☆一輪の白い花   作:モン太

26 / 72
初仕事

雨隠れの神の塔。そこに三人の忍が集まっていた。

 

一人は顔中にピアスをつけた男性。特異な目は不気味な気配を漂わせる。

 

一人は女性。紙でできた髪飾りをつけている。

 

一人は右目だけが空いた仮面を被った男。その穴からは赤い目が光っていた。

 

「ゼツからの連絡で大蛇丸の研究所跡からこれが見つかったわ。」

 

女性が指輪を取り出す。指輪には「空」の印が刻印されていた。

 

「間違いない、大蛇丸の物だ。」

 

「あの大蛇丸がこれを無くすとは考えにくいな。何かあったと見るべきだろう。」

 

「それについてだが、2年前に大蛇丸の元から実験体が逃げ出したそうだ。その時の戦闘でアジトは崩壊したと噂で聞いていた。……恐らくゼツが拾ったそれは、その時のものだろう。」

 

「マダラ、他にも何か知っているな?」

 

「ああ、その実験体の事も知っている。丁度いい。そいつを暁の大蛇丸の後任に入れようと思う。」

 

「大蛇丸のスパイではないのかしら?」

 

「ゼツが見張っている限り、その様子はない。むしろ、大蛇丸とダンゾウから逃げ回っている様だ。」

 

「ダンゾウ……。木ノ葉の「根」の長だったな。」

 

「その二人に追われて逃げ延びれるのは、中々の実力ね。」

 

「ああ、腕は申し分ない。……それに思想も我々に近しいものがある。」

 

「どう言う事だ?」

 

「そいつは戦災孤児などを助けては、砂隠れの孤児院などの施設に送り届けているらしい。」

 

「自分が追われている身の筈なのに、随分と悠長な事をするのね。」

 

「それだけ、弱者をほっとけない性格なのだろう。……勧誘は小南、お前が適任だ。主に平和を目指す者として勧誘すれば乗ってくるだろう。」

 

「………わかったわ。」

 

「そいつの名前と素性は?」

 

「名前は雪藍。血継限界の氷遁を使うくノ一だ。非常に汎用性が高い術を使うのが特徴だ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一眼見て、強いと感じた。

 

遠くから尾行しているが、全く隙がない。マダラからの情報では大蛇丸とダンゾウに追われていると聞いたが、2年間も捕まらないのも納得だ。そして、恐らく私の事も気がついている。

 

一緒に手を繋いでいる子供。恐らくマダラが言っていた孤児なんだろう。

 

遠い記憶がフラッシュバックする。遠い昔、弥彦に手を引っ張られた記憶。長門に助けられた記憶。自来也先生に育てて貰った記憶。そして、弥彦が死んだ記憶。

 

私は頭を振る。

 

今更感傷に浸っても仕方がない。

 

対象に目を向ける。手を繋いでいた子供はおらず、歩く方角も砂隠れから離れて行っている。多分、送り届けたんだろう。

 

事前情報は正しい様だ。

 

私は彼女に声をかけた。

 

やはり落ち着いた性格なようで、今までの勧誘と違い、平和に終わった。

 

だが、話していると不思議な感覚になる。私と彼女は何処か似ている。具体的な理由は無いけど、本能がそう叫んでいた。

 

彼女なら、もっと本音で話せるんじゃないかとも思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「リーダーから指令だよ〜。」

 

「イワガクレニイキ、ジンチュウリキヲイケドリニスル。」

 

私の相方のゼツが地面から生えてくる。土遁の類なんだろうけど、ビジュアルと合わさって気色悪い事この上ない。

 

「人柱力?」

 

「尾獣だよ、尾獣。」

 

「セイカクニハ、ビジュウヲフウインサレタシノビダ。」

 

成程、暁は尾獣を集めている。伝説の尾獣。

 

でもそんな存在を人の身体に封印してその人は平気なのかしら?

