☆一輪の白い花   作:モン太

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原典能力者

森を走る。ダンゾウの気配はある。それを追いかける青さんの気配も感じる。

 

このまま真っ直ぐ追いかけても、先に青さんに会ってしまうな。どうにか青さんをやり過ごすしかないか。

 

異変は突然起こった。

 

捉えていたダンゾウと青さんの気配が遠ざかった。

 

周りの景色は変わっているような感じはしないが、明らかに私が移動したと言う事だけはわかる。

 

私は足を止めた。周囲を見る。景色が変わったようには感じない。森の中だ。

 

だけど、遠くに飛ばされた感じがする。

 

なら、犯人は………

 

側に感じる気配。こいつか………

 

木陰を睨んでいると、そいつは出てきた。

 

全身白色。

 

白い髪に白い和服を纏い、白い袴を履き、白い上着を纏った男性。唯一、瞳の色だけが蒼い光を放っていた。

 

その男性はこちらを胡散臭い笑顔で見つめていた。

 

ただ、なによりも私を警戒させたのは、その気配。私が便宜上、氷遁としている忍術でない力をこいつから感じた。

 

ーー同類ーー

 

本能でそれを感じた。

 

「やあやあ♪ 始めまして♪」

 

口を開けば更に不気味さを増す。

 

「……貴方は何者ですか?」

 

問えば更にニヤニヤと笑い出す。

 

「そんなこと聞いちゃってさ〜♪ ホンマは気づいてるでしょ♪ ボクと君が仲間やって事にさ!」

 

「それはわかってますよ。その上で聞いてるんです。」

 

「…あ、そうだったの。アカンアカン♪ ボクはシンジ。君と同じ“剣気”の使い手や♪」

 

剣気?

 

何だそれは?

 

「私はコンと言います。」

 

「あれ?コン?……藍ちゃんや無かったっけ?」

 

何でそっちの名前を……

 

「不思議そうだね♪ ボクは君が初めて剣気を発現した時に声をかけた筈だよ♪」

 

ダンゾウに襲われた時か?大蛇丸から逃げ出そうとした時か?

 

そんな誰かに声をかけられた事なんてなかったはず。

 

だと言うのに、目の前のコイツの声は何処かで聞いたことがあった。

 

そうだ。私は氷遁を使う前から、この力を掴みかけてはいた。何故ならこの気配感知や幻術と毒物に対する耐性こそ、説明の付かない力だからだ。私の拘束などを破る不可視の刃も同様だ。

 

それを行使した最初の瞬間、12年前の始めて再不斬さんとサイレントキリングの訓練を行ったあの時

 

 

“おはようさん♩ようやくお目覚めかな〜♩”

 

 

「あれは貴方の声だったと言う事ですか。」

 

「お♪ ちゃんとわかってくれた?…いや〜、随分と成長したんだね〜。そないに強くなっちゃってさ♪…小指一つで世界を滅ぼせる力を持った感想は?」

 

「貴方に私の何がわかるの?」

 

「わかるよ〜。だって同じ力を扱えるんやからさ♪」

 

「……そう。今、忙しいからそこをどいてくれるかしら?」

 

右手に氷剣を生成。左手に千本を持つ。

 

「まあまあ、そう言わずにさ♪ ちょいと遊ぼうよ♪」

 

シンジもナイフを抜いてくる。

 

地面を蹴ったのは同時だった。

 

シンジがナイフを振り抜いてくる。千本で受け止めて、氷剣を振り下ろす。

 

シンジが体を横にずらして、回避してくる。それと同時に左から蹴りがくる。

 

屈んで回避して、千本を投げる。

 

しかし、投げた千本が敵に到達する前にこちらに飛んできた。

 

瞬身で後方へ逃げる。着地の瞬間に背後に気配を感じて、氷剣を背後に振り抜く。

 

ナイフで止められた。

 

鍔迫り合いをしながら、思考する。

 

今の現象は何?

 

あれがコイツの能力なの?

 

投げた千本がこちらに跳ね返ってきた。

 

それに移動した気配を感じなかったのに、突然背後に現れた。だとしたら、時空間忍術……

 

「考え事かい?」

 

シンジの頭を狙って、左手足で回し蹴りを放つ。

 

シンジは退けぞって回避してくる。そのまま、バク転の要領で私の顎を狙った蹴りがくる。

 

右手で受け止めて、氷剣で斬りつける。

 

しかし、シンジが空中で体を捻らせて回避される。そのままナイフで斬りつけてくる。

 

私も体を逸らして、顔面に蹴りを入れる。

 

それも左手でガードされる。

 

お互い距離を離す。

 

体術は互角ね。

 

今のまま続けてても千日手。

 

「いや〜♪ おもろいね〜♪ ……アホみたいな力を持ってるボクらからしたら、こういう斬り合いでの勝負は娯楽みたいなもんやなぁ♪」

 

「随分と余裕なのね。」

 

「そらそうやろ。…君もおんなじやろ?何で、そないに気を張ってるんかわからんわ。」

 

