☆一輪の白い花   作:モン太

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タイムリミット

橋の上からマダラを見下ろす。

 

マダラの仮面から覗く写輪眼が光っていた。

 

「その言葉の意味を理解して言ってるのか?」

 

「勿論、わかって言ってるわ。」

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙が流れる。両者共に睨み合う。

 

「理解できないな。……お前は暁に心を寄せていた筈だ。月の眼計画についても概要を知らされていた筈。」

 

「そうね。……でもその小南がナルト君に夢を託したのなら、私にとって月の眼計画に価値は見出せない。……暁は私にとって、家族みたいなものだった事も認めるわ。それでもね。許せないことがあるの。」

 

「…………」

 

「平和を願う暁が、世界に宣戦布告なんて笑い話にもならないわ。」

 

そう吐き捨てると、マダラは鼻で笑った。

 

「フッ…どうやら本当にわかっていないらしい。物事は綺麗事だけでは進まないという事を。それをわからせてやろうか、小娘。」

 

物事が綺麗事ばかりでは無い事なんて、今までの経験で嫌という程に知ってる。

 

今更、私の意志が揺らぐ事はない。

 

もう結末まで見据えているんだから。

 

私はその最期の時まで走り続けるだけ。

 

「暁を裏切れば、どうなるか。お前が一番よく知ってるな?」

 

「勿論、私がよく大蛇丸討伐に駆り出された訳だからね。」

 

「なら、容赦はしない。」

 

マダラが此方に駆けてくる。

 

「氷遁・万華氷」

 

やっぱりすり抜けるのね。

 

マダラは回避行動を一切取る事なく、接近してくる。

 

此方に向かって、左腕を伸ばしてくる。

 

さっきのダンゾウを吸い込んだ動作。五影会談でのサスケ君を吸い込んだ動作。

 

どちらも直接取り込みたい物に触れないといけない制約があるようね。

 

せっかく時空間能力を有してるのに、接近しないといけないなんて勿体ない能力ね。ただ、すり抜け能力がその欠点を補って余りある性能。

 

今は右腕を失って、左腕だけって事も幸いね。左手に注意してればいいだけから。

 

身体を逸らして顔面に千本を走らせるが、すり抜ける。

 

写輪眼で動きが見切られてるな。動きそのものは、それ程大した事はない。身体捌きはイタチの方が遥かに上。実際、組手をやった事があるけど、お互い1発も攻撃を入れる事ができなかったし。ただ、すり抜け能力が凶悪だ。しかも、写輪眼のお陰でタイミングも完璧だ。

 

サスケ君は此方に興味がないようで無反応。

 

サクラさんが何故かやってきて、そっちの相手で忙しそうだ。気配からして、カカシさんとナルト君も近付いてるね。

 

「流石のお前でも、オレの能力は攻略できない。このまま続けても、いずれオレがお前を捉える。」

 

どちらにしても、あまり時間はかけてられない。さっさと退かせるしかない。

 

両手に氷剣を作って、二刀流で突っ込む。

 

それに合わせて、マダラも突っ込んでくる。

 

左腕を突き出してくるが、それを無視して右手の氷剣で斬りかかる。

 

案の定、すり抜ける。

 

そして、氷剣が抜け切ったとほぼ同時に左手が私に触れそうになる。

 

即座に左手の氷剣を逆手持ちにして、身体を回転させて、左手腕を斬りつける。

 

不意を突いた一撃。

 

「チィ…」

 

思わず舌打ちしてしまう。

 

僅かな手応えしか感じなかった。

 

お互い身体をすり抜けて、距離を離し睨み合う。

 

マダラの左腕は服の袖が切れてはいるが、腕を飛ばす事ができていない。僅かに血が流れているだけだ。

 

写輪眼が厄介だな。普通なら、今ので腕を飛ばせた筈なんだけど。

 

「……惜しかったな。写輪眼を舐めすぎだ、小娘。」

 

視線をずらして見れば、カカシさんとサスケ君が戦っている。あとはナルト君だけか…

 

視線をマダラに戻す。

 

