異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

112 / 534
海底神殿の守護者

 

 ナタリアの指示通りに近くの足場に接舷し、機関部が停止したのを確認してから座席から立ち上がる。早くも船外から潮の香りと小さな波の音が聞こえてきて、早くあのハッチの外に飛び出したいという衝動が膨れ上がったけど、ここは遊園地じゃない。熟練の冒険者でも容易く命を落とす危険なダンジョンの中なのだ。

 

 ハッチから出た瞬間に魔物が襲ってくるかもしれない。ハッチの向こうに広がる開放感の中へ躍り出ようとする衝動に耐えながら、一番槍となるナタリアはMP443を片手に持ちつつ外を警戒する。

 

 銃口を左右に向け、頭上にも魔物が潜んでいない事を確認してから合図するナタリア。甲板に飛び出した彼女に続いて、同じくサイドアームのMP443を構えるカノンがタラップを登って甲板へと上がる。

 

「忘れ物ない?」

 

「ふにゅ、ないよ」

 

「はい、ないです」

 

 生産した兵器の中に何か忘れ物をした場合ってどうなるんだろうな? 一緒に収納されるのか? 

 

 基本的に、俺の能力で生産した武器や兵器は収納してしばらく経つと最善の状態に勝手にメンテナンスされるようになっている。例えば、なけなしの燃料しか残っていない状態で潜水艇を装備から解除して収納し、12時間待つと、燃料は満タンになっている上に修理されたり、弾薬も補充された状態で再び使用できるようになるというわけだ。

 

 逆に言えば、燃料を使い切ったら12時間待たなければならない。一般的な軍隊のように補給するわけにはいかないため、使い勝手が良い局面もあれば、逆に使い勝手が悪くなるというわけだ。

 

 特に遠距離にある敵陣に進撃する場合、この制約は確実に足枷となる。それは何かしらのスキルか能力で補えって事なんだろうな。

 

 俺もサイドアームのMP412REXをホルスターから引き抜き、シリンダーの中にちゃんとマグナム弾が装填されているか確認する。隣ではラウラも、俺と色違いのMP412REXを準備していた。

 

 彼女の〝色”をイメージして赤と漆黒の2色で塗装されたリボルバーは、俺の蒼と黒のリボルバーよりも攻撃的で、妖艶な雰囲気を放っている。

 

「みなさん、魔物はいませんわ。早く下船してくださいな」

 

「はいはーい。ほら、ステラ」

 

「はい」

 

 ホルスターからハンドガンを引き抜きかけていたステラは、外が安全だと聞いたからなのか、得物は引き抜かずに小さな手をタラップへと伸ばし、そのまま素早く頭上のハッチへと向かって上がっていった。

 

 続けてラウラも甲板へと上がっていく。周囲に冒険者や人間がいなくてリラックスできるからなのか、彼女は黒いミニスカートの下からキメラの尻尾を出し、ひょこひょこと左右に揺らしながらタラップを登っていく。

 

 おいおい、尻尾はしまっておけって。他の冒険者に見られたら大変だろうが。それにラウラの尻尾の方が俺よりも短いんだからしまい易いだろ?

 

 呑気な姉を見上げ、彼女が登り終えたのを確認してから俺もタラップを登る。ひんやりしたタラップを踏みつけながら素早く登り切り、DSRVの小ぢんまりとした狭い甲板へと飛び出る。

 

  その建造物を目にした瞬間、俺は古代のギリシアに迷い込んでしまったのかと思ってしまった。

 

 騎士の隊列のように規則正しく並ぶ純白の柱と、その隊列に飾り立てられた純白の彫刻。太古に造られたそれらの表面は欠け、崩れかけているが、むしろ今の方が元々放っていた美しさにミステリアスな雰囲気が加わって、よりいっそう神秘的になっている。

 

 この世界の人々が、海底の世界を知るよりも遥か昔からここに〝在り続けた”神殿。それが――――――――海底神殿だ。

 

「おお………」

 

 港から見渡した海原とは別格の美しい海水の絨毯を見下ろし、俺は感嘆していた。

 

 海原は当たり前だがかなり広い。それゆえに美しさよりも広大さが目立っているんだが―――――この海底神殿を包み込む小さな海原は、全く広大さがない。その代わり海水は非常に透き通っていて、淡い蒼の小さな海原は日光に照らされていないというのに蒼く煌めき続けている。

