異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ひとまずは、俺たちの攻撃が通用することを知って安心した。
12.7mm弾は弾かれるため、早々から虎の子の対戦車榴弾を投入する羽目になっているが、切り札である対戦車榴弾はちゃんと通用しているため、仲間たちと訓練したこともない大型の重火器を投入する羽目にならなくて済んでいる。
しかし――――――ステラのガトリング砲が大型の薬莢を吐き出し、ナタリアのカールグスタフM4が火を噴く度に、俺の中に生まれた焦りは徐々に膨れ上がっていった。
こちらの攻撃は通用する。対戦車用に開発された大型のものばかりだが、それらならば外殻を貫いてダメージを耐えられる。その事実が勝機であり、希望でもある。
しかし、そのような重火器に限って弾数が少ないのだ。
既に俺も動き回りつつ対戦車榴弾を3発使用しているため、虎の子の対戦車榴弾の弾数は残り3発。ナタリアは先ほどから何度も使用しているため、そろそろ対戦車榴弾が底をつく筈だ。
ステラのガトリング砲はいつまで続くのかと思いつつ彼女の方を振り返ろうとした瞬間、いきなりぴたりと勇ましい轟音のうちの1つが消失する。
「――――!」
立て続けに響き続けていた、最も勇ましい轟音。戦闘機や空母に搭載されるサイズのガトリング砲の咆哮である。対戦車榴弾ほどの破壊力はないとはいえ、大口径の砲弾を凄まじい速度で連射するその代物は、間違いなく切り札の1つだ。
その切り札の1つが、沈黙したのだ。
焦燥に貫かれ、冷や汗が流れ落ちる。早くもシーヒドラに対する決定打の1つが弾薬を使い果たし、沈黙してしまったというのか。
振り返ってみると、確かにステラが持つGSh-6-30のマズルフラッシュは消え失せていた。灼熱の砲弾の連射に耐え続けて真っ赤になった砲身は、まるで睡魔に誘われて眠る子供のようにゆっくりと冷め始めており、回転する速度も緩やかになりつつある。
背負っていた弾薬タンクを投げ捨て、ガトリング砲から手を離すステラ。まだ冷めきっていなかった砲身が海水の張られた床に落下し、水の沸騰する音と水蒸気を生み出す。
「タクヤ、ガトリングは弾切れです。グラシャラボラスで応戦します」
「了解、無茶すんな!」
くそったれ、早くも30mm弾が底を突くとは………!
ガトリング機関砲を手放し、砲弾と銃弾が突き抜ける闘技場の真っ只中で、ステラが今度は巨大な鉄球を召喚する。封印されていた彼女が最初から手にしていた、サキュバスたちの技術によって造られた巨大な鉄球。無数のドリルのようなスパイクとケーブルに表面を覆われたそれは、中世ヨーロッパを思わせる異世界で造られたとは思えないほど先進的な外見をしている。
だが、前世の世界であらゆる機械を目にして来た俺からすれば、先進的というよりも〝荒々しい”得物に見えてしまう。
鮮血を凍結させたかのように紅い鎖の群れを引き、ステラがその鉄球をシーヒドラへと向けて振り下ろす。
シーヒドラの大きさは全高15mほどだろう。そんな巨大な怪物へと向かって振り下ろされたのは、直径2m程度の金属の塊に過ぎない。いくら魔力を流し込んで強化し、全身をドリル型のスパイクに覆われているとはいえ、戦車の装甲を破壊することに優れた対戦車榴弾並みの破壊力を持っているとは思えなかった。
ごん、と遠心力と重力の恩恵を受けた鉄球が、シーヒドラの胸元に叩き込まれる。先ほど俺の対戦車榴弾によるメタルジェットで穴があけられた部分だ。黒く焦げた外殻の表面をスパイクで削り、火花と外殻の破片をまき散らしていく。
まるで線香花火みたいだ………。
『小賢しい………』
「……!」
すると、彼女のガトリング砲がもう使えなくなったということに気付いたシーヒドラが―――――――前足を伸ばした。
棘のようなものがいくつも生えた鋭角的な外殻ではなく、流線型の美しい外殻に覆われた剛腕が海水の中から持ち上げられたかと思うと、胸元に喰らい付いて火花を散らし続けているステラのグラシャラボラスを鷲掴みにする。
「ッ! ステラ、攻撃を止め―――――――」
慌ててスコープから目を離し、ステラに今すぐ鉄球から手を離せと警告しようとしたが、もう既に彼女のグラシャラボラスはシーヒドラの巨大な前足に鷲掴みにされ―――――握りつぶされかけていた。
ぎし、とスパイクが歪み、回転が止まる。表面を覆っているケーブルの被覆が潰れ、中に入っていた黄金の配線があらわになる。今度は鉄球の表面が軋み始め、ぼろぼろとスパイクが落下を始めていた。
しかも、シーヒドラはその鉄球を鷲掴みにしたまま、前足を更に持ち上げた。まだ緩んでいた紅い鎖が張り詰め始め、それを右手の腕輪に装着していたステラの小さな身体が、天井へと吸い込まれ始める。
「す、ステラ!」
「………危険です」
あのままでは、彼女が危険だ。いくらキメラを上回る筋力を持つサキュバスでも、エンシェントドラゴンと力比べをすれば敗北するのは火を見るよりも明らかである。それゆえに、あの状態から鉄球を引っ張り、自力で逃げ出すのは不可能だ。
俺たちが助け出さなければ!
