「大筒木………成程、カグヤの関係者ですか…」
返答は斧での斬り下ろし。
背中に赤い光を纏い、そこから作り出した赤い光を放つ斧で斬りかかってきた。
身体を左へ半歩避ける。
振り切った姿勢の敵に左から氷剣を振り切る。
だが、相手も只者ではなくガードしてくる。それに意を介さず、今度は氷剣を振り下ろすが、それも弾いてくる。
敵は更にもう一本斧を生成して、二刀流で襲いかかる。
右からの斬撃を氷剣で弾く。
こちらも右から横薙ぎで斬る。
だが、弾かれる。
もう一度、左からくる斬撃を屈んで避ける。
身体を回転させて、遠心力をつけて左から斬りつける。しかし、それも上手く弾かれる。
相手が右から切りつけてきた斧に横から氷剣を刺し、そのまま地面に縫い付ける。
抵抗しようとしてきた左からの斬撃に合わせて、身体を空中で回転させて、左腕に左足を絡める。
千本を取り出し、風のチャクラを纏わせて斬りかかる。
相手は上手く首を動かして回避するが、角が吹き飛ぶ。
掴もうとしてきたので、即座に離脱。
「…………」
「…………」
成程………
やっぱり強いね。これ相手にまとも相手していたら、時間がかかりすぎる。
普段ならそれでいいんだけど、今の状況じゃ、いつまた転移が起こるかわからない。
さっきみたいなカグヤが側にいれば、カグヤのチャクラの高まりで察知できるけど、今は私だけがこの氷世界に残ってるからわからない。
ましてや、この人の後ろには更に格が上だろう大筒木がいる。
ナルト君達の迷惑になりかねない。
今いるのが氷世界だが、私の剣気の力が増す事はない。先程のマグマの世界でも変わらない。
悪い言い方なら、環境の恩恵は受けれないが、良い言い方をするなら、環境に左右されないとも言える。
「…………ごめんなさい。」
小声で謝罪の言葉を口にする。
今から行う事は、私としては禁じ手。
あまりにも反則すぎて、絶対に使わないと決めていた手だ。
いつも本気で戦い、向き合う事を念頭にしている私としては有り得ない選択肢。だけど今、ナルト君達はカグヤの相手で手一杯。そこにこの人達を引き連れる事はできない。
「時間凍結」
私の剣気の司る力は停止
能力名は『凍結』
その極致にある能力が『空間凍結』と『時間凍結』に『権能凍結』
『空間凍結』は空間の動きを停止させる。主に壁として使っていた。空間を停止させていることから、どんな攻撃も通さない防御として使えた。手裏剣やクナイから尾獣玉まで防いでくれる。威力の強弱は関係ない。これを突破するには、私の空間凍結以上の空間能力で干渉するしかない。シンジが正にそれだった訳だ。
『時間凍結』は30秒間、世界の時間を停止させる。また、対象物を限定すれば、半永久的に時間を凍結させることができる。簡易版の『時間遅延』は時間の流れを半分にするが、効果時間は1分だ。
『権能凍結』は指定した能力などを停止させて、機能させなくする能力。これを使う事は多分ない。“チャクラ”を指定して能力を使えば、その瞬間に相手はただの身体能力が高い一般人になるからだ。あまりにもフェアじゃない。
他にも私の中で禁術に指定しているものがあるが、今回はその中の『時間凍結』を悪用する。
全てが停止した世界で私はキンシキに近付き、肩に手を置く。
「氷遁・崩壊凍結」
すぐに手を離して、瞬身で高みの見物をしている人の肩にも手を置いて、崩壊凍結を使う。
即座に瞬身で離れる。そのまま背を向けてさる。
そのまま30秒が経過した事で時間が動き出す。
「……な…何だ、これは!?……グ…グアアアアアアア!!!!!」
「……グ…グオオオオオオオォ!!!」
背後から断末魔が響く。
崩壊凍結は私が手で触れた物を瞬時に凍結させて、分子レベルで粉々に砕く能力。
塵遁やデイダラのC4に近い能力だ。
今まで私はこの崩壊凍結を相手が放ってきた術を相殺する時にしか使ってこなかった。
それは人体に使えば、どうなるかわかっていたから。
振り返ってみれば、粉々になって塵になって、足だけの大筒木を名乗る二人組。
それも見ている間に、足も先まで塵になって空気に溶けていった。
……とても残酷な術だ。
これは相手と向き合う術ではなく、一方的に相手に『死』を押し付ける力。飛段すら死んでしまう力だ。
シンジが“小指一つで世界を滅ぼせる力”と言ったもの。もし私が地面に手をついてこの“星”に崩壊凍結を使えばどうなるか………
正にシンジの言った通りになるだろう。
