人それを『悪ノリ』という。
まぁ、アホな前フリはここまでにして、唐突に受信した何かを上げておきます。
本当にただの思いつきなので、色々と設定が穴だらけなのと、Fateシリーズ知らない人は分かりづらいと思いますが、それでもいいという方はどうぞ。
あと、それなりにネタバレです。
FGOをこれからやり始める人は閲覧注意です。
未来というのは不透明だ。
歩き始めるのが他の赤ん坊よりも遅かった人間が、世界レベルのランナーになることもある。
子供の頃から勉強が嫌いな人が、世紀の大発見をするかもしれない。
そして、人よりも劣るものが多い人でも、成し遂げられる何かがある。
その可能性を否定することができる存在は普通であれば存在しない。
だが、この世界ではそれが確定してしまう。
人間の滅亡という未来が。
――生き残りのマスター:二名――
人理継続保障機関カルデア。
人の未来を閉さない為のその組織は、裏切り者の存在により、活動を開始すると同時に大きな危機を迎えていた。
その活動を行う魔術師たちは、裏切り者の破壊工作によりその殆どが死に絶えた。
だが、そんな中にも生存者はいた。
カルデアのメンバーであり、医療部門のトップ兼代表代理ロマニ・アーキマンとその他の職員。
カルデアが呼び出した人類史に名を残す『英雄』であり『英霊』でもあるレオナルド・ダ・ヴィンチ。
元々マスター候補でありながら、事故によりデミ・サーヴァントとなったマシュ・キリエライト。
彼女のマスターであり一般公募の中から選ばれた限りなく凡才に近い魔術師、藤丸立香。
そして、本来であれば一般人であるが、その華奢な身体では考えられないほどの魔術回路と特性、そしてとある『起源』を併せ持つがゆえにカルデア直々にスカウトを受けた彼が生き残っていた。
――初召喚――
星空、若しくは宇宙を連想させるその空間には、ある魔法陣が設置されていた。
それは様々な魔術礼装や、英霊を召喚するためのものである。
今その場には、自前の車椅子に座るその男性が一人だけいたのであった。
『聞こえますか?ミスターヤサカ。貴方にはこれから人類史に名を残す偉人――――最高峰の使い魔にしてゴーストライナー、サーヴァントを召喚してもらいます』
「はい」
部屋には彼の姿しかないが、部屋に設置されたスピーカーからはロマニ・アーキマン――――通称、ドクターロマンの声が聞こえてくる。
その彼の指示通り、彼は部屋に入る前に持たされた金色の札を魔法陣の中央に安置する。
すると、それから数瞬の間を置き、部屋全体が鳴動を始めた。
「っぅ――――」
それと同時に身体の芯が蠢くような不快感と痛みが、彼の身体を蝕み始める。
その痛みととも、自身が何かにつながれる感覚を覚えた瞬間、それは姿を現した。
「影の国より罷り越した、スカサハだ。――――マスターと呼べばいいのか?お主…………それにしては弱々しい体躯であるな」
現れたのは、一国の女王であり、死ぬことのできない戦士であった。
――永続狂気帝国 セプテム――
湯気と共に、花の甘い香りが立ち込める空間。
普段は体を拭くだけで済ませている彼にとっては、全くといっていいほどの未体験の領域。大衆浴場ほど広い皇帝専用の風呂場に彼は連れてこられていた。
「……すごい香りです。咽せそうなほど……それにすごく暖かい」
「ふむ……弱視であれば、この荘厳な雰囲気は味わえぬか……ひとつ損をしたな、マスター」
自身のマスターである彼を両腕抱えた体勢。所謂お姫様だっこを自らのサーヴァントであるスカサハにしてもらい、彼はお風呂に入ろうとしていた。
「いつもすみません。戦う時も足を引っ張ってしまっていますし」
湯船の横に座り、かけ湯をしてもらいながら彼は申し訳なさそうに口を開く。
しかし、その彼の言葉に彼女はどこか呆れたような溜息を吐いた。
「どの口が言うのだ、我がマスターよ?貴様の探知に関する感覚は既に常軌を逸しているぞ。リツカやマシュもお前の存在に感謝をしている」
お互いの洗髪と洗顔、そして体も綺麗にすると母親が赤ん坊を抱くようにしながら二人は湯船に浸かる。
「…………僕の戦う理由が復讐に近いものでも、あの子達は僕に感謝してくれるのでしょうか?」
「…………」
ピチョンと、髪から滴る雫が湯船に波紋を広げた。
「あの街……燃える都市、冬木でアイツが、レフ・ライノールが、僕の家族をっ」
言葉に力がこもる。それに合わせ、彼は自分で自分の二の腕を抑えるように掴んでいた。
