異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

124 / 534
第7章
転生者が無人島に到着するとこうなる


 

 DSRVの甲板にあるハッチから、再び潮の香りの中に躍り出る。海の上にいるからなのか、潮の香りのする風は予想よりも涼しくて心地よかった。波が来訪する度に揺れる潜水艇の小さな甲板の上で空を見上げ、飛び去っていくカモメの群れを眺めてた俺は、もう一度深呼吸して潮の香りを味わうと、踵を返して後ろに立つ赤毛の少女の方を振り向いた。

 

 甲板からジャンプして岩場の上へと飛び移るラウラ。他人に見られる心配がないからなのか、漆黒のミニスカートの中からは、紅い鱗に覆われた柔らかそうな尻尾が伸びている。彼女にはサラマンダーの雌の特徴が反映されているらしく、尻尾は俺と違って硬い外殻に覆われているわけではない。

 

 最近では甘えてくる時に、逃がさないと言わんばかりに俺の身体に巻き付けてくる柔らかい尻尾がゆらゆらと揺れるのを眺めていた俺は、やや大きな波の来訪によって潜水艇が揺れたことで我に返ると、愛用のAN-94を背負ったまま俺も岩場へとジャンプした。

 

 そして素早くメニュー画面を開き、潜水艇を装備していたものの中から解除する。メニュー画面を閉じて見上げてみると、もう目の前には太い魚雷にも似た潜水艇は見当たらなかった。潮風と波に愛撫されてゆらゆらと揺れていたDARVが消え失せた事を確認した俺は、背伸びをしてから息を吐く。

 

 メサイアの天秤の鍵を手に入れ、海底神殿へとやってきたエリスさんたちから辛うじて逃げ切った俺たちは、ラトーニウス海を経由して極東へと向かう最中でこの無人島に立ち寄っていた。

 

 ラウラの能力を使えばいつでも真水は補充できるんだが、非常食も補充しなければならないし、なによりそろそろ潜水艇の原動力である蓄電池の充電も必要だ。充電とはいえ、充電するための設備はないし、充電や燃料の補給はその兵器や乗り物などを装備から解除した状態で12時間経過すれば、勝手に補充される仕組みになっているので、補給用の設備がなくても12時間待てば再び燃料や電力が満タンの状態で、更にメンテナンスまで済んだ状態で再び乗れるようになるというわけだ。便利な能力だな。

 

 だから、充電が終わるまでこの無人島で食料を探し、時間があればちょっとした海水浴でも楽しんでいこうという計画を立てたのである。

 

 ラトーニウス海の真っ只中にある小さなこの無人島には特に危険な魔物は生息していないらしいが、念のためライフルは携行しておいたほうがいいだろう。

 

 この楕円形の無人島は、南側が岩場になっている。俺たちの現在位置はまさにその岩場の上だ。そこを北側へと進むとちょっとした林があり、そこを越えれば砂浜があるようだ。食料の確保は林とこの岩場になるだろう。林の中には木の実や野草がありそうだし、もしかすると小動物も生息しているかもしれない。岩場ならば釣りができるし、海の中に潜れば大きな魚や海藻も手に入りそうだ。

 

 幼少期に経験したサバイバル訓練の事を思い出しながら林の中へと向かう。とりあえず、12時間もこの無人島で待機しなければならないので、仮設の拠点でも用意しておくべきだろう。

 

 スコールが来る可能性もあるので、出来るならば屋根代わりになるものがある場所が良いな。洞窟は見当たらないから、林の中で探すべきだろうか。

 

「えへへっ。小さい頃のサバイバル訓練みたいだねっ♪」

 

「ああ。あの時は面白かったよな」

 

 冒険者は場合によっては食料を自分で調達する必要もあるので、魔物と戦う技術以外にもサバイバルの技術が必要になるという事で、幼少期に親父からサバイバル訓練を受けていたのだ。王都の外れにある森の中で動物を狩ったり、ラウラと協力して木の実やキノコを採って、俺が火を起こして一緒に食ったものだ。俺は炎を操る能力を身に着けていたから火を起こすのは素早くできたし、いざという時はラウラの氷で消火できたから火には困らなかった。

 

 学校に通い、家に帰ってクソ親父の暴力を受けていた前世では体験できなかったサバイバルは刺激的で、幼少期に経験した訓練の中では一番好きだった。食料の調達は大変だったけど、慣れてきた頃はもうキャンプに出掛けているような楽しさを感じていたからな。

 

「確かあの時、ラウラが間違えて毒キノコ持ってきたんだよな?」

 

「あはははっ、そうだったね。それでタクヤが毒キノコだって見抜いてくれたんだよね」

 

「そうそう。はははっ」

 

 あの時、ラウラはにこにこ笑いながらどっさりと採ってきたキノコを焚火の近くに置き、仕留めたウサギの毛皮をナイフで引き剥がしていた俺に向かって胸を張りながら自慢してきたんだけど、そのキノコの中に毒キノコが紛れ込んでたんだよなぁ………。

