1週間はあっという間に終わった。小南が話し相手になってくれたからだ。あと意外だったのはリーダーペインともよく話せた事だ。冷酷な気配を感じさせつつも、根は小南と同じだからか、飛段達とは違い常識人だった。それとトビも見舞いにやってきた時は驚いた。私の素顔に驚いていた。トビには見せた事がなかったなと思ったが、トビが雨隠れに出入りできる事に私は驚いていた。見習いでも本拠地に来れるんだなって驚いた。
そして1週間が終わり、小南から任務内容を聞かされてた。
「任務の内容は、今暁を嗅ぎ回ってる組織があるようなの。それの調査と可能であれば殲滅よ。」
「結構、大切な任務じゃない。よく後ろにずらしてくれたね。」
「大切だからこそ、万全の状態で臨んで貰わないといけないってリーダーの意見よ。」
それはきっと小南を気遣ってのものか。
「ツーマンセルは私と小南って事かな?」
「ええ、そうよ。」
「場所は?」
「草隠れに敵のアジトがあるとゼツからの情報よ。」
「じゃあ、最初は潜入だね。感知タイプで体術遣いの私が前衛、小南が援護と退路確保の後衛ね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
草隠れは雨隠れから隣の国という事もあり、移動は二日で済んだ。
「それで、具体的にはどうなの?」
「具体的にとは?」
「やる事は聞いたけど、その背景を聞いてないんだけど。何で草隠れが暁を探ってるのかとかさ。」
「そうね。まず草隠れについてだけど、この里は木ノ葉や岩隠れのような大国ではなく小国よ。」
「そうね。」
「最近は大きな忍界大戦もない。平和な時代が10年以上続いているわ。だから、小国は仕事が減っているのよ。」
成程、戦わない軍隊を抱えている状態でもお金に余裕があるのは大国ぐらいだけだ。
それに小南は第二次忍界大戦と第三次忍界大戦を経験してる。戦争がどんなものかも知ってるんだ。
「だから、小国は大国のように任務を依頼として受けるんじゃなくて、積極的に依頼を取りに行ってるのよ。……ようは傭兵業。つまり、同業者ってことね。」
ああ……なんか読めた。つまり、暁が格安で戦争代行をしてるせいで余計に仕事が無くなってしまってるのが草隠れって事か。しかもメンバーはS級ばかり。クオリティも高い。小国がこのクオリティを再現するのは不可能だろう。
「だから、調査して本当か確かめる。本当なら制裁を加える。」
「あとは、情報源を洗う事もできればやりたいね。」
「………できればね。」
里に到着する。
見張りは4人。どうやって侵入するか。
「変化の術で入る?」
「……いえ、もし見破られたら侵入前から戦闘になるわ。そうなれば、調査どころでは無くなる。」
つまり、変化ではない侵入が必要ね。
「了解。じゃあ、私のやり方で潜入しようか。」
「方法は?」
「お得意のサイレントキリング」
私は追い忍の面を被る。
「水遁・霧隠れの術」
霧で視界が悪くなる前に再び入口を見る。
門の左右に二人と櫓に二人。
千本を構える。霧が濃くなったところでジャンプして空中から千本を5本投げる。2本は門前の二人の首の秘孔を射抜き、3本目は櫓の右側に立っている人に。4本目と5本目が千本同士を衝突させて軌道を変えて、櫓の柱の陰になっていた人の首を射抜いた。
全員が意識を失ったのを気配で感知したところで着地。
「……イタチのような手裏剣術ね。」
「イタチもこれができるんだ。流石だね。」
「行きましょう。」
「うん。氷分身」
4体の氷分身を作り、門番達の人相に変える。
意識を失っている門番達は、口と手を縛って、木に括りつけた。
これで異常事態を知らせる事もできないし、印を結ぶ事もできない。
「あとは忍具を取っておかないと。ロープ切られちゃ不味いし。」
取り上げた忍具は小南に渡しておく。私が持っていても仕方がない。
私はクナイや手裏剣の練習をしていないから上手く扱えない。
剣に関しては、昔再不斬さんから手解きを受けてる。霧隠れ流の忍刀の7本を扱うための訓練法。
霧隠れの里では忍刀の訓練は必須らしい。それは将来の忍刀七人衆のメンバーになる為だとか。その技術を再不斬さんから受けついでいる。だから、氷剣や氷槍は扱えた。
千本術は主に霧隠れの暗部の技術。出来るだけ対象を傷付けずに、遺体や捕虜を運ぶ為の技術。そこから敵や抜忍の能力を自里に落とし込む為。