 

「ジンチュウリキハ、ビジュウトコオウシテ、ゼツダイナチカラヲハッキスル。」

 

そりゃそうだろう。実物は知らないけど、言い伝えによれば、チャクラの化け物。天災、天変地異。様々な逸話がある最強の妖獣だ。人の手に負えるものじゃない。

 

「だけど、メリットばかりじゃないんだよね〜。」

 

「ジンチュウリキニナッタモノハ、セイシンヲムシバマレル。ヤガテセイシンヲビジュウニノットラレルリスクガアル。」

 

やっぱり……。だから人柱なのね。

 

「ジンチュウリキハ、ソノキケンセイカラ、サトノモノニシイタゲラレテイルモノガオオイ。」

 

それを聞いて胸が痛くなる。勝手に封印させておきながら、遠ざけるなんて。そんな兵器みたいな扱い。

 

「実際、人柱力は過去に戦争道具として使われている実績もあるしね。」

 

「……そう。」

 

そんな人達を襲わないといけないのか。

 

確かに暁の仕事は人から恨まれる仕事が多そうだ。

 

でも今更嫌だとは言わない。どうせこの手は血に染まっているし、事実S級犯罪者の烙印を押されてる。

 

「ジンチュウリキノナマエハ、『ハン』トイウヤツダ。ビンゴブックデカクニンシテオケ。」

 

「……わかったわ。」

 

「道案内はボク達に任してね。それに特化した能力だからさ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここが人柱力のいる場所……。」

 

何もない岩壁地帯。それに人の気配もまるでない。一応国境線上は岩隠れのようだけど、里の中心からは大きく外れていた。

 

「じゃあ、後は頑張ってね〜。」

 

ゼツは地中に潜っていった。

 

気配を探る。本当に一人以外の気配を感じれない。

 

私はその一人だけ感じれる気配を辿る。

 

そこには全身に赤い鎧を纏った大きな男性。

 

身長は2.5メートルはあろうかと言う見た目。私よりも1メートルぐらいは高い。下手したら2倍ぐらいはありそう。

 

そんな大男に見下ろされる。

 

「何者だ。この里の者では無いだで。」

 

「暁と言う組織に属する者です。五尾の人柱力 ハンさん。申し訳ありませんが、平和のため、お命頂戴します。」

 

少し頭を下げる。

 

ハンさんの雰囲気が変わる。敵とみなしたんだろう。顔を上げると私の目の前に拳が迫っていた。

 

瞬身で逃げる。

 

空ぶった拳は地面に突き刺さり、大きな地割れを起こした。

 

凄い怪力。私の力じゃ、一撃であの世行きになりそう。

 

今度は背中から白い煙を出す。

 

あれは…蒸気?

 

「沸遁・怪力無双!」

 

熱っ!

 

「蒸気爆進!!」

 

凄い勢いで突進してくる。

 

蒸気の推進力で速力を上げてるのか……

 

瞬身で逃げまりながら、千本を投げるがまるで効いていない。

 

「噴推拳!!」

 

拳が振り下ろされる。それに巻き付くように体を捻る。

 

「噴剛脚!!」

 

今度は蹴りか……

 

空中で回転して蹴りを回避。隙だらけの背中に蹴りを入れようとする。

 

しかし、突如背中から白い尻尾が生えてきた。尻尾は鞭のようにしなり、遅い掛かってくる。

 

「風遁・烈風掌」

 

烈風掌を叩きつけて威力を殺して離脱。

 

今のは危なかった。いい不意打ちと言える。

 

「お前、只者じゃないだで。」

 

「…ふう。」

 

息を整える。

 

すると今度は全身から赤いチャクラが纏われる。

 

まるで尾獣のチャクラを纏ってるみたい……いや、実際に纏ってるいるんだ。

 

チャクラの尻尾の数は4本。纏われたチャクラはまるで沸騰しているようにポコポコと音をたてていた。

 

凄い力強さだ。これが尾獣の力。……確かにこれは里が兵器にしたがるのもわかる。だけど、兵器となってしまった者は悲惨だろう。こんな力を身体に留めて、心身健康でいられるはずがない。……いや、彼を手にかけようとしている私も同罪だ。今更、聖人ぶるのはよそう。怖気が走る。

 

地面を蹴って接近してくる。さっきよりも速度が上がっている。

 

まともに殴り合いに応じる気はない。拳を受け流して、ガラ空きの胴に術を叩き込む。

 

「風遁・風切りの術」

 

風の鎌鼬がハンの胴体に当たるが無傷。

 

やはりあのチャクラ自身が鎧の役目を果たしている。距離を取れば、チャクラの腕が伸びてきた。

 

とても便利ね。

 

身体を後ろに逸らして回避。チャクラの腕は私の後方の地面を掴むとそのまま飛びかかってきた。体を回転させて躱す。

 

「秘術・千殺水翔」

 