 

 当然ながら解毒剤やエリクサーなどの持ち込みは禁止されていた訓練だったから、毒キノコを喰ったら解毒剤代わりの薬草を自力で探さなければならない。

 

 危なく毒キノコまで焼くところだったんだ。

 

「あ、あんたたちってそんな訓練まで受けたの………?」

 

「ん? ナタリアはサバイバル訓練は受けなかったのか?」

 

「食用の野草とか木の実を図鑑で調べたりした程度よ。さ、さすがにそんな訓練は受けてないわ………」

 

「ふにゅ? じゃあ蛇とかサソリを食べた事ないの?」

 

「さ、サソリぃっ!?」

 

 そういえばサソリも食べた事があったな。顔を青くしながらラウラの話を聞くナタリアを見て笑いながらサソリの味を思い出そうとしていると、左手の袖を小さな白い手がくいっと引っ張った。

 

「タクヤ」

 

「ん?」

 

 見下ろしてみると、グレーのワイシャツの袖をステラが掴んでいた。サバイバルで調達した食料の話を聞いていたのか、彼女の小さな唇の端にはよだれを拭い去った後がある。

 

 ちょ、ちょっと、ステラ? まさか、サソリを美味そうだと思ったのか?

 

「サソリは美味しいのですか?」

 

「いや………すまん、味は覚えてない………」

 

「そうですか………では、今度見かけたら食べてみます」

 

 食うつもりかよ。

 

 サキュバスって魔力を吸収していれば食い物を食べる必要はない筈なんだが、どうしてステラは食べ物に興味を持つのだろうか? 仮に普通の食べ物を食べたとしても、魔力を吸収しない限り満腹感は感じない筈だし、栄養も吸収できない筈だ。純粋に味が好きなんだろうか?

 

 前は食虫植物っぽい魔物も食ってたし………。お腹を壊さないか心配だ。

 

「海水浴も楽しみですわね」

 

「そうね。調達をさっさと済ませて、泳ぎましょうよ」

 

「ああ、そうしよう」

 

 海水浴か………。

 

 こっちの世界に来てからは、あまり海水浴には行っていない。オルトバルカ王国が北国である上に住んでいた場所が内地で、海までかなり距離があったせいで殆ど海には行けなかった。ラウラが海に言って泳ぎたいって駄々をこねた時は親父がハンヴィーを運転して連れて行ってくれたけど、きっと大変だっただろうな。

 

 道中で魔物に襲われた時は、速度を上げたりドリフトで回避して逃げ切っていたし、それを何度も繰り返してずっと運転してたんだ。母さんやエリスさんが運転を変わろうとしたんだけど、親父は「気にすんな。運転は俺に任せてくれ。子供たちを頼む」って言って、海につくまでハンドルをいつまでも握ってた。

 

 前世のクソ親父のせいで、親父というのは大概クソ野郎なんだと決めつけていた俺にとって、今の親父は最高の親父だ。転生してきた時は童貞だった俺から見れば美女を2人も妻にしてたのは許しがたい事だったんだが、俺たちや母さんたちに暴力は全然振るわないし、むしろ逆に大切にしている。それが当たり前の父親なのかもしれないが………前世の親父がクソ野郎だったからな。

 

 林の中に入ると、潮風の香りの中に木や草の香りが混ざった。一瞬だけ森の中で狩りをしていた頃を思い出しつつ、林の真ん中に屹立するやけに大きな木の根元にポーチやバッグなどの道具を置く。ついでにコートの上着とワイシャツも脱いでここに置いておこう。さすがに南にある無人島でコートを着るのは辛いし、狩りをするならこっちの方が動きやすい。

 

 そう思いながらボタンを外し、ワイシャツを脱いでからコートの上着と共に畳んでポーチの上に置いておく。背負っていたAN-94のセレクターレバーをセミオートに切り替えてからポニーテールを払った俺は、同じように荷物を置く仲間たちに向かって言った。

 

「よし、食料の調達に行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティーのメンバーは5人いるので、食料の調達は二手に分かれることにした。林はそれほど広くはないので、林での食料の調達は2人という事に決めている。残った3人には南側の岩場で釣りをしてもらい、魚を確保してもらうという計画だ。

 

 分担は俺とナタリアが林の中での食材の調達を担当し、残った3人には釣りを担当してもらう事になった。幼少の頃から森で何度も狩りをしていたから俺はこのような環境でも動きやすいし、サバイバルの技術も訓練のおかげで身についている。ナタリアはサバイバル訓練を受けたことがないらしいので、彼女の訓練にもなるだろう。

 

