『弱め』な大黒柱   作:レスト00

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投稿です。
そろそろ、自分で矛盾している部分が出てくるのではないかとビクビクしながら書いています。

評価バーがいつの間にか赤色になっていました。読者の方や評価してくださった方々に本当に感謝です。


学園生活

 

 

『もしもし、大洗学園の二年A組の担任をしている春原と申しますが、西住さんのお宅でよろしいでしょうか?実は今日、西住みほさんが授業中に体調を崩して保健室の方へ行きまして、転校してきたばかりで体調が優れないこともあると思い連絡させていただきました。こちらも彼女を気にかけるようにしますので、ご家族の方もそういったことがあった程度でよろしいので気にかけてあげて頂ければと思います』

 

 散歩から戻ってくるとそんな電話を彼は貰う。

 ここまで気にかけてくれる教員が我が子の担任になったことを喜ぶべきが、それともその内容に驚いて心配するべきか、咄嗟の判断が彼にはできなかった。

 一方その頃、当人であるみほは新しくできた二人の友人、武部沙織と五十鈴華と一緒に放課後の寄り道兼買い食いをしていたりした。

 

「じゃあ、みほってお父さんと一緒に大洗に越してきたの?」

 

「うん、そう。正確には、お父さんとお手伝いの人と三人だけど」

 

 アイス店、74アイスクリームという店で、それぞれ好みのアイスをぱくつきながら、自己紹介に近い会話をしながら、自然と三人の口調から堅い言葉は取れていく。

 

「お父様はこちらでお仕事をなされるのですか?」

 

「一応、自宅でもできるお仕事だから。それにこっちに来る前も家で仕事していたし」

 

「では、あまり自宅の方にお邪魔するのはよろしくないですね」

 

「そ、そんなことないよ!私生活の部屋と仕事部屋は同じアパートでも違う部屋になっているから、全然大丈夫だよ」

 

 そのみほの発言に、事前に保健室で聞いていたみほの戦車道の家元はそんなにお金があるのかと、若干いやらしい考えが二人の脳裏を過ぎった。

 実際のところ、今回の引越しなどにかかった費用は、基本的に父親である彼のポケットマネーから来ていた。治療費と仕事に必要な楽器や筆記用具以外、特にお金を使うことが無い彼は、作曲関係の著作権などの給金をそのまま自己資産として保存しているので、言い方はあれであるが、彼がお金に困ることはほとんどないのである。

 しかも、西住流の方に資産の一部を寄付しているにも関わらず、潤沢な資金を持っている彼は現時点の西住家において一番の稼ぎがしらでもあったりするのだから笑えない。

 そういった事情を知らずにお喋りを続けていたみほは、そろそろ帰らないとまずい時間になっている事に気付く。

 

「えっと…………ぁ」

 

 その事を切り出そうとすると、ちょうど店内のBGMが変わった。

 

「ん?この曲最近よく聞くけど何の歌だっけ?」

 

「確か、何かの映画の曲だったかと……」

 

「そうだっけ?映画の方は知らないけど、この曲は何か耳に残るから…………みほ?」

 

 そこまで話して沙織は気付く、机を指先で叩きながらリズムをとっているみほに。

 瞼を閉じ、耳に入ってくる音以外の情報をカットする。

 

「――――」

 

 イントロからAメロ、Bメロと繋ぎ、サビに入っていく。

 その中でみほは指先を弾くようにして机を叩き、その音が曲の印象を少しだけ変える。

 いつの間にか、その小さな演奏は店の店員、お客、老若男女問わずに耳目を集めていた。

 BGMのその曲は編集されたものだったのか、一度目のサビが終わり間奏の半ばでフェードアウトする。

 

「ふぅ……えぅ?」

 

 曲が終わると、みほはほっと一息。それと同時に目を開けると、呆然とこっちを見ている一同にびっくりすることになった。

 

「お上手です、みほさん」

 

 唖然とする皆の中で、唯一芸術面の感動に耐性のあった華がそう感想を漏らす。それに続きはやし立てるように沙織も口を開く。

 

「すごいよ、みほ!男の子に聞かせれば絶対モテるよ!」

 

「モテたことあるのですか?」

 

「え、あぅ、これは」

 

