異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ラウラと一緒に遊びに行くとこうなる

 

 家族と共に住んでいるこの王都の家は、まるで貴族の屋敷のように大きな家だ。絵画や彫刻が廊下や壁に飾られていてもおかしくはなさそうな感じの家なんだが、壁に飾られているのは観賞用のバスタードソードくらいだろう。ちなみにそのバスタードソードは、傭兵になる前は騎士だった母さんの趣味らしい。

 

 リビングから廊下の壁に掛けられているそれを見つめていた俺は、頭から生えている角を撫でながら、今度はリビングの壁に掛けてある額縁の方を凝視する。豪華な装飾は全くついていない、少し大きめの一般的な額縁の中に収められているのは、有名な画家が描いた絵画ではない。家族全員で撮影した、白黒の家族写真だった。

 

 俺とラウラとガルちゃんが親たちの前に並び、俺たちの後ろには母さんと親父とエリスさんの3人が微笑みながら写っている。

 

 この世界には機械は存在しないから、当然ながらカメラも存在しない。従来ならば写真の代わりに画家を雇い、家族で集合しているところを絵に描いてもらうのが一般的だったらしいんだが、モリガン・カンパニーが誇る天才技術者のフィオナちゃんがなんとこの異世界初のカメラを発明したため、そのカメラでこの家族写真を撮影することになったんだ。

 

 転生する前は、こんな風に家族写真を撮ったことはなかった。あんなクソ親父と一緒に写真を撮りたいと思った事すらない。写真を撮るとすれば、いつも母さんと一緒だった。

 

 でも、こんな風に家族全員で写真を撮る事には、少し憧れていたのかもしれない。今の親父も俺の正体を知っているのに家族として受け入れてくれたし、家族に暴力を振るうこともない。母さんたちから聞いたんだが、結婚してもう9年も経つというのに、未だに1回も浮気をしたことがないらしい。

 

 浮気したらすごいことになりそうだからなぁ……。騎士団出身のベテラン姉妹と異世界からやって来た傭兵の夫婦喧嘩が始まったら、間違いなくこの家は跡形もなくなるな。下手したら王都が焼け野原になるかもしれない。

 

 親父が誠実な人で本当に良かった。

 

 そういえば、今日は珍しくその親父は朝早くから外出中だ。母さんたちのベッドの枕元には置手紙が置いてあったらしい。いつもならば母さんの手料理をちゃんと食べてから仕事に行っている筈なんだが、何があったのだろうか? しかも、ガルちゃんもいなくなっている。親父と一緒に出掛けたんだろうか?

 

 親父が朝早くからいないせいなのか、母さんはキッチンで寂しそうに皿を洗っている。

 

「えへへっ、タクヤっ!」

 

「うわっ、ら、ラウラ!?」

 

 母さんを見つめていると、俺の隣でマンガを読んでいた筈のラウラがいきなり抱き付いてきた。彼女が突然抱き付いてきたせいで踏ん張る事ができず、そのまま絨毯の上に押し倒されてしまう。

 

 顔を真っ赤にしながら起き上がろうとする俺の両手を押さえつけながら上にのしかかってきたラウラは、俺の胸に頬ずりをしながら、今朝もエリスさんに勝手にポニーテールにされた蒼い髪を弄り始めた。

 

「ふにゅー………すごくさらさらしてるよぉ………」

 

「ラウラ、ちょっと……下りてよ!」

 

「えぇ!? やだやだ! 今日はずっとこうしてるのっ!!」

 

 何とか上半身を起こすと、ラウラは不満そうな顔でこっちをじっと見つめながらも退いてくれた。でも俺のポニーテールから手は放していない。

 

 まったく……。もう6歳だというのに、何でこんなに俺と一緒にいたがるんだろうか。こいつ、もしかしてブラコンなのか?

 

 このお姉ちゃんは、彼氏ができたらどうするつもりなんだ?

