唐突ではあるが、西住家の女性陣は総じて家事能力が高かったりする。
理由は単純で、父親である彼の存在があるからだ。
詳しく言えば、しほは結婚する前から彼との付き合いで、彼のお世話をすることも少なくなかった。そして、彼の家で細かい世話の仕方を彼の母親である紬から聞き、食事の作り方も習っていたりするのだ。花嫁修業を意中の相手の母親から教わるという事に、思うところがあったりなかったりするしほであるが、それで彼の面倒を見られるようになるのであれば、安いものだと割り切ってはいたが。
そして、まほとみほの二人は幼い頃からお世話をされる父親を見てきた。それだけであれば、特に家事は身につかないのだが、二人の場合はそれを出来る範囲で手伝ってきていたりしたのだ。何故なら大好きな父親に構ってもらえる時間が増えるのだから。
こういった理由のため、西住家の女性陣の家事能力は高い。
とは言うものの、父親である彼も着物や服の折り畳みなどは普通にできるが。
「ごちそうさまでした」
要するに、いつも仕事やら何やらで家事を家の女中にまかせっきりの西住家でも、平均的な一般家庭の食事よりも美味しい物を作れたりするということである。
大洗の弥栄の家で、西住家と女中の菊代は夕食を終えていた。
作る側にならない珍しい食事を終え、流石に何もしないのは沽券に関わるということで食後の後片付けをし始めたのは菊代であった。
それに続くように、二人の姉妹は一緒にお風呂に入るらしい。
介護もできるようにと大きめな浴室であるため、二人の高校生が入るには十分な大きさである。もっとも二人にとっては久しぶりの姉妹の会話を二人きりでできる方が重要であるらしいが。
残った二人、西住家の夫婦はしばらくぶりに二人きりで大洗の夜の学園艦に散歩に出ていた。
「……学園艦を練り歩くのは何年振りかしらね」
車椅子を押しながら、しほは呟く。
彼女は戦車道の指導をすることはあるが、それはあくまで一部の社会人チームなど一部の人々に対してだけである。その為、高校のチームである黒森峰でもそうそう彼女が指導に向かうことはなかったのだ。
「……二人で出かけるのがまほが生まれて以来っていうのは覚えているかな」
その彼の言葉にしほはハッとした。
「やっぱり色々と我慢もしていたのかな?」
「そんなこと――――」
「学園艦に限らず、もっと行きたい場所もあったんじゃない?」
下手に言い訳しようものなら、逆に傷つけてしまうと考えたのかしほは悩んだ末に正直に「はい」と答えた。
「……意地悪な言い方だったね、ごめん。……でも、ありがとう」
そう言いながら、彼は自分の肩に手を置くように腕を動かし、車椅子のグリップを握るしほの手に自らの手を重ねた。
お互いに久方ぶりの伴侶の手の感触に安心しながら、いつの間にやら住宅街に一番近い艦の淵に沿って設置された公園に着いていた。
「この時期でも、やっぱり海沿いが寒いのは変わらないわね」
公園のベンチに彼を座らせながら、しほは車椅子に常備しているひざ掛け用の毛布を彼の肩に掛けてやり、自身もその隣に座る。
「……急にいなくなってごめんね」
どこか弱々しい声で、彼は呟く。
「……心配しました。あと、怖かったです」
「……うん。僕もすごく怖かった」
二人が怖かったのはお互いに怒られたり、嫌われたりすること――――ではない。そういうことを思いつないほどに、この二人は相思相愛なのだから。
二人が恐れたのはこれ以上会えなくなってしまうことだ。
言ってしまえば、彼は発作一つで簡単に命を落とす。それは数年先のことかもしれないし、数秒先かもしれない。その事に覚悟がないのではなく、最後に家族が散々の時にそうなってしまえば後悔をしてしまうのが怖いのだ。
「今、声を聞けるのがとっても幸せだと思う」
「ええ」
体格的に小柄な彼の方が、しほの肩に寄りかかるようにする。
「弥栄の家を用意することが貴方の目的だったのかしら?」
「うーん……確かにそれが一番の目的ではあったけど、本当にみほのことも心配だったよ?」
彼は西住と言う立場が、しほ、まほ、みほの本音を言えなくしているのだと考えていたのだ。だから、遠く、西住の家から離れた場所で、自身の作家としての名前である弥栄の表札を彼は使った。
西住と言う名前が意味を持たなくする場所を作るために。
「……髪を切りましたね」
「うん……みほの友達の親御さんが床屋さんで、そこで切ってもらった」
彼の額にかかる前髪を指で整えてやりながら、しほは語りかける。
「しほは少し痩せたかな?」
「いつも痩せている貴方ほどではありません」
座ってお互いにくっついている側の手を繋ぐ。
「波の音……行けないと思っていた海に二人で来れた」
「ええ……寒くはない?」
「しほが暖かいから大丈夫」
海の音を聞く。水や川の流れる音とは違い、大きくて、それでいて深い音が二人の耳朶を打つ。
「そろそろ帰りますか?」
「もう少しこのまま……」
珍しく我が儘を言う夫に、やれやれと思いながらもしほは、その華奢な身体を抱き寄せてやった。
同じく公園内のちょっと離れた場所
「いい加減行くぞ」
「ちょっと待ってよ麻子!あそこに若いツバメを射止めた大人の女性がいるの!」
「お前……出歯亀は趣味が悪いぞ」
弥栄のお隣の西住さん家
「それで?」
「……何が?」
「とぼけるな。お父様の写真を撮っているだろう」
「……………………ナニヲイッテイルノカワカラナイヨオネイチャン」
「ほう……」
「あ、あ、待って!正直に言うから、携帯のファイルは!ファイルだけは!」
ところ変わって榊さんの家
「日中は挨拶できずにすみませんでした」
「いや、かまやしねえよ。相変わらず律儀だな、井手上」
「そういう家ですし」
「お父さん、どなたか来てるの……って、菊ちゃん?」
「あら、久しぶりね、さっちゃん」
「本当に久しぶり!でも今は榊の名前じゃないから『さっちゃん』じゃないわよ」
「結婚して、確か――――」
「そう、今はナカジマ姓よ」
至極どうでもいいですが、最近、行き詰まった時に書いてるISと鉄血のクロス物を投稿するかどうか悩んでます。
……既に三話分ほど書いてる自分は、先にこっちを書けよとセルフツッコミの日々です。