異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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転生者ハンター

 

 王都ラガヴァンビウスは、魔物の襲撃から街を守るための巨大な防壁に囲まれている。強大な騎士団のおかげで今まで魔物に突破されたことはない堅牢な防壁なんだが、毎日あの街並みの向こうに見える殺風景な防壁を目にするとうんざりしてしまう。

 

 ネイリンゲンの森に住んでいた時は、窓の外には森や草原が見えていて開放的だったんだが、ここは全く逆だ。発展した大都市には、この殺風景さが付きものなんだろうか?

 

 でも、あの殺風景な防壁のおかげで、この王都は魔物にやられることなく発展し続けている。予算が無いせいで防壁すら作る事ができない小さな村では、魔物に怯えながら生活しなければならないらしい。

 

 家の裏庭から防壁を見つめていると、家の裏庭にある物置から木箱を持って来た親父が庭の芝生の上に木箱を置いた。

 

「よし、好きなのを選べ」

 

 そう言って木箱の蓋を取り外す親父。木箱の中にぎっしりと入っていたのは、モリガン・カンパニーで生産された様々な武器だった。モリガン・カンパニーは親父が設立した企業で、エリクサーの生産やインフラ整備だけでなく、武器の生産や各地の警備も行っている。生産した武器は基本的に騎士団や冒険者に販売されるんだが、銃は生産していない。木箱の中に入っているのは従来の剣やトマホークなどの武器ばかりだ。

 

 隣に立っていたラウラは俺の方を見ると、にやりと笑ってから木箱の中の武器に手を伸ばした。剣やトマホークではなく、サバイバルナイフとボウイナイフを手に取った彼女は、早速鞘から引き抜いて戦闘準備に入る。

 

 俺も木箱の中に手を伸ばし、中に入っていたナックルダスターとトレンチナイフを引き抜いた。ナックルダスターを左手にはめ、右手にはフィンガーガードが装着された大型のトレンチナイフを構えた。刀身は分厚くなっていて、峰の部分にはノコギリのような刃も用意されている。

 

 前まではモリガン・カンパニー製の仕込み杖を使ってたんだが、最近はこれを使うようになった。将来的にはラウラと2人で冒険者として旅に出る予定なんだが、その際には銃も一緒に携行するため、接近された際に応戦するための近距離武器は小型の方が望ましいし、ナイフくらいのサイズであればかさばることはない。親父はそれを全く気にせずに様々な近距離武器を使っていたらしいが、俺は出来るならば小型の方が良いと思っている。

 

 俺たちが武器を取ったのを確認した親父は、木箱から取り出した2本のボウイナイフをくるりと回すと、切っ先を俺たちの方へと向けてきた。

 

「では、今から戦闘訓練を始める。………かかって来い」

 

 今から俺たちは、この親父と戦うのだ。

 

 俺とラウラが誘拐された次の日、ラウラが親父に「戦い方を教えてくれ」と頼んだらしい。俺は武器を装備してあいつらに逆襲できたんだが、ラウラはあの時に姉として何もできなかったことをかなり後悔しているようで、強くなりたいと思ったから親父に戦い方を教えてくれと頼みに行ったんだろう。

 

 成長したら旅立つ予定だったし、今のうちに銃の撃ち方だけでなく戦い方も教わっておいたほうがよさそうだ。だから数週間前から、俺とラウラは親父や母さんたちに戦い方の訓練をしてもらっている。

 

 戦闘訓練以外にも、筋トレや屋根の上を走り回って親父から逃げ回る鬼ごっこも並行して行っている。かなり辛いトレーニングで毎日必ずどこかは筋肉痛になっているが、スタミナや身体能力は上がっている筈だ。

 

 転生者がステータスで強化されるのは攻撃力と防御力とスピードの3つのみ。身体能力やスタミナはステータスで強化されることはないため、それらは自分で鍛え上げて強化する必要がある。能力に甘えるなということなんだろう。

 

 親父の猛烈な威圧感に耐えながらちらりとラウラのほうを見た俺は、彼女よりも一足先に親父に先制攻撃を仕掛けることにした。俺から見て左側から回り込んで親父を攻撃し、親父が俺の攻撃を躱すか受け流している間にラウラが攻撃を仕掛けるという作戦だ。いつも行っているこの戦闘訓練のルールは、親父たちから3分間逃げ切るか、親父に1発でも攻撃を当てる事ができれば俺たちの勝利だ。こっちは2人であるため、上手く連携しなければ逃げることもできないし、攻撃も当てられない。足を引っ張り合うだけだ。

 

 だが、俺とラウラは生まれてあら6年間ずっと一緒に生活してきた。食事も一緒だし、遊ぶ時も一緒だったし、寝る時も同じベッドで眠っている。もちろん風呂に入るのも一緒なんだが、出来ればそろそろ別々に入りたいものだ……。ラウラは俺に依存し過ぎなんじゃないかな?