 その二人の賛辞から、みほは顔を赤くしそうになる。しかし、追撃するように周りのお客さんたちが暖かい笑顔で拍手を送ってしまい、結局のところ、彼女は顔を真っ赤に染めて足早に店をあとにするのであった。

 

 

 

「こっちに来てから初めて、やっちゃった……」

 

 以前から人前では注意されていた癖を反射的に披露してしまったみほは、軽い自己嫌悪をしながら、新居になっている部屋の鍵を朝と同じように差し込み、回した。

 

「ただいま~」

 

「みほ?大丈夫?」

 

 リビングに入ると父親である彼が、部屋出入り口近くの椅子に座っていた。

 彼はみほが入ってくるやいなや、ペタペタとみほの顔を両手で触り始める。その事に本日何度目かのびっくりをしながらもみほはされるがままになっていた。

 

「お、お父さん?どうしたの?」

 

 気が済んだのか、手を動かすことはなくなったが、一向に顔から手を離そうとしない父を不思議に思いみほは尋ねる。

 幾分冷静になったみほは自分は大丈夫という意味合いも込めて、父の手の甲に重ねるように自分の手を自身の顔に近づけた。

 そこまでして、自分よりも目線の低い父親の髪型が朝よりも短くなっており、そして短くなったことでよく見えるようになった目元に薄らと光るものがあることにも気付く。

 

「お父さん?」

 

「……学校から連絡があって、みほが保健室に行ったって」

 

 そこまで言われて、みほは先ほどよりも深い自己嫌悪に陥る。

 自分にとっては仮病にも近い授業のボイコットが、父親にとっては酷い心労になってしまいここまで取り乱す原因になっていたのだから。

 

「お父さん、大丈夫。私は元気だから。少し動揺することがあって、授業に集中できてなくて、それを心配してくれた先生が念のためにって」

 

 言い訳とも安心させるための説明にも聞こえる彼女の言葉は、少しちぐはぐであったがその声と反応から娘の安否がはっきりとした彼が落ち着くのに早々時間は必要としなかった。

 

「心配かけちゃったな」

 

 夕食を終え、毎食後に飲んでいる薬湯を飲み終えた父が就寝するのを確認してから、みほは浴室でそんな事を呟く。

 今日は濃い一日を過ごしたと考えながら、みほはその一日を振り返る。

 お昼休みに二人の新しい友達と昼食をとったと思えば、生徒会の人たちに戦車道をするように言われる。

 そして、茫然自失のところを新しい友達と三人で、保健室で授業をボイコット。

 さらにその後には、選択必修科目の説明で戦車道に惹かれる友達と話しながら、帰り道の途中で寄り道と買い食いをするという女子高生らしいやんちゃ。

 それらは転校する前では――――西住という家や黒森峰では味わうことのできない、また違った日常。それを心地よく、楽しく感じているみほは自然と頬が緩むのを自覚した。

 

「……あ、選択必修決めないと」

 

 もっとも、先送りにしていた問題を思い出すのも同時ではあったが。

 

 

 

 一方その頃、とある理髪店ではこんな会話がされていた。

 

「優華里、今日すごい人が家に来たわよ」

 

「すごい人……ですか?」

 

「そうこの人」

 

「色紙にサイン…………って、これって作曲で有名な?」

 

「そうなの。名前は知っていたけど顔は知らなかったからもうびっくりしたわ」

 

「でも、どうしてそんな人が学園艦に?」

 

「なんでも、大洗に娘さんが入学しているらしいわよ?」

 

「うちに?」

 

 

 

 他方で、とある家元ではこんな会話がなされていた。

 

「母様、父様を追いますので資金を都合してください」

 

「……いきなり入ってきて何を言っているのかしら?」

 

「父様が心配です」

 

「気持ちは分かるけれど少し落ち着きなさい、まほ」

 

「私は冷静です、なので資金を」

 

「…………育て方を間違えたかしら?」

 

「父様がいない、いない、いない、いない、いない、いない、いない…………早く見つけないと」

 

「…………菊代、この娘を自室にぶち込んでおきなさい。あとで私も行きますから」

 

「奥様は何を?」

 

「…………私も自分が思っているよりは冷静ではないのよ、今」

 

(…………手が、震えている)

 

 

 

 





てな感じで次回です。

一応、短編扱いなので、一話一話さっくり読めるように頑張りたいです。

……投稿したあとに気づきましたが、前回とほとんど展開が一緒の件…………やらかした?

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