☆一輪の白い花   作:モン太

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本音

ビンゴブックが更新されていた。シロとは別にコンの名前で追加されていた。ランクはS級犯罪者。

 

相手は雲隠れだ。恐らくあの霜との戦争で介入した時に目をつけられてしまったのだろう。罪状はスパイ工作に大量虐殺だ。

 

スパイ工作は、寧ろ雲隠れのスパイを捕まえた事で恨みを受けてしまった為か。スパイ工作というよりはスパイ阻止工作が真実だけど、そんな事は当事者の雲隠れしか知らないから、ビンゴブックの方が真実になってしまうな。

 

大量虐殺は実はそこまであの戦争で殺した訳ではない。全く殺さなかった訳でも無いけど。出来るだけ殺さないように撤退させていた。

 

実は任務が終わり、霜の国を去る時に霜の国の一部の人間からは恨みを買ってしまっている。

 

それは私が雲隠れの忍を殺そうとしなかった事だ。その人達の言い分は「それだけの力がありながら、見逃す等ありえない。実はスパイで霜の国と雷の国の双方の疲弊が目的では無いか」と。

 

でも本音としては、仲間とか身内を殺された人が少しでも雲隠れにぶつけたかった憎しみを私に向けただけだと思っている。勿論、気持ちはよくわかる。せっかく敵を殺せそうな時にそれを見逃す等、雲隠れに仲間を殺された人が見たら、憎しみを抱く事もわかる。

 

まあ、それくらいには雲隠れの忍を殺めなかった。だけど、雲隠れとしてはメンツを潰されたことがかなり重いんだろう。

 

あの戦争は歴史の闇に葬られたが、やはり雪辱を果たしたいという想いはあるんだろう。ビンゴブックのS級犯罪者にするくらいには、雲隠れにも恨まれた訳か。

 

逆に岩隠れからは特に何も無い。あれからも変わらず、暁に依頼を出してくるくらいだ。人柱力に手を出したはずなのに。それぐらい人柱力は嫌われているのか。殺されても誰もが無関心。……それはそれで悲しい話だなと思う。………ただし、これに関しては手を下した私が何かを言える立場では無い。

 

これでビンゴブックには二人の名前が入った訳だ。同一人物である事を知っているのは暁のメンバーのみだけど。

 

……いや、大蛇丸もわかっているな。なら、ダンゾウにも伝わってる可能性があると見るべきか。

 

そう考えていると、換金所についた。ここはビンゴブックの賞金首を捕らえるか、抹殺して遺体を持っていく事で報酬が払われる施設だ。一見は公衆便所だが。

 

そして、そこには暁のマントを羽織り、白目と黒目が反転した様なミイラ男が立っていた。

 

相方は建物の中か。珍しいな。いつもなら、こいつが中でお金を受け取って、相方が外で待ってることが多いのに。

 

「……飛段は何をしてるの?」

 

声を掛ければミイラ男もとい、角都が此方に視線を向けてきた。

 

「お前がオレ達の元に来るとは珍しい。……他のメンバーは全員何かしらの任務がある訳か。」

 

「……飛段は何してるのか、と聞いてるんだけど。」

 

「……何故、オレがお前の様な暇人の質問に答えないといけない?」

 

「…………」

 

「…………」

 

ピキッ

 

お互いが睨み合い、換金所のアスファルトにヒビが入る。

 

「………ただのトイレだ。」

 

目を瞑った角都 が渋々答える。

 

実に下らない事で睨み合ってる事に呆れた様だ。

 

「そう。………これはゼツからよ。」

 

私はゼツから預かった任務の報酬を渡す。

 

ゼツは今、砂隠れへの偵察任務中だ。仕方なく、この二人の元へ来たわけだ。

 

「………今回は誰を殺したの?…どうせ任務外での殺人でしょ?」

 

「フン……。水の寺の僧侶だ。中々の実力者で報酬も弾んだ。……だが、お前が来たせいでそれも興醒めだ。」

 

「……お金が欲しければ、犯罪者を狩ればいいじゃない。……僧侶を襲撃する必要なんて全く無いわよね。」

 

「………オレが何をしようとオレの勝手だ。お前の説教など聞き飽きた。」

 