「…そうね。私も全力で戦った事はないかもしれない。いつも相手の力量に合わせて、自分の出力を変えてる事は否定しないわ。だけど、全力で無くても、本気で戦ってつもりよ!」

 

「なんやなんやぁ?真面目ちゃんかいなぁ〜。相手に失礼とか思っちゃてるん?」

 

コイツと問答しても、考え方が相容れないな。

 

さっさと終わらせる。

 

「氷遁・万華氷」

 

「ハイ、そのまま返したるわ。」

 

そう言うと万華氷がこちらに飛んできた。

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

氷の壁で止める。

 

さっきの千本と同じ現象……

 

「不思議そうだね〜♪ ボクの能力を教えてあげるよ♪ ボクの剣気は“空間の剣気”。能力名は『超神速』。君の能力は“停止の剣気”『凍結』。」

 

それでさっきの瞬間移動やら、空間操作を実現していた訳か。

 

「……何故、私の能力がわかるの?」

 

「そんなん、決まってるやん♪ 剣気は元々ボクの力なんやから!」

 

「………意味がよくわからないわ。」

 

「いや〜、元々凄いムカつく神様がおったんやけど、そいつを殺す為に剣気を身につけたんや♪ せやけど、あまりに力を持ちすぎて、何もかんもアホらしくなってもうたんや。せやから、ボクの力を何等分にも分けて、あらゆる世界にばら撒いたんや♪ それが君っちゅう人格を成し、受肉した姿が雪藍や♪」

 

どうやら、コイツは誰かに支配されるのが、気に食わない性格のようだ。

 

ニヤニヤとこちらを見て笑ってくる。

 

コイツの脳内では、今頃自身のルーツを明かされて驚愕している姿を想像しているんだろう。だけど……

 

「わざわざ私の根源を教えてくれてありがとう…………で、今更そんな事で私が揺らぐと思ってるの?」

 

より強い剣気を纏って威嚇する。

 

すると、一瞬ポカンとした顔を見せてすぐに笑い出した。

 

「あっははっははっは!!アカンアカン。君は思った以上に、強い子やったんやね♪ ええよ、剣気は心の強さに比例して強くなる♪ 精神が強い子は好きやで♪」

 

「私は貴方が嫌いよ。」

 

「そう邪険にせんといてや。気に入ったから、サービスや。……剣気は“神殺しの能力、性質は龍”。故に神性が高い相手ほど、毒性が増す。そんな性質があるんや。」

 

「ご高説ありがとう。……もう帰っていいよ。氷遁・万華氷剣」

 

「お!じゃあ、ボクも対抗して♪」

 

無数の氷剣を射出するが、シンジも無数の刀剣を虚空に出現させて相殺される。

 

「更に追加や♪」

 

今度は無数の鉄の筒を召喚する。

 

何だろう、あれは?

 

そう思った瞬間に一斉に鉄の筒が火を吹いた。

 

咄嗟に空間凍結で私の周りの空間を停止させる。

 

凄まじい轟音と煙が広がる。

 

何今の?

 

「へえ、凄いやん♪ 大砲の雨をそんな方法で防ぐなんて♪」

 

「…………たいほう?」

 

「あら、知らんの?……まあ、この世界にはないってことかな?核兵器とか知ってる?」

 

何だろう、どっちも聞いたことが無い……

 

「知らんみたいやね。まあ、君には通じないし、やる意味ないわ。……太陽をこの場に召喚しても、空間固定相手じゃ熱が通らんし……」

 

とんでもない事を言っていないか?

 

「でも、ボクならこの空間固定の壁もすり抜けられる♪」

 

そう言いながら、シンジが空間凍結の中を歩き出した。

 

馬鹿な……

 

この空間凍結を突破されたのは初めてだ。

 

そもそもマダラの時空間忍術に似てるんだ、コイツの能力。

 

だったら、実体化してる瞬間を狙うしかない。

 

もう一度接近する。

 

斬り合いを再開する。

 

遠距離で撃ち合っても、常に相手が『反射』や『透過』、『空間固定』をしてくるなら意味がない。それに『瞬間移動』もあるから、距離も関係ない。

 

それなら接近戦しかない。

 

体術の力量は互角。リスクは高いけど、そこを狙うしかない。

 

「氷槍」

 

急に突き技に変えた事で対応を変えざる負えない。そこを狙う!

 

「おっと!」

 

案の定、透過を選択してきた。

 

コイツも私も体術自慢ではあるけど、お互いに写輪眼を持ってるわけじゃない。

 

だけど、私には時間凍結や時間遅延で同様の効果を得る事はできる。

 

だから、本気での見切りなら私に軍配が上がるはず。

 

お互いの身体がすり抜け切る。その瞬間に術を発動。

 

以前、飛段相手に世界を滅ぼそうと仕掛けた術。規模を抑えればいい。

 

「氷遁・絶死凍結」

 

原理は簡単。私を中心に冷気を放出する。それだけに回避もできないし、術のスピードも速い。

 

瞬く間に森の木々が真っ白に凍りつく。

 

範囲は3キロ四方に設定。この設定を間違えれば、世界が滅んでしまう。

 