 

「綺麗………!」

 

 小さな海原に下から照らされる中で、ラウラが呟いた。

 

「ねえ、こんなところで海水浴できたら最高だよね!?」

 

「ああ。でも、ここには危険な魔物がいっぱいいるからな?」

 

「ふにゃっ!? もう………タクヤのバカ………」

 

 現実的なことを言い過ぎたか………。お姉ちゃんにバカって言われちゃった………。

 

 それにしても、海水浴かぁ………。悪くないな。天秤の鍵を探す旅の最中だけど、息抜きも必要だろう。常に天秤の鍵を探すことに集中してたら疲れてしまうし、リラックスできないからな。

 

 余裕ができたらどこかに寄って、海水浴でも楽しもう。

 

 とりあえず、今はここで鍵を見つけなければ。

 

 目的を思い出しつつメニュー画面を開き、仲間たちに使い慣れたメインアームを支給する。ラウラにはヘカートⅡと2丁のOTs-14グローザを渡し、ナタリアにはショットガンのサイガ12と無反動砲のカールグスタフM4を渡す。選抜射手(マークスマン)を担当するカノンにはマークスマンライフルのSVK-12を支給し、魔術や射撃でのサポートを担当するステラにはLMGのRPK-12を渡した。

 

 そして、俺は生産したばかりのAN-94(アバカン)を装備する。通常の5.45mm弾ではなく、より大口径の7.62mm弾に弾薬を変更しているため、連射速度が圧倒的に速い2点バースト射撃と組み合わせれば魔物との戦いでも猛威を振るう筈だ。

 

 ちなみに、ラウラのグローザとカノンのSVK-12とステラのRPK-12と使用する弾薬は同じなので、弾薬を分け合う事が可能だ。ナタリアの得物は12ゲージの散弾やスラグ弾を使用するショットガンだから、弾薬が別物なのは仕方がない。

 

 安全装置(セーフティ)を解除し、セレクターレバーをセミオート射撃に切り替えてから、潜水艇の上から飛び降りる。純白の石畳の上に着地してからすぐに銃口を正面へと向け、魔物が潜んでいないか再確認した俺は、仲間たちに合図を送った。

 

 仲間たちが潜水艇の甲板から飛び降りたのを確認してからメニュー画面を開き、DSRVを装備の中から解除する。大きな魚雷のような形状の潜水艇が淡い蒼の海原から消失したのを見届けてから、仲間たちと共にいよいよ神殿へと前進した。

 

 

 

 

 

 

 1人になると、昔の自分に戻っているような気がする。最も自分が軽蔑している頃の自分に。――――――妹を嫌い、突き放していた頃の冷たい自分に戻っているのかもしれない。

 

 絶対零度という異名は、もしかして氷の魔術が得意だからという理由ではなく、妹に対しての態度が冷たいから付けられた別称なのではないだろうか。何気なく始めた自分の異名の考察がいつの間にか被害妄想になりかけている事に気がついた彼女は、自嘲しながら海を見つめた。

 

 身に纏っている今の制服は、最愛の仲間たちと共に傭兵として戦っていた頃のものとは全くデザインが違う。漆黒のメイド服のようなデザインだった制服は、今では首から上と胸元以外に露出している箇所が全くない、実用的なデザインになっている。

 

 すらりとした漆黒のブーツと同色のズボンに、マントの付いた黒い上着。娘であるラウラと同じく、上着の胸元は大きく開いているが、彼女の転生者ハンターの制服よりも露出は少ない。

 

 転生者の攻撃は非常に重く、獰猛である。それゆえに防御力を上げるために甲冑を身に着けるのは愚の骨頂だ。防具もろとも攻撃を受けて木端微塵にされるのが関の山なのだから。

 

 それゆえに、モリガンの傭兵たちは防具をほぼ身に着けることはない。標的を狩ることに最適化させつつ、個人の好みのデザインの制服を身に着けて敵を狩るのだ。

 

 露出が少なくなったのは、エリスの好みが変わったからなのだろうか。

 

 まるで18世紀のヨーロッパの海軍がかぶっていたような小型の小さな三角帽子をかぶりながら海を眺める彼女は、もし帆船の甲板の上にいたのならば女の海賊と間違われていることだろう。

