色々とあって遅れました。
今回はキャラ崩壊注意です。
人間誰しも都合というものがある。
それはプライベートなものであったり、仕事のことであったりと様々だ。そして、戦車道の家元ともなれば、仕事の時間が一般的な職業の人間よりも多くなってしまう。
その為、弥栄の家に泊まっているしほとまほは、全国戦車道大会の予選抽選会が終われば、実家の方に帰らなければならないのは当然のことであった。
「ねぇ、みほ。しほさんとまほと菊代さんが帰る前に、何か喜ぶことをしてあげたいのだけど、何がいいと思う?」
色々と濃密な一日の帰り道。
それぞれの家に帰った大洗のメンバーや、一度黒森峰学園の集まりの方に帰らなければならないまほやエリカと別れ、みほと二人きりになった彼はそう尋ねた。
「お母さんたちが喜びそうなこと?」
問われたみほは首を捻りながら車椅子を押す。
普段であれば、何か考えながら歩いていれば道端の看板なり、電柱なりに顔面から突っ込んでいくみほであるが、車椅子を押しているときは流石に前方不注意になることはなかった。
「う~ん…………皆、お父さんと一緒にいるだけで嬉しいと思うけど……」
「そうかな?」
瞬間的に思い浮かんだ、『一緒に西住の方に帰る』という考えを脳内で蹴飛ばしながら彼女は当たり障りのない意見を口にする。
だが、それで納得をするかしないかは別である。
その為、二人仲良く首を捻りながら帰路を進んでいく。そして、大洗のあるホームセンター前を横切ったときに、みほが口を開いた。
「あ。お父さん。今ホームセンターの前にいるんだけど、ここで皆と買い物したの。その時色々可愛いものもあったからそれをプレゼントしたらどうかな?」
「……商品の見た目はみほに選んでもらってもいいかな?意見はしっかりと出すから」
そうして二人は親子仲良くそのホームセンターに入っていく。そこで見つけた商品がこの後、ひと騒ぎ起こすことも知らずに。
そんなこんなで数十分後。買い物を終えた二人は自宅の扉の前にいた。
みほの携帯には、既にしほが帰ってきている事を知らせるメールが届いており、在宅を把握した二人は、買ってきた品物の準備と仕込みの為に少しだけ扉の前で時間を取られる。
一方で、しほは予定よりも早く終わった会合から戻ると、大きく空いてしまった時間を夕食の準備のために使っていた。
「……しばらくしていなくてもできるものですね」
ポツリとそんなことを呟く。
結婚してから自らの夫のために食事作りに勤しんでいた時期はあったものの、彼の食事の用意を西住家のお手伝いが用意できるようになってからしばらく料理をしていなかったしほ。
だが、一度覚えこませた経験というのはちょっとやそっとでは衰えないらしく、彼女の調理の手際は淀みなく、そして無駄もほとんどなかった。
キャベツ、人参、馬鈴薯、それとベーコンとソーセージを一口大に切る。少量の油を引いた鍋に潰したにんにくを入れ、香りが立ってから肉類を投入。肉から油が出ると、次に馬鈴薯と人参を入れ、馬鈴薯の表面をしっかりと油でコーティングしてからキャベツを更に投入。
しばらく炒め、キャベツから水分が出始めたら、材料がひたひたになるぐらいのお湯を入れ、塩で薄味をつける。
それからしばらく煮込み、ある程度のアクを取りつつ、馬鈴薯と人参に火が通ったら火を止め、一口大に切ったトマトを入れる。
こうして、夕食の一品であるポトフが完成する。あとは鍋の保温で、トマトにも火が通るのを待つだけであった。
しほやまほが所属する、あるいはしていた黒森峰はドイツの影響を強く受けている学園艦である。
なので、ソーセージや馬鈴薯が食べ慣れている食材の代表ともいえる。だが、彼が口にするには少し重たい料理が多いため、今回は同じ材料を使ったフランス料理であるポトフを作ることになったのであった。
「味は薄味。物足りなければ個人で塩か胡椒を……」
今晩のテーブルに並ぶ皿を思い浮かべつつ、彼女は次の一品を作ろうと冷蔵庫を開けようとする。
だが、その扉を開ける前に玄関の扉が開く音が聞こえてくる。
「まほにしては早い。なら、みほとあの人ね」
車椅子のタイヤを拭いているのか、少し間を空けてから二人はリビングに入ってきた。
「二人共、戻ったのならまずは手洗いとう、がい……」
帰ってきた二人に視線を向けると、言っていたセリフが途中で途切れた。
そこにいるのは、朝と同じ格好の夫と娘の姿。だが、全く同じではなく追加された要素があったのだ。
その追加要素は二人の頭頂部にあった。もっと具体的に言うのであれば獣耳である猫耳が付いたカチューシャが乗っかっているのだ。
「…………」
空いた口が塞がらない、とまではいかないが呆然とこれはどういうことかという意味を込めて、夫の後ろで満足そうな顔をしているわが子へと視線を送る。
その視線に気づいたみほはそれはそれは綺麗な笑顔とサムズアップを返した。
「……………………」
その笑顔に何が込められていたのかは、残念ながらしほには汲み取ることができなかった。だが、その時、やることは決まっていた。
しほはよくやったと言わんばかりに、力強く頷きを返したのであった。
「――――」
そんな中、しほは気づく。小声で彼がなにか呟こうとしていることを。
手もどこかもじもじと動かしている。何かをしようとしているというのはわかるのだが、どこか躊躇った様子を見せる彼。そんな彼に訪ねようと視線を合わせるように屈んだタイミングで、彼はそれを行った。
「にゃ、にゃあ~~?」
…………もうなんというか、あざとかった。とにかくあざとかった。
羞恥で顔を赤くしているのもそうだが、両手の指を丸めた所謂猫の手を顔の横に持ってきているのもあざとかった。
それの手の高さを左右それぞれ変えているのも、微妙にあざとい。
何かに――――というか、羞恥に堪えプルプル震えているのもあざとかった。
総評として、彼はあざとい。
これを素でしているのだから、年を考えろという話だ。
だが、された方としては満足だったらしい。
「……ありがとうございます」
その一言を聞いた娘は思った。「あんなに嬉しそうなお母さんの声は聞いたことがなかった」と。
はい、本編まったく進めずになにやってんだという話でした。
次回はまだ未定です。
前回の話で色々と混乱した人がいたのが感想で伺えたので言っておきますと、前回のはあくまで外伝とかそういった番外編なので本編とは関係ないです。
混乱した人には申し訳ありませんでした。