☆一輪の白い花   作:モン太

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無色透明な紛争

「索敵はどうされていますか?」

 

トーキさんに夜の索敵を聞く。

 

「目視と夜間偵察だな。」

 

感知タイプはいないのかな?

 

夜の奇襲に対する防御力が段違いだと思うのだが……

 

「感知タイプの方はいらっしゃらないんですか?」

 

「残念だが、うちの里ではそこまでは望めん。」

 

「……そうですか。私は感知タイプですので、夜の警戒に参加させていただけませんか?」

 

「おお!感知もできるのか!!」

 

嘘なんだけどね。本当はただ気配に異常に敏感なだけだったりする。

 

「だが、一人では結局のところあまり効果が見込めないと思うが……」

 

「そこは水分身で補いますので、ご心配なく。」

 

「何から何まですまんな。」

 

「それは無事戦争を乗り越えれてから、また聞きます。」

 

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やはり案の定、数ヵ所で奇襲を受けかけた。水分身が気がついて、対処してくれた事で大事にはならなかったが。

 

そして、本体がいる本拠地でも奇襲の気配を察知した。

 

霜の国が小国とはいえ、国である以上、大名はいる。

 

そこに暗殺者が来る事も想定には入っていた。それでも人間の警戒網は潜られていた。

 

大名の寝室に賊が侵入。賊は眠っている大名を布団の上から刀で突き刺した。だが、手応えに違和感を感じ、布団を捲る。

 

めくってみれば、人間ではなく丸太があった。

 

「こんな夜更けにどうされましたか?」

 

賊が刀を後ろに振るってくる。

 

私は身体を後ろに逸らし、そのままバク転。勢いそのままに刀を持つ手を蹴り上げる。

 

弾かれた刀は天井に突き刺さる。

 

着地と同時に千本を賊の顔面へ投げる。

 

賊は顔に飛んでくる千本をクナイで弾く。その隙に瞬身で賊に突っ込み首を掴んで、そのまま壁に叩きつけた。

 

その音を聞きつけて、続々と霜忍が駆けつけてきた。

 

「何事だ!」

 

「まさか、暗殺者か!?」

 

トーキさんが私に尋ねてくる。

 

「……どうだ?」

 

既に賊は奥歯に仕込んだ毒で自決していた。

 

「……残念ながら。」

 

この騒動で大名周りの警護がより厳重にされる事となった。

 

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「昨晩は残念だったな。」

 

「ええ、あと少しで捕らえれたのですが、シキさんは大丈夫ですか?」

 

「オレの所は夜襲は無かった。だが、こうも劣勢ではいづれ限界が来てしまう。」

 

本当によく耐えていると思う。

 

それでもこのままではいづれ、雲隠れに軍配が上がる戦いなのは間違いない。

 

「では、また行ってきます。」

 

「ああ、すまないな。」

 

「いえ、雇われの身ではこれが限界ですから、気にしないでください。」

 

本当なら昔に再不斬さんの所でやっていた様に指揮も執りたいのだけど、流石にそれは越権行為だ。なら傭兵は傭兵らしく、前線で力を奮うだけの事。

 

今回も水分身で各拠点のカバーを行う。

 

「水遁・破奔流」

 

手順は前と同じだ。広範囲攻撃で撹乱を狙う。

 

それに釣られる形でやはり今回も手練れが集まってきた。

 

「雷遁・感激波!!」

 

電撃が水を伝って飛んでくる。

 

「風遁・風切りの術」

 

風遁で相殺しようとする。

 

「火遁・炎弾!!!」

 

風遁を巻き込んで、巨大な炎が飛んでくる。

 

これじゃあ、昨日と同じ。

 

瞬身の術で距離を離す。

 

「こいつが情報に上がってた例のくノ一か。」

 

「ジェイ、常に火遁の用意をしておけよ。ダルイ、お前は雷遁だ。」

 

「だるいけど、仕方ないな。」

 

成程、大物を当ててきた訳か。

 

ビンゴブックで確認した事がある。

 

血継限界の嵐遁

 

雷遁と水遁を組み合わせた黒い稲妻が特徴。

 

もう一人はシー。この人はチャクラ感知に幻術などのサポート能力に秀でている上忍。

 

このダルイとシーは雷影の側近に選ばれる程の忍だ。

 

もう一人も上忍だよね。

 

一人に対して、3人の上忍は過剰戦力だと思うんだけど……

 

しかも、私のチャクラ性質に合わせて雷遁と火遁で固めて、サポートまで付けてくる徹底ぶり。

 

恐らく昨晩の侵入といい、内通者がいると見て間違いないと思う。

 

これを乗り切れたら、内通者探しをしないといけないかもしれない。

 

まあ、その前に目の前の状況をどうにかしないと。

 

本当なら相性も悪いから逃げたいんだけど、雇われの身ではそれも許されないよね。常に結果を出さないといけない。

 