 

 だが、海賊に例えたのはあながち間違いではない。なぜならば彼女は今から海底にある神殿へと向かい、メサイアの天秤の鍵を手に入れなければならないのだから。

 

「………さて。行きますか、リディアちゃん」

 

「………」

 

 エリスの後ろに立つのは、彼女よりもやや小柄な紫色の髪の女性であった。同行者であるエリスに微笑みかけられても無表情で頷くだけで、一言も喋らない彼女の服装は、エリスよりも異様といえるかもしれない。

 

 短いマントのついた黒いコートに黒いズボンを身に着け、紫色の髪の上には古びたシルクハットをかぶっている。紳士の恰好をした女性は人口の多い王都でもあまり見かけることはないが、仮にそんな格好の女性と出会ったとしても、リディアのように腰に東洋の刀を下げている女性はいないだろう。

 

 エミリアのラトーニウス式剣術やリキヤの我流の剣術を教わり、独自の剣術を作り出したリディアが最も好んでいるのが、東洋の刀であった。しかも普通の刀ではなく、東洋出身の鍛冶職人の技術を参考にフィオナが造り出した刀である。

 

 『響(ヒビキ)』と名付けられた特殊な刀だ。〝吹雪”とフィオナが名付けた刀の系譜の中で22番目に製造された刀であり、この刀に搭載されたある機能が響という名称の由来である。正式名称は『吹雪型特殊刀〝響”』だ。

 

 リキヤによって遺跡の地下から保護されてから何年も経過しているが、教官として彼女に戦い方を教えた1人であるエリスも、リディアの声を一度も聞いたことがない。声帯はちゃんとついているらしいし、呪われているわけでもないようなのだが、彼女が喋らない理由は未だに不明である。

 

 ミステリアスなホムンクルスの少女と共に海を眺めていたエリスは、相変わらず一言も喋らない彼女に向かって肩をすくめると、「静かな子なんだから」と言いつつ黒い手袋で覆われた右手を眼下の海水へと触れさせた。

 

 結婚してからは一度も訪れることのなかった祖国の海は、日光に照らされているというのにひんやりとしていた。まるで海水浴や漁ならば受け入れるが、この深海にある遺跡へと入ろうとする者だけは拒もうとしているかのように。

 

 だが、拒まれては困るのだ。海原が拒むというのならば―――――強引に突き抜けるのみ。

 

 体内の魔力を素早く氷属性に変換し、右手から海中へと流し込んでいく。藍色の海面が一瞬だけ蒼白く煌めいたかと思うと、その煌めいていた箇所が凄まじい速度で蒼白い氷へと変貌していく。

 

 それは絶対零度の異名を持つ最強の騎士がもたらした、人工的な氷河期であった。襲い来る敵がいるのならば槍で貫き、氷で凍てつかせてきた彼女が最も得意とする氷属性の魔術。正確な魔力の調整と、常人を遥かに上回る量の魔力を体内に蓄積して生まれてきたエリスだからこそできる、超低温の氷の魔術である。

 

 しかも、ただ凍らせただけではない。凍てついた海面にはよく見ると斜め下へと続いていく穴があり、その穴の中にはご丁寧に氷で作られた階段と手すりまで用意されている。

 

 海面を凍らせつつ、深海900mの海底神殿まで続く氷の通路を瞬時に生み出したのだ。神殿のある座標を把握したうえで、膨大な魔力の大半を注ぎ込んで生み出す氷の通路。この方法ならば一時の疲労を堪えるだけで、潜水艇も転移の魔術も使わずに海底神殿へと向かう事が出来るのだ。

 

「はぁっ、はぁっ………」

 

「………?」

 

「ご、ごめんね、リディアちゃん………私は……大丈夫よ」

 

 魔力を使い過ぎると、疲労感にも似た苦痛を味わう羽目になる。一歩も動いていなくても魔力を使い過ぎると息切れし、身体を全く動かせなくなってしまうのだ。

 

 それでも、エリスは座り込まずに呼吸を整えた。持ってきた漆黒のハルバードを地面につきながら辛うじて立ち、心配そうに肩を貸してくれたリディアに微笑みかける。

 

