結局、大蛇丸の死体はアジトの瓦礫からは見つからなかった。
まあ逃げたんだろう。逆口寄せとかで。
あれから数ヶ月後、私も既に暁に属して1年以上過ぎていた。
今は岩隠れと石隠れの国境付近に立っていた。
「岩隠れの神経がわからないわ。」
「まあ、気にも止められていないのであれば、我々としても好都合ですよ。」
「……行くぞ。」
まさかの岩隠れから戦争代行の依頼を受けた。私が五尾の人柱力を攫ったはずなのに。
気にも留めていないなんて事は無いと思う。土影は取り戻そうと攻撃してきたぐらいだし。
なのに今日は何事も無かったように石隠れとの紛争の依頼をよこしてきた。
しかもメンバーを指名してきた。
イタチと鬼鮫と私だ。
「どういうおつもりなんですかね?」
「おそらく、五尾を取り返す際に障害になるであろうコンの能力が見たいと言ったところだろう。」
「あとは、イタチと鬼鮫は偶々だね。デイダラは土影との面識があるから、能力の調査は必要ないだろうからね。」
「では、角都と飛段になっていたかも知れませんでしたね。」
あの二人と一緒に任務なんて絶対嫌だけど。
まあ初見殺しな能力だから、今回は出なくて良かったと思う。
「なあ、アンタが五尾を捕まえたって奴か?」
そんな話をしていたら、後ろから声をかけられた。
振り返ってみれば、二人の男性の忍。額当ては岩隠れ。パッと見の実力は上忍かな。
もしかして、五尾を捕らえた報復に来たのかな?
「…………」
返事をせずに様子を窺ってみる。
意外にも敵意は感じられない。
「その面、やっぱりそうだな!」
するといきなり二人に肩を組まれた。
「オレはゲン。こっちはテツだ。」
「よろしくな!」
凄く友好的で戸惑ってしまう。
「……ええ、よろしくお願いします。」
「なんだ、なんだ?……元気がねぇな!……オレ達はアンタに感謝してるんだぜ!」
「……感謝ですか?」
話が見えない。
「あのバケモノを殺してくれて、ありがとうな!」
「…………」
「オレからも言わせてくれ、ありがとう。」
思わず、絶句してしまう。
私は本気でこの人達が何を言ってるのか理解できなかった。それと同時に心臓が凍えるような寒気を感じていた。
「根暗で何考えてるのかよくわからんし。」
「いつもオレ達、里の人間を殺意の目で睨んでくるしさ。」
「あんな、いつ暴走するか分からない怪物は早く居なくればいいって思ってたんだ。清々したよ。」
「ついでにもう一人もアンタらで殺ってくれよ!」
「ってな訳でオレ達はアンタらを信頼してんだ!だから一緒に戦おうぜ!」
一方的に捲し立てると二人は持ち場へと戻っていった。
その後も似たような人達から同じ言葉をかけられた。
主にハンさんを殺した事への感謝の言葉。
岩隠れが暁に依頼を出すのに躊躇いがない理由がわかった。
「………ごめん、二人とも。ちょっと、トイレに行ってくる。」
私は二人から分かれて茂みの中に屈んだ。
仮面を外して、私は胃の中の物をぶちまけた。
「……はあ…はあ……はあ。」
気持ち悪い………
私が殺したんだから、偉そうな事は言えない。それでも、これは幾ら何でも酷すぎる。
人間の無邪気な悪意に際限など無い。
頭がクラクラする。
彼らに仲間意識なんて持ち合わせていない。ハンさんだって、あんな誰もいない場所にいた時点で察してはいた。でも、これはあんまりだろう。
殺されて喜ぶ仲間なんて悪夢でしか無い。
人間がここまで気持ち悪い生き物だと初めて感じてしまった。
涙が出て止まらない。
本当に嫌になる。最悪の気分だ。
吐き戻すなんて、初めて死体を見た時以来だな。
そんな事を考えてたら、また吐いてしまった。
気分が悪い。暫く立ち上がれそうに無い。
蹲って気持ち悪さに耐える。
「……コン。」
背中を優しく叩かれた。
「………イタチ。」
イタチの写輪眼が心配気に揺らめく。
「…ごめん、すぐ戻るから。待ってて。」
「……無理はするな。鬼鮫と二人でも十分だ。お前は休んでろ。」
「…大丈夫。私も戦える。」
「……おい、コン。」
「ありがとう、イタチ。でも、本当に大丈夫だから。」
涙を拭って仮面を被る。
それを見たイタチが小さく溜息をつく。
「……わかった。だが、オレ達は3人しかいない。つまり全員がばらける。お前のフォローはできないからな。引き際を誤るなよ。」
「わかってる。」
「……行くぞ。」
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戦端が開かれ、私達3人はそれぞれ散った。石隠れの忍を蹴散らす。いつものように殺す事はできるだけ避けて、気絶か撤退を促す。特に問題もなく、進軍して行く岩隠れの忍達。
暁を使う必要なんて無いよね、これ。
そうは思いながらも、仕事であるからには全うはする。
そうして敵と戦っていた時に問題が発生した。
飛んできた火遁の術を回避した瞬間に身体の自由が効かなくなった。
視線を動かせば、私の陰が伸びて他人の陰と繋がっていた。
その人は木ノ葉の暗部『根』の動物の仮面を被っていた。
ダンゾウの手の者か……つまりこれは奈良一族の影縛りの術
火遁を放ってきた者も同じ仮面をしている。
追い忍か。
戦争とタイミングが被ったのか?