ダメージは期待していない。私が着地する為の時間稼ぎとしての牽制が目的だ。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

霧で視界を封じて跳ぶ。

 

頭上から踵落としを放つ。

 

ハンは全身から蒸気を出して、霧を払う。だけど、既に私は目の前。そのまま脳天に踵落としを決めた。

 

「風遁・獣破烈風掌」

 

踵落としでダメージは入らない。だけど、姿勢は崩せた。そこに獣破烈風掌を叩き込む。

 

ハンは吹き飛び、岩壁に叩きつけられた。

 

「ぐっ、ぐああああああ!!!!!!」

 

いきなり頭を押さえて雄叫びをあげる。

 

何?……なんだかさっきよりも空気が重くなったような…

 

次の瞬間、全身が赤黒く変色したも最早小型の尾獣と化したハンが現れた。

 

あれはやばそうね……

 

「水遁・破奔流」

 

鉄砲水を叩きつける。

 

まずは様子見。

 

そのつもりで放った破奔流は、腕を一振りするだけで弾け飛んだ。

 

そして、また腕を飛ばしてくる。

 

「人の事言えないけど、芸がないですね。」

 

最早手加減は無理ね。

 

私は全力の瞬身で回避していく。伸びた腕をはまるでそれ単体が蛇のようにしつこく襲いかかってくる。

 

猛攻を凌いでハンの背後を取る。

 

「忍法・颶風水禍の術」

 

水の竜巻でハンを吹き飛ばす。

 

流石にダメージが入ったようで、足元が覚束無い様だ。

 

これだけやって漸くダメージが入った。

 

スピード、防御力、攻撃力。全てが並の上忍では太刀打ちできない力。実に恐ろしい力だ。世界にはこんな猛者もいるんだなと感心する。

 

「グオオオオオオオォ!!!!!」

 

突如、ハンの身体が爆発した。

 

辺りが煙に包まれる。

 

もう勘弁してほしい。これ以上何があるって言うんだ……。

 

私が易壁している間に煙が晴れる。

 

そこには巨大な馬の怪物。

 

成程、これほどの巨体とチャクラが暴れ回れば、それは天災だの天変地異だの言われる筈だ。

 

「これが五尾の正体……」

 

「グオオオオオオオォ!!!!」

 

尻尾が振り下ろされる。

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

ガアァンと凄まじい音が響く。

 

殺さず、生捕か……随分と難しい要求で困るわね。そして、突進攻撃。

 

角を此方に向けて走ってくる。この氷の盾を壊す気なんだろう。

 

直ぐに離脱する。

 

直撃した氷岩堂無はバラバラに崩れ去る。

 

五尾が空気を吸い始める。

 

何か来る!

 

そして吐き出した瞬間、凄まじい蒸気が此方に飛んできた。

 

不味い、蒸し焼きにするつもりか。

 

私も同じように仮面をずらして、空気を吸い吐き出す。

 

「氷遁・氷精の吐息」

 

イメージは火遁・炎弾を氷のブレスで再現したもの。

 

蒸気と冷気がぶつかり合う。暫く、拮抗していたが、やがて冷気が勝り五尾を氷漬けにする。

 

わかってるこれじゃ終わらないでしょ!

 

予想通り、氷を砕いて出てくる五尾。

 

まあ、薄皮一枚凍らしただけだしね。

 

「グオオオオオオオォ!!!!」

 

五尾は口を大きく開ける。すると黒いチャクラと白いチャクラが集まり、球体を作り出す。

 

凄い密度のチャクラ……

 

氷岩堂無じゃ防げないわね。あんな物をぶちまけたら、この里そのものが消し飛んでしまうんじゃないかしら。

 

そしてそのチャクラが解き放たれた。

 

凄まじい速度で迫ってくる。

 

その球体に両手で受け止める。その瞬間

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

チャクラの球体が跡形もなく、消滅した。

 

「氷槍」

 

流石の五尾もこれには呆気にとられるのか、動きが止まっていた。そこを見逃さない。

 

瞬身で接近して槍を刺す。

 

「罪の枝」

 

五尾の身体から無数の棘が生えて、消沈した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

五尾が倒れれば、元の人間の姿に戻ったハン。全身を血塗れにした瀕死の重症だ。

 

「……死んじゃった?」

 

「大丈夫、まだ息がある。」

 

ゼツが出てくる。

 

「コレダケヤッテシンデイナイトハ、サスガハジンチュウリキダナ。」

 