今に思えば、手裏剣やクナイの扱いではなく、千本術と忍刀術を教えていたことから、再不斬さんは将来、私達兄妹を霧隠れの暗部に潜入させる事をあの当時から考えてたって事になる。
「これでもしもの事があっても時間は稼げる。小南は起爆札の準備をお願い。私は持ってないから。」
「随分手慣れてるわね。」
「暁でも私は一人で任務をする事もあるからね。……それに再不斬さんの元にいた時は参謀役だったし。」
あの時はまだまだ未熟な参謀だったけど。
それに霧隠れ潜入時の経験もある。
「口寄せの術」
20体のユキウサギを召喚する。ユキウサギに私達の情報に纏わる物を探させる。
「さて、暫くは観光でもしておこうよ。」
「そんな悠長な事言ってていいのかしら?」
小南の台詞に思わず溜息が出そうになる。
「……暁のみんなは強いからさ。ゴリ押ししたがるけど、それじゃあ戦争では強くても情報戦では負けちゃうよ。ゼツがいるから上手く回ってるけど、いつも彼を使える訳じゃないんだから。実際、今は別の任務に出てる。」
「じゃあ、どうするの?……本当に観光する気なの?」
「そのつもりだよ。……ちゃんと地理の把握をしてね。」
「…そういう事ね。」
「あと暁のマントは脱ぐよ。草隠れが暁を敵視してるなら、この格好は不味いからね。」
マントを脱いで巻物にしまう。
「…………」
「何よ。」
マントを脱いだ小南の身体は凄かった。本当に色々と凄いな、うん。
思わずデイダラの口調を物真似するくらいには凄い。
気がつけば私は小南を睨みつけていた。仮面で顔隠しててよかった。
「何でもない。」
私は小南に背を向けて歩いた。
「…フフ」
後ろから鼻笑いが聞こえた。
ちょっと、小南!
貴女、絶対わかってたでしょ!!
小南に揶揄われて、頬が赤くなる。多分耳まで赤くなってる気がする。
笠を被って隠す。
「ほら、小南もこれ被って!!」
「はいはい」
“はいはい”じゃ無いわよ!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
里を小南と二人で練り歩く。雑貨屋さんで里の地図を購入し、大きな茶屋に入り、個室に入る。
「みたらし団子4つとお茶をください。」
頼めばすぐに出された。仮面と笠を取って団子を頬張る。
甘くて美味しい。
「……貴女、本当に遊びに来たんじゃ無いでしょうね?」
小南がジト目で睨んでくる。
「そういう小南だって、さっきは普通にアクセサリーとか買ってたじゃん。小南もなんだかんだ楽しんでるでしょ?」
「観光客を装ってるからよ。」
ホントかなぁ?
結構本気で楽しんでたように見えるけど。
私は周りに不審な気配がないか、確認してから地図を広げた。
「大体は地理の把握ができたね。調査と制裁。調査はユキウサギが戻ってきてから動こう。制裁は、私達二人しかいないから、起爆札を大量に使ってやろう。」
私は地図に印をつけていく。
「この赤の印は?」
「ここに起爆札をつけて発動させれば、被害を増やしながら、陽動と撹乱が効果的な所。それでもって、一般人に被害が出ないところをピックアップしてる。」
「…………」
小南がじっと此方を見つめてくる。
「別に一般人を気付ける必要が有るか無いかで選択できるなら、前者を選べばいいじゃない。選択できない時は仕方ないけど。……無理に悪人に合わせる必要はないでしょ。………それをして、後から自責の念に囚われている方が無駄な労力だと思うけど、小南?」
「………ええ、そうね。」
「今回は私達二人なんだからさ、好きにやろうよ。……潜入は主に私が担当するけど、暴れる時は起爆札を中心に小南がメインで動いてもらうんだからね。」
「わかったわよ。」
そうして話している間にユキウサギが1匹づつ帰ってきた。
成果の有ったものや無かったもの等、様々だ。
今度は青色で印をつけていく。と言っても一箇所だけだ。
「それだけの口寄せ動物でここだけしか見つからないのね。」
「それでもこれだけ見つかったらなら、上出来だよ。」
私はユキウサギを帰す。
「じゃあ、もう一回観光の続きに行こうよ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
再び街を練り歩く。今度は先程、地図に印をつけた場所に起爆札を張り付けていく。
流石に里を2周もすれば、夜になる。
宿を取って作戦会議をする。
「今夜寝静まった時を狙って、二手に別れよう。」
「じゃあ、感知タイプの貴女が地図上の青マークへの潜入。私は陽動かしら?」
