☆一輪の白い花   作:モン太

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波の国

謎のゾンビと戦った時から、1年が経過していた。結局あれがなんだったのかわからない。再不斬さんと兄さんの見立ても同じで、やはり何かの操り人形だろうと言う事。なら、必ず裏で術者がいた筈なのだ。だけど、今となってはそれも追えない。

 

兄さんも一命を取り留めた。ほっとした。あそこで震えて何もできなかったら、今頃私は兄さんを失っていた。人を殺す事に抵抗があるかと思ったけど、案外簡単にやってしまった。それとも敵がゾンビだったからなのか?

 

現状は前と変わらず、兄さんが守ろうとしてくれている。だけど、私はいつでも自分の手を汚す覚悟ができていた。

 

いつまでも平和ボケしてられない事に漸く気が付いたのだ。兄さんを失いかけて初めて知った。

 

いつまでも2人の影に隠れてばかりではいられない。

 

再不斬さんも2人の忍刀を相手取りながらも勝利した。手傷を負ったけど、重症ではなかった。

 

この戦いを経て、再不斬さんはより盤石な拠点が必要と考えた。予想ではあるが、襲撃者がSランク賞金首だろうだから。私達を守りながら、戦える相手ではないらしい。きっと私達の血系限界もバレている。しかも、これだけ派手に暴れたことから、追い忍にも察知された筈。

 

それ故に安定した拠点と収入。それからクーデター時に散り散りになった仲間を集める事になった。

 

再不斬さんに引き取られて5年。

 

私達は波の国にやってきた。雇い主はガトーという世界有数の企業家だ。

 

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「波の国は隠れ里がない。金持ちのガトーはいるが、身の回りの用心棒はただのチンピラ。故に俺達が奴の警護に当たる任務になる。」

 

「渡に船ですね。」

 

「だが、俺達は抜忍ゆえに報酬は足元を見られるだろう。それでも今は拠点が必要だ。一度盤石な基盤を作り、水の国へ向かう。数年はかかるだろう。しっかりと力を溜めれる。」

 

「私達も早く、力をつけましょう。兄さん。」

 

「そうだね。」

 

小さな船に乗り、移動しいている。幸い霧が立ち込めているから、見つかりはしない。

 

常に兄さんが警戒してくれているしね。

 

「白、過保護は止せ。」

 

再不斬さんが注意する。

 

「すみません、つい心配で。」

 

「兄さん、私なら大丈夫だから。」

 

あのゾンビとの戦いで発揮できた私の力。今は全然使えない。火事場のクソ力という奴だろう。

 

平時では水遁・破奔流と風遁・獣破烈風掌は一回づつしか使えない。それだけで、チャクラ切れになってしまう。

 

それでもこの2つの術が私の最大火力の奥義となっている。

 

氷遁には目覚めていない。才能がないのかわからない。だけど、全くできる気配はなかった。そもそもチャクラ量が少ないために、水遁と風遁を合わせようとするとすぐにチャクラが底をついてしまう。

 

対して兄さんは氷遁に更に磨きをかけていた。攻撃の魔鏡氷晶だけじゃなく、防御用の氷岩堂無も開発していた。

 

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それから、波の国に着いてからは主にガトーから任務を受けて報酬をもらうようになった。危険な任務もあったけど、安定した収入と衣食住がある環境には代えられない。

 

空いた時間も増えた事で薬草集めも兄さんと一緒にするようになった。

 

私達3人は誰も医療忍術を使える者がいない。だから、薬草などを集めて兵糧丸などを予め用意しておく。

 

危険とは隣り合わせなのは変わらない。だけど、以前よりは格段に安全になった。

 

だけど、心労は絶えない。

 

この国はガトーという独裁者によって絞り上げられている。大人も子供も痩せ細った人ばかりだ。

 

ガリガリの子供を見れば、あの村で迫害を受けた頃の自分を思い出す。私は兄さんがいたから助かった。でも、もし1人ならとっくの昔にあの世にいただろう。

 

任務で得たお金で少しばかり食糧を渡した事もあった。勿論顔を見られないように面をしてだ。兄さんだって心苦しい筈だ。それでも兄さんは私を護る為に見殺しにしている。その心境は筆舌に尽くし難いものだろう。そんな兄さんを差し置いて私は食糧を渡した。これはきっと再不斬さんや兄さんへの多大なる裏切り。

 

それでも2人とも何も言わなかった。

 

私の浅はかな罪滅ぼしでもなんでもない自慰行為。それを黙っていてくれる。

 

私はガトーに与する側だと言うのに。

 

ここでこの子供を助けた事によってこの先、より一層苦しい事が待ってるかもしれないのに。ここで見殺しにする方が救いになるかもしれないのに。

 

それでも私は自分の弱さに向き合えないまま、顔を隠して食糧を渡す矛盾した行動を取った。

 

私は無責任な人間だった。


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