 

「あ、エミリアさんと同じ匂いがするー。ふにゃあ………いい匂いがするよぉ………」

 

「こ、こら………!」

 

 今度は俺の髪の匂いを嗅ぎ始めた。彼女の掴んでいる俺の後ろ髪を引っ張るが、ラウラはまるで釣り上げられた魚のようにごろんと再び絨毯の上に転がると、掴んでいた後ろ髪に頬ずりを開始する。

 

 何度か引っ張ってみたんだが、離してくれる気配が全くないため、俺は諦めて幸せそうな顔をしているラウラを苦笑いしながら見つめる事しかできなかった。

 

「ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

「今日は訓練もお休みだから、外に遊びに行こうよ!」

 

 まだ俺の髪の匂いを嗅ぎながら提案するラウラ。

 

 そういえば、今日の訓練は休みになっていた。毎日あんな訓練を続けるわけにはいかないから、毎週2日は訓練は休みになっているんだ。

 

 休みの日は、基本的にラウラと一緒に遊ぶか、家族全員で買い物に行って過ごしている。家の近くには公園もあるからそこで遊ぶことも多いんだが、誘拐されたあの事件のせいでエリスさんが少し過保護になっているらしく、公園まで遊びに行く時は彼女に一緒に来てもらわないと外出を許してくれない。

 

「あら、外に遊びに行くの? じゃあママもついて行くわ」

 

「うんっ!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 絶対零度の異名を持つ騎士が一緒に来てくれるのは心強いけど、過保護すぎるような気もする。そう思いながら玄関の方にラウラと一緒に向かっていると、凄まじい勢いで階段を駆け下りてきたエリスさんが、俺とラウラの頭の上に角を隠すための帽子をかぶせてくれた。

 

 角はいつもならば髪に隠れてしまうくらいの長さしかないんだが、どうやらこの角は感情が昂るとダガーくらいの長さまで伸びてしまうらしいから、頭を隠さずに外出するのは好ましくない。キメラとして生まれた俺とラウラにとっては、フードや帽子は必需品だ。

 

「さあ、行きましょう」

 

「はーいっ!」

 

 ラウラと俺の手を引きながら歩き出すエリスさん。私服姿の彼女は傍から見れば優しい母親なんだけど、腰にはリボルバーのホルスターを下げていた。中に納まっている銃は―――――イギリス製リボルバーのウェブリー・リボルバーのようだ。

 

 細い銃身が特徴的な中折れ(トップブレイク)式のリボルバーで、ダブルアクション式であるため、シングルアクション式のリボルバーのように発射する度に撃鉄(ハンマー)を元の位置に戻す必要はない。連射速度と再装填(リロード)の速度は非常に優れているが、他のリボルバーと比べると威力は控えめになっている。

 

 お、奥さん? 子供と一緒に公園に行くのに、何でリボルバー持って来てるの? また俺たちをさらおうとする奴らがいたら撃つつもりなのか?

 

 ぶ、物騒な奥さんだぜ……。

 

 

 

 

 

 

 

「タクヤくんっ、こっちこっち!」

 

「いくよー!」

 

 俺に向かって手を振っている少女に向かってサッカーボールを蹴り、そのまま敵のチームのゴールに向かって全力疾走する。俺が蹴ったボールは相手のチームの子供たちに奪われることなく少女の所へと辿り着くと、そのままボールを受け取った彼女は、俺と共にゴールへと向かって走り始めた。

 

 そして相手のゴールへと接近した彼女は、ゴールへと向かって思い切りボールを蹴り飛ばす!

 

 相手のチームのキーパーがそのボールを受け止めようとするが、キーパーの手を掠めたサッカーボールは、少しだけ方向を変えただけで、そのままゴールの代わりに地面に引いた線を飛び越え、奥へと転がって行った。

 

「やった! 私たちの勝ちだよ、タクヤくん!」

 

「やったね、レナちゃん!」

 

 見事にゴールにボールを叩き込んだ少女が、彼女にボールをパスした俺に向かって大きく手を振っている。彼女はここでよく一緒に遊ぶようになったレナ。住んでいる家は少し離れているが、よくこの公園に遊びに来ているため、何度も一緒に遊ぶようになっている。