「ありがとう、リディアちゃん」

 

「………」

 

 一言も喋らないが、感情はちゃんとある。ミステリアスなホムンクルスに励まされたエリスは、彼女と共に氷で作られた通路へと進み始めた。

 

 『バネ足ジャック』の異名を持つリディア(ジャック)と、『切り裂きジャック』の異名を持つタクヤ(ジャック)の邂逅は―――――近付きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 古代ギリシアの神殿を思わせる柱が屹立する中に、その奇妙なものは佇んでいた。

 

 遠くからドットサイトとブースターで確認した時は、どうせ純白の石で作られた騎士の石像だろうと思っていた。古めかしい甲冑とロングソードを手にし、左手には盾を持った古代の騎士の像。中には槍を持っている石像もあるし、斧を手にしている石像もある。

 

 どの石像も2m程度で、整列する石柱の間に1つずつ配置されているため、かなりの数になる。その石造にトラップでも仕掛けられているのではないかと思い、そのまま通路を進むのを躊躇しているうちに――――――その守護者たちは、動き出した。

 

「おいおい………!」

 

「ふにゃっ、これって………!」

 

「あらあら、これは………!」

 

「くっ、拙いわね……!」

 

「ええ――――――」

 

 台座の上に鎮座する石像が、ぴくりと動いた。

 

 剣を手にした騎士の石像が台座から下り、右手に持った剣を振り上げる。その傍らでは槍を手にした石像が得物の先端部を床に突き立て、石の兜に覆われた顔から紫色の炎を噴き上げて咆哮していた。

 

 そう、柱の間に飾られていた石像たちが――――――動き出したのである。

 

 純白の石の破片をぽろぽろと落としながら動き出したそれらは、しばらく勝手に剣を振り下ろしたり、試し斬りをするかのように柱を斬りつけていたけど―――――俺たちの近くにいた1体が俺たちと目を合わせた直後、他の石像たちも動きをぴたりと止めてから、一斉にこっちを睨みつけてきた!

 

 うわ、怖ぇ………! 

 

「――――――この石像たちは、古代人が遺した神殿の守護者でしょう」

 

「つまり、俺たちは侵入者………?」

 

「当たり前です」

 

 無数の敵が動き出したというのに、あっさりとそう言うステラ。

 

「突破するしかないわよ………みんな、いける!?」

 

「当たり前ですわ」

 

「はい。あいつらは食べられないでしょうが、頑張ります」

 

「あれ石だからな!?」

 

 石まで喰おうとしてるのかよ、ステラ!?

 

 彼女の食欲に驚愕しつつ、俺は隣にいるラウラを見て苦笑いした。最近はなかなか得意な狙撃ができないせいなのか、ラウラは残念そうにヘカートⅡを背中に背負い、腰のホルダーから2丁のグローザを引き抜く。

 

 ああ、7.62mm弾ならあいつらは倒せるだろう。小口径の5.56mm弾でも倒せるだろうが、あいつらのようなハード・ターゲットを仕留めるならば大口径の銃の方が効果的だ。

 

「―――――コンタクトッ!」

 

 俺が叫んだ直後、俺たちの先制攻撃が始まった。

 

 

 

 

 おまけ

 

 カノンの置き土産

 

カレン(最近は仕事が忙しいわね………。ギュンターの奴、大丈夫かしら………?)

 

執事「カレン様、失礼します」

 

カレン「あら、どうしたの?」

 

執事「その………お嬢様のお部屋を掃除していたら、隠し部屋を見つけまして………」

 

カレン「か、隠し部屋!? そんな部屋、業者に造るように依頼した覚えはないわよ!?」

 

執事「おそらく、旦那様が勝手に増設したのかと………」

 

カレン(あの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!)

 

カレン「それで、その中には何が?」

 

執事「はい、その………せっ、成人向けのマンガが………500冊ほど」

 

カレン「はぁっ!?」

 

執事「しかも男性向けのマンガまで混じっていましたし、その……男性向けなのか女性向けなのかよく分からないものまで含まれておりまして………」

 

カレン「ぜ、全部処分しなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」

 

 完

 

 




リディアの刀の名前の元ネタは、旧日本軍の駆逐艦『響』からです。なんだか日本の軍艦の名前ってかっこいいですよね(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。