ダンゾウとオオノキが手を組んだ可能性があるね。
何はともあれ目の前の状況を打破しなきゃ。
「影首縛りの術!!」
私の体を這うように影の腕が伸びてきた。そのまま首を掴まれて、万力のような力で締められる。
「うっ…!」
私の力で振り解く事は無理だ。だから、妨害して術を外させる。
「秘術・千殺水翔」
片手で即座に印を結ぶ。
暗部の男の頭上に水の千本を浮かせて攻撃する。
その速度に対抗できずに迎撃ではなく、回避を選択した暗部。
結果、影の術は解除された。
すぐに離脱する。
危うく、殺されかけた。
ここは森の中で川が流れている。水辺が近い事は私に有利だけど、森の中は影の術を使われるこの状況じゃ不利か。
「影縫いの術!!!」
無数に枝分かれした影が襲いかかってくる。
速度は大した事は無い。手数が鬱陶しいけど。
私は影の一本一本を全て避ける。
「火遁・火龍弾!!」
もう一人が再び火遁を放ってくる。
「水遁・破奔流」
水遁をぶつけて相殺する。
「クソッ、速いな。捕らえられん。」
「構わない。そのまま影で攻め続けろ。プレッシャーにはなる。土遁・鋭槍」
目の前の地面から土の槍が伸びてくる。
それも身体を捻って回避。走り続ける。
影が見えないようにしないといけないかな。
「水遁・霧隠れの術」
辺りを霧が包み込む。
「視界が悪い。影が見えないな。」
「問題無い。風遁「させませんよ。」!?」
相手の手が緩んだ隙に接近して首の秘孔を千本でついた。
気絶する男。
今の男の人は多分猿飛一族だろうね。
「チッ!…忍法・影「水遁・水牙弾」グアッ!!」
影の術が発動するよりも先に、川辺の水を槍にして奈良一族の男の足を貫いた。
イタチから教えて貰った術だ。
水辺が有れば、発動速度も早くてそれなりの威力があるいい術。
千本を投げて、奈良一族の男も気絶させた。
「やるねぇ、アンタ。」
声をかけられる。
新手か。
鬱陶しいなと思いながら、声の方をみればくノ一がいた。髪色は紫でそれを後ろで束ねている。和装に綱の回しを巻いたその独特な姿を見て確信する。
「今度は大蛇丸の部下か。」
これはオオノキとダンゾウが手を組んだ訳ではなく、ダンゾウがオオノキと大蛇丸を利用している感じかな。二枚舌外交的な事をダンゾウが裏で糸を引いてる感じがする。
それにしてもかなりの美人さんだ。童顔の私からすれば羨ましい事、この上ないね。
「アンタが氷遁遣いね。…私の下位互換の癖に粋がってるじゃないの。」
下位互換……つまり似た系統の術の使い手かな。
「アンタの氷遁と私の晶遁。どちらが上か教えてあげる。」
晶遁?……聞いた事はある。周囲のあらゆる物質を結晶化させる事ができる。攻守共に優れ、手数が多い事が特徴。
でも見た事はなかったな。
「小手調よ、晶遁・御神渡りの術!!」
くノ一が地面に手を着いた瞬間、ピンク色の結晶が地面を伝って此方に向かってきた。
「氷遁・氷剣山」
私も地面に足を鳴らして、氷の棘を走らせて相殺する。
「へえ、やっぱり全く同じ術もあるもんなんだね!!でも、氷じゃ結晶には勝てないわよ!!」
確かに実際の材質では強度差に天地もの開きがあるだろう。
「なら、手数でやってみましょうか。氷遁・万華氷」
氷の千本を放つ。
「晶遁・手裏剣乱舞!!」
水晶でできた六角形の手裏剣に迎撃される。
なるほど。術が似てるから、相殺され易いね。……結局いつも通り、体術で決めちゃおうか。
右手に氷剣。左手に千本を持って瞬身で接近する。
「くっ!!晶遁・翠晶刀!!」
右腕に沿う形の水晶の刀が形成される。
