異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤたちがもう一度攻撃を仕掛けるとこうなる

 

 潮の匂いにも慣れてしまったせいなのか、もう懐かしさを感じる海の香りはしなくなっていた。海水でずぶ濡れになったズボンを払いながら壁に寄りかかり、隣でヘカートⅡの点検をしているラウラに非常食の干し肉を3枚ほど渡してから俺も海水まみれになってしまったOSV-96を点検する。

 

 勝機はあるのだが、勝利までこぎつけるまでに必要な作戦とカードが必要だ。12.7mm弾であの外殻は貫通できないものの、対戦車榴弾をはじめとする形成炸薬(HEAT)弾は通用する。それにあの巨体ならば、戦車を吹き飛ばすほどの破壊力を持つ対戦車地雷も通用する事だろう。

 

 しかし、どちらも前世の世界で主流だった主力戦車(MBT)には非常に有効だ。だが………今回の相手は戦車よりも巨大で、しかも潜水艦のように潜航する事ができる。地上での戦いだけを考えると痛い目を見るのは想像に難くない。

 

 ならばどうやって倒すべきか。どの兵器と作戦が切り札となり得るのか。

 

「まず、通用する兵器なんだが、あの外殻の貫通を目指すなら対戦車榴弾しかない。形成炸薬(HEAT)弾のメタルジェットなら貫通できるし、ラウラならその穴に更に12.7mm弾を放り込めるからな」

 

「ふにゅっ。お姉ちゃん頑張ったよ♪」

 

 胸を張りながらにっこりと笑うラウラ。俺も笑いながら彼女の頭を撫でると、緊張が少しだけ溶けだしたのが分かった。

 

「ですが、30mm弾は貫通できませんでした」

 

「ああ。だが有効じゃないというわけでもないな。………だが、次は爆発物を中心に使って行こう」

 

「爆発物というと、対戦車手榴弾とか?」

 

「そうだな。次は普通の手榴弾の代わりにRKG-3を支給しておく。………だが、もっと強烈な一撃を叩き込める得物もあるぜ」

 

 目を見開きながら一斉に俺を見てきた仲間たちを見渡しつつ、俺はメニュー画面を開く。

 

 ロケットランチャーの一撃よりも更に重い一撃を叩き込める代物は確かにあるが、少人数で使うにはリスクが大きい上に使い勝手が悪いため、最初の攻撃で使うわけにはいかなかったんだ。しかもおそらく、これを使いこなせるメンバーはカノンくらいしかいないだろう。

 

 中距離狙撃以外にも彼女が持ち合わせているもう一つの特技を生かさなければ、こいつは使いこなせないのだから。

 

 メニュー画面に表示された画像には、まるで長いロケットランチャーの下部に三脚を取り付け、照準器とスポット・ライフルを装着したような外見の巨大な砲身だった。

 

「何これ? ロケットランチャー?」

 

「無反動砲だよ」

 

 俺が画像に表示させたのは、アメリカ製無反動砲のM40だった。ナタリアに渡したカールグスタフM4の84mm弾よりも巨大な105mm弾を使用する大型無反動砲で、砲弾のサイズは戦車砲並みである。

 

 彼女に渡したカールグスタフM4と同じくスポット・ライフルを装備しているため、発射する前にスポット・ライフルで照準を合わせることで命中率を劇的に向上させることが可能だ。こいつで対戦車榴弾をぶっ放せば、先ほどのロケットランチャーよりも大きなダメージを与える事が出来るだろう。

 

 ただし、こいつは非常に重くて巨大な代物であるため、三脚を使うかジープなどに搭載しなければ使う事は難しい。人間を上回る身体能力を持つキメラやサキュバスならロケットランチャーのように担いで使う事もできそうだが、やはりちゃんと三脚を使った方が、命中率も上がる事だろう。強力な敵が相手なのだから、確実に命中させなければならない。

 

「砲弾のサイズは105mm。さっきまで使ってた対戦車榴弾とは桁が違う」

 

「すごい………! ねえ、これならシーヒドラを倒せるんじゃない!?」

 