OSV-96の銃口をシーヒドラの腕に向け、何度もトリガーを引く。しかし流線型の外殻に激突した大口径の銃弾は、外殻を貫通することなく、全てダークブルーの外殻によって弾かれてしまう。
ならば、対戦車榴弾で吹っ飛ばしてやるか?
そう思って左手を銃身の下にあるロケットランチャーのトリガーに近づけたその時だった。
―――――俺の目の前を、1発の銃弾が横切ったのだ。
シーヒドラの外殻を何度も穿ち、奴が見下していた人類でも竜の外殻を貫く事が出来るのだと見せつけた対戦車榴弾に比べれば、あまりにも小さ過ぎる1発の弾丸に過ぎない。
なぜならば、対戦車榴弾はその名の通り戦車の装甲を破壊し、メタルジェットで貫通して破壊するために造られた砲弾であるからだ。元々戦車を破壊するために設計された砲弾と、遠距離を狙撃するために造られた弾丸では孕む威圧感も全く違う。
しかし、その銃弾は―――――俺の銃弾のように、弾かれることはなかった。
メタルジェットが開けた外殻の穴へと、正確に飛び込んでいったのだから。
『―――――ぬぅッ!?』
黒焦げになり、中心部に穴が穿たれたシーヒドラの胸板の穴。その穴へと正確に飛び込んでいった1発の銃弾はお構いなしに筋肉繊維を断ち切ると、人間や普通の魔物とは堅牢さと厚みが違う胸骨に遮られるまで、毛細血管や筋肉を蹂躙し続けた。
ロケット弾よりも地味で威圧感もない、たった1発の銃弾。それに胸の穴を更に穿たれたシーヒドラが、呻き声を上げながら鉄球から手を離す。
「ステラッ!!」
ライフルを投げ捨て、俺は鉄球と共に落下してくるステラの下へと向かって走り始めた。まるで浅瀬で走っているかのように足元の海水が絡み付いてくるが、その海水の束縛を踏み潰しながら突っ走る。
そして思い切りジャンプし、落下してくるステラの小さな身体を空中で抱き抱えた俺は、ステラの代わりに海水が張られている床へと肩や背中を叩き付ける羽目になった。
まるで海中に放り込まれた機雷のように水飛沫を上げ、俺とステラが一緒に落下する。鼻や口の中に飛び込んでくる海水の飛沫。たちまち口の中を支配した潮の味に顔をしかめながら、俺は胸板にしがみついているステラを先に立たせた。
「げほっ、げほっ、げほっ………だ、大丈夫か………?」
「はい、大丈夫です」
だが、彼女が身に着けている白いワンピースのような服は海水で濡れてしまっている。同じく海水で濡れてしまった銀髪を片手で払いながら、ステラは起き上がろうとしていた俺に手を伸ばしてくれた。
彼女の小さな手を握り、「良かった」と微笑みながら言った俺は、先ほどの狙撃でメタルジェットの穴に正確に弾丸を叩き込んだ優秀な狙撃手の顔を思い浮かべる。
カノンではないだろう。彼女は中距離ならば正確な狙撃ができるが、彼女の最大の売りは狙撃しながら早撃ちができるという点だ。カノンが得意とするのは、複数の敵を矢継ぎ早に撃ち抜く早業なのである。
それに対して、俺の姉が得意とするのは遠距離から正確に敵を撃ち抜く狙撃だ。カノンと比べると地味かもしれないが、基本的にラウラは狙撃をあまり外さない。しかも、スコープを使わずに2km先の標的を撃ち抜く事もできるのだ。
あんな狙撃ができるのは、このメンバーの中ではラウラしかいない。振り返ってみると、やはり黒いベレー帽をかぶった赤毛の少女が、フランス製アンチマテリアルライフルのヘカートⅡを構えつつ手を振っている姿が見えた。
左手でボルトハンドルを引き、一般的なライフル弾よりも大きな空の薬莢を排出するラウラ。その薬莢が海水の中に落ちるよりも先に大きなマズルブレーキが装着された銃口を動かし、アイアンサイトを睨みつけた彼女が―――――容赦なくトリガーを引く。