 

 ナイフを構え、右斜め上から左斜め下へと振り下ろす。親父はボウイナイフを使わずに上半身を横に逸らしてその一撃を回避すると、そのまま左手を振り上げ、攻撃を空振りした直後の俺の頭に向かってボウイナイフを突き出してくる。

 

 本当に手加減しているのかと思ってしまうほどの刺突だ。回避するか受け流さなければ、このままこめかみをボウイナイフのでっかい刀身で貫かれて即死する羽目になる。大慌てで左手のナックルダスターを振り上げ、突っ込んで来るボウイナイフの刀身を横から殴りつけた俺は、その間に何とか引き戻していたトレンチナイフを左から右へと振り払った。

 

 だが、この一撃も空振り。ナイフを受け流された時点で、親父はすぐに俺が反撃してくると見切っていたに違いない。やっぱり10年間も傭兵を続けてきたベテランには、こんな攻撃は当たらないか……!

 

 俺を転倒させるか体勢を崩すために、脹脛目がけてローキックを放ってくる親父。辛うじて片足を後ろに下げて回避したんだが、そのまま続けて振り払われたボウイナイフのせいで、その隙に反撃することは出来なかった。歯を食いしばりながらボウイナイフを受け止めていると、親父の背後から2種類のナイフを手にしたラウラが、左手のボウイナイフを振り上げながら親父に襲い掛かっていくのが見えた。

 

 ラウラの奇襲を察した親父が、片手のボウイナイフでラウラのナイフを受け止める。その隙に俺も反撃しようとするが、親父は片手でラウラの2本のナイフによる連続攻撃を受け流し続けているにもかかわらず、恐ろしい反射神経で俺のトレンチナイフとナックルダスターの連続攻撃もことごとく受け流してしまう。これならば命中するだろうと思って放つ本気の一撃が、たった1本のナイフにあっさりと弾かれてしまうんだ。

 

 全く隙が無い。本当に、こんな男に攻撃を当てる事ができるのか?

 

「くそっ!」

 

「甘いッ!」

 

「ぐっ!?」

 

 振り払われたボウイナイフでトレンチナイフが弾かれる。親父はそのボウイナイフを素早く回転させて逆手持ちに切り替えると、ボウイナイフの切っ先で俺のトレンチナイフを突き飛ばし、俺の右手から得物を叩き落としてしまう。まるで巨大な鉄球を叩き付けられたかのような猛烈な衝撃だ。本当に手加減してんのかよ……!

 

 すぐに拾いたいところだが、そうすれば親父にやられてしまうだろう。隙を見て拾うか、ナックルダスター1つで応戦するしかない。

 

 親父の背後に回り込もうとしていると、ラウラも同じようにサバイバルナイフを右手から叩き落とされたようだった。ボウイナイフ1本で応戦するが、あっさりと親父に受け流され、反撃されてしまっている。

 

 背後に回り込んだ俺は親父の背中を殴りつけようと左手を振り上げると、俺の奇襲に気付いた親父が、防戦一方になっていたラウラに向かって左足を振り上げた。剣戟ではなく蹴りが来ると察したラウラはナイフを握ったまま両腕で親父の蹴りを受け止めるが、6歳の少女が、10年間も鍛え続けた傭兵の蹴りを受け止め切れる筈がない。蹴りを受け止めたラウラはそのまま吹っ飛ばされ、物置の壁に背中を叩き付けられた。

 

「ラウラ!」

 

 ラウラは蹴り飛ばされたせいですぐに動く事ができない。つまり、ラウラが復帰するまでは彼女に対応する必要が無いということだ。

 

「!」

 

 素早く後ろを振り向いた親父が、左右の斜め上から同時にボウイナイフを振り下ろしてくる! ナックルダスターでは受け流せない!

 

 俺は咄嗟に頭を下げた。頭上を漆黒のナイフが通過して行った直後に頭を上げ、そのまま親父に斜め下から急接近する。

 

 ナイフを空振りしたせいで、今の親父は何もできない。受け流すためのナイフは引き戻している最中だし、このまま強引に回避するのも不可能だろう。このまま俺がボディブローを腹にお見舞いすれば、俺とラウラの勝利ということになる。

 

「ほう………」

 

 だが、親父は全く慌てていない。接近されるのはどうやら想定していたようだが、俺がボディブローを叩き込む方が速いぜ!