余裕そうな態度とは裏腹に私から一切視線を逸らそうとしてこない。

 

やっぱり、今の不意打ちで警戒されてしまってる。

 

次で決めるか……

 

残念で仕方ない。きっと、マダラともしっかり話していれば、分かり合えたかもしれない。飛段のように話が通じない訳ではないんだ。彼の写輪眼もやはり悲しみの色が強い。トビを演じていた時から、気が付いていたのに、あまり関心を示さなかったのは私だ。

 

だけど、これだけの事を仕出かす程度には覚悟も決まってる証拠。道は違える事になるだろうけど。それでも語り合えればよかった。

 

もうそんな時間はない。だから、ここで終わらせよう。

 

左手の氷剣を投擲する。同時に私とマダラが走り出す。

 

氷剣がすり抜ける。その瞬間にマダラを包むように術を発動。

 

「空間凍結」

 

「……これは」

 

マダラが見えない壁にぶつかるように停止する。

 

…よかった。シンジみたいに突破されない。マダラのすり抜けも空間凍結は越えれない。

 

マダラが即座に時空間転移をしようとするが、弾かれるように失敗する。

 

すり抜けが無理なら、転移も無理だよ。

 

身動きができなくなった、マダラに氷剣を振りかぶる。

 

マダラが仮面の左目の部分を砕いた。

 

何かしようとしてるのか?…させない!

 

そのままでマダラを切り裂いた。

 

今度は手応えを感じた。

 

マダラは身体から血を噴き出しながら、倒れた。

 

氷剣を消す。

 

サスケ君の方を見れば、ナルト君と螺旋丸と千鳥をぶつけ合っていた。

 

突如、背後に気配を感じて振り返って千本を振り抜く。

 

ガキンッ

 

千本が折れる。

 

背後には何故かマダラがおり、黒い鉄の棒で突きを放ってきていた。それを止めようとした千本が折れた訳だ。

 

身体を逸らして、左足でマダラの左腕を絡めて、そのまま右足で顔面を蹴り抜く。

 

だけど、すり抜けて失敗する。

 

即座に距離を取る。

 

「…そういうば、お前は感知タイプだったな。」

 

「…どうして」

 

私が切り裂いた傷が無い。治ったわけでも無い。服に切れ目がないからだ。

 

攻撃が空ぶったのか?…いや、手応えはあった筈。

 

「…さあ、何故だろうな。」

 

教えてはくれないようだ。ただ、割った仮面の左目が閉じられている。それが意味するものが何なのか、わからない。だけど、何かタネがあるのは間違いないだろう。

 

「さて、サスケもピンチなようだ。……お前を仕留めるにも輪廻眼が必要そうだな。」

 

そういうと、マダラが転移した。

 

サスケ君の横に転移したか……

 

「こいつらとはちゃんとした場を設けてやる…今は退くぞ。」

 

「……」

 

「代わりにボクがやるよ。どうせ九尾の人柱力は狩らないといけないんだし…」

 

ゼツが胞子分身を出す。

 

「ゼツ…お前じゃナルトを捕まえるのは無理だ。戦闘タイプじゃないお前に九尾はキツイ…。九尾はサスケにやらせる…オレの余興も兼ねてな…。それより鬼鮫が気になる…そろそろ、そっちへ行け。黒と合流してな。」

 

「…ハイハイ。わかったよ。」

 

ゼツが胞子分身を下げる。

 

「ナルト…!」

 

ナルト君が前に出る。

 

「うん…ただサスケにちゃんと言葉で言っときてー事があるんだ。」

 

「行くぞ、サスケ…」

 

「待て…」

 

「……?」

 

「……サスケェ…覚えてっかよ…。昔、終末の谷でお前がオレに言った事をよ。一流の忍ならってやつだ…。」

 

「………」

 

「直接ぶつかって…今は色々わかっちまう。オレ達ゃ一流の忍になれたって事だ、サスケ。お前もオレも…。サスケェ…お前もオレの本当の心の内が読めたかよ…。このオレのよ。それに…見えただろ?お前とオレが戦えばーー…」

 

「………」

 

「……?」

 

