わった料理ばかりなんだけどなぁ……。
苦笑いしつつ、木を削って作ったおたまを持って静かに鍋の蓋を開けてみる。さすがに岩で作ったから素手で触れば火傷してしまうので、一応片手だけは外殻で覆っておく。やっぱりキメラの身体って便利だな。真っ赤になった鉄に触れてもあまり熱さを感じないほどの対価性と耐熱性の外殻は素晴らしい。
沸騰し始めている鍋の中におたまを入れ、少しだけ塩味のスープを味見してみる。冷ましてから口の中に含んでみると、魚やキノコの風味を纏った薄い塩の味が口の中へと染み渡ってきた。
少し薄かったかなと思いつつ首を傾げ、塩の入ったケースを取り出す。
非常食ばかり食べていたから塩はまだ余ってるけど、あまり使い過ぎるのは拙いだろう。でも、倭国でも補充できるだろうし、場合によっては途中にある『ジャングオ民国』に立ち寄るのもいいだろう。
ジャングオ民国は極東にある大国の1つで、大昔から倭国との交流を行っている国だ。倭国が鎖国している間も細々と交流は続いていたらしい。
そのジャングオ民国には、ある転生者がいる。
かつて親父たちと共に転生者たちに反旗を翻し、このラトーニウス海にあると言われているファルリュー島の死闘に参加した、珍しい中国出身の転生者である。
その転生者の名前は『
現在では残存部隊を引き連れて
何度かハヤカワ邸にやってきたこともあるので、俺も李風さんを見たことはある。ラウラは覚えているだろうか。
「………これくらいでいいかな」
塩味を調整し終えた俺は、もう一度鍋の蓋を閉じると、おたまを近くに置いてから暗くなった空を見上げた。
仲間たちが眠った後、いつも俺は眠らずに見張りをする役を担当する。仲間たちに夜中も1人で見張りをさせるわけにはいかないし、たまには静かな暗闇の中で考え事をしたいと思っているからなのかもしれない。
暗闇の中にいると落ち着くと感じるのは、昔からだ。
17年前からではない。もっと昔からである。そう、この異世界に転生する前からだ。クソ親父に虐げられ、痣だらけになっていたみじめな前世の頃から、1人で暗闇にいると落ち着くと感じていたのだ。
もう水無月永人(ビッグセブン)はクラスメイト達と共に死に、タクヤ・ハヤカワという別人に転生したというのに、暗闇の中で安心するこの感覚は変わらない。これ以外にも、前世の感覚はまだ残っている。
あの虐げられ続けていた嫌な前世に、未練が残っているかのように。
その感覚を感じる度に、前世の事を思い出してしまうのだ。
クソ親父に虐げられていた前世を――――――。
「チッ………」
もう、水無月永人は死んだ。そんな感覚は忘れてしまえ。
いつまでも残っている前世の残骸に苛立ちながら、俺は肩に担いでいたAN-94のグリップをぎゅっと掴んだ。もうこの世界は前世の世界ではない。名前や身体は変わり、両親も変わった。文化も前世とは全く違う。魔術や魔物が実在する異世界なのだ。
小さなランタンの光を睨みつけていると、そのランタンの周囲に浮かんでいた影の1つが小さく動いた。寝返りだろうと思いながらランタンを睨みつけていると、草むらの上に自分の荷物を置き、それを枕代わりにしていたナタリアがゆっくりと起き上がった。
瞼を擦りながらあくびをするナタリア。ツインテールではなく髪を下ろしているせいなのか、いつものしっかり者のナタリアとは雰囲気が違う。
少しぼさぼさになった金髪を直そうと白い指でなぞりながら、彼女はもう一度あくびをした。そのまま横になると思いきや、他の仲間を起こさないように静かに立ち上がると、アサルトライフルを担いで倒木に寄りかかってた俺の隣までやってきた。
「……眠くないの?」
「ああ、慣れてる」
見張りにも慣れたが、前世の残骸に苛立つのも慣れた。後者の理由はさすがに口にするわけにもいかないので、自嘲して誤魔化しつつランタンの光を見下ろす。
「そう………。ごめんね、いつも見張りさせちゃって」
「気にすんな。暗闇の中だと落ち着くんだよ」
「ふあ………」
もう一度あくびをしてから、彼女はまた瞼を擦った。眠気が消えてきたのか、段々と彼女の放つ雰囲気がいつもの雰囲気に戻り始める。