「泣いて、生きたいと言った二人を、二人だけでも逃がそうとしたあの人を、アイツは笑いながら、楽しみながら、手にかけてっ」
再び雫が落ちる。今度は先ほどよりも大きくて、そして冷たい雫であった。
「どうして……どうして……あんな……」
「今はゆっくりと休め。少なくとも、その小さな胸に抱く黒い感情も、それを悲しく思える魂も、マスターであるお前自身の優しさ故だ。それを誇れ。生き抜くための糧にしろ。取り戻せる未来は確かにそこにあるはずだ」
高揚した精神を安定させるために彼の額に使い捨てのルーンを刻む。すると弱視のはずなのに、感情に呼応するように開かれていた瞼が落ちていく。
やがて、寝息を立て始める彼の瞼からはしかし、薄く細い涙が流れ続けていた。
「…………もう出てきても良いぞ」
スカサハは体勢を変えずに、そう言葉を発する。
そうすると、大きな湯船の中央に鎮座するオブジェの裏から、スカサハと同じく主を持つサーヴァントであるマシュと、この特異点の存在する世界の住人であり皇帝であるネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスの二人が姿を見せた。
「スカサハさん……その弥栄さんは?」
「今は眠っている。どうやら、今まで殆ど気を張り詰めた状態だったらしい。ルーンを刻んだとはいえ、ここまで深い眠りにつくとはな」
マシュが恐る恐る尋ねると、スカサハはやはりどこか呆れたような言葉を返すのであった。その返答を受けてから、何を話し出せばいいのか分からないマシュは言葉に詰まる。
そして、少しの沈黙の後、それを破ったのはネロであった。
「……この者は、先の宴で皆を魅了するほどの調べを奏でたというのに、これほどの闇を抱えているのか?この小さな身体に」
赤き皇帝は憂う。
小さな身体に、復讐という火を灯すその哀しき人間に。
民を愛すが故に、何よりも愛に飢えた皇帝は嘆く。
その愛という感情を、憎しみの原料にしてしまった男を。
「マシュ、皇帝ネロ。お前たちは我がマスターを憂うか?恐るか?それとも憐れむか?」
「そんな……そんなことできません。だって、大切なものを亡くして悲しむことは間違っていませんし、それに復讐といっても彼は家族を取り戻すために戦っているのです。それをそんな感情を抱くわけが――――」
「だが、取り戻すために犠牲を生むことをこのマスターは傲慢ながらも憂いている」
「――――犠牲?それに傲慢というのは……」
マシュはスカサハの言葉を理解できなかった。
元々存在する正しい歴史を、今を、未来を取り戻すということのどこに犠牲がでるのか。そして、何をもってしてこの心優しきマスターが傲慢だというのか。
「人理を修復すると言うのが、過去、現在、未来を正しいものに戻すということ。ならば、今現在カルデアが調査している特異点とはなぜ生まれたのか」
まるで物語を詠うようにスカサハ語る。その今更の内容にマシュは戸惑いながらも答える。
「それは、何者かの介入が時代を歪め、て――――」
既に解りきった答えを口にしていくマシュの声が尻すぼみになる。
それだけで十分であったのか、スカサハは頷きを返すと同時に先の言葉の答え合わせを口にした。
「マスターは取り戻すために犠牲となるその元凶にすら、悲しみを覚えている。取り戻すこと、失うことはこの者の負担になっていないとは言わんが、自らの仇ですら憂いてしまうマスターの愚かな優しさを傲慢と言わずに何という?」
「でもっ、でも、これまでの探索では――――」
「犠牲を出すことを黙認していたことか?それは簡単なことだ。コイツの中の優先順位の問題だ」
どこかつまらなそうに彼女は語る。
「業腹な話かもしれないが、今目の前で戦っている相手に自分で手を降さなければ、次にそれをしなければならないのはマシュ……お前やもう一人のマスターであるリツカだ」
「え?」
「我がマスターは、このようなナリでも一人の父親だ。であるのであれば、子供に手を汚させたくはないのだろうさ」
その事実はひどく優しくて、とても残酷であった。
――封鎖終局四海 オケアノス――
人生初というわけではないが、嗅ぎなれない磯の香りと、三半規管に訴えかけてくる不安定で不規則な揺れ。それらを縛られ、座った状態で体験している彼は、身の危険を感じていた。
とは言って、揺れの原因が木造の船でありそれに伴う船酔いの所為とか、慣れない潮風が体に悪いとか、きつく縛られている所為で血の巡りが悪いとか、そういった直接的なものではない。
