☆一輪の白い花   作:モン太

11 / 72
不死身の妖怪

「白、藍。立て。」

 

それは突然だった。

 

いつもの様に賞金首狩りを終え、木陰で休憩していた時だ。

 

再不斬さんが立ち上がった。

 

「この俺様が気付かなかったとはな、かなりの手練れの様だ。」

 

再不斬さんは首斬り包丁に手をかける。

 

その様子に私達も臨戦態勢に入る。

 

突如、目の前に2つの棺桶が現れる。

 

ギィっと無気味な音を立てて扉が開き、中から人が出てくる。

 

「「っ!」」

 

「.........こいつは」

 

私はこの2人を知っている。

 

再不斬さんに渡されたビンゴブックに載っていた。

 

でも、既にその欄は斜線が引かれ、死亡していた筈。

 

「お前らは逃げろ。俺がこいつらの相手をする。お前達のレベルではまだこいつらは無理だ。」

 

「いえ、僕達は再不斬さんの道具です。僕達も戦います。」

 

お兄ちゃんが千本を取り出して、構えるが足が震えているのがわかる。

 

最近はお兄ちゃんも強くなって、敵を沢山殺してきた。そのお兄ちゃんがこんな反応をするなんて。

 

「道具なら俺の指示に従え。簡単に無駄死にさせたら、それこそ道具の価値が下がるってもんだ。お前らが死んでいい時は俺が決める。わかったら、さっさと行け。」

 

でもそれは仕方ない事。相手は再不斬さんと同じ忍刀七忍衆。

 

通草野餌人と無梨甚八。

 

手元には愛刀を携えている。

 

「わかりました。でも相手は同じ忍刀七忍衆。しかも二人です。」

 

「フン.......。所詮死んだ奴らだ。俺様の相手じゃねぇ。」

 

「..........油断しないでください。」

 

「うるさい奴らだ。さっさとケリをつけてやるから安心しろ。」

 

再不斬さんは首斬り包丁を構える。これ以上は再不斬さんの迷惑だろう。

 

「.......行くよ、藍。」

 

「....うん。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

再不斬さんの指示に従い、森を逃走する。

 

私は不安になってお兄ちゃんに問いかける。

 

「再不斬さん大丈夫かな?」

 

「........わからない。」

 

いつもなら、間髪入れずに大丈夫と言う筈だけど、今回は弱気な回答になる。

 

それだけ今回の相手は部が悪い様である。

 

私は嫌な予感に駆られる。

 

「だけど、再不斬さんならきっとどんな相手でも倒してくれると信じている。」

 

「だから、強くなろう。僕達は再不斬さんに守られる存在ではなく、再不斬さんを守る道具になる為。」

 

「.........うん。」

 

そうだ。こんな守られてばかりじゃなく、1日でも早く役に立てるようにならなきゃ。

 

「.......!! お兄ちゃん!」

 

私は研ぎ澄ませた感覚に反応する気配が、唐突に現れた事を察知する。

 

「水分身の術」

 

私の呼びかけに直ぐに反応し、お兄ちゃんが水分身を2人作る。内1体は私の姿に変化する。

 

そのまま水分身を先行させ、私達は草むらに隠れて気配を消す。

 

「......お兄ちゃん、また来るよ。」

 

「わかった。」

 

再び棺桶が現れ中から、先程と同じ忍刀七人衆の栗霰串丸が現れる。

 

「.......不味いね。」

 

「.......上手く様子を見て逃げるしか無いよ。」

 

相手は再不斬さんクラスだろう。

 

対して私達は、精々中忍クラスのお兄ちゃんと下忍クラスの私だ。

 

いつもは水分身の再不斬さんの相手だけど、本体とはまだまともに戦えない。

 

「.........あれが長刀・縫針」

 

「刺繍針を大きくしたみたい」

 

水分身達が千本を取り出し、構える。

 

「久しぶりに現世に出たと思ったら、目の前に極上の獲物とはな。これは楽しめそうだ。お嬢ちゃん方、悪く思うなよ。」

 

栗霰串丸は長刀を投げ付けてくる。

 

水分身は左右に飛ぶ。

 

「藍!様子見は不要だよ。全力で行こう!」

 

「うん!風遁・烈風掌」

 

「秘術・千殺水翔」

 

お兄ちゃんは素早く片手印で水の千本を放ち、左手で千本を投げる。

 

それに合わせて私は烈風掌で加速をつける。

 

いつもの速攻のコンビ忍術だ。

 

術スピードなら私達の術では最速だが、これは通用するとは思えない。

 

案の定、栗霰串丸は長刀の糸を持ち、刀身を振り回す事で全て弾く。

 

瞬身の術で直ぐに栗霰串丸に接近する。

 

それに合わせて長刀を投げてくるので、姿勢を低くして避ける。

 

それを見た敵は更にクナイを投げてくる。

 

更に右手の千本を投げて迎撃。

 

そして懐に入り、相手に向かって切り結ぼうとした時、

 

「藍!後ろだ!」

 

咄嗟に首を左に傾ける。

 

その瞬間私の首筋を長刀が通り過ぎる。

 

糸で引っ張って戻したのか!