「ああ。………カノン、砲手を頼めるか?」

 

「ええ、お任せくださいな」

 

 カノンは、中距離からの狙撃だけでなく、迫撃砲やこのような大型無反動砲の砲撃訓練も受けている。やはり砲撃の分野も母親であるカレンさんの得意分野であったらしく、モリガンの傭兵として戦っていた頃のカレンさんは戦車で砲手を担当していたらしい。

 

 一緒に戦った親父や母さんが言っていたんだが、カレンさんに砲撃を任せると百発百中は当たり前だったらしく、しかも1発の砲弾で転生者の乗る戦車を一気に2両も仕留めた事があるという。

 

 カレンさんからその技術を教え込まれたカノンならば、この無反動砲も使いこなしてくれる筈だ。

 

「訓練でこいつを使った事は?」

 

「5回しかありませんわね。ですが、使い方はちゃんと覚えてますわよ」

 

「よし、頼む。あのドラゴンを仕留めてくれ」

 

「ええ」

 

 エンシェントドラゴンを仕留めるための槍は、彼女に託した。

 

「ステラはカノンのサポートと装填手を頼む」

 

「ふにゅ、了解!」

 

「ええ、分かったわ」

 

 作戦は俺とラウラとナタリアの3人がシーヒドラを攪乱し、その隙にカノンとステラがあの広間の外周からM40で砲撃することになる。シーヒドラの外殻でも、さすがに戦車砲並みのサイズを持つ105mm対戦車榴弾を防ぎ切ることは出来ないだろう。

 

 こいつの砲弾が、ドラゴンを殺す槍となる。

 

 無反動砲を生産し、外周に辿り着くまでそのままにしておく。それ以外にも俺たちの分の装備を用意しておかなければ。

 

「ステラさん、装填手はお任せしますわね」

 

「了解(ダー)。カノンは心置きなく砲撃してください」

 

「さて、2人は私たちが守り切らないとね」

 

「ああ。………ところで、みんな」

 

 シーヒドラを撃破できる兵器を使った作戦を思い付き、士気を高めることはできた。だが、仲間たちの目的はいつの間にか変わってしまっているのではないだろうか?

 

 危うく自分も目的を変えてしまうところだったということに気付いた俺は、にやりと笑いながら仲間たちに言った。

 

「――――――俺たちの目的は、天秤の鍵を手に入れる事だ。シーヒドラを倒すことじゃない」

 

「えっ?」

 

「ふにゅ?」

 

 鍵を手に入れるために、俺たちは潜水艇の訓練を繰り返してこの海底神殿までやってきたんだ。シーヒドラを倒すのではなく、鍵を手に入れなければならない。

 

 鍵が保管されているのは広間の奥にある扉の向こうだ。厚さは不明だが、C4爆弾を使えば吹き飛ばしてしまえそうな扉だった。だからシーヒドラを倒すのではなく、破壊工作を担当するメンバーにC4爆弾を持たせて扉を爆破し、俺たちがシーヒドラの相手をしているうちに鍵を回収させ、仲間たちと仲良く逃げてしまえば、シーヒドラを撃破することは出来なくても俺たちにとっては大勝利なのだ。

 

 自分が考えた作戦を台無しにしかねない作戦だが――――――裏を返せば、これは逆にシーヒドラを仕留める作戦にもなり得る。

 

 メニュー画面で色々と武器を生産した俺は、蒼白い光の中でにやりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 水を司るエンシェントドラゴンは、広間の中心に再び巨大な水の球体を召喚し、浮遊するその球体の中で休息しているようだった。だが、すぐに俺たちが広間の中に突入してきたことを感知したらしく、水の塊の中で5つの巨大な頭が同時に動き出す。

 

 最初に睨みつけられた時は、猛烈な威圧感のせいで慄いていた。いくらキメラでも、この〝純粋な怪物”には打ち勝つことは出来ないと。人間が打ち勝つ事が出来ないから怪物と呼ばれるのだと、俺は思い知らされていた。

 