「デュフフのフ、拙僧、おねショタっていいと思うでござるよ。どう思うでござるか?エターナルショタ殿?」
どちらかというと、彼が感じているのは身の危険ではなく貞操の危機であった。
今の時点で、ちゃっかり“誘拐”された彼が無事なのは、流石に見た目子供の男を小汚いオッサンが色々としてしまうことに危機感を覚えた、二人でひと組の凸凹サーヴァントの頑張りがあった事を明記しておく。
――北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム――
スモッグの存在により、体調を崩してしまい途中退場となったロンドンの特異点を超え、ここ北米で彼は再び危機に瀕していた。
「さぁ、貴方の悪い部分を教えてください。問診は基本です。自己申告の部分、そしてこちら側が悪いと見受けられる部分を物理的に処置します。大丈夫、貴方のことは死んでも直しますから」
…………主に味方になった鋼鉄の天使の存在によって。
過剰な介護という名のナニカを受けながらも、彼は進む。もうひと組のマスターたちと、自身の相方であるスカサハと因縁の相手に。
――神聖円卓領域キャメロット――
ドクターロマン曰く、『誰かしらの介入』により、何故かレイシフト先が一人だけずれてしまい、再び孤立してしまう彼。
そんな彼のレイシフト先は何と一国の王の寝室であった。
「何者だ?どのような要件でここに来た」
凛とした高潔な声が部屋を走る。
その声の持ち主を見ることができないことを惜しく感じながらも、彼はそちらに体を向ける。
普段使っている車椅子がないため、ゆっくりではあるが彼にとっては最速の動きで着物を整え、声のした方に正座する。
そして、殆ど見えず、普段は閉じている瞳を顕にした状態で彼は告げた。
「このような見苦しい姿で申し訳ございません。私はカルデアという組織に所属する者です。私は身体と目が不自由な為、度々失礼な事をしてしまうかもしれませんが、ご容赦の程を」
そう言って頭を下げる。その所作は自身を下に見せる行為であるが、どこか気品があり、相対する相手を尊敬するが故の上品さが窺えた。
それが彼と獅子王との出会い。
獅子王にとって、唯一人間性を吐露できる相手を得た瞬間でもあった。
――絶対魔獣戦線 バビロニア――
彼はカルデアを訪れるまでは音楽の仕事をしていた。
作曲をすることもあれば、直接歌うことも、弦楽器を奏でることもある。
そんな彼がバビロニアの王に、そういった仕事を振られるのは当然のことであった。
「貴方、人間のくせにいい音を生み出すのね?」
そんな神でさえ一目置かれる王が認めた音楽家を、この時代の神が見逃すか?答えは否である。
彼は詠う。
生きるために、心を震わせる。
それは自身の心であり、聞き手の心である。
彼は歌う。
祈るために、送るために。
それは手向けであり、生命を想う誠実さである。
彼は謳う。
望むために、貫き通す。
それは自身の願いがあるがゆえに。
「――――――――…………さようなら」
今はもう映すことができなくなってしまった眼から雫を落としながら、彼はこの世界で犠牲となった多くの命がせめても安らかであれと望み、そして懺悔するようにその言葉を口にした。
――そして……――
「スカサハさん、アンさん、メアリーさん、アルトリアさん。令呪を持って命じます。僕の家族を新しいマスターとして、僕との契約を破棄してください」
レフ・ライノールは保険をかけていた。
小さな歪が、自身の計画を破綻させるものになるのではないかということを。
その為、冬木で手にかけたと見せかけ彼の家族を、ソロモン――――否、ゲーティアの力を借り、その魂を確保していたのだ。その魂を、新しい肉体に入れることで彼にとってのトラウマを刺激し、脅迫のための材料とするために。
そして、そのカードを最後の戦いで切る。カルデアのマスター同士で潰し合いをさせるための人質として。
だが、彼は自身の身を差し出しつつ、これまでの特異点での経験で信用以上の関係を築いたサーヴァントたちに願いを託す。
それは、自身の三人の家族との再契約。
それをする事で、自身の家族は最高の守りを手に入れたことになる。
――――――彼自身の未来を犠牲にして――――――
ここで切れます。
結末とか、細かい戦闘描写は考えてません。
大まかな設定としては、作中にあったように。マスターがある意味レーダー役やってるくらいです。