 

 ラウラと同じく元気な性格で、スポーツが得意らしい。

 

「タクヤくんのおかげだよ。ありがとっ!」

 

「うわっ!?」

 

 傍らへとやって来たレナがいきなり俺に抱き付いてくる。顔を真っ赤にしながら慌てふためいていると、その様子を見ていたラウラが俺と同じく顔を真っ赤にして、唇を噛み締めながらこっちへとやって来た。

 

「ふにゃあっ!? れ、レナちゃんっ! 私のタクヤにくっついちゃダメぇっ!」

 

「えぇ? いいじゃん。ね、タクヤくんっ!」

 

「い、いや…………」

 

「ふにゅー………!」

 

 自分の遊び相手を他の子に取られたと思って不機嫌になってるんだろうか。このままラウラが泣き出したら大変だな。

 

「れ、レナちゃん、ごめん。そろそろ離してくれるかな?」

 

「え? ご、ごめんねっ?」

 

「うん、気にしないで」

 

 やっと離れてくれた彼女にそう言った俺は、不機嫌そうにしているラウラのほうをちらりと見た。彼女は俺からやっとレナが離れたというのにまだ不機嫌そうで、まるで猫のような唸り声を発し、彼女をじっと見つめながら左手の爪を噛んでいる。

 

 そんなに俺が他の女の子と仲良くしているのを見るのが嫌なのかよ……。もしかしたら、ラウラは本当にブラコンなのかもしれない。

 

 どうすればラウラは機嫌を直してくれるだろうかと考えていると、公園の中に重々しいような鐘の音が響き渡り始めた。公園の近くに建っている教会の鐘の音だろう。毎日正午と午後5時になると、必ず教会の鐘の音を鳴らす決まりになっているらしい。

 

 もうお昼か。

 

「2人とも。そろそろ帰りましょ?」

 

「はーい。じゃあね、レナちゃん」

 

「うんっ! また遊ぼうね!」

 

 一緒にサッカーをやったレナに手を振った俺は、不機嫌そうにしているラウラの手を握ってエリスさんの所へと戻った。椅子に腰かけて俺たちの様子を見守っていたエリスさんは、にこにこ笑いながらラウラの小さな手を握ると、再び3人で家に向かって歩き出す。

 

 ラウラはまだ機嫌を直してくれない。もしかして、嫌われちまったのか?

 

 そう思いながら隣で爪を噛む姉をじっと見ていると、ラウラがいきなり爪を噛むのを止めた。指についていた自分の唾液をスカートの裾で拭うと、無言で俺の手を握ってくる。

 

「ラウラ………?」

 

「………渡さないもん」

 

「え?」

 

 小声だったから聞き取れなかった。俺はすぐに聞き返したんだが、ラウラはそのまま無言で俺の手を握るだけで答えてくれない。

 

 彼女と一緒に誘拐されてから、ラウラは前よりも更に俺から離れるのを嫌がり始めた。少しでも離れようとすると俺の手か服を掴んで一緒について来るし、隙を見せれば今朝みたいにいきなり抱き付いて頬ずりしてくる。

 

 微笑ましいんだが、彼女はもう6歳だ。いつまでこんな感じで弟に甘え続けるつもりなんだろうか?

 

 露店が並ぶ通りを横切ると、見慣れた建物が連なり始める。いつも鬼ごっこで使わせてもらっているレンガ造りのワインの倉庫を通過すれば、俺たちが住んでいる家は近い。

 

 倉庫の脇を通過すると、通りの向こうに家の塀が見えてきた。塀に囲まれた大きな建物はまるで貴族の住む屋敷のようだが、俺たちは貴族ではなくて平民だ。

 

 門を潜って玄関のドアを開けると、近くに壁には見慣れた真っ黒なシルクハットが掛けてあった。俺は外出する時はハンチング帽をかぶるし、ラウラはベレー帽をかぶるようにしているから、このシルクハットは俺たちの私物ではない。

 

「ただいまー」

 

「おう、お帰り」

 