もういい………こいつと問答しても無駄だ。飛弾が来る前にさっさと帰ろう。

 

「あっそ。なら、もう帰るわよ。」

 

「んあ〜〜〜〜スッキリしたーー。おん……?おいおいおい!!コンちゃんじゃん!!」

 

「……ちっ」

 

「ん〜〜?何か舌打ちが聞こえた様な気がするな〜。先輩に対する態度がなってないんじゃねーの?」

 

五月蝿い方が出てきてしまった。

 

「…………」

 

確かに暁には悪人がいると小南は言っていた。それがこの二人なんだろう。………いや、自分もS級犯罪者だ。同じ穴の狢か。それでも、この飛弾は殺戮をモットーと言う信じられない宗教を信仰している。

 

そもそもジャシン様とは何だ?………神なんてこの世にいる訳がないのに。弱い人間の心が見せる幻想。依存先。それが神だ。……そういう意味では私の神は兄さんになるのかもしれない。

 

ジャシン様、ジャシン様と曰うこいつは、結局のところ人殺しを楽しみ、それを神の責任にしているだけだ。

 

様々な考え方が私とは相容れない。

 

まだ、金の為に人を殺している角都の方がマシだ。角都は無益な殺生はしない。……益が有れば容赦無く殺そうとするが。例えば、金になるだとか、目障りだとかで。

 

「……まだ不必要な殺しを続けてるの?」

 

「不必要な殺しなんじゃねーんだよ。これはジャシン様に贄を捧げる儀式だ!…オレはこれからも敬虔なジャシン教徒として、隣人を殺戮し続ける!!……見ててくれよ〜〜ジャシン様!!」

 

「……下らない理由で人を殺す必要はないでしょ!」

 

私がそう言うと、飛段はピクッと動きを止めた。

 

「嗚〜呼。ジャシン様を下らないとはね〜。クックック………こりゃあ、大罪だぁ。……謝っても許されねぇ!!」

 

飛段が三連鎌を取り出す。

 

「死に晒せ、無神論者が!!!」

 

大鎌が縦に振るわれる。

 

身体を横に一歩滑らせて、避ける。そのまま、飛弾の顔面に左足で蹴りを入れる。

 

「痛ってーな!ボケェ!!」

 

「その大鎌は横に振ってこそ効果があるんじゃないのかしら?……縦に振るんじゃ、ただ刀を振るうのと変わらないわよ。」

 

少し距離が離れる。今度は鎌を投げて来た。鎌には鋼鉄のロープが付いている。

 

「おい、飛段。やるならオレも混ぜろ。こいつは5億両の賞金首でもある。ビンゴブックには別名でもう一人分記載されているから、更に2倍の10億両だ。」

 

「………仲間殺しは組織への裏切り行為じゃないのかしら?」

 

「……別に問題ない。偶々、お前ら二人の仲裁に入り、事故が起きた事にすれば良い。」

 

「テメー、何自分は無関係装うとしてんだよ、角都 !!」

 

成程。まあ、こうなるんじゃ無いかと思ってたけどね。

 

「ジャシン様、見てて下さいよォォ!オレ本気出すから!マジ本気!腸とか引きずり出すからァよォォ!!」

 

飛段が切り込んでくる。

 

大鎌での大振りの為、躱したり、いなしたりするのは容易い。だけど、

 

「風遁・圧害!」

 

凄まじい突風が飛段を巻き込んで襲いかかる。

 

瞬身の術で離脱。

 

私のいた場所は見事に抉れている。

 

角都はマントを脱ぎ、全身から触手を生やす。両肩と頭上にはお面の化け物が付いている。

 

本当にこの二人は人間じゃないよね。

 

飛段が再びくる。私も瞬身で対抗する。

 

「はあ!?また瞬身か!オレの鎌と能力が怖いか!?アァ!!?コソコソ逃げ回りやがって!!」

 

「雷遁・偽暗!!」

 

電撃がくるが、それも躱す。すると角都が触手を伸ばして来た。

 

大量の触手を瞬身と身体捌きで避けていく。

 

「大した体術遣いだ。戦闘経験の差を感じさせない技量は見事だ。……だが、これはどうする?」

 