彼女のヘカートⅡは、左利きであるラウラのためにボルトハンドルなどの部品の配置を左右で逆にしてあるのだ。
再び放たれる12.7mm弾。外殻を穿つ事はできないが、ラウラのような狙撃技術を持ち合わせている狙撃手ならば、十数cmほどの小さなターゲットでも撃ち抜くことは出来るだろう。
幼少の頃から彼女と共に訓練を受け、魔物と戦い、場合によっては観測手(スポッター)を担当し、常に傍らで見守っていたから分かる。
――――――彼女の狙撃は、百発百中なのだと。
黄金のマズルフラッシュを置き去りにし、ラウラの12.7mm弾が疾駆していく。先ほどメタルジェットの穴に弾丸を撃ち抜かれ、悶えるシーヒドラはラウラを睨みつけようと振り向く途中だったのだが、またしてもその巨体が、揺れた。
『グォォォォォォォォ!?』
『こ、この娘ッ………まさかッ!?』
『胸元の風穴を………!?』
その通り。
シーヒドラの野太い声を聞きながら、俺はにやりとしていた。
2発目も、同じ穴へと飛び込んだのである。その一撃は筋肉繊維を破壊するようなことはなかったけれど、一足先に飛び込み、重厚な胸骨によって防がれていた1発目の後端を猛烈な運動エネルギーで後押ししたのだ。
運動エネルギーが底を突き、〝死んでいた”12.7mm弾が再び胸骨へと牙を剥く。
立て続けにボルトハンドルを引き、大型の薬莢を排出。そしてアイアンサイトを睨みつけてトリガーを引くラウラ。
3発目の弾丸も同じようにシーヒドラの胸の穴へと飛び込み、1発目と2発目の弾丸を更に押し込む。まるで岩盤に杭を突き立て、その杭をハンマーで打ち据えて岩盤を削るかのように。
「す、すごい………」
いつも無表情のステラが、十数cmしかない小さな穴を何度も正確に撃ち抜くラウラの狙撃技術を目の当たりにして感嘆する。
ああ、ラウラは凄い。あいつは幼少の頃から遠距離の標的を撃ち抜くセンスを持ち合わせていたんだ。その彼女に狙撃を教え、才能を研磨したのがモリガンで狙撃手として活躍していたリキヤ・ハヤカワ。更にその研磨されたラウラの才能を仕上げ、本格的に開花させたのが幼少の頃から続けていた狩猟と、魔物との戦いなのだから。
ラウラにとっては――――――2km先を飛んでいる小鳥を、スコープを使わずに撃ち落とすのは朝飯前なんだよ!
俺のお姉ちゃんは、最強の狙撃手なんだからなぁ!
『小癪なぁ………ッ!』
4発目の弾丸が撃ち込まれたシーヒドラが、ラウラを睨みつけつつジャンプした。サメのヒレを思わせる巨大な翼を広げ、円形の闘技場を思わせる足場の上から、足場の下を埋め尽くしている海水の中へとダイブしていく。
まるで巨大な潜水艦が海底に潜航していくかのように、攪拌された海水が純白の泡で水面を彩る。獲物に逃げられたラウラは今のうちにボルトハンドルを引き、マガジンを交換する。
ラウラの狙撃で痛手を与えたのはいいんだが、シーヒドラは逃げたのか………?
いや、逃げるわけがない。あのエンシェントドラゴンが、下等生物だと見下している人間たちに痛手を負わされた程度で逃げ出すのはありえない。それは自分のプライドを自分で叩き潰しているのと同じなのだから。
その時、俺はぞっとした。
シーヒドラは深海に生息するエンシェントドラゴン。つまり真価を発揮するのは地上ではなく―――――海中である。
海中へと飛び込んだのは逃げ出したのではなく、自分の真価を発揮するため。すなわち、本気を出すためなのではないのか?