………ごめんなさい。貴方達にも何かしら、想いがあったかもしれない。だけど、私が貴方達を何も知らずに一方的殺す。だから、どうか許さないでほしい。
そうしていると再び世界が変わった。
ナルト君達はあそこか………
遠くでナルト君達が見えた。
そこまで走っていく。
遠目にはサスケ君のスサノオが地面から飛び立つのが見えた。
そのまま、遠目で見えにくいけど、おそらくだろうけどカグヤと戦ってる。
そして側に来てみれば、カグヤの千切れた腕と黒ゼツが地面に縫い付けられていた。
空を見上げれば、ナルト君の猛攻でカグヤを追い詰めていた。
あっちは大丈夫そうね………
「氷遁・氷岩堂無」
私ごと黒ゼツを氷岩堂無で包み込んだ。
「……藍、なんの真似だ?」
「……せっかく、暁では相方だったのにお互いよくわからないままだったから、ここで一度貴方と話してみたかったのよ。」
そう言いながら、黒ゼツの動きを止めてる黒い棒とカグヤの腕を崩壊凍結で破壊する。
ゼツは黒い全身を液体のようにくねらせながら立ち上がる。
「今更話す事などない……お前も母さん復活の糧でしかない!!」
地面に潜ろうとするゼツ。
「残念だけど、地面には逃げれないよ。この氷岩堂無は地面も覆ってるから。…ここは私と貴方だけの完全密室よ。」
「……貴様…!」
「………オビトはどうしたの?」
「ククク……あのゴキブリなら今死んだところだ!……お前も今更、楯突いて自分の過ちを清算できるとでも思ってるのか?……虫のいい話だ。まるで我が儘なクソガキだ。」
「……そうね。私は我が儘で子供だと思うわ。……でもね。私は自分の罪が清算されるとは思わないよ。…これはただナルト君とサスケ君の戦いの集大成。………私の償いはまだ始まってすらないよ。」
「……フン。口だけは一丁前だな!」
「ねえ。貴方は何故今まで戦ってきたの?」
「そんな事を聞いてどうする?…お前も裏切り者のオビトと同じ様に粉々になるのだからな!」
そう言ってくると、黒ゼツが私に取り憑いてきた。
左半身が黒ゼツに侵食されていく。
「……どうせ死ぬお前にも教えてやろう。………オレの役目は母さんの復活だ!全知全能の神となる!!……忍の歴史はオレが作り上げた劇のようなものだ。……中々の出来だったんじゃないか?…どいつもこいつも馬鹿みたいにボロボロになって、踊り狂って死んでいったがな!……お前もその馬鹿共の一人だ!…お前のようなクズにはお似合いの最期だな!!」
「………そう。教えてくれてありがとう。………でも、ごめんなさい。」
私は剣気を纏う。
それだけで取り憑いていた黒ゼツが爆ぜた。
ビチャビチャッ!!
黒い液体のようなものが地面に飛び散る。そのまま、黒い砂のような散っていく。
「……貴方の想いを聞かせてもらったわ。貴方は私のパートナーだったものね。最後に本音が聞けて良かった。………一人、孤独に数千年を戦ってきた貴方の気持ちは、ほんの18年しか生きていない私にはわからない。………だけど、それだけ母親を想える貴方はちょっと羨ましいわね。……私は5歳の時に既に失った物だから。……本当なら私もお母さんに甘えたかった。…でも、それだけ母親の為に頑張れる貴方を殺す事になって、本当にごめんなさい。……それでも安心して。貴方の母さんもすぐにそちらに送ってあげるから………」
黒い塵となった黒ゼツが完全に消える。
氷岩堂無を解く。
空を見上げれば、カグヤがナルト君とサスケ君に封印されていた。
「封印終了!!これでめでたし、めでたしだってばよ!!」
「そうなのね……………てェーー!!私達はどうすんのォ!!?この空間からどうやって戻るのよォー!!?」
「ア゛ーーー!!!」
ナルト君達も無事カグヤを封印できたわね。
私は再び剣気を纏う。
次の瞬間、ナルト君達と周りにいた尾獣達が消えた。
口寄せされたのね……
私は空に浮かんでいる大きな月を見上げた。
「…………」
氷翼で飛んで、月の頂点に降り立つ。
「……カグヤさん。貴女程の存在を封印だけで留めておくのは危険すぎる。申し訳ありませんが、貴女にも黒ゼツの所へ行っていただきたい。……黒ゼツにもすぐに送り届けると今、伝えたばかりですしね。……向こうでは、貴女の為に数千年、孤独に戦い続けた息子さんがいます。…仲良くしてくだされば、私も嬉しく思います。……さようなら。」
……最後はこの術で締めようと思う。
術の名前に兄さんの名前を付けたこの術で…
「白氷龍」
月の100倍もの大きさの龍を10体作り出す。
……これからは、新たな忍の歴史の幕開けが始まる。
私は白氷龍を月に向かって降らせた。