目が覚める。
あれ?私は……確か………。
起き上がって、周りを見渡す。
知らない場所だ。どこだろう?
そこで此方を見る忍を確認した。額当てを眼帯のようにつけている写輪眼のカカシ。
その瞬間飛びあがろうとして身体を縛られている事に気がつく。
そういえば、面が外されている。
「随分可愛らしいお顔じゃないの。……悪いね。拘束させて貰ってるよ。」
どういう事?拘束?つまり、私は捕虜って事?兄さんは?再不斬さんは?2人とも無事なの?
「色々と聞きたい事はあるだろうけど、まずはこれだけは言わせてもらうよ。ーー再不斬とお兄さんは亡くなったよ。」
「………………え?」
「な、何を言ってるんですか?」
嘘だ。そんなはずはない。あの再不斬さんだ。あの兄さんだ。誰にも負けない!
ーーなら何でカカシさんがここにいるの?
うるさい!再不斬さんと兄さんが負けるはずがないんだ!!
ーー参謀役の貴女が無能だから死んだんじゃないの?貴女だけ生き残って、馬鹿みたいね?
うるさい!!うるさい!!うるさい!!!
「はい、落ち着いて。」
カカシさんに肩を掴まれて我に還る。
「女性の身体を弄るのは良くない事なんだけど、一応武器の類は取り上げてさせてもらったよ。」
「………別に構いません。私は捕虜なんですから。………それよりも早く尋問でも拷問でもすれば良いんじゃないんですか?……それとも民家では拷問はできませんか?」
「あら?良く見ているね。………拷問はしないよ。尋問はするけど。………まあ、喋りたくなかったら、話さなくても良いよ。」
「何が目的ですか?」
「まあ、目的は再不斬の伝言を君にも伝える事かな。」
「…………それはなんですか?」
「その前に君が知らないであろう。俺と再不斬の戦いと結末の一部始終を話すよ。その中で君への伝言も話す。」
「………わかりました。」
そうして聞かされたのは、桃地再不斬と雪白の最期。
「再不斬は君の事を大事にしていたよ。“すまなかった”とも“ありがとう”とも言ってたよ。」
「………そうですか。……すみません、少し1人にさせてください。…………逃げません。……拘束もそのままでいいです。だから、……1人させてください。…………お願いします。」
カカシさんは結局、拘束を解いてくれた。そして部屋を出てくれた。
「………うぅぅぐぅぅ。」
涙が溢れてくる。
「……ざ、再不斬さん………お、お兄ちゃん……うっ、ぐぅっ……ご、ごめんなさい。……わ…私が……弱かったから………。」
お兄ちゃんも再不斬さんも居ないなんて、私はどうしたらいいの?
「……お、お兄ちゃん………再不斬さん……私……どうしたら………いいか…………わからないよ。」
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目が覚める。どうやら泣き疲れて眠っていたらしい。窓から差し込む光が弱くなっている。
随分と時間が経ってしまったみたいだ。
「丸2日だよ。」
「……おはようございます、カカシさん。」
そんなに時間が経ってたのか。
「おはよう。ご飯を持ってきた。流石に2日も食べて無いとキツいでしょ。……悪いけど、君を食卓には案内できない。」
「ええ、敵だった私がこの家を彷徨いては、皆にストレスもかかるでしょう。……ご飯をいただけるだけ、ありがたい事です。」
そうして渡されたのは、茶碗一杯の白米にスープ。捕虜に与える食事にしては寛大だ。
「こんなに貰っていいのですか?」
「まあ、君は捕虜と言っても、明確な敵対関係では無くなったからね。ガトーが死んでしまった訳だし。」
「そうですか。……いただきます。」
美味しい。二日間何も入っていなかった胃袋に染み渡る。
「躊躇なくいくね。毒とか警戒されるかと思ったよ。」
私に毒や薬物は効力がない。だから、平気なのだけどわざわざ言う必要はないかな。
「これだけやってくれているんです。もう今更あれこれ言いませんよ。」
「……君は何歳なんだい?見たところ、ナルト達とそこまで変わらないでしょ。」
「……15歳です。兄さんとは双子です。」
「15ね。……再不斬のクーデターが10年前だから、5歳の時から霧隠れで忍をやってたのか?」
どうやら尋問が始まってるようだ。
成程、あからさまな尋問より、傷心中の私に優しさで接する事で口を開きたくさせる事が狙いかな。
「……さあ、どうでしょう。まあ、こういう尋問の手法は初めてだったので勉強になります。」
「………君は再不斬の言う通り、頭が切れるみたいだね。…………だったら、尚更此処で話した方がいいよ。木ノ葉には尋問や拷問を専門にした部隊もある。」
それはむしろ、どこの里にもあると思うけど。
「それに残酷な言い方をするなら、今の君に隠しだてするメリットは皆無に等しい。…………何せ、もう再不斬も白もいないのだから。」
