「藍!!!」
吹き飛ばされた藍が壁に激突した。
気を失っている!?
駆け寄ろうと足を動かそうとするが、動けない。腕をナルト君に掴まれているからだ。
そんな隙を見逃す筈も無く、渾身の一撃を顔面に受けて僕も吹き飛ばされた。
被っていた面が割れる。
何とか立ち上がるけど、力が入らない。
トドメを刺そうとナルト君が飛び掛かってくるのが見えた。
…藍……再不斬さん…………僕はこの子には敵いません……………
…藍……再不斬さん……僕は………僕は…………
ナルト君の拳が迫ってくる。
ピタッ
だけど、それは寸前で止められた。
「お、お前はあの時の!!」
「何故、止めたんです?君は大切な仲間を僕に殺されておいて、僕を殺せないんですか?」
「クッソ!」
煽れば殴られたが、さっきまでの殺意は感じられない。
「よく勘違いしている人がいます。倒すべき敵を倒さずに情けをかけた……。命だけは見逃そうなどと。知っていますか?夢も無く、誰からも必要とされず、ただ生きることの苦しみを。」
「……何が言いたいんだ?」
「再不斬さんにとって弱い忍は必要ない。藍にとって護ってやれない兄は必要ない。……君は僕の存在理由を奪ってしまった。」
「何であんな奴の為に、悪人から金貰って悪いことしてる奴じゃねーか!!お前の大切な人ってあんな眉無しで良いのかよ!!」
「藍や再不斬さんの他にも大切な人はいました。」
「!」
「僕達の両親です。」
「!」
「僕達は霧の国の雪深い小さな村に生まれました。幸せだった……本当に優しい両親だった。でも……僕達が物心ついた頃、ある出来事が起きた。」
「出来事?一体何が?」
「この血…。」
「血ぃ!?」
「父が母を殺し、そして僕達を殺そうとしたんです。」
「え?」
「絶え間ない内戦を経験した霧の国では血継限界を持つ人間は忌み嫌われてきました。」
「ケッケイゲンカイ?」
「僕のような特別な能力を持つ血族のことです。その特異な能力のためその血族は様々な争いに利用されたあげく、国に災悪と戦禍をもたらす汚れた血族と恐れられたのです。戦後、その血族達は自分の血の事を隠して暮しました。その秘密が知られれば必ず死が待っていたからです。……僕達の母は血族の人間でした。それが父に知られてしまった。気づいた時、僕は殺していました、実の父をです。」
「…………」
「そして、その時僕達は自分の事をこう思った。……いや、こう思わざるを得なかった。そしてそれが一番辛い事だと知った。」
「一番辛い事?」
「自分たちがこの世にまるで、必要とされない存在だと言うことです。」
「!!」
「君はこう言いましたね。里一番の忍者になってみんなに認めさせてやると。もし君を心から認めてくれる人が現れた時。その人は君にとって最も大切な人になり得る筈です。…再不斬さんは僕達が血継限界の血族だと知って拾ってくれた。誰もが嫌ったこの血を好んで必要としてくれた。だから、嬉しかった。」
“今日からお前らの血は俺のものだ”
“白、藍。残念だ今夜限りで俺はこの国を去る。しかし、必ず俺はこの国に帰ってくる。この国を手中に収めて見せる!その為に必要なものは慰めや励ましじゃあない。本当に必要なものは……分かってます。安心してください。僕は再不斬さんの武器です。……フッ、良い子だ“
すみません、再不斬さん。僕は貴方の求めた武器にはなれなかった。
ごめん、藍。強いお兄ちゃんにはなれなかった。
「ナルト君、僕を殺してください。」
「くっ!」
「何を躊躇しているんです?」
「納得いかねぇ!!強い奴でいるってことだけが、お前がこの世にいて良いって言う理由なのかよ!!……闘う事以外だって何だって、他の何かで自分を認めさせりゃよかっただろ!」
「君と森で会った日。君と僕は似ていると思いました。君にもわかる筈です。」
「!」
「君の手を汚させる事になってすいません。」
「それしか、方法はねーのか。」
「はい。」
「君は夢を掴み取ってください。それからカカシさんに藍の事を頼みます。」
「ああ。……お前とは他の所で会ってたら友達になれたかもな。」
「ありがとう。」
君は強くなる。どうか、平和な世の中になりますように。どうか、藍が安心して生きていけますように。
「うおおおお!!!!」
ナルト君がクナイで刺してくる。
ゾクッ!!!