 でも、もうそんな事は思わない。怪物を打ち倒したいのならば、俺たちも怪物になればいい。そう、現代兵器という怪物を使って、怪物を打ち倒せばいい。

 

「よう、シーヒドラ」

 

『………ふん、逃げたのではなかったのか?』

 

『貴様らの武器には驚いた。だが……それでも我らには勝てぬぞ』

 

『逃げるならば今のうちだ。拒否するのならば、貴様らを海の藻屑にしてやろう』

 

 海の藻屑? お断りだね。

 

 俺は今度こそ、爺さんになるまで生きるんだ。大切な人と結婚して、子供をちゃんと育てて、親父や母さんたちを孫と合わせてから子供たちを見届けて死ぬ。それ以前に死ぬつもりはないし、家族を死なせるつもりもない。

 

 死にに来たわけじゃねえんだよ――――――!

 

 シーヒドラには言い返さず、俺は今回のメインアームを背中から取り出した。

 

 四角いバレルジャケットに覆われた銃身と、左側面に取り付けられたドラムマガジンを持つその長い銃は、かつて第二次世界大戦の際にドイツ軍で採用されていた、MG42と呼ばれる強力なLMG(ライトマシンガン)である。

 

 当時のドイツ軍で採用されていたボルトアクションライフルのKar98Kと同じく7.92mm弾を超高速で連射することのできる優秀なLMGで、『電動ノコギリ』という別名も持っている。

 

 12.7mm弾まで弾いてしまうシーヒドラを相手にするには非力な得物かもしれないが、あくまで俺たちの目的はこの怪物の攪乱だ。これくらいの連射速度とある程度の破壊力を持ち合わせている得物ならば、攪乱することは出来るだろう。

 

 サイドアームは作ったばかりの2丁のソードオフ・ショットガンである。

 

 ラウラの得物は先ほどと変わらず、メインアームがヘカートⅡとなっている。サイドアームは相変わらずライフルグレネードが使用できるようにカスタマイズしたグローザだ。

 

 ナタリアの装備は先ほどから変わらない。もう1つ生産したカールグスタフM4を使って、シーヒドラにどんどん対戦車榴弾を撃ちこんでもらう予定だ。

 

 それと、俺たちの持つ手榴弾は全て普通の手榴弾から対戦車手榴弾のRKG-3に変更してある。戦車を破壊するために開発された、ソ連製の対戦車手榴弾だ。こいつを叩き込めばシーヒドラにも通用するだろうし、対戦車榴弾の節約にもなるだろう。

 

 それに他にもシーヒドラ用の装備を用意してきた。

 

 さあ………こいつを倒そう。

 

「―――――コンタクトッ!」

 

 指示を出すと同時に、俺は走りながらMG42のトリガーを引いた。少しでも貫通力を高めるために、装填している弾薬の炸薬の量を増やして強装弾にし、更に装甲を貫通するための徹甲(AP)弾に変更している。これでもシーヒドラの外殻を貫通することは難しいだろうが、ナタリアの無反動砲や対戦車手榴弾で耐久力の落ちた外殻ならば、運が良ければ貫通してくれるかもしれない。

 

 トリガーを引くと、猛烈なマズルフラッシュが大きな銃口から迸った。アサルトライフルよりも口径の大きな7.92mm弾が次々にマズルフラッシュの光を突き破り、水の球体から姿を現したシーヒドラへと激突する。

 

 やはり貫通することは出来ず、次々に弾丸は弾かれてしまうが―――――その7.62mm弾の群れの中に、銃弾よりもやけに大きな2発の砲弾が紛れ込んでいた事を、シーヒドラは見抜く事が出来なかったらしい。

 

 銃弾の激流と共に外殻に叩き付けられたその2発の砲弾が爆発し、シーヒドラの首の付け根を炎で包み込む。対戦車榴弾よりも口径が小さいため効果は薄いかもしれないと思ったが、その2発分の衝撃でシーヒドラの首がぐらりと揺れる。

 

『ぬ………!?』

 

 ラウラがグローザから放った、2発のライフルグレネードだ。

 