ぼさぼさになっている髪を手でなぞったナタリアは、息を吐いてから俺の近くに寄ってきた。男子にしては小さい俺の肩に、俺よりも小さなナタリアの肩が触れる。
「………あのさ、私も転生者ハンターになるって言ったわよね」
「ああ」
「………私もね、許せないの。ネイリンゲンを焼いたのも………転生者なのよね?」
「そうらしい」
「あの時………とても怖かったの。傭兵さんのおかげで助かったけど………まだあの時の夢を見るの。傭兵さんが助けに来てくれなくて、そのまま焼け死ぬ夢。………力を持つ奴らに虐げられるのって、あんなに怖いのね」
彼女はネイリンゲンが焼かれた時、親父に助けられて生き残った。まだ3歳の少女にとって、住んでいた故郷がいきなり焼かれるのはかなり恐ろしかったことだろう。見慣れた街並みが焼き払われ、近所の人々が蹂躙されるのだから。
だからこそ彼女は、蹂躙される怖さを知っているのだ。俺も虐げられる怖さを知っている。前世のクソ親父に暴力を振るわれ、いつも痣だらけになっていた。
それゆえに、俺はクソ野郎が許せない。
ナタリアも転生者ハンターになろうとした経緯は、俺と同じだ。蹂躙される恐怖を知り、その蹂躙をもたらした奴らが許せなくなった。だからそいつらを狩ろうとしているのだ。
「………ナタリア」
「なに?」
彼女の名を呼ぶと、ナタリアはそっと俺の手を握ってくれた。いつも銃のグリップやナイフを握る物騒な手を、俺よりも華奢なナタリアの手が包み込む。
「………いつか、転生者を狩るためのギルドを作ろうと思ってるんだ」
「転生者ハンターのギルド?」
「ああ。管理局や議会には認可されないだろうから、非公式のギルドになると思うけど………」
転生者は次々にこの異世界へとやってくる。全員その能力を悪用しているわけではないと思うんだが、悪用して人々を虐げる馬鹿野郎が多過ぎるのだ。
いくら俺たちや親父が狩ってもきりがない。―――――だから、転生者との戦う狩人だけで構成されたギルドを設立し、俺たちがより大規模な抑止力になる必要がある。
そのために、転生者ハンターギルドを設立しようと思っている。
「面白い提案ね。………それで、名前とかエンブレムはどうするの?」
「名前は………」
エンブレムは、まだ決めていない。
しかし、名前の方はこのギルドを設立しようと考えた時に思い付いた名前がある。
「―――――『テンプル騎士団』にしようかなって思ってる」
「テンプル騎士団………」
前世の世界で、中世に実在した騎士団の名前。十字軍の侵攻の際に活躍した騎士団である。
この世界を転生者たちから守るために、その転生者を狩る狩人たちのギルドを設立する。そしてそのギルドを少しずつ大規模なギルドにしていき、最終的に巨大な抑止力となることで転生者からこの世界を守り抜く。
力を悪用すれば、テンプル騎士団に狩られるという恐怖を抑止力にするのだ。親父のように直接転生者を狩り続けるのも効果的だが、効率が悪い。だから恐怖と抑止力を利用する。
「………いい考えかもね、それ」
「転生者が悪さをしなければいいんだけどな………」
でも、奴らは力を悪用する。だから転生者ハンターが必要になる。
ため息を吐きながら、俺はランタンの明かりの向こうに見える黒い海原を睨みつけた。
「――――――でも、無茶はダメよ?」
「え?」
「あんたも、無茶をする悪い癖があるわ」
親父には無茶をする悪癖があったが、俺にも同じ癖があったのか? 俺は賭け事をしない主義だから無茶をしないように意識している筈だが、親父に似てしまったのだろうか。
悪癖を指摘されて目を丸くしていると、ナタリアはランタンの明かりの中で微笑んだ。
「………だから、無茶はしないで。………いいわね?」
「あ、ああ」
「ふふっ。――――――私だって、あんたのこと………気に入ってるんだから」
「え?」
俺の事を………気に入ってる?
彼女にそんな事を言われて驚いていると、ナタリアの甘い香りがゆっくりと近付いてきた。左隣に座っている彼女を振り向こうとしていた左肩を彼女の金髪が覆い、柔らかい唇が俺の唇を包み込む。
――――ナタリアにキスをされたと気付いた瞬間、頭の角が一気に伸びたような気がした。彼女が唇を離し、顔を赤くしながら微笑んでも、まだ彼女の甘い香りは俺を包み込んだままだった。