 

 そう思いながら左手をみぞおちに向かって振り上げた直後だった。

 

「か……ッ!?」

 

「タクヤッ!」

 

 いきなり何かに腹を突き上げられた。まるで下から垂直に振り上げられたハンマーに腹を殴りつけられたかのような衝撃だ。

 

 親父の得物を躱したことと、もう少しで親父に攻撃を叩き込めるという状況のせいで、完全に見落としてしまっていたようだ。……ナイフを躱しても、親父にはまだ両足があるんだ。激痛が襲い掛かって来る前にちらりと下を見て、俺の腹に叩き込まれた攻撃の正体を知った俺は、先ほどラウラが吹っ飛ばされた時のように蹴り飛ばされ、裏庭の塀に背中を叩き付ける羽目になった。

 

「うぐぅ………ッ!」

 

 く、くそったれ……本当に手加減してんのかよ、あの親父は!?

 

 腹を抑えながら、必死に呼吸を整える。

 

 ナックルダスターは吹っ飛ばされた歳に落としてしまったようだ。丸腰のまま親父に挑むのは愚の骨頂だが、得物は拾えるだろうか?

 

 ナックルダスターが落ちているのは親父のすぐ近く。今はラウラと戦っているが、あれを拾おうとすれば親父はすぐに気付くだろう。トレンチナイフは………親父が移動したおかげで、親父からやや離れた位置に転がっている。

 

 しめた。あれを拾えば反撃できる!

 

 まだ呼吸は荒いままだったが、俺は立ち上がってトレンチナイフに向かって走り出した。ラウラはボウイナイフ一本で応戦しているが、やはりさっきと同じように早くも防戦一方になりつつある。早く復帰しなくては。

 

 サバイバルナイフの刀身を大型化したような刀身がついているトレンチナイフを拾い上げた俺は、防戦一方になっているラウラを援護するために走り出した。

 

「ラウラッ!」

 

 左手でフィンガーガードの外側を握りながら、切っ先を親父に向けつつ突っ走る。そのままトレンチナイフを振り上げて親父を斬りつけようとしたが―――――振り下ろすよりも先に、親父のボウイナイフの切っ先が、俺の喉元に突き付けられていた。

 

 ラウラと親父が斬り合っていた金属音も聞こえない。反対側を見てみると、いつの間にか体勢を崩されていたラウラの喉元にも、同じようにボウイナイフの切っ先が突きつけられていた。

 

「はぁっ、はぁっ………!」

 

「そこまで。……腕を上げたな、2人とも」

 

 切っ先を静かに退け、威圧感と共にナイフを鞘の中に戻した親父は、いつもの優しい目つきに戻ったままそう言った。確かに親父たちのトレーニングのおかげで腕は上げているとは思うんだが、未だに一撃も攻撃を叩き込めていない。もちろん、掠める事すらできていない。

 

 母さんやエリスさんとの戦闘訓練でも同じだ。全て攻撃は受け流されるか回避され、全然当てる事ができないんだ。

 

 ちなみに、俺たちにとって教官である3人の親の中で一番ヤバいのは親父だ。

 

 でも、この訓練を始めた時はいつも秒殺されてたんだよな。今のはおそらく2分以上は逃げ切れていただろう。

 

 最初は親父を倒そうと思ってラウラと2人で作戦を立てていたんだが、倒すどころか攻撃を当てる事すらできなかったため、倒すのではなく逃げる事だけを考えた作戦も考えた。だが、もちろんこれも駄目だった。あっさり追いつかれてしまうため、2人で連携して攻撃し、何とか時間を稼ぐという作戦でいつも親父たちに挑むようにしている。

 

 ラウラは服についている土を払い落すと、親父に落とされたサバイバルナイフを拾い上げ、俺の隣にやって来てからぺこりと頭を下げた。

 

「お父さん、訓練ありがとう」

 

「ありがとね、パパ!」

 

「おう。……お前たちも強くなってきたからなぁ………」

 

 俺も強くなったとは思うが、一番強くなったのはラウラだろう。戦闘訓練を始めたばかりの頃はよく泣いていたし、屋根の上を逃げ回る鬼ごっこでもなかなか壁をよじ登れず、俺よりも先に親父に捕まってばかりだった。だが最近はなかなか泣かなくなったし、訓練が終わった後もこっそりと壁を登る訓練や、筋トレをやっているようだ。

 

 努力家だな、ラウラは。

 

 きっとあの事件が彼女を変えたんだろう。

 

「2人とも、ついてきなさい」

 

「え?」

 

「どこに行くの?」

 

 まだ顔についていた芝生の草を取っているラウラの顔を見つめていると、武器を木箱の中に片付けていた親父が、俺たちの顔を見下ろしながらそう言った。

 

 どこに連れて行くつもりなんだろうか?