 続けざまに俺はトリガーを引き、再びダッシュしながら銃弾の連射を再開する。徹甲弾の群れを弾きながら俺たちを睨みつけ、5つの頭が全て同時に口を開く。

 

 瞬く間に口の前に5つの蒼い魔法陣が出現し、複雑な記号や古代文字を投影しながら肥大化していく。水の激流をあそこから吐き出し、一斉砲撃で俺たちを殲滅するつもりなんだろう。

 

 炎や水を吐き出す原理が普通のドラゴンとは異なるエンシェントドラゴンたちの攻撃は、どれもドラゴンよりも強力だ。どんな強力な防壁を魔術で召喚しても、防ぎ切ることは難しいと言われている。それゆえにエンシェントドラゴンの討伐に成功した冒険者はほとんどおらず、エンシェントドラゴンは国によっては守り神として崇められているのだ。

 

 苦手な水属性の攻撃が来ると悟った瞬間、俺はぞくりとした。あんな攻撃を喰らったら木端微塵になってしまう。外殻を使って防いだとしても、炎属性の魔力が苦手とする水属性の攻撃を喰らった時点で暴発してしまうため、俺の身体は粉々になってしまうに違いない。

 

 だからこそ、喰らうわけにはいかない。

 

 それに、恐れるわけにはいかない。

 

 ラウラにとっては俺は弟だ。

 

 それに―――――ナタリアにとって、俺はヒーローらしいからな。

 

 逃げ出すヒーローってカッコ悪いだろ?

 

 再び俺の銃弾の中に、緋色の礫が紛れ込む。7.92mm弾の激流と共にシーヒドラの外殻にぶつかったそれは、続けて放たれる獰猛な一撃の予兆。戦車の装甲を貫くという宣告に等しい。

 

 やはり、その緋色の礫とほぼ同じ軌道を、炎を纏った1発の砲弾が疾駆した。俺の頭上を通過して行ったその1発の砲弾は、一足先に放たれたスポット・ライフルの曳光弾と同じように外殻に喰らい付くと、シーヒドラのダークブルーの外殻を緋色の爆炎で彩った。

 

 だが、華やかなその爆炎が外殻を破壊するのではない。その爆炎の中で生まれたメタルジェットの槍が、外殻を貫くのだ。

 

『うぐぅっ!?』

 

 シーヒドラの魔法陣が消失し、巨体がまたしても揺れる。

 

 バレルジャケットの中から覗く銃身が早くも真っ赤になっていることに気付いた俺は、舌打ちをしてからバレルジャケットの側面を解放し、真っ赤になった銃身を排出した。足元に張られている海水の絨毯へと落下した銃身が海水を沸騰させる。

 

 予備の銃身を差し込んでハッチを閉じ、ついでにドラムマガジンも取り外す。新しいドラムマガジンを装着してベルトを上部ハッチの中に差し込み、コッキングレバーを引いて再装填(リロード)する。そして再び照準器を覗き込もうと思ったが――――――予想以上にシーヒドラに接近できていることに気付いた俺は、にやりと笑いつつMG42を背中に背負うと、ポケットからC4爆弾を2つ取り出し、そのまま前へと突っ走った。

 

 接近してくる俺を真っ先に叩きのめそうとしたのか、シーヒドラが巨大な前足を振り上げた。ステラの鉄球を握りつぶしてしまうほどのパワーを持つあの前足を叩き付けられたら、すぐに肉片の塩漬けにされてしまうに違いない。

 

 速度を上げてシーヒドラの懐に潜り込み、その振り下ろされてきた足を置き去りにして回避する。背中に海水の飛沫を浴びながらも疾走し、シーヒドラの巨大な後脚の傍らを通過した俺は、続けて振り払われたクジラの尻尾を思わせる巨大なシーヒドラの尻尾をジャンプして躱すと―――――踵を返してシーヒドラには向かわずに、そのまま奥にある扉へと向かって走り続けた。

 

『―――――なっ、何ッ!?』

 

『この下等生物が! 貴様、このシーヒドラを無視して宝を狙っておったのか!』

 

『許さん………! 古代の人々が遺した宝物は、貴様らには渡さぬぞッ!』

 

「ぎゃははははははっ!」

 

 引っかかりやがったな! このC4爆弾はシーヒドラの外殻を破壊するためじゃなくて、あの扉を吹っ飛ばすために用意したんだよ!