角都 のお面が一斉に口を開いた。

 

同時に火遁と風遁、雷遁が合わさった熱閃がくる。

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

私の前に氷の壁を作ってガードする。

 

すると地中から腕が飛んでくる。それも咄嗟に屈んで回避する。

 

「火遁・頭刻苦!!」

 

背後に回って来た角都が火遁を放ってくる。

 

「水遁・破奔流」

 

炎と水がぶつかって大爆発を起こす。蒸気で視界が悪くなる。

 

「痛っ!」

 

爆発で視界が悪くなり、意識を感知に振ろうとした隙を突かれて、黒い槍が私の頬を掠めた。

 

呪術・司死憑血

 

呪いたい相手の血液を取り込み、自身の血で書いた陣に入る事で発動する。効果は生体情報のリンク。お互いのダメージを共有する物。だが、飛段が不死身である以上、一撃必殺の奥義になる。

 

飛段が私の血を舐める。

 

すると身体が黒色に変色した。

 

「これで条件は整った。……オレと最高の痛みを楽しもうぜ!!!!」

 

不味い!!

 

飛段の元へ走る。

 

「周りをよく見た方がいいぞ、小娘?」

 

横から突風がくる。

 

「風遁・獣破烈風掌」

 

角都の風遁を相殺する。だけど、その間に飛段の陣が完成してしまう。

 

「チッ!」

 

私は再び飛段に向かって走る。

 

「オラァ!!」

 

飛段は手に持った槍で太腿を刺した。

 

瞬間、私の足に激痛が走り、転けてしまう。

 

「ハハハハハハハハハハッ!!!ざまぁねぇなぁ!!アァ!!?これでお前もおしまいだァッ!!!」

 

全く……ぎゃあぎゃあ五月蝿い。

 

こうなったら仕方ない。こんな奴でも仲間だからと思って手加減していけど、そうも言ってられない。

 

飛段を殺すしかないな。

 

不死の飛段。忍術や物理攻撃では死なない。だけど………この特殊な力は?……便宜上、氷遁と呼んでるこの力なら、どうだろう。

 

答えは本能が示してくれる。きっと殺せるだろう。……殺してしまうだろう。

 

わかってたから、ずっと躊躇ってた。だけど、そんな事も言ってられない。やるしか無い。

 

無論、無力化を狙う。でも、勢い余って殺してしまう可能性も覚悟しないといけない。

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

ニヤニヤと笑ってる飛段。決着は着いたとばかりに高見の見物を決め込む角都。

 

仮面をしていて良かったと今程に思った事は無い。こんな顔はきっと誰にも見せれない。兄さんにもイタチにも…………。

 

きっととても冷たい目をしているだろうから。

 

「さアァ!!オレと一緒に最高の痛みを味わおーぜェェ!!!むちゃくちゃ痛てーから覚悟しろよ!!」

 

飛段が喚いているが、関係ない。

 

私は静かに術を発動する。

 

「氷遁・万華氷」

 

「……フ」

 

角都が鼻で笑う。

 

そうだろう。普段の万華氷なら、飛段を攻撃するよりも心臓に槍を突き刺す方が早い。それに万華氷が当たってもダメージのフィードバックが私にも来る上に、飛段を陣から弾き出す力もない。

 

万に一つもここから逆転できない。

 

角都はそう考えているんだろう。間違いはないな。

 

私の周りに氷の千本が無数に浮かび出す。空気中の水分が氷の氷柱を形成する。それを射出するのがこの術。

 

でもこの氷遁は忍術ではない。故に私のイメージで形成されているだけだ。だから、氷柱を氷剣に変えて、圧殺する事もできる。

 

だから、今回は速度をイメージして射出した。

 

私の頭の中の最速は、兄さんの奥義。魔鏡氷晶。あの速度をイメージして射出した。それと同時に瞬身の術で飛弾に突っ込む。

 

飛段の両腕と胴体を撃ち抜く。

 

最早写輪眼ですら軌跡を追えない速度で放たれた氷柱の散弾。

 

「え?……グオォォ、痛ってーーーェェ!!!!」

 

あまりの速さに痛みがワンテンポ遅れてやってきたようだ。

 