トンファーみたい。
自慢の速力で斬りつける。それを刀でガードしてくる。
右から左回し蹴りがくる。即座に屈んで回避。続けて、右足で回し蹴りがくる。それをジャンプして回避。跳んだ勢いを利用して回転斬りを放つ。
それを再びガードされた瞬間に左手の千本を至近距離から顔面へ投げる。
「くっ!!」
咄嗟に顔を傾けて避ける。その顔面に向かって右足で蹴り飛ばす。
「ガッ!」
吹き飛び転がるくノ一。
やはり、体術なら此方に分がありそうね。
もう一度、瞬身で接近する。
「このっ!!晶遁・紅の果実!!!」
振り下ろした氷剣が止められる。
結晶の防御壁ね。
「晶遁・翠晶迷宮の術!!!」
水晶の山を見ていると今度は水晶の壁に囲まれた。
「これでアンタを捕まえた。大蛇丸様に引き渡してやるよ。」
どうやら牢屋のような物らしい。
私は水晶の壁に手を添える。
「氷遁・崩壊凍結」
その瞬間、水晶が粉々に砕け散る。くノ一を守っていた水晶の山も粉々になる。
「なっ!?」
目を見開いて固まるくノ一。
「これで終わりですか?」
「テメェ、舐めた口利いてるんじゃないよ!!!晶遁・一糸光明!!!」
レーザービームが飛んできた。
水晶の光の屈折を利用した技ね。速度も威力も申し分なしよね。
凄まじい速度で放たれたレーザーは私の身体を貫いた。
「はあ……はあ…へっ!大した事無かったね!!」
貫かれて倒れる私の体。地面に倒れた瞬間、水に還る。
「それは水分身ですよ。」
くノ一を蹴り飛ばす。
「グアッ!!」
「あまり派手な術をポンポン使わないでください。周りに迷惑がかかります。」
うちの鬼鮫さんもド派手だけど。
でも派手だから強いって訳じゃ無いよね。こんな風に隙だらけだし。
「…い、いつのまに?」
いつの間に?
……ああ、いつ水分身と変わったのかって話ね。教える訳ないじゃん。まあ、イタチレベルの印の速度も自慢の一つだし。印をしたのが見えなかったんだろうね。
「……さあ、いつでしょうね。」
「このっ!晶遁・翠晶壁八の陣!!!」
またもや水晶に閉じ込めらる。今度はかなり壁が分厚い。先が見えないし、空も全く見えない。内部に空間もないから、指の一本も動かせない。
これ私じゃなかったら、即死だね。何とも酷い術だ。
「氷遁・崩壊凍結」
それでも私の術の前では関係ないね。
「……う…嘘でしょ………」
「芸が無いですね。その手の拘束は私には無意味ですよ。」
「この化物がっ!!晶遁・破晶降龍!!!」
水晶でできた龍が4体現れる。
だから、大技をポンポン使わないで欲しいんだけど………
この程度の術なら回避するのも容易い。だけど、ここは力の差を教えてあげて、心を折った方がいいかな。
「氷遁・白氷龍」
此方も氷の龍を一体だけ出す。ただし大きさは水晶龍の10倍の大きさだけど。
「……そ、そんな」
「私もやろうと思えば、派手な術を使えますよ。……では、さようなら。」
白氷龍を落とす。4体の水晶龍諸共呑み込んで。
地面が大爆発を起こして、クレーターができる。それと同時に周りに冷気が放出されて、木々が凍りつく。
やばいね。
これ以上、被害が広がる前に辺りを全体に空間凍結をかけて衝撃波を止めた。
落ち着いたところで空間凍結を解除する。
この辺り一体だけが、真冬になってしまった。
自然破壊だね。後で土影に怒られないといいけど。
くノ一は逃げたようだ。いちいち追いかけたりはしない。無駄だから。
さて、寄り道になってしまったけど、戦場に戻ろうか。本来の仕事は戦争代行だからね。
私は瞬身の術で前線に戻った。