そう思った俺は、咄嗟にステラの小さな身体を再び抱き抱えてダッシュしていた。既にグラシャラボラスを解除していた彼女の身体はとても軽くて、潮の臭いの中でも甘い香りがする。
すると――――――俺たちがラウラの狙撃を眺めていた純白の足場が、突然巨大な水柱と化した。純白の泡で覆われた海水と、その中から飛散する純白の足場の破片。その水柱の中を昇っていくのは、ダークブルーの外殻に全身を覆われ、サメのヒレのような巨大な翼を持つ怪物であった。
こいつ、足場の床を突き破りやがった………!
あれほど堅牢な外殻で覆われているのならば足場を突き破ることは出来るだろう。足場も堅牢とはいえ、これはあくまで純白の石畳でしかないのだから。
足場を突き破ったシーヒドラが、外殻の表面を海水で濡らしながら再び足場の上に舞い降りる。猛烈な水飛沫が噴き上がる彼方には、俺たちを睨みつける5つの顔が鎮座している。
拙いな………。
今まで俺たちは、あらゆる強敵と戦ってきた。転生者とも戦ったし、ヴィルヘルムの亡霊も退けている。
だが、その強敵たちはあくまで〝俺たちと同じ条件の敵”でしかなかった。再生能力を持っている強敵もいたが、彼らも俺たちと同じく〝地面の上に立つ”敵ばかりだったのだ。
しかし、このシーヒドラはそれだけではない。深海の水圧に耐えきれるほどの外殻を持ち、海中からも襲ってくるのだから。
地上だけでなく、海中にも注意しなければならないのだ。
海水の上に浮遊するこの闘技場は、シーヒドラを打ち倒すための闘技場などではない。ここはシーヒドラにとって―――――ただの狩場でしかないのかもしれない。
手持ちの対戦車榴弾も少ない。いくらラウラの狙撃があるとはいえ、胸骨を砕いたところでシーヒドラはくたばらないだろう。このまま戦い続けるのは無謀だ。一旦撤退して、作戦を立てつつ新しい武器を用意しなければならない。
「―――――総員、撤退だ。さっきの通路まで撤退する!」
『撤退!? 逃げるの!?』
「手持ちの対戦車榴弾も少ない。それに、作戦も立てなければ」
怪物とは、人間では絶対に勝てないから怪物なのだ。
ああ、こいつも怪物だ。現代兵器を活用しても苦戦するのだから。
しかし、こいつを何としても打ち倒さなければならない。乗り越えなければならない。
「ステラ、俺が殿を担当する。みんなと一緒に通路まで戻れ」
「嫌です」
「おい、ステラ―――――」
首を横に振った彼女は、腰の後ろに下げていた自分のRPK-12を取り出した。小さな手でハンドガードに付着していた海水を拭い去り、俺の顔を見上げる。
「1人で殿を担当するのは、危険過ぎます」
「大丈夫だ、あいつを引きつけるだけだからな」
「いえ、大丈夫ではありません。………ステラは、タクヤが心配なのです」
「ステラ……………?」
目の周りに付着した海水と別の滴を拭い去り、ステラが俺の手をぎゅっと掴む。
「タクヤはステラを受け入れてくれました。それに、いつもステラにご飯をくれる優しい人です。……だから、ステラはタクヤに死んでほしくありません。ずっと一緒にいて欲しいのです。………お願いです、タクヤ。ステラも一緒に戦わせてください。ステラもタクヤを守りたいのです」
「………はははっ、そうか」
この子は、優しい子だ。
ずっと1人で眠り続け、同族が全て滅んでしまった絶望的な世界に取り残されても、彼女の中には優しさが残っている。
海水で濡れてしまったステラの銀髪を撫でた俺は、微笑みながらステラを見下ろした。
「よし、一緒に戦おう。ただしステラ、俺もお前に死んでほしくない。………いいな?」
「はい」
「よし、射撃開始! ナタリア、カノンとラウラを連れて通路に戻れ! 俺たちはもう一頑張りさせてもらうッ!」
『了解!』
彼女の返事が聞こえてきた直後、後方から飛来した緋色の礫が、またしてもシーヒドラの外殻へと飛び込んだ。かつん、と小さな歩とを立てて弾かれてしまった礫だが、数秒後にその礫が命中した箇所へと飛び込んできたのは、シーヒドラの外殻さえも貫通するメタルジェットを携えた対戦車榴弾であった。