 玄関のドアの向こうには、スーツ姿の赤毛の男性が立っていた。頭からは短い2本の角が生えている。玄関にあったあのシルクハットは彼の私物だ。

 

「あら、ダーリン。朝早くからどこに行ってたの?」

 

「悪いな。魔物退治の依頼を受けてさ」

 

「ガルちゃんは?」

 

「ガルちゃんには、別の仕事を頼んだんだ。そろそろ帰って来る筈だが………」

 

 朝早くから魔物退治か。大変だな。

 

 俺のハンチング帽とラウラのベレー帽を親父のシルクハットの隣に掛けた俺は、ラウラの手を引いて洗面所へと向かった。手洗いとうがいを済ませてから、ちらりとキッチンで昼食の準備をしている母さんの方を見る。

 

 今日の昼食は何だろう? フィッシュアンドチップスだろうか?

 

 まだ出来上がるには時間がかかりそうだ。それまで子供部屋に戻って休むとしよう。

 

 ラウラの手を握り、一緒に2階への階段を上る。いつもならば俺が彼女に手を引かれている筈なんだが、今日のラウラは何だか不機嫌そうだ。機嫌を直すためにも、俺がこうしなければならない。

 

 子供部屋に到着した俺は、ラウラから手を離すと、早速絨毯の上に置いてある読みかけのマンガを手に取った。出来るならばゲームがやりたいところなんだが、この世界にはゲームどころかテレビすら存在しないため、我慢するしかない。娯楽と言えばこうして本を読むか、ラウラと一緒に遊ぶことくらいだろう。

 

 読みかけのマンガを手に取り、壁に寄りかかりながら栞を挟んでいたページを開く。そのままマンガを読んでいると、部屋の真ん中で突っ立っていたラウラが、ゆっくりと俺の方へと歩いてきた。

 

「ん? ラウラ……?」

 

「………」

 

 いつもは一緒にいると彼女は楽しそうにしているんだが、今のラウラは無表情だ。全く笑っていないし、目つきは虚ろになっている。

 

 彼女は俺のすぐ目の前までやってくると、小さな両手を広げ、マンガを読んでいた俺に寄りかかってきた。

 

「ちょ、ちょっと、ラウラ!?」

 

「………」

 

 彼女は何も言わない。彼女を引き離そうとしたんだが、ラウラは俺に引き離される前に広げていた両手を俺の背中に回すと、力を入れてしがみつき始めた。もちろんいつもと同じく離れてくれる気配はない。

 

 甘い匂いのするふわふわしたラウラの赤毛が顔に触れる。同い年の姉にいきなり抱き締められて顔を真っ赤にしていると、石鹸と花の匂いが混ざったような香りの中で、ラウラが不機嫌そうに言った。

 

「……いつものタクヤの匂いじゃない」

 

「そ、それはそうだよ。外で遊んできたんだし、ちょっと汗の臭いが――――」

 

「ちがうよ。―――――きっと、あの女のせいだよ」

 

「え………?」

 

 あの女? レナの事か?

 

「あの女が抱き付いたから、こんな臭いになっちゃったんだよ」

 

「ら、ラウラ……? 何を言ってるの………?」

 

 いつものラウラじゃない。そう思った瞬間、胸に顔を押し付けていたラウラが、静かに胸から顔を離して俺を見つめてきた。

 

 俺にしがみついているラウラは、いつも俺に抱き付いてくる時のように楽しそうに笑っていた。機嫌を直してくれたのかと一瞬だけ思ったが、その思いはラウラの目つきを目の当たりにした瞬間に木端微塵にされてしまう。

 

 至近距離で俺の顔を見つめているラウラの目は、虚ろな目のままだったんだ。

 

 彼女は自分の額を俺の額にくっつけると、そのまま囁き始める。

 

「でも、大丈夫だよ。お姉ちゃんがいつもの匂いに戻してあげる」

 

「ラウラ………?」

 

 こ、これは拙いぞ……。

 

 俺のお姉ちゃんが――――――ヤンデレになっちまった………。

 

 

 

 

 


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