俺は岩隠れの抜け忍だ。雷の国から水の国への移動中の事であった。背後からの千本による奇襲。気配を消していたのか、千本が飛んでくるまで気が付かなかった。
俺は前方に転がり回避する。そこに2人の忍びがやってくる。
くノ一のガキか。見た所、実力は中忍と言ったところか。
しばらく睨み合っていると、水色の髪のガキが飛び込んでくる。
おお。いい速さだ。だが、俺に体術勝負は些か荷が重いんじゃないか!
俺は短刀を抜き、応戦する。ガキは千本にチャクラを流して、斬り込んでくる。
ほう。器用な奴だ。
だが、俺はガキの攻撃を全ていなす。全然当たらない攻撃にくノ一のガキの表情に焦りが見えた時。
「水遁 破奔流」
後ろにいたガキが水遁の術を発動。鉄砲水が襲いかかる。
いいコンビネーションだ。だが!
「爆遁 地雷拳」
鉄砲水を殴りつける。その瞬間鉄砲水は蒸発した。2人のガキは目を見開く。
俺の自慢の血継限界、爆遁。岩の爆破部隊にいた俺の爆遁は威力抜群だ。
動きが止まった隙をついて畳み掛ける。
「土遁 裂土転掌」
地面に亀裂を入れ、足場を崩す。
まずは1人目!
俺は水色髪のガキに飛び込む。
「土遁 岩拳の術」
爆遁でも良かったが、リーチはこっちの術が上!このまま叩き潰す!
だが、そこに
「水遁 水龍弾の術」
仲間を助ける為にか、後方の黒髪のガキが水遁を放ってくる。
だがな。水遁は土遁に弱いんだよ!
「土遁 土流壁」
土の壁を展開。水遁を弾く。だが、その隙に水色のガキは俺から距離を離される。そして、一目散に逃走を始める。
いい判断だ。実力差を理解したか。だが、逃がさねぇ。
そして、冒頭に帰る。
俺は2人のガキを追いかける。追跡に気が付いたのか、水色髪のガキが術を使う。
「水遁 霧隠れの術」
霧が立ち込める。
だが、甘いな。俺が気配を見失うようなヘマはしねぇ。ここで終わりだ!
俺は2人のガキを始末しようと、遠距離の土遁の印を組もうとした瞬間、視界が真っ暗になった。
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「白、藍。こっちへ来い。」
再不斬さんに呼ばれ、走っていた方向を変える。再不斬さんの元に辿り着くと、先程戦っていた男の死体が転がっていた。
「良くやった。これで1000万両の収入だ。換金所に行くぞ。」
流石、サイレントキリングの達人だ。霧隠れの術で動きが止まったとほぼ同時に敵を仕留めてしまうなんて。
私達は死体を抱えた再不斬さんに着いて行く。
サイレントキリングの練習をしてから、私は気配を探るのが、格段に上手くなった。でも、再不斬さんやお兄ちゃんの様に音を聞いて相手の位置を確認している訳ではない。文字通り気配を感じるんだ。この事は誰にも話していない。お兄ちゃんも再不斬さんも音で相手を捉えていると思っている。
っと、どうやら換金所に着いたみたい。
「お前達はここで待ってろ。」
再不斬さんは死体を抱えて換金所に入る。
数分後、再不斬さんが出てくる。
「俺は今から、街に出てこれからの武器や食料諸々を調達して来る。先に隠れ家に行っておけ。」
「わかりました。再不斬さん、お気を付けて。」
「再不斬さん、隠れ家で待っています。」
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再不斬さんはすぐに去って行った。
「藍、行こうか。」
「.......うん。」
素直に頷く藍を見る。少し顔色が悪そうだ。
やっぱり、チャクラ量が少ないのだろうな。戦闘技術や速度は凄まじいけど、こればっかりはどうしようもない。
僕は疲れが溜まっているであろう藍に合わせて、ゆっくりと移動する。
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しばらく森を歩いていたが、ふと足を止める。
不味い。何者かに囲まれている。
冷汗が頬を伝う。数も4人。こっちの倍だ。しかも再不斬さんが不在。
咄嗟に藍の様子を伺う。やはり、藍も気が付いたのだろう、顔を青くしている。
足を止めたからだろう、4人の忍びが姿を現わす。霧隠れの忍び装束に仮面。追い忍だ。
"追い忍は必ず殺せ"
再不斬さんの教えが頭をよぎる。実は今まで任務や賞金首狩りで手を下した事は無い。いつも締めは再不斬さんがやっていた。
僕が彼らを殺さなければならない。それどころか、こちらの方が彼らに捕まってしまう可能性が高い。
緊張で喉が鳴る。
だが、こちらの葛藤は彼らには関係無い。すぐに仕掛けて来た。
短刀を構え、突貫して来る敵に僕達は左右に散って応戦する。
素早く振るわれる短刀を千本で受け流す。ちらっと藍の様子を確認する。
やはり、再不斬さんが居ない状況にチャクラも少ない状態。いつもの瞬身の術にもキレがない。
「秘術 千殺水翔!」
僕自身もチャクラが少ない為、千殺水翔に速度が乗らない。
結果、簡単に避けられてしまう。
再び、向かい合って睨み合う。
「大丈夫、藍?」
「はあ、はあ、はあ。う、うん。なんとか。」
大丈夫って言ってるけど、長くは持たないかも。
「水分身の術」
僕は水分身を2体作る。これで数だけなら、同数だ。
「片手印の水遁。......確か、雪一族の秘術だったはず。このガキ達、血継限界か。」
「なら、抹殺はせずに捕獲だな。」
「ああ。だが、ガキと言っても血継限界だ。油断するな。」
「了解。水遁 水乱波!」
敵の水遁が飛んで来る。
「水遁 水陣壁!」
即座に水の壁を作り防ぐ。
術を相殺してすぐに敵が懐に飛び込んでくる。水分身と共に体術で応戦するが、水分身はすぐに消されてしまう。
クソ!このままじゃ。
状況の悪化に焦りが募る。
「キャアアアアアアアアア!」
突如、悲鳴が響く。
僕はそちらに目を向けた。
そこには、胸から血を流し倒れていく藍の姿があった。
え?
世界が止まったかのような錯覚。思考が止まり、まるで血が抜けていっているのではないかと思えるほどに、血の気が引いていく。
「まずは、1人。」
「おい。貴重な血継限界だぞ。殺すなよ。」
「大丈夫だよ。まだ、息はある。それより、残りをやっちまうぞ。」
僕の周りに4人が集まってくる。だけど、僕はそれを気にかける事ができなかった。ただ、血を流し倒れている藍を見つめていた。
どうして?
殺すのが怖かった僕が、力を出すのを躊躇ったから?
でも、それで守りたい者を守れないなら意味が無いじゃないか。
こいつらが藍を斬った。
「...........殺す。」
「あ?なんか言ったか?」
僕の体からチャクラが溢れて来る。
「な、なんだ!?これは冷気?」
僕は即座に印を組む。
氷の鏡が4人を囲むように現れる。
「秘術 魔鏡氷晶!」
森に断末魔が響いた。
これで人を殺したのは2回目だ。でも、不思議と何も感じなかった。藍を護れたという一種の達成感の方が強く感じれた。
誰も藍を汚させない。そして、藍の手も汚させない。