異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者が無人島で海水浴をするとこうなる

 

 前世で散々父親に暴力を振るわれ、転生して来てからも両親の厳しい訓練に耐えてきたのだから、精神力にはかなり自信があった。前世のあんなクソ親父には一言も感謝したくないが、ここまで鍛え上げてくれた今の両親には感謝している。

 

 おかげででっかい魔物に襲われてもビビらなくなったし、劣勢になっても取り乱すようなことはあまりなくなった。幼少の頃から続けてきた模擬戦と厳しい筋トレの成果が、精神の強度を底上げしてくれたんだろう。

 

 だから絶望的な状況でも耐え抜く自信はあったんだが――――――もう、耐えられない。

 

「うぅ………ぐすっ、ぐすっ………」

 

 な、何で俺が女子用の水着着ないといけないんだよ………。

 

 しかも、着る羽目になったのはさっきカノンが似合うって言っていた蒼い水着だ。真っ白なフリルがついている水着で、当然ながら女子用である。俺よりもカノンやナタリアが着た方が似合うんじゃないだろうか。

 

 涙を拭い去ってからもう一度自分が切る羽目になった水着を見下ろしてみたんだが………どういうわけなのか、全く違和感を感じない。

 

 俺だって小さい頃から鍛えているし、男子なんだから腹筋は割れている。それに他の筋肉もちゃんとついているから、男子にしては細身とはいえそれなりにがっちりしている筈なのに………。

 

 やっぱり、普段の服装の方がおかしいのかな? 俺って女として転生してくるべきだったのかな………?

 

「ふにゃあ………タクヤ、可愛い………っ!」

 

 顔を真っ赤にしながら涙目になっている俺の目の前で、同じく顔を真っ赤にしながら大はしゃぎするお姉ちゃん。真っ赤な尻尾を左右に振りながら大はしゃぎするラウラの傍らでは、カノンが「か、カメラがあれば………ッ!」と悔しそうに言っていた。

 

 おい、こんな姿を写真に撮るつもりかよ。

 

 産業革命が起きるよりも少し前にフィオナちゃんが発明したカメラは、ラッパを思わせるでっかいストロボがついた古めかしいカメラだ。今までそういった画像を記録に残すには画家を雇って絵を描いてもらうしかなかったんだが、カメラの発明によって瞬時にその瞬間の画像を残す事ができるようになったというわけだ。ただ、画家を雇うよりも価格が高いため、貴族や会社専属の写真家くらいしか持っていないらしい。

 

 まあ、ドルレアン家の財産ならばいくつでも購入できると思うんだけどな。ちなみに写真はカラーじゃなくて白黒だ。でも、フィオナちゃんならいつかカラー写真とかテレビまで発明してしまいそうである。

 

 なんとなくカメラの事を思い出してこの恥ずかしさを誤魔化そうとしたんだけど――――――誤魔化せなかったよ………。恥ずかしいよ、これ。何で男子の俺がこんなフリルの付いた水着着ないといけないんだよ。大泣きしたいんだけど。

 

「ねえ、やっぱり海パンに着替えたいんだけど………」

 

「「えぇ!?」」

 

 カノンまで嫌がるなよ。

 

「やだやだ! 今日はそれ着てないとダメなのっ!!」

 

「そうですわ、こんなに可愛らしいのに! 勿体ないですわッ!」

 

「いやいや、滅茶苦茶恥ずかしいんだけど!? 何で女子用の水着着ないといけないんだよ!?」

 

「似合ってるから恥ずかしがらなくても大丈夫だよ? えへへっ♪」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 ど、どうしてこんなに母さんに似てしまったんだろうか………。

 

 ため息をつきつつ、浜辺へと伸びてきた波を見下ろしてみる。産業革命による廃棄物の影響で環境の汚染が進んでいるラトーニウス王国が近くにあるというのに、このラトーニウス海の海水は非常に透き通っていて美しい。

 

 日光で煌めく海水は、まるで鏡のようだ。

 

 その伸びてきた波の表面に映ったのは、白いフリルの付いた蒼くて可愛らしい水着を身に纏った、蒼い髪と赤い瞳の少女だった。ラウラたちのように胸は全く膨らんでいないけど、フリルの付いた蒼い水着はよく似合っている。違和感は全く感じない。

 

 つまり………俺が着ても、違和感はないという事だ。自分で見ても違和感を感じないなんて………。

 

「やっぱり、タクヤはこういう格好の方が違和感がありません」

 

「す、ステラ……あの、俺は男だからな………?」

 

「でもこっちの方が似合います」

 

「う………」

 

 女装の方が違和感ないのかよ。

 

 涙目になりながら、俺はメンバーの中で唯一まともなナタリアに助けを求めることにした。き、きっとナタリアなら助け舟を出してくれる筈だし、違和感くらいは感じてくれる筈だ!