「…………そう…………ですね。」
「悪いね。傷付ける言い方になっちゃって。」
「………わかりました。」
そうして私は今に至るまでの15年ノ短い人生を語った。
「……そして、貴方達がやってきた。」
「………そうか。君は5歳の時に村で迫害を受けて再不斬に拾われる。再不斬に忍の戦闘技術を教えられて戦ってきた。つまり、霧隠れの面はしてるけど、実際は霧隠れの忍者登録はされていないのか。だけど、霧隠れの暗部に潜入した事はあると……。随分と複雑な事情だね。」
カカシさん頭を抱えていた。
「とりあえず、君の処遇はオレが考える。正直、霧隠れに返す事も可能だけど、血継限界を忌み嫌っている霧隠れに君の居場所は無いと思う。……だから、木ノ葉へ連れていこうと思うけど、君の境遇が難しいだけに尋問や拷問とか、迫害を受けるかもしれない。だから、オレとの話した事を木ノ葉でどこまで話すかはちゃんと決めよう。」
まあ、そうなるでしょうね。
私自身、一体元何処所属なのか断言できない。正式に霧隠れの忍になった事はない。だから抜忍なのかも良くわからないし。そもそも忍者ですらないかもしれない。だけど、忍術は使える。
こんな厄介者を抱え込む事になったカカシさんは頭が痛いだろう。
「……いやー、でもよかった。最悪は写輪眼で聞き出そうかとも思ってたんだから。」
勿論それも警戒している。それは、情報を吐き出させる事ではなく、私に幻術が通用しない事を知られるかもしれない事だ。
写輪眼の幻術は、数多の幻術の中でも最強クラス。普通の忍ではまず抗えない。だからこそ、その性質を知られれば更に厄介な事になる。
カカシさんが強硬手段で来た場合も考えて、自分から話す事にした。
「……なら尋問なんてしなくてもいいじゃないですか?」
「………何事も信頼関係を構築するには、対話から始めないとね。」
「…………そうですね。」
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「此処ですか。」
「ああ、ここに2人は眠っている。」
兄さんと再不斬さんのお墓に連れてきてもらった。
私は2人に手を合わせる。
「………2人とも、私を護ってくれてありがとう。まだまだ辛いけど、2人の夢を引き継いでみるよ。ナルト君、サスケ君、サクラさん。きっとあの3人は兄さんの見立て通り、この世界を変えてくれるかもしれない。今なら私もそう思えるからさ。2人は安心して眠ってほしい。………さようなら。」
最後に涙を拭う。これ以上は涙を流さない。いつまでも泣いていちゃ、2人が安心できない。
私は立ち上がって墓を後にする。
「……もういいのかい?」
「ええ、別れは済ませました。」
「……そう。よし、出てきてくれ!」
カカシさんが森の方に声をかけると、ナルト君達3人が出てきた。
「……ナルト君。」
「お前はこれからどうするんだ?」
これから……
木ノ葉へ行って、身元の確認をして……いや、そう言う話ではないか。
「……私なりに再不斬さんや兄さんの意思を継ごうと思います。」
「まさか、また悪さするのか?」
「安心してください。ただ、誰かを守れるような人間になるってだけです。」
そう言うとナルト君はほっとした顔をする。
「そっか!」
「君は夢を叶えてください。兄さんは期待していましたよ。…勿論、私も応援しています。」
「……おう!」
「サスケ君、無事で良かったです。兄さんもサスケ君を殺さずに済んで安心していると思いますよ。」
「………アンタは……いや……」
サスケ君は何やら難しい顔をしている。
「私に答えられるかわかりませんが、遠慮なく聞いてください。」
「……じゃあ、アンタにとって兄とはどんな存在だ?」
それなら即答できる。
「私の半身です。」
「………そうか。」
どうやら私の答えでは納得できないのか、難しい表情は変わらない。
こればかりはサスケ君自身の回答を見つける必要があるだろう。
「サクラさん、何度も蹴り飛ばしたり、千本で刺して申し訳ありませんでした。」
「い、いいよ。任務だったんだし、それに殺す気はなかったんでしょ?」
「そうですね。……またどこかで会いましょう。」
「うん!」
スタッ、スタッ。
2人の忍が新たに現れる。
暗部の仮面をかぶっているが、霧隠れの物と違い、動物の面だ。
「我々は火影様直属の暗部。捕虜の護送でやってきた。」
成程。
「じゃあ、後はよろしく頼みます。くれぐれも丁重にお願いします。」
「了解です、カカシ上忍。」
「では、こちらの手錠をお願いします。」
私は手錠を嵌められる。
「一応は元敵の捕虜だからね。申し訳ないけど、木ノ葉までは我慢してくれよ。」
「大丈夫です。1週間お世話になりました。」
そうして私は暗部2人の先導の元、カカシさん達と別れて木ノ葉へ向かった。