 

 高笑いしながら走り続ける俺の背後で、シーヒドラが激昂しつつこっちを振り返る。あいつの目的はここの宝を守り抜く事だから、宝物のある部屋へと向かう奴がいれば真っ先にそいつを狙ってくる事だろう。

 

 案の定、シーヒドラはラウラとナタリアを無視して俺を狙う事に決めたらしい。5つの首が同時に俺を睨みつけ、巨体が俺に向かって全力疾走してくる。

 

 まるで軍艦が突っ込んで来るかのような威圧感だった。戦車並みの防御力を持ち、戦車以上の攻撃力を持つ15mの怪物。そいつが俺だけを狙い、背後から突進してくるのだ。

 

 更に走る速度を上げるが――――――振り切れない。このままでは追いつかれ、踏み潰されてしまう。

 

 そんなグロテスクな死に方は嫌だ―――――。

 

 だが――――――全力疾走しながら、俺は嗤っていた。

 

 俺がピンチになったのではない。この怪物が、逆に狩場へとやって来てくれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 親父から銃の扱い方の訓練を受けた幼少期の俺とラウラは、やがて親父と一緒に銃を持って狩りに行くようになった。ボルトアクション式の銃を渡され、森で動物を狙っていたんだが、段々とラウラと比べて俺はあまり獲物を仕留められなくなった時期があったんだ。

 

 いつもラウラに先に獲物を仕留められ、俺はなかなか仕留められない。俺は狩りに向いてないのかなと思っていると、親父は俺にアドバイスをくれたんだ。

 

『タクヤ、狙って仕留められないのなら、裏をかけ。仕留めようと意識しているから逆に仕留められないんだ』

 

 仕留めるためには意識しなければならないのに、意識するなという事なんだろうか? それで仕留められるようになるのか?

 

『仕留めようとすれば相手は警戒する。だから仕留めようとはせずに、黙って無視するんだ。そして、相手が警戒心を緩め始めた瞬間を狙って――――――』

 

 ――――――仕留めろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 親父の教えは、狩りではなく実戦でも役に立った。

 

 しかも、今から仕留めようとしているのは森の動物ではない。討伐した者が殆どいないと言われている、エンシェントドラゴンのうちの1体なのだから。

 

 そう、仕留めようと意識するから仕留められない。

 

 だから狙いはその獲物ではないのだと思わせ――――――警戒心を緩めた瞬間に、狩る。

 

 引っかかりやがったな、シーヒドラめ。

 

「カノン」

 

『ええ、お任せくださいな』

 

 走りながら、ちらりと後ろを振り向く。

 

 この広間の入口に残してきたカノンとステラ。あの2人に託した105mmの巨大な無反動砲の砲口が、シーヒドラの背中へと向けられている。

 

 それの砲手を担当するのは、百発百中の砲手としてモリガンで大活躍したカレン・ディーア・レ・ドルレアンの娘のカノンである。

 

 かつん、とシーヒドラの背中にスポット・ライフルの緋色の弾丸が喰らい付く。ナタリアのカールグスタフM4と同じく、これから更に強力な一撃でその外殻を貫くという獰猛な宣告。

 

 シーヒドラは、宝物を狙う俺を仕留めるために俺だけを狙っている。つまり、他の仲間たちは全く狙っておらず、警戒すらしていないという事。

 

 だからこそ対策も立てられないし、回避もできない。無防備な状態で攻撃を喰らうしかない。

 

「―――――やれ、カノン」

 

 その直後、広間の入口で炎が噴き上がった。

 

 シーヒドラの砲口を上回る轟音を響かせ、炎と衝撃波で足元の海水を波立たせた無反動砲の一撃は――――――警戒心を緩めてしまった獲物(シーヒドラ)の背中へと、喰らい付いた。

 

 

 

 

 


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