「2人共死ぬ。」

 

「!?」

 

「……!」

 

「……?」

 

「………」

 

「…………」

 

「お前が木ノ葉に攻めてくりゃ…オレはお前と戦わなきゃならねェ…。憎しみはそれまでとっておけ…。そりゃあ、全部オレにぶつけろ。お前の憎しみを受けてやれんのはオレしかいねェ!その役目はオレにしかできねェ!オレもお前の憎しみを背負って一緒に死んでやる!」

 

「……………何なんだ…?てめーは一体、何がしてーんだ!?何でオレにそこまでこだわる!?」

 

「……」

 

それはきっと…

 

「友達だからだ!!」

 

ナルト君は本当に凄いね。兄さんやイタチの見立て通りだ。

 

「サスケェ…お前と分かり合うにゃ一筋縄じゃいかねーって、初めて会った時から分かってた…そういやよ!拳で分かり合うのが、お前とのやり方なのは、間違いねーよな!さっきも言ったけどよ…。もうお互い一流の忍になれた事だしな!オレはまだ諦めてねェ!けど…ぐちゃぐちゃお前に言うのはやめだってばよ!……ったくよ。…口ベタなオレが説教なんてガラじゃなかったぜ!へへへ……もし行き着くとこまで行って、お互い死んだとしても…うちはでもなく、九尾の人柱力でもなくなってよ。何も背負わなくなりゃ、あの世で本当に分かり合えら!」

 

「オレは…変わりはしねェ!お前とも分かり合う気もねェ…!死ぬ気もねェ…死ぬのはお前だ。」

 

「もういい…ナルト。サスケはオレがやる。お前には火影になるって大切な夢がある…。サスケの道連れでお前が潰れる事はーー」

 

「仲間一人救えねぇ奴が、火影になんてなれっかよ。サスケとはーーオレが闘る!!」

 

「………」

 

「………」

 

「いいだろう………お前を一番に殺してやる。」

 

「オレってば………まだお前にちゃんと認めてもらってねーからよ!」

 

「…分かった…。サスケはお前に任せる…ナルト。サクラ、オレの体を頼む…」

 

カカシさんの瞳の模様が変わる。

 

あれがカカシさんの万華鏡写輪眼…

 

「止めておけ、カカシ。そんな術はオレには効かない。」

 

「……!」

 

マダラが止める。

 

せっかく、能力が見れるかもしれないと思ったのに…

 

イタチの万華鏡写輪眼は、月読と天照。

 

マダラは時空間能力。

 

シスイは最強幻術 別天神。

 

どれも強力な瞳力。サスケ君はおそらく、イタチと同じ物か類似能力だろう。

 

「行くぞサスケ。」

 

「マダラ………後で話がある。」

 

マダラ達が時空間転移で去る。

 

「……いつでも来い…サスケ。」

 

3人が一斉に此方を見てくる。

 

「さて、お前には色々と聞きたい事が山程あるからね。何で仲間割れしてたのとか……」

 

カカシさんがクナイを構える。

 

サクラさんも身構えてくる。

 

ナルト君も影分身を出している。

 

本当は彼らともしっかり話したいけど、時間がない。さっきマダラは輪廻眼を取ると言っていた。

 

輪廻眼は長門が持っている眼だ。なら、マダラは雨隠れに向かっている筈。あそこには小南がいるだろう。つまり小南の身が危ない。

 

時空間転移できるマダラの方が確実に早いのは間違いない。ここで時間を取られる訳にはいかない。

 

「……失礼します。」

 

「待つってばよ!!」

 

「時間凍結」

 

全てが停止した世界で私は瞬身の術で駆ける。すぐに離脱できた。

 

「時間遅延」

 

時間凍結程、力を使わない時間遅延に切り替える。完全には時間が止まらないが、時間の流れを遅くする事ができる。その上で私は通常通りの動きが可能。更に時間凍結が約30秒に対し、時間遅延なら1分の持続時間がある。

 

1分のあとは一呼吸のインターバルで繰り返し使える。

 

雨隠れに向かって全速力で移動する。何とか間に合ってくれればいいのだけど。


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