 

 だ、大丈夫だ、ナタリアは一番まともだし、しっかり者だから! だからきっとこの女装を止めさせてくれる!

 

 そう思いながら彼女の方をちらりと見てみたんだが、ナタリアは俺と目が合った瞬間に顔を赤くしたかと思うと、そのまままじまじと水着姿の俺を見てから更に顔を赤くした。

 

「た、確かに………かっ、可愛い……わね………」

 

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! かっ、艦長! 巡洋艦ナタリアまで轟沈でありますッ!!

 

 嘘だろ………ナタリアまで違和感を感じなかったなんて………。

 

「………ねえ、ナタリア」

 

「な、何よ?」

 

「全然違和感感じない?」

 

「えっ? ………い、いや………あまり、感じないわ………」

 

 な、なんてこった………。

 

「も、もう着替えてもいいよね? 俺男だし、海パンもあるからさ………」

 

「え、ええ、いいわよ。………勿体ないけど」

 

 も、勿体ない!?

 

 ナタリアまでこれを着てろっていうわけじゃないよな!? もう着替えるからな!? この水着脱いで海パンで泳ぐぞ!?

 

 涙目になって唇を噛み締めながら林に向かった俺は早くもメニュー画面を開き、なぜこんなに母親に似てしまったのかと思いながら、ごく普通の海パンをタッチする準備をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、海パンの方がいい。あの水着よりも動きやすいし、恥ずかしくないからな。50ポイントで生産したごく普通の海パンを穿いてみんなの所に戻った時はカノンとラウラに文句を言われたけど、もうあの水着は一生着ない。メニュー画面の中でひたすら放置する予定だ。

 

 俺よりもラウラやカノンが着た方が似合うんじゃないかと思ったんだが、ラウラは明るい性格だし、赤毛のせいなのか蒼はあまり似合わないような感じがする。

 

 あのフリルの付いた水着よりも、今彼女が身に着けている黒ビキニの方が似合ってるな。ラウラの性格は幼いけど、彼女は大人びているように見えるからあんな感じの水着が似合う。カノンが選んだんだろうか?

 

「タクヤー! こっちこっち!」

 

「はーい!」

 

 さっきはあの水着のせいでショックを受けたけど、もうあれを着るように強要されることはなさそうだ。とりあえず久しぶりの海水浴を満喫しよう。

 

 ちなみに俺の能力に、一度作った装備や能力を廃棄して使ったポイントを元に戻すような機能はないため、一度生産した装備は基本的に使わない場合は放置するしかない。

 

 肩を回しながらラウラの傍らへと向かうと、彼女はすかさず手を俺の手に絡み付かせてきた。

 

「ふにゅう………本当はみんなでピーチバレーしたかったんだけど、ボールがないし………」

 

「すまん、さすがにそれの代用品は用意出来ない」

 

「そうだよねぇ………。あの木の実を使おうと思ったんだけど、堅そうだし」

 

 ん? 木の実?

 

 食べれそうなやつなのかなと思いつつ、ラウラが指を指している木の上を見上げてみると―――――ステラのグラシャラボラスみたいに、無数の棘が生えたでっかい鉄球みたいな木の実がぶら下っていた。

 

 滅茶苦茶重そうな形状をしているんだが、よく折れないな………。あの木はかなり頑丈らしい。

 

「あ、あれでやるつもりだったのか!?」

 

「大丈夫。棘を全部斬りおとせば――――――」

 

「いやいや、重そうじゃん! 腕折れる!!」

 

「うふふふっ。今日のお兄様ったら、ツッコミばかりですわね♪」

 

 つ、ツッコミは俺の本業じゃないんだけど………。どちらかというと、俺ってボケをやった方が良いと思う。ツッコミはナタリアかな。一番しっかりしてるし。

 

 ラウラに甘えられている俺を見ながらニヤニヤ笑うカノンが身に着けているのは、彼女らしく上品な雰囲気を放つ蒼い水着だった。フリルのせいでやけに派手だった俺の水着とは違い、非常にシンプルな感じになっている。

 