「流石に疲れたわ。戻るわよ。」

 

両手の掌から少しばかりの出血がある。

 

術の発動のタイミングが少し遅れてしまっていた様だ。

 

「待つんじゃ、侵入者共。うちの里の人柱力に手を出してただ済むと思ってるのか!!」

 

振り返ってみれば、小柄で宙に浮いている爺さんとくノ一の女性に大柄な男性の忍の三人がいた。

 

ビンゴブックでも知っている。というか、有名人だ。まあ、これだけ大騒ぎしていれば、現れるのは当然か。

 

「土影ね。……ゼツ、五尾の回収をお願い。私は土影の足止めをするわ。」

 

「りょーかい。」

 

ゼツがハンを抱えて土に潜る。

 

「逃すか!熔遁・石灰凝の術!!」

 

「氷遁・氷岩堂無」

 

ゼツに飛んでくる攻撃を氷の壁で防ぐ。

 

そのままゼツは地中に潜り込んだ。

 

「クソったれ!」

 

「落ち着くんだに。まずはあのお面のくノ一を倒さないとまた邪魔されるよ。」

 

土影達は今回の任務に於いて無関係。故に殺す必要もなければ、怪我をさせる必要もないよね。

 

「お前ら二人はワシのサポートじゃ。五尾を退けるだけの力があるんじゃ、お前らは足手纏いじゃぜ。」

 

「ふん、老ぼれが。腰にダメージが入ればすぐに交代してやるかな!」

 

「減らず口も大概にせいっ!塵遁・原界剥離の術!!!」

 

円錐型の光が私に向かって伸びてくる。

 

あれが全てを粉々にする血継淘汰の塵遁。つまりあの光に飲み込まれたら、最後粉々に砕け散る訳か。

 

瞬身の術で回避。

 

私の立っていた場所は、円錐型に消滅していた。

 

これは粉々というよりは私の崩壊凍結と同じような物ね。

 

「隙ありだに!」

 

横合いから岩のゴーレムが襲いかかる。

 

それを避ける。着地して周りを確認しようとするが。

 

「……!?」

 

「へっ!捕まえたぜ。」

 

足元のさっきの石灰凝が流れていた。

 

「塵遁・原界剥離の術!」

 

今度は円筒形の光が迫ってくる。

 

逃げれないか。……仕方ない。

 

右手に崩壊凍結を準備して光に手を叩きつける。

 

「氷遁・崩壊凍結」

 

パアァッン!!!

 

けたたましい音を立てて、術が弾かれる。その余波で周りの地面が消し飛んだ。

 

「こいつ、ジジイの塵遁を相殺しやがった!!!」

 

「何者じゃぜ……」

 

土影達に動揺が走る。

 

「兎に角、まだ足を縫い付けているうちにやってしまうぞ!!」

 

「そうだに!!」

 

ゴーレムが襲いかかってくるが実に遅い。

 

「氷遁・氷剣山」

 

地面のセメントを砕く。ゴーレムが来る前にそこから離脱。

 

着地するが、またもセメント。

 

「芸がありませんね。」

 

「それに引っかかるお前は更に間抜けって事だな!!熔遁・石灰凝の術!!!」

 

今度は全身を固められる。

 

「ジジイ、これで妙な術の印も結べないぜ!」

 

「よくやった、黒ツチ!!塵遁・原界剥離の術!!!」

 

確かに即座にこの呪縛を解くのは疲れるだろう。

 

殺戮の光はすぐそこだ。

 

「……仕方ありませんね。」

 

光が直撃する瞬間に術を発動。

 

「空間凍結」

 

光に飲み込まれた全てが消滅する、私を残して。

 

「………な、なんじゃと!?」

 

動揺している隙に全身のセメントを凍らして剥がす。

 

「接触凍結」

 

私に触れた者は皆、等しく凍りつく。

 

さて、ゼツはどこかな?

 

気配を探る。

 

見つけた。

 

既に遠くまで移動していた。

 

これなら時間稼ぎも十分だろう。

 

「氷遁・氷剣山」

 

地面から無数の氷の杭が三人に迫る。

 

ゴーレムが盾となって氷の針に貫かれる。だが、ゴーレムは持ち堪えて壁の役割を果たす。

 

加減しておいてよかった。塵遁で消しに来ると思ったのだけど。

 

敵が氷剣山に意識が逸れてる間に瞬身で離脱した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告