 ラウラに釣りをお願いしたのは、彼女にはエコーロケーションという能力があるからだ。メロン体から発する彼女の超音波なら、海中の魚を用意に察知できるだろう。魚群探知機みたいな使い方だが、それなら効率的に魚を調達できるに違いない。実際に昔のサバイバル訓練でもその能力を発揮し、素早く魚を探知して釣り上げていたから大丈夫だろう。

 

「ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

 木の根の近くに生えていた野草を摘んでポーチに入れていると、ククリナイフを使ってキノコを採っていた筈のナタリアが声をかけてきた。何かを見つけたんだろうと思いながら立ち上がり、彼女の傍らへと向かうと、ナタリアは大きな植物の茎から生えた真紅の実を凝視していた。

 

 茎から伸びた短い枝のような部分に、びっしりと小さな真紅の実が生えている。まるでトウモロコシの実を紅色にしたような毒々しい植物だ。確かこの植物もサバイバル訓練の時に何度か目にしている。

 

「こいつは『クレナイトウモロコシ』だな。色んな気候の森の中に生えてるトウモロコシの一種だよ」

 

「そうなの? じゃあ、焼トウモロコシにできるわね!」

 

 目を輝かせながらその紅いトウモロコシをククリナイフで切り落そうとするナタリアだが、俺は素早く手を伸ばすと、ククリナイフを手にしていたナタリアの白い腕を掴んだ。

 

 トウモロコシの一種っていう前に、これの特徴も説明しておけば良かったな。

 

「え? 採らないの?」

 

「それが………これ、食用じゃないんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。むしろ危険だ。毒がたっぷり入ってるからな」

 

「えぇっ!?」

 

 毒が入ってると聞いたナタリアは、大慌てでククリナイフを握っていた手を引っ込めると、素早く俺の背後に隠れてから恐る恐る真紅のトウモロコシを睨みつけた。

 

 俺は苦笑いしながら、背中に隠れた彼女にこの禍々しいトウモロコシの説明をする。

 

「このトウモロコシは栄養素よりも地中の色んな毒素を最優先に吸収するっていう性質があるんだ。だから実や茎の中にはその毒素が凝縮された猛毒がたっぷり詰まってる。まあ、その毒を武器に使ったりするケースもあるんだけどな」

 

「た、食べれないじゃない!」

 

「ああ、食ったら死ぬぞ。解毒剤はあるけど。―――――でも、こいつは地中の毒素を根こそぎ吸収してしまうから、これが生えている土地には殆ど毒素は残っていないんだ。だから他の野菜とか植物は純粋な栄養を吸収して成長できるってわけ。農場によっては意図的にこいつを植えてる場所もあるんだぜ」

 

「そ、そうなの………?」

 

「おう」

 

 変わった特徴を持つこのトウモロコシのおかげで、毒ガスのせいで人類が住めなかった土地が暖かい大草原や農場に変わった場所も多い。

 

 こいつが土地の毒素を吸収し、肩代わりしてくれているってわけだ。

 

 そのクレナイトウモロコシの根元に生えていた野草を摘み取ると、「ほら、早く調達済ませようぜ」といいながらまだ背後に隠れていたナタリアの肩を軽く叩いた。

 

 ちなみにあまり喜ばしくない話だが、そのたっぷり毒素を吸収したクレナイトウモロコシの猛毒は頻繁に武器に転用されている。飛竜にも通用するほどの猛毒で、売店や管理局にあるショップに行けばこの毒のカートリッジを購入することが可能だ。きっとナタリアが使っているククリナイフの毒もこれの毒なんだろう。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「あんたってさ………色んな事を知ってるのね」

 

「まあ、小さい頃は図鑑とか読んでたから………」

 

「ふふっ………タクヤの知識って、頼もしいかも」

 

「………っ」

 

 お、落ち着け。ナタリアに褒められて照れてしまった俺は、倒木の陰から生えているでっかいキノコを引き抜きつつ息を吐く。

 

 続けてそいつの隣に生えていた小さなキノコへと手を伸ばしたんだが、表面に触れる寸前にそのキノコが毒キノコだということに気付いた俺は、大慌てで手を引っ張った。

 

「………どうしたの?」

 

「い、いや………ほら、でっかいキノコがあったからさ。あはははははっ」

 

 倒木の陰から取れたキノコで誤魔化しつつ、俺はナタリアから目を逸らした。

 

 そういえば、あまりナタリアに褒められたことはない。遺跡の地下で2人きりになっちまった時も変態キメラって言われた上に触手で頭を叩かれたし。

 

 あまり彼女に褒められたことがなかったからこそ、改めて褒められて照れてしまったのかもしれない。

 

「へえ、そんなに大きいキノコも生えてるんだ?」

 

「ああ」

 

 コートの上着を着ていれば、赤くなった顔をフードで隠せたんだけどなぁ………。

 

 苦笑しながら深呼吸した俺は、誤魔化すために取り出したそのでっかいキノコをポーチの中へと戻すと、太い木の枝にぶら下がっている木の実を取るために、巨大な木の幹を登り始めた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。