 てっきりカノンはもっと派手なのを選ぶと思ってたんだが、14歳とはいえラウラよりも精神面が大人びている彼女にとってはこれがベストなんだろう。

 

 ちなみに胸はまだ小さい。Bカップくらいだろうか。

 

「あれ? そういえば、ステラは?」

 

「ああ、ステラさんでしたら………あそこですわ」

 

「ん?」

 

 そろそろ泳ぎ始めようと思っていたんだが、ステラは何をしているのだろうか。カノンに指を指された方向を振り向いてみると、ステラは林の近くで彼女の武器であるグラシャラボラスを召喚し、砂浜にちょこんと座ったままそれを見つめ続けていた。

 

 ちなみに、彼女が身に着けているのは普通の水着ではなく………スク水だった。

 

 どうせあれはカノンが選んだんだろう。さっきみんなで水着を選んでいた時もステラの分を選ぶと言っていたし。きっとロリコンが今の彼女の姿を見たら大喜びするに違いない。

 

「おい、ステラ。泳がないのか?」

 

「タクヤ」

 

「ん?」

 

 よく見ると、彼女のグラシャラボラスの表面に突き出ているドリルのような棘はへし折られ、表面のケーブルがことごとく千切れてしまっていた。旧式の戦車の装甲を思わせる表面にも亀裂が入り、球体だった彼女の鉄球のシルエットはひしゃげてしまっている。

 

 シーヒドラとの戦いで、この鉄球は握りつぶされて大破してしまっているのだ。この鉄球は俺の能力で生産したものではないため、装備を解除して放置しても勝手にメンテナンスされるわけではない。しかも、これは太古のサキュバスたちが造った武器であるらしく、今では彼女たちの技術は完全に廃れてしまっているため、どんなに腕のいいドワーフやハイエルフの職人でも修復することは不可能だという。

 

 修復どころか、応急処置すらできないだろう。

 

「あー………壊れちゃったもんな、これ」

 

「はい。ママがくれた大事な武器で、ステラのお友達だったのです」

 

「と、友達?」

 

「はい。もちろん言葉は喋れませんが、昔はよくこの表面に寄りかかって眠っていました」

 

 思い入れのある武器だったのか………。昔って事は、ナギアラントが陥落する前という事だよな?

 

「………修復は無理なのか?」

 

「ステラは、武器の治し方を知りませんので」

 

「………」

 

 修復できる可能性があるのは――――――産業革命の発端となったフィオナちゃんくらいだろうか。でも、今はもうモリガンとは敵対してしまっているから彼女に武器の修理を依頼するわけにはいかないだろう。

 

「すまん………俺も、治し方は………」

 

「気にしないでください。相手が強過ぎただけなのです」

 

「ステラ………」

 

「この子は、ここに置いていきます」

 

「分かった。何か新しい武器が欲しくなったら、声をかけてくれ」

 

「はい。――――――では、泳ぎましょうか」

 

「おう!」

 

 ステラの手を引いて、再び海の方へと戻っていく。既にラウラとカノンは2人で笑いながら水をかけあっていて、それにナタリアも参戦しようとしているところだった。

 

 彼女が着ているのはオレンジ色の水着である。胸の辺りにほんの少しだけ黄色いフリルがついている程度で、それ以外の装飾はあまりついていない。カノンと同じくシンプルな水着だ。

 

 色が彼女の放つ雰囲気にマッチしているせいなのか、オレンジ色の水着は非常に似合っている。まるでヒマワリみたいだ。

 

「あ、本当に着替えちゃったの?」

 

「あ、ああ」

 

 だってあれ女子用の水着だぞ?

 

「それより、日が暮れる前に泳ごうぜ」

 

「うん、それもそうね。ボールとか用意できなかったから泳ぐしかないけど」

 

「ふにゅ、だからあの木の実を使えばいいじゃん」

 

「えっ? ………あ、あんなの使ったら腕折れちゃうでしょ!?」

 

 さ、さすがナタリア。これからツッコミは彼女に任せよう。俺はツッコミよりもボケの方がきっと適任だと思う。

 

 俺と同じツッコミを聞いて笑いながら、俺は海の方を見渡した。

 

 前世の世界のように防波堤がないからなのか、この無人島の海は非常に開放的で広く見える。みんなで競争でもしようと思ったんだが、ゴール代わりにできそうな目印がないからなぁ………。競争もできないのか。これは好き勝手に泳ぐしかなさそうだ。

 