 

「――――パパの正体を教えてやる」

 

 親父の正体……?

 

 どういうことだ? 何か隠してたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、パパの正体って何だろう?」

 

「うーん……何だと思う?」

 

 正体を教えてやると言った親父の後ろを歩きながら、なぜかはしゃぎ始めるラウラ。先ほどの訓練で俺は疲れ切っているというのに、彼女は相変わらず元気いっぱいだ。

 

「えっとね、実はドラゴンだったとか!」

 

「いや、お父さんは転生者だよ?」

 

「あっ、そっか!」

 

 親父は元々は人間だよ。今はキメラだけど。

 

 今の俺の親父である速河力也は、俺と同じ世界からこの異世界へとやって来た転生者だ。現代兵器に詳しいミリオタだったかれは、あの端末で次々に銃や兵器を開発し、仲間を集めて傭兵ギルドを結成して活躍していた。

 

 彼が人間ではなくキメラになってしまったのは、ある戦いで左足を失ってしまったのが原因らしい。小さい頃に一緒に風呂には行った時に見たんだが、親父の左足は人間の足ではなく、まるでドラゴンの外殻に覆われたような足になっていたんだ。

 

 この世界の義手や義足は、俺が住んでいた世界のような機械の義手ではなく、魔物の筋肉や骨を素材にして作られているらしい。だから義手や義足をくっつけるのではなく、魔物の素材で作ったものを移植する必要がある。遺伝子的に全く違う生物の身体の一部を移植するため、拒否反応を防ぐためにその素材に使った魔物の血液を少しずつ馴染むまで投与する必要があるらしいんだが、親父はその血液が原因で変異を起こし、人間とサラマンダーのキメラになってしまったようだ。

 

 普通ならばその血液は、すぐにその人の血液に取り込まれてしまう筈なんだが、親父が投与したその血液は親父の血に取り込まれることなく、親父の肉体をドラゴンと同じように変異させてしまった。当然ながらこの異色のせいで身体が変異した人間には前例がないため、親父がこの異世界初のキメラということになる。

 

 親父は変異したせいで角が生え、左腕まで義足のように外殻に覆われてしまっているが、親父の遺伝子を受け継いで生まれてきた俺とラウラは、角と尻尾が生えている以外は普通の人間と同じだ。

 

「そうだよね、パパは転生者だから………」

 

「そうだよ。正体がドラゴンなのはガルちゃんだよ」

 

 こそこそと2人で話をしながら階段を上がっていると、親父はそのまま自分の寝室へと向かった。いつもマンガを借りるために訪れている部屋だ。エリスさんが持っていたエロ本はまだあるんだろうか?

 

 ちらりと例のエロ本が隠してあったクローゼットの方を見ようとしていると、親父がそのクローゼットの扉を開け、中から真っ黒なコートの上着を取り出した。

 

 黒い革のコートで、あらゆるところにベルトのような装飾がついている。その装飾のせいで何かの拘束具のようにも見えてしまう禍々しいコートだ。首の後ろの方にはフードがついていて、そのフードには真紅の羽根が2枚ついている。あの羽はハーピーの羽根だろうか?

 

 魔物の図鑑で見ただけだが、ハーピーの中には血のように紅い羽根を持つ個体もいるらしい。

 

「――――――2人とも、転生者ハンターは知っているかな?」

 

 クローゼットから取り出した上着を手にしながら、親父が問い掛けて来る。

 

 転生者ハンターの事は、ガルちゃんやエリスさんから聞いたことがある。フードにハーピーの真紅の羽根を付けた黒いコートを身に纏い、この異世界で人々を虐げている転生者を次々に葬っていたという少年の話だ。彼が姿を現したのは今から10年前で、まだ生き残っていればもう27歳くらいになる筈だ。親父と同い年くらいだろうか。

 

 もちろんこの世界の人々は転生者の存在しを知らない人が多いため、転生者ハンターという異名は転生者たちの間や、転生者の存在を知る少数の人々によって恐れられたという。

 

「うん、知ってるよ。ハーピーの羽根がついた真っ黒なコートを着て、悪い転生者をやっつけるヒーローでしょ?」

 