とはいえ、これで3キロ四方は生物も何もかもが絶対零度で凍結してしまった。

 

「チィ…」

 

思わず舌打ちが出てしまう。

 

これでも仕留めきれないか……

 

奴の周りの空間が歪んで見える。

 

空間能力を使って逃れていることだけはわかる。

 

「コワイコワイ♪ ……うん!君は合格♪ ……今度、招待状を送ろう♪ それから遊んでくれたお礼に君が行きたい所に送ってあげるよ♪」

 

そう言うと次の瞬間には違う場所に立っていた。

 

頭にはシンジの声が聞こえる。

 

『剣気遣いの見分けかたは、瞳の色だよ。蒼かオレンジの眼を持っていたら、可能性があるかもね♪……それから“特異点”は大切にする事をお勧めするわ♪』

 

特異点……

 

説明はしてくれないけど、それが何か何となくわかった。

 

きっとナルト君のことだろう。

 

もうアイツの気配は感じない。去ったのだろうか。

 

視線の先には血塗れでフラフラのダンゾウがいた。

 

そのダンゾウを挟むように肩で息をしているサスケ君と隻腕のマダラ。

 

2対1の状況でもダンゾウは善戦できたようね。

 

そう見ていた瞬間、サスケ君とマダラが回避行動を始めた。

 

ダンゾウを中心黒い球体が発生する。

 

あれは封印術かな。

 

「時間凍結」

 

時を止めてダンゾウに近付く。

 

ダンゾウの目の前にまで移動した所で時間を動かす。

 

「……き、貴様は……」

 

「お久しぶりです、ダンゾウ様。」

 

仮面を外して素顔を見せる。

 

「…雪藍……木ノ葉を抜けただけでは、飽き足らず暁に与する裏切り者めが…ワシが……お前の…居場所を与えた事を忘れた…恥知らずめが!」

 

「……そうですね。その点は申し訳無く思ってます。ただ、感謝している事もあります。」

 

「…………」

 

「……ただただ現実という物を教えていただけた点は感謝しています。現実を知らない小娘の教育という意味ではこれ以上無い教訓でした。」

 

「…皮肉…の……つもりか」

 

「……私に甘さは必要無いと教えてくれた事には感謝していますが、人間は機械ではなく、感情の生き物。効率と保身に偏りすぎた点が貴方の失敗だったと私は考えています。…それでは人心がついてきません。」

 

ただ、甘いだけでは現実は変えられない。

 

効率を求める過ぎれば、人心がついてこない。

 

政治とは難しいものだ。私は政治の中心に立った事のない人間。そこにどんな想いが有ったのかはわからない。私やイタチのように恨まれる事を覚悟した上での行動だったのかもしれないが、これが結末なら、そういう事だったんだろう。

 

「……しかしながら、貴方の木ノ葉を守りたいという想いは本物だったと思ってます。………その想いだけは大切にしてください。……それでは私はこれで失礼します。」

 

再び仮面を被る。

 

封印もそろそろ完成しそうだ。私もここから離脱しないと巻き込まれてしまう。

 

「…き、貴様だけでも……逃さぬ!」

 

ダンゾウが手を伸ばしてくる。

 

死にかけているダンゾウから腕を振り解くのは容易いだろう。しかし、今封印が完成しかけている状況で有れば、一瞬でも命取りだ。

 

「時間凍結」

 

捕まる前に時間を止める。

 

最悪は空間凍結を使えばいいけど、リスクを冒す必要ない。

 

一瞬ではあるけど、ダンゾウに挨拶ができてよかった。大蛇丸同様に私にとって因縁の相手だったからね。

 

さて最後の山場かな。

 

この為にダンゾウひいてはマダラを追いかけて居たんだから。

 

ダンゾウの封印術から抜け出した所で時間を進める。

 

ダンゾウの封印術は橋を抉り取って、破壊した。

 

凄まじい執念……

 

「アレは自分の死体に引きずり込んで封印する道連れ封印術………己の死に際で発動するように術式を組んでいたようだ。危なかったな…」

 

「次だ…木ノ葉へ向かう。」

 

マダラがダンゾウの死体に近付く。

 

「オレはこいつの眼を持っていく。サスケ…お前も焦らずアジトに帰って休め。瞳力の使いすぎだ…いずれ強がってはいられなくなるぞ。……光を失いかけてるその眼。…一人で木ノ葉へ行って何ができる?目的を達成させるには我慢も必要だ。」

 

マダラがダンゾウに触れた瞬間、ダンゾウがマダラの目に吸い込まれた。

 

あれはマダラの目の能力かしら。写輪眼にそんな能力はない。…なら固有の瞳術。万華鏡写輪眼か。

 

「サスケ…」

 

「………」

 

「一つ忠告しておく。あの女…いらないならちゃんと止めを刺しておけ、我らの事を知りすぎている。」

 

「我らだと…オレがいつお前の仲間になった?」

 

「フッ…まあいい………それで、お前は何しに来た…コン。」

 

マダラが此方に問いかけてくる。

 

私は答えた。

 

「暁を抜けるわ。」


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