再不斬さんの元に昔の仲間が集まってきた。クーデターを決行した時の仲間だそうだ。元が何人居たのか知らないけど、殆ど死んでしまっていた。帰ってきたのはたったの2人。
業頭と冥頭の鬼兄弟だ。実力は中忍で私と同レベルといったところ。兄さんは既に下級の上忍レベルといったところ。
「よく戻ってきた。」
「我ら鬼兄弟、再不斬様の元へ舞い戻りました。」
鬼兄弟の2人が此方を見てくる。
「再不斬様、その2人は?」
「こいつらは、白と藍だ。お前達の後輩だが、白の実力はお前達より上だ。妙な悪さはしない事だ。」
ちょっと、そんな事を言えば絶対怒るって!
内心で私が慌てたように、2人とも私達を睨んでいる。
「白と藍は下で待ってろ。俺は鬼兄弟と話す事がある。」
再不斬さんに促され、建物の下へ下る。
通り過ぎる時も睨まれていた。
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すぐに喧嘩でも売られるのかと思っていたけど、そんな事はなかった。
だけど、数週間後に唐突に模擬戦を仕掛けられた。
「おい、新入り。今日はどちらが上かわからせてやる。」
「………………」
「チッ、兄妹揃って澄ましやがって。」
なるほど。すぐに仕掛けてこなかったのは、兄さんが2人の相手をしていたからか。ここ数週間は兄さんも特に変わった様子はなかったから、返り討ちにしたんだろう。
その間は鬼兄弟は見かけなかった。
傷でも癒してたのか。それで治ったから次は私で鬱憤を晴らそうという訳か。
何とも思考が小物だなと見下せればいいけど、実力は伯仲。しかも不味い事に兄さんは再不斬さんと外出中だ。
勿論そこを狙ったんだろうけど。
とりあえず千本を構える。
泣き言を言ってられない。
「フン、ガキが。一丁前に忍びごっこか?」
鬼兄弟が仕込み徹甲を嵌める。
瞬間、業頭が突っ込んできた。
仕込み徹甲の爪が襲いかかる。
私は千本で受け止める。
ギキィ……
重い。首切り包丁程では無いけど、クナイよりはよっぽど重い。徹甲の爪の先から、紫色の液体が滴っている。
恐らく毒。麻痺毒か致死毒かはわからないけどなん擦り傷ですら致命傷になるだろう。
受け止めていない片手で印を結ぶ。千殺水翔で奇襲を狙う。
だけど、印を結ぶ前に頭上から冥頭が踵落としをしてくる。
後ろに飛んで回避。
「その術はもう見てんるんだよ。」
「同じ手が通じると思うな。」
そうか、兄さんと既に一戦交えているなら納得だ。
冥頭が徹甲を振りかぶってくる。
それを屈んで避ける。避ければすぐに、業頭が徹甲での乱れ突きを放つ。冷静に目で追いながら、顔を傾けて避けるが、1発頬に掠ってしまう。
不味いと思い、飛び退くがすぐに冥頭が追従してきて徹甲で殴りかかってくる。
再び千本で受け止める。普通なら簡単に折れてしまう千本だが、風のチャクラを流す事で強度を確保している。
そうして動きを止めれば、今度は体をチェーンが巻きつこうとする。チェーンは2人の徹甲にそれぞれ繋がっていて、チェーンには細かい刃物が付いていた。
あれに巻きつかれたら、無事じゃ済まない。
全力の瞬身の術で回避する。
だけどそれも見越されていたのか、着地した先で冥頭が待ち構えていた。毒付きの徹甲での一撃。
身体を大きく逸らして躱し、後ろに飛び退くと同時に千本を投げる。
「風遁・烈風掌!」
「チィ」
予想外の速度の千本に2人は足を止めた。
「はあ、はあ、はあ………。」
コンビネーションが厄介。どちらかが動きを止めれば、必ず片方がフォローしてくる。
「ちょこまかと鬱陶しいガキだな。」
「まあ、バテバテだ。その内終わる。毒も効き出す頃合いだ。」