「チャクラ感知している分には大した事は無いんだがな。精々が下忍か良くて中忍レベルが限度なチャクラ量だ。」

 

「でもそれなら、尚更注意しなとっすね。その程度のチャクラ量でサムイ小隊を退けた訳ですから。」

 

「サムイからの情報だと大した術はなく、殆ど体術だけで圧倒されたそうだ。」

 

「4対1を覆せる体術って本当か?…それこそボスとかじゃなきゃ無理だろ。」

 

「いや、雷影様の体術はそれだけで尾獣クラスはあるからな。」

 

もういいかな?……わざわざ待つ必要もないか。

 

風遁は火遁で返されるし、水遁は雷遁で返されるよね。霧隠れの術は感知タイプのシーさんがいるなら意味ないし。

 

ならあとは氷遁のみか……

 

あまり使いたくないな……。血継限界なんて目立つ物を使いたくないし、こんな戦争の場で使ったら、後々相手からやっかみを受けるのは間違いない。

 

できるところまで頑張って、どうしてもダメな時に氷遁を使うとしよう。

 

瞬身の術

 

ジェイさんの背後に周り込む。

 

「なっ!」

 

ジェイさんの首に手刀を放つ。

 

だけど、流石は上忍。速度に驚きつつも、反射的にクナイを背後に振り抜いてきた。

 

首を少し落として回避。そのままジェイさんの腹を蹴り飛ばす。

 

追撃で追いかけようとすれば、起爆札付きのクナイが飛んでくる。

 

千本を投げて起爆札を射抜いて無効化し、瞬身でダルイさんの頭上から攻撃を仕掛ける。

 

何か印を結んでいた。それを阻止する。

 

「ダルイ!!上だ!」

 

「うおっ!!」

 

咄嗟に印をやめて、鉈の様な剣で千本を受け止められた。

 

的確な状況判断は流石だ。

 

即座に距離を離す。

 

「恐ろしく速いですね。」

 

「だが、雷影様ほどではない。」

 

「…….それでもオレ達じゃ、シーの援護が無きゃ反応が遅れちまうな。」

 

まずはこの中でも比較的倒しやすそうなジェイさんを落としたいところ。

 

面倒臭いけど、ジェイさん相手は水遁。ダルイさん相手は風遁と切り替えて戦うしかない。

 

「ダルイ、ジェイ、行くぞ!!雷遁・雷幻雷光柱!!!」

 

シーさんの身体から眩い光が放たれる。

 

目眩し!!

 

なら目を閉じて戦うしかないか。

 

私は気配を感知できるから、特に問題はない。

 

背後からジェイさんが斬りかかってくる。

 

「嵐遁・励挫鎖苛素!!」

 

前方からダルイさんの攻撃。

 

何か飛んでくるのを感知。

 

身体を回転させて、斬りかかってくるジェイさんの背後に周り、ダルイさんの攻撃の盾にする。

 

だけど、ダルイさんの攻撃はジェイさんを避ける様に曲がり、私を狙ってきた。

 

誘導タイプ!

 

すぐに瞬身で退避するが、更に追尾してくる。

 

もう一度、瞬身で今度はダルイさんの背後をとる。

 

流石にここまでは追尾できない様ね。

 

千本に風のチャクラを流して斬りかかる。

 

ダルイさんも刀に雷のチャクラを流してガードしてくる。

 

この人もチャクラ流しができるのか。

 

「クソ!こいつ何で動ける!?」

 

「雷幻雷光柱は、目眩しと幻術で相手を撹乱させる術だ。全く効果が無いなどあり得ないぞ!!」

 

え?そんな凶悪な術なの?

 

瞬身で距離を離す。

 

本当は得意な斬り合いで応じたいけど、足を止めてるとジェイさんに横から攻撃されるだろう。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

なら今度はこちらが目眩しだ。

 

「シー、敵はどこにいる?」

 

「…………」

 

「おい、シー?」

 

「シーさん!?」

 

悪いけど、シーさんを真っ先に気絶させた。サイレントキリングの本領だ。

 

「クソッタレ、嵐遁・黒斑差!!!」

 

黒い稲妻が走る。黒い稲妻を纏ったパンサーが此方に向かって走ってくる。

 

「どうですか、ダルイさん?」

 

「黒斑差が敵に向かってる。だけど、捕らえられていない。……さっきの雷幻雷光柱と霧隠れの術でも自由に動き回ってるから、恐らく感知タイプだ。…もっと早く気がついてたら、シーを助けれたんだが!!」

 

黒斑差から瞬身を駆使して逃げ回る。

 

速いわね。…それに見た目も凶悪そう。黒い雷ってどう見ても危険だよね。

 

「水分身の術」

 

黒斑差のターゲットを水分身に変えさせる。

 

水分身はジェイさんの背後に回らせる。

 

ジェイさんも背後の気配に気がついた様で、振り返ってくるが、水分身はそのまま飛び込み抱きつく。

 

「なっ!?」

 