 楽しそうに笑いながら言うラウラ。彼女もこの話を聞いたことがある筈だが、どうやらラウラは転生者ハンターをヒーローだと勘違いしているようだ。

 

「ヒーローか……。いや、あれはヒーローではないんだよ」

 

 何故か悲しそうな顔をしながらそう言った親父は、私服の上着を脱いでから、その手にしていた禍々しいコートを着てからフードをかぶり、俺とラウラの顔を見下ろす。

 

 確かあのコートは、俺たちが生まれる前に親父が来ていたという傭兵ギルドの制服だった筈だ。親父が実際に身に着けているのは見たことがないが、その制服の特徴は、転生者ハンターの服装と全く同じじゃないか。

 

 そのことに気付いた俺は、目を見開きながら親父の悲しそうな顔を見上げていた。

 

「え………? まさか、お父さんが…………!」

 

「パパが………転生者ハンターだったの………?」

 

「………そうだ。これが俺の正体だよ」

 

 親父が……転生者ハンターだったのか………!

 

「転生者は昔に比べれば激減した。だが……まだ人々を虐げる輩は残っている。もしお前たちが大きくなったら、そういう奴らに出会う事があるだろう」

 

 俺の親父が、俺や母さんを虐げたように、この世界にはまだ人々を虐げる転生者が残っているというのか。

 

 ラウラが痛めつけられている姿を思い出した俺は、いつの間にか両手を握りしめていた。

 

「ねえ、パパ」

 

「ん?」

 

 ラウラの声を聞いた親父が、一瞬だけ優しい目になる。

 

「どうしてパパは……転生者ハンターになったの?」

 

「―――――悪い転生者が許せなかったんだ」

 

 他の転生者たちからすれば、同じ転生者を狩る親父は異端者と同じような扱いだった筈だ。自分以外の転生者を敵に回すようなことをした親父は、無数の転生者を次々に返り討ちにし、生き残った。だからあんなに強かったんだ。

 

 無数の強敵を逆に蹂躙しなければ生き残る事ができない。親父はこの異世界で、目の前の敵を蹂躙して生き残ってきたということなんだろう。

 

 弱ければ、虐げられるだけなのだから。

 

 

最初に転生者と出会ったのは、ギュンターおじさんから故郷の仲間と妹を助けてくれって依頼された時だ。彼の町を占領していたのは転生者で、人々を奴隷にしていたんだ。その転生者はとても強くてな。パパとママたちは殺されかけたんだ」

 

 嘘だろ……? 親父が殺されかけたのかよ。

 

「俺はそんな転生者が許せなかった。人々を苦しめて楽しんでいるようなクソ野郎だからな。……だから俺は、そんな転生者を殺し続けた。何人も狩っているうちに、転生者ハンターと呼ばれるようになったんだよ」

 

「お父さん………」

 

 この人も、人々を虐げるような奴らが許せなかったんだ。だから他の転生者たちに反旗を翻し、転生者ハンターとして戦ったんだろう。

 

 すると親父は、悲しい目つきを止めていつもの優しい顔に戻った。俺やラウラの遊び相手になってくれる時と同じ顔だ。

 

「お前たちの将来の夢は、冒険者になる事だったな」

 

「うん」

 

 俺とラウラの夢は、一緒に冒険者になって旅に出る事だ。この世界がどんな世界なのか、冒険してみたい。それが俺たちの夢だった。

 

「いつか、お前たちも転生者と出会うことになるだろう。もしその転生者が悪い奴だったら―――――お前たちはどうする? 説得するのか? 見て見ぬふりをして素通りするのか?」

 

 どちらも論外だ。

 

 虐げられるのは辛い事だ。自分に力が無いせいで、力がある奴に暴力を振るわれ、理不尽に抑え込まれる。抑え込まれて苦しむ人々を見て楽しんでいるような奴は、俺も許せない。見つけたら躊躇いなくぶち殺していることだろう。

 

 容赦などするつもりはない。

 

「――――――クソ野郎なら、狩る」

 

 この俺が、蹂躙してやる。

 

「………ほう」

 

 親父を睨みつけながらそう答えると、隣に立っていたラウラが俺の右手を優しく握った。そして俺と同じように親父の顔を見上げながら首を縦に振る。

 

 彼女も、虐げられる辛さを知った筈だ。知らない男たちに連れ去らわれ、痛めつけられたのは彼女なのだから。

 

 ならば、転生者ハンターは俺たちが受け継ごう。親父たちからあらゆる戦い方や技術を受け継ぎ、俺とラウラが転生者を狩る。

 

 俺たちが、2人で転生者ハンターになるんだ。

 

 

 

 


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