 銛とか水中用のアサルトライフルでも装備して魚を取ろうかと思ったんだが、魚はもう十分ラウラたちが釣り上げてくれたし、あまり獲りすぎても持ち運べなくなってしまう。どうせここには1日しか滞在しないのだから、食べきれないほど獲るのは控えるべきだろう。

 

 ステラなら全部平らげてしまいそうだが。

 

「タクヤ、一緒に泳いでくれますか?」

 

「ん? ステラって泳げなかったっけ?」

 

「いえ、ステラはちゃんと泳げるのですが、海に来たことはないのです」

 

「そうなのか?」

 

「はい。ステラが生まれた頃は、ちょうどサキュバスへの迫害が始まった頃でしたので………海水浴どころではありませんでした」

 

 可哀想に………。

 

 なら、今日はたっぷり楽しんでもらわないとな。

 

「いいぞ。一緒に泳ごう」

 

「ありがとうございます」

 

 一緒に泳ぐと言っても、彼女の傍らを泳いでいればいいんだろうかと思ったんだが、彼女にそうすればいいのかと問う前にステラは俺の背中にしがみついてきた。そのまま俺の背中をよじ登って両手と両足を俺の胸板へと回してくると、落ちないように力を入れ始める。

 

 まるで幼い子供をおんぶしているような感じだ。

 

「す、ステラ!?」

 

「ステラはこうやって背中にくっついていますので」

 

 こ、コアラみたいだな………。

 

 背中にしがみついている彼女が落ちないように尻尾を巻きつけた俺は、小柄なステラを背負ったままゆっくり海へと向かって歩き始めた。柔らかい足元の砂が段々と下がっていき、海水が冷たくなっていく。

 

 腰まで水に包み込まれたところで一旦立ち止まり、「じゃあ、潜るぞ」と告げた俺は、彼女が首を縦に振って息を吸い込むのを待ってから海中へと潜った。

 

 思ったよりも海中は冷たい。でも、蒸し暑かった岩場の上と比べれば、この冷たさは非常に心地良い。海中で耳にする波の音の低さに懐かしさを感じながら、ステラを背中に乗せたまま徐々に深い場所へと進んでいく。

 

 息を止めたまま海底を見下ろしていたステラが、底にある岩の表面から生えるイソギンチャクや海藻を目にした瞬間目を見開いた。海に行ったことがないという事は、図鑑で絵を目にした程度だったんだろう。水中だから声を出すことは出来ないんだが、いつも無表情のステラが生まれて初めて目にした海の中を目の当たりにし、はしゃいでいるのはすぐに分かった。

 

 とんとん、とステラの小さな手が俺の肩を叩く。振り向いてみると、ステラは自分の胸を手で押さえていた。そろそろ息継ぎがしたいんだろう。

 

 頷いてから、海面へと浮上していく。

 

「ぷはっ! ………タクヤ、あの海底でゆらゆらしていたのは何ですか!?」

 

「ああ、あれはイソギンチャクっていうんだ」

 

「確か、図鑑で見ました。あれが本物のイソギンチャク………!」

 

「はははっ。……よし、もう一回潜るぞ」

 

「はい!」

 

 はしゃいでいる彼女を見て安心しながら、俺は再び息を吸い込んだ。ステラに合図してから再び海の中へと潜り、今度は深い方へと向かって進んでいく。

 

 すると、俺とステラの傍らを赤い何かが突き抜けていった。魚かと思ったけど、ヒレのようなものは全くついていない。尻尾が生えていたような気がしたけど、それ以外のシルエットは人間だったような気がする。

 

 突き抜けていったそれは―――――ラウラだった。

 

 黒いビキニを身に纏い、海中を自由自在に泳ぎ回るラウラ。急に潜ったかと思えば急浮上して、底からすぐに急旋回。再び俺とステラの傍らを突き抜け、見惚れている俺たちを見ながらにっこりと笑っている。

 

 綺麗だ―――――。

 

 彼女の赤毛はサラマンダーの翼のようにも見えるけど、泳ぐラウラの姿は――――――サラマンダーのキメラというよりは、人魚(マーメイド)のようだった。

 

 

 

 

 




※巡洋艦ナタリア
 オルトバルカ王国の誇る最新鋭巡洋艦。優秀な速度と魚雷発射管による高い攻撃力を誇る優秀な艦艇であったが、無人島の沖で機雷(タクヤ)に接触し、轟沈。最後まで違和感を感じることはなかったという。

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