 

そのまま千本と長刀で鍔迫り合いになる。

 

「.....はあ、はあ」

 

変幻自在

 

長刀・縫針の戦い方は正にその言葉が当てはまる。

 

でも!

 

「秘術・千殺水翔」

 

片手印で即座に術を発動し、離脱する。

 

幾ら私が体術主体でも、此方は下忍レベル。向こうは忍刀七人衆。接近戦をやり続ける訳にはいかない。

 

それにどうやら、再不斬さん程強い訳でも無い。水分身でもどうにか戦えてるからだ。

 

そして、時間稼ぎは十分!

 

「藍、よくやったよ」

 

「氷遁秘術・魔鏡氷晶」

 

栗霰串丸を囲む様に氷の鏡が展開され、次の瞬間には全身をズタズタに引き裂かれ倒れ伏していた。

 

やはりお兄ちゃんの秘術の速度には反応すら出来なかった様だ。

 

「........なんとかなったみたいだね。」

 

「うん。でも流石に水分身のチャクラは限界だよ。直ぐに術を解いて離脱しよう。」

 

「この調子なら、再不斬さんの方も終わってるかもしれないしね。」

 

そうして、水分身を解こうとする。

 

しかし私は気付くべきだった。

 

ズタズタに切り裂かれているのにも関わらず、血の一滴も流していない敵の身体の異常性を。

 

宙を舞う塵。それが一つに集まり、次第に人型を模していく。

 

「待って、藍。様子が変だ。」

 

お兄ちゃんに言われて漸く、私も気がつく。

 

だが、既に栗霰串丸は完全に復活してしまっていた。

 

「どうゆう事!?死んだ筈じゃ無いの?」

 

「っく!とにかく逃げよう!勝ち目が無い」

 

水分身が即座に離脱を図るが、何の前触れもなく、水に還ってしまう

 

「いつ攻撃されたの!?」

 

「わからないけど、水分身がやられた以上、向こうも僕達本体を探しにくる筈。今のうちに逃げるよ。」

 

 

 

 

 

 

「もう見つかってるんだよな。」

 

 

 

「......え?」

 

背後から声がした。

 

振り向くと栗霰串丸が立っていた。

 

倒れ伏した栗霰串丸既にいない。

 

速い!でもどうして見つかったの?

 

「なんで見つかったのか?って顔だな。俺が無闇矢鱈に長刀を振り回してるだけだと思ったか?」

 

そう言われて、周りを見渡すと薄っすらと糸が空間を張り巡らせている事に気付いた。

 

「既に此処ら一帯は俺の結界の中だ。」

 

.......どうしたらいい?

 

正直、再不斬さんには劣ると言っても私達が逃れる可能性は限りなく低い。それほどの実力差がある

 

敵は既に目の前。話し合ってる時間も無い。

 

「藍.......。」

 

「.......うん、わかった。」

 

逡巡しているとお兄ちゃんが私にアイコンタクトで指示を飛ばしてくれた。

 

『再不斬さんが来るまで時間を稼ごう』

 

私は瞬身の術で敵に接近する。

 

「ほう。迷い無しとはいいね。お前らが水分身では無い事は分かってる。動きのキレが全然違うしな。」

 

必死に敵に食らいつく。時々敵の攻撃が掠めるが怯まない。

 

お兄ちゃんの氷遁秘術・魔鏡氷晶で敵を封じ込める為に私は敵を引きつけなくてはならない。

 

「ハアアァ!」

 

「下忍にしちゃぁやるな。だが......」

 

「.........え?」

 

突如私の体が動かなくなる。

 

「長刀忍法・地蜘蛛縫い。.........良く目を凝らしてみな。」

 

足元を透明な糸で絡め取られていた。

 

「糸の角度、長さ、たわみ具合で光の受け方は変わる。良く見える糸と見えにくい糸。それを使い分けて捉えるのがミソだ。」

 

「くっ。」

 

