最近どうにも現状がキナ臭いと感じている。
あの木ノ葉崩しの後に、里の様子を確認したいが為に口寄せでユキウサギに里の様子を確認させていた。
そこで噂程度はあるがこんな話を確認している。
『木ノ葉の【根】では、心を殺した忍を育成する為に、2人1組で生活させて殺し合わせる。』
あくまで噂だ。証拠がある訳でもない。だけど、そんな不穏な噂を耳にすれば否応にも不安になる。
クロにはこの話はできない。不安にさせちゃうし、噂話で本当かもわからない。
でも、現状私とクロはとても仲がいい。ここでもしクロと殺し合えと言われれば、それは正しく効果的なのではないのか?
噂だと切り捨てるには、あまりにも状況が合致している。もし本当なのだとしたら……。
私は密かに覚悟を決めていた。
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それから数ヶ月後。危惧していた事態が現実となる。
その日、訓練場の森で初めてダンゾウ様が現れた。普段は「根」の先輩方が観に来る事はあった。
そして、ダンゾウ様から告げられた内容は2人で殺し合えという内容だった。生き残った方が「根」となる。この森から出られるには何方か1人だけとも。それだけを話してダンゾウ様は消えた。
「…………」
「…………」
お互いに沈黙してしまう。
当然だ。今まで同じ釜の飯を食べた仲間だ。今からその相手を殺さないといけないなんて。
クロは目に見えて狼狽えていた。
でも、私はある程度覚悟をしていたから切り出せた。
「……ねえ、クロ。」
「………な、なんですか、シロ姉さん。」
クロが怯えた目で此方を見てくる。多分殺されると思ってるんだろう。
「……貴女は森を抜けなさい。私はここに残るわ。」
そういうと、クロは目を見開いた。
「……ま、まさか、姉さん。……死ぬ気なの?」
「…………」
「どうして!?……姉さんの方が強いのよ!」
「……私と貴女じゃ、志が全然違うわ。私はただここに流れついただけ。貴女は孤児院を助ける為にここにきた。」
「……でも、こんなの……」
「それに私には、あの世で兄さんと師匠が待ってるからね。……こんな死に方で残念だけど、少し早めに2人に会うのも悪くないかなって思ってる。」
「……それでも」
クロはそれでも苦しそうに顔を顰めている。本当に優しい子だ。でも、ここは突き放してあげないといけない。
「甘ったれるな!!!!」
「!!?」
「貴女が死ねば、孤児院はどうなるの?目的を忘れないで!いちいち目の前の出来事に振り回されて、孤児院の子供達にそのツケを払わせるな!!!」
怒鳴って見せれば、クロは泣き出してしまう。
「……貴女も孤児院のお姉さんなんでしょ?だったら、護ってあげなよ。」
クロの頭を撫でる。落ち着いたのか静かに頷いた。
「……ありがとう、姉さん。お世話になりました。」
クロは覚悟を決めた目で此方を見てくる。
「うん。貴女も誰かを護れるようになってね。」
そうしてクロは出ていった。
私は訓練場の中央、草原の広場で寝転がる。空はとても綺麗な青空だ。
思わず胸を掴んでしまう。
私はこの木ノ葉の里に兄さんと再不斬さんを奪われた。そして、木ノ葉の里に殺される。
胸に込み上げてくる
「兄さん、再不斬さん。私も誰かを護れるようになったよ。クロっていう友達なんだ。2人にも紹介したかったな。……もうすぐ2人の処に行きます。」
口に出せば、かなり気持ちも楽なる。胸を押さえつけていた手を離し、大の字で寝転がっていた。
かなりの時間が経過していた。気がつけば、青い空が赤くなっていた。
私は起き上がり、歩く。
確か訓練場の東は崖になっていたはず。
やがて崖端に着く。下は川が流れていた。高さは50mはあるだろうか。何もせずに落ちれば、即死できる。
足を踏み出そうとした時に後ろから声をかけられた。
「何処に行こうとしている?」
驚いて振り返る。ダンゾウ様と複数人の「根」の者が取り囲んでいた。
私が気配に気が付かないなんて……。
どうやら自分が思っている以上に精神的に参っているようだ。
ダンゾウ様が無造作に何かを投げた。それは転がって私の目の前で止まる。
それはクロの生首だった。
「ーーえ?」
「全く、手間をかけさせる。」
「……な、なんで?」
「何故?……これはお前が我が『根』に属する為の儀式だ。普段であれば、何方かが生き残った者が『根』となるが、お前は血継限界だ。それを安易と失わせる訳にもいかん。だからお前の相方は実力がかけ離れた者を選んだのだ。だから、クロは初めからお前に殺される為にここにやってきた訳だ。」
「…そ、そんな。孤児院への援助は……。」
「無論援助はしている。次世代の木ノ葉の礎になってもらわねばならん。クロも孤児院が救われて喜んでおろう。木ノ葉の血継限界を生かす為に犠牲となったのだ。木ノ葉に貢献できる事を喜んでいるであろうな、あの世で。……さて。」
ダンゾウ様の視線がクロの生首から私へ移る。
「どうやらお前は『根』の考えに賛同できんようだ。だが、別に『根』になることだけが、木ノ葉への貢献という訳ではない。お前は血継限界だ。優秀な苗床として貢献してもらう。……お前達、手足を捥いで捕らえよ。」
瞬身の術で逃げた。
「ふむ、その身のこなし。うちはシスイを思い出させる。」
逃げながらも何人もの「根」の忍が斬りかかってくる。
必死にいなして走りながらも、私の思考はぐちゃぐちゃだった。
ーなんで?ーーどうして?ーー私だけいつもこんな目に遭う?ーー憎いーー木ノ葉がーー世界がーーいやだーーだめだーー木ノ葉に敵対したらーーまた滅ぼされるーー復讐?ーー兄さんは望んでないーーなら死ぬ?ーー嫌だーーじゃあーーどうしたらーーカカシさんーー助けをーーそれまで持ちこたえれる?ーー無理だーーそもそもーー木ノ葉の忍ーー信用ーーできないーーでもーーナルト君は?ーー兄さんの夢ーーわからないーーわからないーーわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。
「うわあああああああ!!!!!!!!」
絶叫と共に力が溢れ出す。
目の前に大きな氷の山ができていた。「根」の者は全員氷漬けにされていた。
「はあ!はあ!はあ!」
私はすぐに瞬身の術で走り出した。
森と山を抜けて、木ノ葉の結界を抜ける。
ここまで来れば、安心かな。
と安心した瞬間、後頭部に打撃を受けた。
「ガッ!」
脳震盪で意識を失う前に見えたのは、メガネをかけた忍。音符のマークがついた額当てだった。