そんな悶えている隙を私は見逃さない。

 

勿論、フィードバックは来る。だから、心臓や足は狙わなかった。脚さえ有れば私は戦えるから。

 

全身を氷柱に貫かれた痛みが私を襲うが、予め来るとわかって覚悟を決めていたので、動揺は無い。

 

角都も展開の早さに反応が遅れる。そのまま飛段を蹴り飛ばして、陣から弾き出した。

 

私も後方に蹴りの衝撃が来るが、着地する。

 

滝の様に血が流れて、地面に赤い水溜りを作っていく。

 

「はあ…はあ……。」

 

……やっぱり痛いね。わかってたけど。

 

でもこの術はある意味優しい術かもしれない。相手を傷つければ、相手がどんな風に痛みを感じるのか、肌感覚でわかる。

 

使い手がもっと優しい人なら良かったんだけど……

 

それともこんな身体になったからこそ、飛段はこんな性格になってしまったのかな。

 

「雷遁・偽暗!!」

 

電撃が背後から飛んでくる。瞬身で躱して距離を取る。

 

「……お前、痛覚がないのか?……何故動ける?」

 

「………何を言ってるの?ただ我慢してるだけよ。」

 

「我慢でどうこうできるレベルの負傷ではないはずだァ!!お前のそれは瀕死の重症って奴だぜェェ!」

 

五月蝿いな。何でもいいだろ。

 

こいつはまた陣に戻れば私を殺せるだろう。

 

だから、ここでトドメを刺す。

 

氷結とは温度低下によって物が凍る事。なら、温度低下とは分子の動きが鈍くなりやがて、停止すると絶対零度になる。

 

なら、停止させる対象を分子ではなく、生命の機能ならどうかな。きっと私がそれを想起した瞬間に飛段は死ぬんだろう。……何なら、この世界の生きとし生けるもの全ての生命活動を停止させれば、この世界は死の世界へと変貌するだろう。

 

あとは念じるだけ。腕は全く動かないけど関係ない。今もポタタタと血が滴ってる。

 

「氷遁・絶死凍「そこまでよ。」…」

 

目の前に紙でできた髪飾りを着けた女性が立っていた。ちょうど私達の真ん中。同じ暁の上着を着ている。

 

私はそれを見て正気に戻る。

 

それと同じくして、私は一人戦慄していた。

 

ーー今、私は何をしようとしていた?ーー

 

ーー私は取り返しの付かないことをしていたのではないのか?ーー何でこんな安易な気持ちで世界を滅ぼそうとしたの?ーー私は平和な世界を望んでいた筈ではないの?ーーナルト君の夢を応援していたんじゃないの?ーーイタチの事を心配していたんじゃないの?ーー兄さんの想いを受け継いだんじゃないの?ーー

 

ーーそれともこれが私が気が付いていなかった私の心の闇?ーー

 

「……コン、貴女も引きなさい。」

 

「え……」

 

「……もう二人は居ないわよ。」

 

既に飛段と角都は居なくなっていた。飛段が何か吠えてた様な気もするし、それを角都が諌めてた様な気がする。

 

「………ごめんなさい。」

 

「………」

 

小南が私の全身を下からじっと見つめてくる。

 

これだけ流血していれば気になるか。

 

「貴女に任務を伝えに来たのだけど、それじゃ無理そうね。」

 

「………大丈夫。これは私が招いた事だもの。責任は持つわよ。」

 

「……貴女…平気なの?」

 

「…ちょっと我慢してるだけよ。」

 

すると小南が呆れた様な目で見てくる。

 

「………貴女は馬鹿なの?」

 

「…あはは……」

 

そうかもしれないね。

 

さっきまで抱いていた気持ち(世界への憎しみ)に蓋をする。

 

まだこうして私を心配してくれる人はいるんだ。

 

「あれ……?」

 

足元が覚束なくなり、身体が倒れる。

 

だけど、すぐに小南に支えられる。

 

「血を失いすぎたわね。」

 

「……大丈夫よ。」

 

「いいから、少し寝てなさい。」

 

「…こ……なん………」

 

小南に血がついてしまう……

 

だけど、意思に反して私の意識はなくなった。


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