「うん。穏便に潜入できればいいけど、流石に警備があるだろうし。そもそも制裁を加える事も目的だから、二つ同時に並行してやろう。」
巻物から暁のマントを出す。
「今からは寧ろ、暁であることをアピールするよ。」
私達は暁の衣を見に纏った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
草隠れの中心の地下。私は気配感知をしながら、潜り込んでいた。
夜も耽る頃、寝静まったはずの里が騒がしい。
小南が暴れてくれているんだろう。町中の至る所で爆発音が聞こえる。
仕掛けておいた起爆札が効果を発揮してくれてるようだ。
さて、里の上空で小南が飛行しながら、暴れているのを横目に目当ての物を手に入れる。
中身は暁のメンバーの能力や弱点などが事細かに記されている巻物。この部屋は草隠れの長、『草影』の部屋だ。間違いではないだろう。部屋は薄暗く、蝋燭の明かりが小さく揺らめいていた。
情報源は何処か調べる。
纏めた情報だけではなく、原本の出どこも確認する。
………どうやら、暁に恨みを持ってる者達から集めているのかな。
私についての情報源は霜隠れだった。
心当たりはある。霜隠れの一部の人間からは恨みを買っていた。今も霜隠れは内乱の危険を孕んでいるが、内乱には発展していない。それは何かしら、不満の吐口があったからか。
推測でしかないけど、草隠れに情報を得ることで固唾を下げたのではないのだろうか?
これなら、しっかり敵を殺した方が良かったのだろうか。
結局、雲隠れからも霜隠れからも恨まれる結果になるなんてね。
確かに半端な仕事だと思う。今度はしっかり仕事をするとしよう。
背後から気配を感じる。段々と近付いてきてる。
私はすぐに巻物をしまう。
「成程、外は陽動でその裏で情報収集。抜け目のない事だ、暁。」
振り返れば、『草』の文字が書かれた服を纏っている。
「貴方は草影様ですか。……いいんですか、こんな所に居て?…里が大変な事になってますよ。」
「フン……貴様ら暁を仕留めればそれで終わりだ。弱点は把握している。理由は言うまでもないな?」
「そうですね。」
結構強いね。小国と侮っていたけど、里の最強ってだけではある。
時間をかけると小南に迷惑がかかる。でも、この人を捉えれば、情報を一気に引き出せる。
この狭い空間では私の足があまり活きない。霜の国での戦闘が知られているなら、私の基本戦術は全て通用しないだろう。なら、氷遁を使う。だけど、絶対に逃がせないし、時間もかけられない。
仕方ない。奥義の一つを使うか。
「時間凍結」
能力の発動の瞬間。部屋の蝋燭の炎の揺らぎが止まる。
私は草影に向かって歩く。草影は私が歩き出したのにも関わらず微動だにしない。
動かない草影の首に千本を滑らせる。仮死状態にするツボだ。
そして次の瞬間、草影の体が倒れた。蝋燭の炎も小さく揺らいでいた。
私は草影を抱えて部屋を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
任務も終わり、雨隠れへ帰還する。草影から情報を取るのは、リーダーがやってくれるそうだ。なら任せよう。私は幻術を使えないからね。
「後は私達でやっておくから、コンはもう休んでいいわよ。」
「じゃあ、お願いするね。」
私は雨隠れを後にした。
今回の任務も何とかなってよかった。小南にはいきなり看病させるような迷惑をかけちゃったけど、リカバリーできたかな。
最後は草影に見つかった時は焦った。かなり強引なやり方をやってしまった。実は自来也様から逃げる時も同じ技を使用している。
時間凍結。
文字通り、時間の動きを停止させる。ただ無制限にはできない。体感時間で30秒程度だ。それ以上は勝手に時間が動き出す。力を弱めた『時間遅延』なら1分程度持続できるけど、完全には止まらないし、0.5倍速といった感じだ。
関連技で『空間凍結』もある。此方は土影の塵遁を防御した技。文字通り空間を固定する。此方の方が制約は小さくて扱いやすい。氷翼がなくても、足場にして空中に立つ事などもできる。
とても忍術のレベルではない。やはり別の力だろうと思う。
能力の考察など、世界で私しかいないであろう事から結局の所よくわからない。
そんな事よりも今回の任務は楽しかった。女性と二人きりってのが久しぶりだったからかな。クロと過ごしたあの時は本当に楽しかった。あんなことが無ければ、今も一緒に過ごしていたかもしれない。
もう失わないように私は戦い続けようと思った。