「まあ、此処からが本題だな。さっきの氷の術を使う嬢ちゃん、あんたは厄介だ。確実に無力化させるか。」

 

敵は動けない私を無視して、お兄ちゃんの元へと向かう。

 

「くっ。行かせない!風遁・風切りの....」

 

「おっと」

 

「ぐぅ!」

 

術を発動し足止めを狙うが、それに気付いた敵の行動が早かった。

 

操った糸でそのまま私の体を大の字に木に縛り付けて動けなくする。私は抜け出そうともがくが、肌に鋼線が食い込み血が滲むだけだった。

 

「嬢ちゃ〜〜〜〜〜ん。大人しくしてろ。俺はSMプレイは大好きだぜ。後でたっぷり可愛がって(痛めつけて)やるからヨォ。黙ってるんだな。」

 

「......藍!」

 

「待たせたなぁ。さっきは驚かされたが、もう油断しねぇ。あの術は出せねぇよ。」

 

「水分身の術」

 

「秘術・千殺水翔」

 

水分身が敵に突貫し、後方の本体から千本が投げられる。

 

敵は千本を弾くが、直ぐに背後に千殺水翔が飛来。水分身と挟み撃ちにする。

 

「水遁・霧隠れの術」

 

敵は直ぐに水分身を倒す。だが、その隙に霧隠れの術を発動。すぐさま魔鏡氷晶の準備に取り掛かる。

 

だが、敵は背後の千殺水翔を無視してお兄ちゃんに斬りかかる。

 

お兄ちゃんは相手の行動に目を見開く。

 

背中に水の千本が刺さるが、塵が集まって修復される。

 

「俺の体は不死身だ。なら千本なんざ刺さろうが関係ねぇ。そんなに驚く事じゃ無いだろ?」

 

お兄ちゃんは再び、千本や手数、速度が速い忍術を駆使して対応する。

 

「さっきの嬢ちゃん程では無いが、あんたも中々の速さだな。術も多彩だ。だが、あの氷の術レベルじゃなきゃ、俺は倒せないぜ?」

 

もちろん、そんな事は分かっている。魔鏡氷晶の速度を見切った忍は今まで居ない。だけど、弱点もある。氷の鏡を展開するのに少し時間がかかってしまう。一度展開されれば、お兄ちゃんの独壇場になる。

 

だから、体術メインで体捌きが得意な私が前衛を担当し、お兄ちゃんが後方で魔鏡氷晶を使うのが鉄板だった。

 

今の水分身や手数の多い術を駆使して、氷の鏡を展開できる時間を稼ごうとしている。

 

相手もそれが分かってるからこそ、多少のダメージは無視して切り掛かっている。

 

「本当に器用だな。その歳で中忍レベルとは恐れ入った。でもな。」

 

「ガハッ!」

 

お兄ちゃんが急に膝をつく。

 

「刀身と糸に麻痺の毒を塗ってるんだ。」

 

「お兄ちゃん!」

 

「うん....?お兄ちゃん?.......お前男なのか?まあ、そんな事はどうでもいいか。これでもう動けねぇぞ。.......ああ安心しな、この毒で死ぬ事は無い。あくまでもこの刀で痛め付ける事が目的だしな。」

 

長刀を肩に乗せ、蹲るお兄ちゃんに栗霰串丸は近づく。

 

「よっと......。これでペット二匹捕獲完了。」

 

そしてお兄ちゃんも木に括りつけられた。

 

「お前の氷の術は厄介だな。先にこっちで遊ぶか。」

 

そういうとクナイでお兄ちゃんの右掌を無造作に刺した。

 

「ぐああああああああ!!!!!!」

 

「え?」

 

私は呆気に取られる。その間にも左掌を刺した。

 

「ぎゃああああああ!!!!」

 

「これで印は結べない。さてと………」

 

そのまま、右太腿を刺した。

 

「ぎゃああああああ!!!!!」

 

「クックック。いつ聞いてもこの悲鳴はたまらねぇな。」

 

こいつはお兄ちゃんを拷問して楽しんでるのか?

 

「やめてよ!!殺すなら、私を殺していいからお兄ちゃんは見逃して!!!」

 

「ああ?見逃す?そんな訳ねーだろ。嬢ちゃんこそよく麻痺毒に晒されて元気に喋れるな。ま、そこで見てな。こいつで遊び殺した後は嬢ちゃんだ。」

 

こいつはなんて言った?

 

お兄ちゃんを殺す?

 

それはだめだ。私が1人になっちゃう。

 

そもそもなんでこんな事になっちゃったんだろう?