そして、黒斑差は水分身に直撃。水分身はすぐに水に還る。だが、電撃はジェイさんの身体を焼いた。

 

「グアアアアアァ!!!!」

 

「ジェイ!?」

 

本体の私はダルイさんが動揺する瞬間を狙って、瞬身で懐に潜り込んで顎を蹴り上げた。

 

「ぐっ!」

 

上空へ打ち上げられるダルイさん。そしてそのまま、私も背後へ跳ぶ。

 

影舞葉

 

左足をダルイさんに絡ませ、自身を回転させて、右拳を叩きつける。

 

「ぐおっ!!」

 

更に左拳を叩きつける。

 

「ぐっ!!」

 

そして右足で踵落としを決める。

 

「ゴホッ!!!」

 

ダルイさんの口から血が噴き出す。そのままダルイさんを地面に叩きつけた。

 

霧隠れの術を解く。目を開いて、周りを見渡す。3人とも気絶して倒れている。

 

これで全員戦闘不能かな。中々、キツイ戦いだったわね。立ち回りで倒せたからよかった。でも、本当に疲れたわ。

 

その後は特に大きな山場も無く、防衛に成功した。

 

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夜、今日も水分身に夜の警戒を任せる。

 

本体の私は気配を消して、前線基地に潜んでいた。

 

私は7年前に霧隠れにスパイで潜り込んだ事がある。だからこそわかる同類の臭い。霜側陣地に内通者がいる事を。そして、その目星も付いている。

 

やっぱり……

 

野営地から飛び立つ、一匹の梟。その足にくくりつけられた何かが見える。

 

千本で撃ち落としてみる。梟の足には何やら手紙が入ってる。

 

中身は、各拠点の配置。構成されている忍。その得意忍術と苦手戦法。本拠地の間取り。そして、私の情報。水遁と風遁の使い手である事等が書かれていた。

 

すると今度は雲隠れの里の方角から梟がやってくる。気配を消してそれを追いかける。

 

追いかけた先に誰かがいた。梟はその人の肩に止まる。何かを受け取ると、梟は飛び立とうとする。それを千本で打ち抜いた。

 

バッと振り返る人影。私は殺気を放ちながら、人影に問いかける。

 

「そこで何をされているんですか、シキさん?」

 

驚いた顔のシキさんもとい内通者は身体をガクガクと振るわせる。

 

「どうされましたか、そんなに震えて。上忍ともあろう方が、私程度の殺気で下忍の様に震えては情けない事ですよ。」

 

「くっ!」

 

瞬身の術

 

一瞬で内通者の目の前に移動して、千本で首の秘孔を突いて、気絶させた。

 

昨日と同じ失敗はしない。口の中に仕込んでいた毒を吐かせて、内通者をトーキさんの所へ運ぶ。

 

内通者を運べば、トーキさんは目を丸くして驚いていた。まさか、裏切り者がいたとは信じたくなかったんだろう。

 

証拠の手紙と梟を見せれば、内通者への尋問がなされた。

 

そして更に三日後には雲隠れからは白紙和平の提案がなされた。

 

投入した戦力とコストに対して、リターンが見合わなくなってしまった事が要因だそうだ。それだけ霜隠れの防衛力は強固なものだったんだろう。

 

送り込んだスパイも悉く、任務を失敗し、正面からの突破も強固な防衛に守られた結果、雲隠れが矛を収めたのだ。

 

ただ、この背景には他の五大国との関係も大きく関与している。五大国の一角が小国に遅れをとる事自体、外聞が悪い。

 

つまり白紙講和と言っているが、実際は霜の国には、此度の戦は無かったことにしろという要求があった。

 

霜の国も限界に近かった事で、これを承諾。結果、この戦争は歴史の闇に葬られる事になった。

 

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報酬をトーキさんから貰い、霜の国を去る。

 

「出てきて。」

 

声を出せば、相方のゼツが現れた。

 

「お疲れさん。」

 

「ありがとう…はい、これ。」

 

お金をゼツに渡す。

 

「角都 に渡しておいてね。……後、これはリーダーに。」

 

巻物を渡す。

 

「その中に今回の霜の国と雲の国の情報を纏めた内容が入ってるから。霜と雲の戦力と使用してくる忍術、戦法。霜の国の内情とか、雷の国の他国関係。…今回の講和で霜の国で内乱になるかもしれない。無かった事にされた遺族達が黙ってるはずがないと思うから。後、雲隠れに二尾と八尾がいるみたいだね。特に八尾は私よりも強いらしいよ。」

 

「ナラ、ヒトリデハナク、ツーマンセルノメンバーニ、ヤッテモラエバイイダケダ。」

 

「ところで、コンは角都達には会わないの?」

 

「私あの二人が嫌いだからね……特に飛段とは。会えば、また殺し合いになると思うからやめておく。」

 

「ソウカ。デハ、オレタチハ、ホウシュウヲモッテイク。」

 

そうしてゼツは地中に潜って行った。


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