頬に掠ってしまった。医療忍術を使えない私には早く戦闘を切り上げて、薬草等で解毒しないといけない。
「水遁・破奔流!」
水遁での最大火力技だ。一気に蹴りをつける。チャクラがごっそりと減るが気合で耐える。
押し寄せる鉄砲水に飲み込まれる2人。
「「ぐおおおおぉぉぉ!!!」」
「ハアッ 、ハアッ、ハアッ」
体力がギリギリになり、膝をつく。
かなりしんどいけど、これで。
水が引けば鬼兄弟の姿はいなくなっていた。同時に私は慌てる。
もしかして、殺してしまった?流石に小競り合いとは言え、再不斬さんの部下を殺してしまうのは不味い。
「うっ!」
疲れた身体に鞭を打って立ち上がる。かなりの力で押し流した。死んでいなければいいけど。
歩こうとした瞬間、背中に殺気を感じた。
振り返ろうにも力が入らない。僅かに視界の端にあの特徴的な徹甲の爪が見えた。
そういえば、鬼兄弟には水溜りに潜む術があった。辺りには私の術によって撒き散らされた大量の水。隠れるには打って付けだ。
そんな現実逃避をしても、私の身体は動かない。爪が突き刺さる。
そう思った瞬間、氷の壁が現れて爪は阻まれた。
こんな芸当、兄さんしかいない。
安堵した影響で身体に力が抜ける。倒れていく身体。それを兄さんが抱き止めてくれた。
「キサマ、割り込むとは卑怯だぞ!」
「そっちこそ、ニ対一は卑怯だと思いますよ。」
「なんだと!!「よせ、引くぞ。」チッ。」
2人はすぐに去った。
兄さんが現れたと言う事は再不斬さんも帰ってきたんだ。これ以上騒ぎを大きくする事は鬼兄弟にも不都合なのだろう。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう兄さん。もう大丈夫。」
兄さんに支えられて立ち上がる。
だけど、体力を使い切った私はうまく立ち上がれず、足を縺れさせる。
「おっと、やっぱり大丈夫じゃないじゃないか。」
兄さんに再び抱きしめられた私はそのまま横抱きにされる。
「に、兄さん!!」
「どうしたんだい、藍?」
「こ、この格好……」
「ハハッ、なんだ恥ずかしがれるぐらい余裕があるなら、安心だね。」
「そ、そう言う訳じゃ、」
私が話している間に瞬身の術で移動して、ベッドに移動させられる。
「兄さん、早過ぎるわ。」
「藍の方がもっと早い瞬身ができるでしょ?」
「………誤差のようなものじゃない。」
赤い顔を誤魔化す為に捲し立てる。
でも本当はわかってる。兄さんがこうして茶化してくれる事で、責任を感じさせないようにしてくれている事。
そうして、傷と毒の治療が施され私は眠りについた。
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青白い顔で眠る藍。
それを見ると自分の無力さに腹が立つ。
藍が僕を「お兄ちゃん」から「兄さん」に呼び方を変えた。
あのゾンビと戦った時から、藍は呼び方を変えていた。あの戦いから、藍は更に張り詰めた表情をする様になった。あの甘えん坊の藍が急に一人で何かしようとする様になった。でも人間はそんな簡単に変わる訳ではない。藍のそれは元の優しい性格の上から無理をして非情になろうとしているのがよくわかった。
再不斬さんもそれに気がついたのか、安定した場所を目指してこの波の国に来た。
藍にとってどちらが良かったのかわからない。波の国に来る前の生活は、日々命の危険が付き纏っていた。常に神経をすり減らしていた藍が時期に限界を迎える事は想像つく。波の国に着いてからは四六時中、気を張る事はなくなった。代わりに貧しい人間や僕達の様な子供を多く目にする様になった。生来の性格故、見捨てる事もできないのはわかっていた。だけど、彼女は自分がガトーに与している事を理解していた。だからこそ余計に苦しんでいる。