正面から見て右から2本目の首の付け根に飛び込んだその一撃が、メタルジェットで外殻に穴を開ける。緋色の火柱に右側の首が飲み込まれ、外殻の表面を覆っていた海水が蒸発する。
『最後の1発よ!』
「ナイス!」
シーヒドラがよろめいている隙に、俺は再びダッシュした。先ほどステラを助けるために投げ捨てたOSV-96を海水の中から拾い上げ、表面に付着している海水を素早く拭い去る。海水の中にあったのは1分未満だから、ある程度海水を拭き取れば発砲できるだろう。
海水を拭いながら走り、立て続けに12.7mm弾をぶっ放す。相変わらずシーヒドラの外殻に弾かれてしまうが、あくまで仲間たちが通路まで戻る間囮になっていればいい。
「おい、シーヒドラ! 随分と立派な外殻が穴だらけになっちまったな! 俺が縫い直してやろうか!? 裁縫は得意分野の1つなんだぜ!?」
『調子に乗るなよ………下等生物がぁッ!!』
一番左側にあった首が激昂した。LMGで反撃を始めたステラではなく俺を睨みつけ、巨大な口を開く。
無数の鋭い牙が生えている口の前に、水色の魔法陣がいきなり浮かび上がる。エンシェントドラゴンの放つ炎や水は、他のドラゴンの攻撃とは発射する原理が違うし、威力も桁外れなのだ。
普通のドラゴンたちは自分たちの体質を利用し、そのまま炎を吐き出す。しかしエンシェントドラゴンは、更にその炎や水を魔力で10倍程度に増幅してから攻撃するため、攻撃範囲や破壊力は劇的に上がるのである。
水を司るシーヒドラが吐き出すのは当然ながら水だ。そんな攻撃を喰らえば、俺の体内の魔力は一瞬で暴発し、俺の肉体は木端微塵になってしまうだろう。
だから回避するべきなのだが………俺はにやりと笑った。
「ステラぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「了解(ダー)」
いつの間にか、俺の背後にグレネードランチャー付きのRPK-12を装備したステラが立っていた。シーヒドラとの戦いでは未だにRPK-12を使用していなかったため、弾薬は全て温存されたままである。
彼女の小さな手が、銃身の下に搭載されているポーランド製グレネードランチャーのwz.1974パラドへと伸びた。
側面に折り畳まれていたグレネードランチャー用の照準器を覗き込み、その照準をシーヒドラの口の中へと合わせるステラ。いくら強靭な外殻に覆われているシーヒドラでも、口の中には牙が並んでいるのみ。拳銃用の弾丸でも風穴を開けることは出来るだろう。
俺も同じく、アンチマテリアルライフルに取り付けてあるRPG-7V2の照準器を覗き込み、カーソルを口の中へと合わせる。
「こりゃ裁縫じゃなくて溶接だな」
「いいじゃないですか」
「ああ」
こっちの方が殺傷力がある。
「「――――――発射(アゴーニ)ッ!!」」
2人で同時に、得物のトリガーを引いた。
ロシア製のロケットランチャーから虎の子の対戦車榴弾が飛び出し、ポーランド製のグレネードランチャーから40mmグレネード弾が放たれる。
煙を放ちながら槍のように飛来するロケット弾と、そのロケット弾の傍らを飛ぶグレネード弾を目にしたシーヒドラが目を見開き、慌てて口を閉じようとするが――――――巨大な口が閉ざされるよりも先に、その2つの矛は巨大な口の中へと飛び込んでいた。
その直後、シーヒドラの口の中に並んでいた牙の群れが一気に吹き飛んだ。歯茎もろとも吹き飛ばされた牙たちの後ろから噴き上がったのは、戦車を破壊するために開発された対戦車榴弾の爆風と、グレネードランチャーの荒々しい爆風だ。
『ギャァァァァァァァァァァァッ!?』
「よし、逃げよう」
「了解(ダー)」
今のうちに通路へと撤退しよう。あいつが体勢を立て直したら、絶対に激昂して襲い掛かって来るだろうからな。
アンチマテリアルライフルを肩に担いだ俺は、ステラに向かってにやりと笑うと、彼女と共に通路へと向けて走り出した。