再不斬さん!?
咄嗟にナルト君の腕を掴む。
「ごめんなさい、ナルト君。僕はまだ死ねません。」
「え?」
魔鏡氷晶の鏡を作り出して、光速で移動する。
カカシさんと再不斬さんの間に割り込む。
目の前には眩いばかりの雷。
これを受ければ確実に死ぬ。
そのまま雷は僕の心臓を貫いた。
「ゴフッ……ざ、再不斬さん………」
貴方は生きて下さい。
藍もどうか死なないで。
僕は意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
白が死んだ。一瞬だ。カカシも白も超スピードだ。俺は間一髪で助かった。
流石は俺が見込んだ道具だ。素晴らしい働きっぷりだったぞ、白!
だが、白のスピードに対して俺の剣閃は鈍かった。
カカシに圧倒され両腕を潰された。
万事休す。
「おーおー派手にやられてェ。がっかりだよ、再不斬。」
ガトーが部下をぞろぞろと連れて現れた。
どうやら、こいつは金を払う気など毛頭無く、俺達とカカシ達の共倒れを狙っていたようだ。
こんな奴の為に白は死んだのか。
「カカシ、すまないな。戦いはここまでだ。俺にタズナを狙う理由が無くなった以上、お前と闘う理由もなくなった訳だ。」
「ああ、そうだな。」
「そう言えば、此奴には借りがあったな。私の腕を折れるまで握ってくれたねぇ。くっ死んじゃってるよ此奴。」
ガトーが死体の白を蹴り抜く。
俺の中で何かが込み上げてくる。
「てめー!何やってんだってばよォコラァ!!」
「コラ、あの敵の数を見ろ。迂闊に動くな。」
「お前も何とか言えよ。仲間だったんだろ!!」
ガキが俺に吠えてくる。
今はうるさい。黙ってろ。
「黙れ小僧。白はもう死んだんだ。」
「あんな事されて何とも思わねぇのかよ!!お前ってばずっと一緒だったんだろ!!」
「ガトーが俺を利用したように俺も白を利用しただけだ。言った筈だ。忍の世界には利用する人間と利用される人間のどちらしかいない。俺達忍はただの道具だ。俺が欲しかったのはあいつの血であいつ自身ではない。……未練は無い……。」
「お前ってば本気でそう言ってんのか?」
「やめろ、ナルト。もう此奴と争う必要は無い。それに、」
「うるせぇー!!オレの敵はまだこいつだぁ!!!」
「…………」
「あいつは………あいつはお前のことがホントに好きだったんだぞ!!」
そんな事は知っている。
「あんなに大好きだったんだぞ!!」
うるさい、やめろ!
「それなのにホントに何とも思わねーのかぁ!!」
やめてくれ
「ホントに、ホントに何とも思わねーのかよぉ!!?」
「…………」
「お前みたいに強くなったら、ホントにそうなっちまうのかよぉ!!」
「…………」
「あいつはお前の為に命を捨てたんだぞ!!」
「自分の夢を見れねーで、道具として死ぬなんて、そんなの辛すぎるってばよ。」
ああ……
「小僧……それ以上は、何も言うな。」
俺は泣いていた。人の為に涙を流した事なんて今までなかった。道具として見てきた筈の2人。いつのまにか情が湧いていた。
「白は俺だけじゃない。お前らの為にも心を痛めて戦っていた。俺にはわかる。あいつは優しすぎた。………最後にお前らとやれて良かった。そう……結局はお前の言う通りだった。忍も人間だ。感情のない道具にはなれないのかもな………俺の負けだ。」
だからこそ、ケジメをつける。
「小僧、クナイを貸せ。」
「うん…。」
そして俺は致命傷と引き換えにガトーを殺した。
身体から血と共に力が抜ける。
ここまでか………
もう…さよならだよ、白…今までありがとう…悪かったなあ…。
ガトーの残党も島の住人が追い出した。
「終わったみたいだな、カカシ。」
「ああ。」
「カカシ、頼みがある。」
「何だ?」
「あいつの顔が見てぇんだ。」
「ああ。」
白よ。泣いているのか…。
藍、すまねぇ。お前の兄貴を俺が奪っちまった。
「……藍を頼む。今までは俺と白であいつを守ってきた。もうあいつを守ってやれる奴はいないんだ。」
「……分かったよ。」
ずっと側にいたんだ。せめて最後もお前の側で…
「できるなら、お前と同じ所に行きてぇなぁ。俺も……。」
……ありがとう、白、藍。