 

この忍刀の所為か?

 

いや、こんな奴はきっとこの世界には履いて捨てる程いる。なら、きっとそんな奴らを退けられない私が悪いんだ。

 

お兄ちゃんに甘えて後ろで隠れているばかり。だから、今目の前で世界で一番大切な人が苦しみ、殺されそうになっている。

 

思考が冷えていく。

 

そうだ。いつも守ってもらってばかりいた。人を殺すのだって、怖いからとお兄ちゃんに任せていた。お兄ちゃんだって苦しい筈なのに。だからこれはきっと天罰。

 

でも、今ならまだ間に合う。こいつはあえて毒の塗っていないクナイで痛めつけている。なら、まだ治療すれば治せる。それでも目の前のこいつはなんとかしないと。

 

許せない。お兄ちゃんを苦しめるこいつが。お兄ちゃんの足を引っ張る私が。

 

怒りに呼応する様に、力がみなぎっていく。

 

プツン、パツン。

 

私を縛っていた長刀の糸が切れる。解放された私は地面に着地する。

 

異変に気が付いたやつが振り返ってくる。

 

「はあ?なんで縫針の糸を切れる?」

 

敵が驚いている。それもそうか。忍刀七人衆の一振りだ。そんな柔な刀なわけがない。それをこんな簡単にワイヤーを切断できるはずがない。

 

私自身もよくわからないが、解放されたなら好都合。こいつをさっさと倒せばいいんだ。

 

私は瞬身の術で懐に飛び込む。

 

「チィ!」

 

勢いそのままに千本を一閃。長刀を持つ右腕飛ばした。

 

そのまま隙を晒した敵に容赦なく、最大火力の水遁を叩きつける。

 

「水遁・破奔流」

 

鉄砲水が直撃して、粉々になりながら流される。血の一滴も出ない事が不思議だけど、気にしない。

 

すぐにお兄ちゃんに駆けつける。

 

お兄ちゃんに巻き付いているワイヤーも私が直接手で触れるだけで切れた。

 

これも不思議だけど、今はお兄ちゃんの救出が最優先。

 

お兄ちゃんを下す。だけど、背後で再び敵が復活した事を感じ取った。

 

とりあえず、お兄ちゃんを木に横たえさせて振り向く。

 

「しつこいなぁ。今忙しいんだけど。」

 

「このクソガキィ!!」

 

切りかかってくるが遅い。いや、私が速くなってるのか?

 

敵の攻撃を見切り、切り刻む。

 

だけど、いくら粉々にしても塵が集まって復活する。

 

分身か何かの術だな。きっと傀儡の術に近い何かだ。

 

「鬱陶しい。」

 

私はだんだん苛ついてくる。力がみなぎっている今ならこの術も使えるかもしれない。

 

得意技の風遁・烈風掌。その発展技。

 

「風遁・獣破烈風掌!!」

 

私の掌を象った風のチャクラを叩きつける。

 

一瞬で粉々になる。

 

でもどうせすぐ復活するよね。私には封印術がない。だから……

 

私は大きく跳躍する。眼下には復活しかけている敵。

 

「風遁・獣破烈風掌」

 

真下にもう一度術を放つ。地面を砕きながら、敵を粉砕。

 

「水遁・破奔流」

 

砕けてできた大穴に水を流し込む。

 

泥沼を作るのだ。

 

目論見を当たり、復活した敵は沼に沈んでいく。

 

「テメェ!!」

 

長刀を投げてくる

 

「風遁・烈風掌」

 

苦し紛れの投擲だ。簡単に弾ける。

 

そのまま完全に沈み込んだ。

 

「ふう。」

 

落ち着いた事で一気に疲労感が襲う。

 

元々チャクラ量が少ない私だ。大技を何発も使ってしまった。

 

お兄ちゃんに駆け寄ろうとするけど、足が縺れる。そのまま意識を失ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「如何でしたか、大蛇丸様。」

 

「まだまだ、精度が粗かったわ。2体1でも鬼人を仕留めれなかった。もう一方も中忍2人に敗北。やはり、人格は縛った方が良さそうね。無駄な遊び癖が出て隙を晒してしまう。」

 

「ですが、面白い発見もありました。」

 

「そうね。あの血系限界。既に絶滅したと思ってたのだけど、生き残りがいたのね。今はこの術の完成を急ぐけど、すぐに捕獲できるようにしたいわ。」

 

「お任せください。足取りを追えるように手配しておきます。」

 

「任せたわよ、カブト。」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告