僕は彼女を守りたかった。薄い水色の髪を濁したくは無かった。綺麗な橙色の瞳を陰らせたく無かった。彼女の手を汚させたくはなかった。だけど、それはあのゾンビとの戦いの日に破られてしまった誓い。所詮僕なんてそんな程度の力しかない。きっと藍よりも術を覚えるのが早くて自惚れていたのだ。だから、肝心な時に彼女を護るどころか護られる様な事になる。
更に力を磨いた。だけど、彼女は今もこうして青い顔をして苦しんでいる。あの迫害された時から藍にはずっと辛い顔をさせている。
それでも現実は厳しい。僕達は更なる選択を迫られる。
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目覚めて、再不斬さんに呼び出される。
鬼兄弟はおらず、再不斬さんと兄さんの3人だけだった。
「目覚めたか。」
「すいません、ご心配おかけしました。」
「道具として機能すれば別にいい。」
気にも止めていない様子だけど、再不斬さん程の忍があの小競り合いに気がつかない訳がない。
「呼んだのは新しい任務を言い渡す為だ。……だが、この任務には拒否権がある。」
ガトーからの依頼ではないのかな?
「元々俺は自分の理想の為に戦ってきた。その日暮らしの賞金首狩りもガトーの援助も過程でしかない。いずれはここを出て霧隠れに戻る。だが、クーデターから5年。霧隠れの内情が現状どうなっているかはわからない。」
再不斬さんが話を進めていく内に兄さんの顔色が悪くなる。
何か察したのかな。
「俺と鬼兄弟は顔が割れている。だが、5年前には忍でもなかった田舎の村のガキの顔を知っている奴は霧隠れには居ない。」
「つまり潜入。スパイとして霧隠れの里に入り、内情を調査する任務。」
「そう言う事だ。だが、これはとても危険で長期的な任務だ。最悪、お前達はただの捨て駒になるかもしれないとも思っている。」
「だから、拒否権があると。考えて結論を出せと言う事ですね。」
「私やります。」
私が声を上げると二人がこちらを見てきた。再不斬さんは目を細めて。兄さんは目を見開いて。
驚くのも無理は無いと思う。だけど、私は任務を受ける覚悟だ。
二人が悩んでいるのは、きっと私のことだ。兄さんの実力なら、万が一があっても逃げ延びる事ができるだろう。だけど、私の実力では未知数。いや、正直なところ部が悪いのだろう。鬼兄弟相手に苦戦する。つまりは中忍2人がかりで手一杯になるのが私の実力。
きっと足手纏いになるから、連れて行かない方がいい。
兄さんが私を護る労力が無駄だから連れて行かない方がいい。
逆に波の国にいる方が精神衛生上良くないから連れて行った方がいい。
兄さんと離れた方が精神衛生上良くないから連れて行くべき。
様々な考えが2人の中にあると思う。結局は私が足枷になっている事実は変わりない。なら、私がいち早く意志を見せる。それで兄さんの悩みが少しでも減らせればいい。
「とても危険なんだよ。もしもの事があれば、助けられないかもしれない。」
その通りだと思う。恐らくお互い助けれる状況でない可能性の方が高い。
でも、いつまでも守ってもらっているからこそ私は強くなれないし、今も苦しんでいる。ならこれはきっといつかは越えなければならない危険。
「大丈夫、わかってる。お互い護り合えばいいんだよ。」
現実はそんなに甘くないだろう。もしかしたら見殺しにする可能性の方が高い。それでも心配してくれる兄さんを後押しするには必要な言葉。
「白、諦めろ。こいつは引かない。」
「………わかりました。任務を受けます。」
こうして私達は霧隠れの里ヘの潜入任務が決まった。