似て非なるもの   作:八割方異形者

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アーケードの深海勢はかわいい。


出会いは突然に

 「……っくしゅ!」

 

 ぶるりと、一つ身震いをする。ずぶ濡れのままでいた為か、体が冷えてきた。

 この身体がどれだけ丈夫かは不明だが、救助の当ても無い状況で体調を崩したら生命に関わる。

 俺は羽織っていた黒パーカーと履いていたホットパンツ、ブーツを脱いで

 海水を絞り、ちょうど近くにあった平たい岩の上に干す。

 全裸になって海岸を駆けまわりたい衝動に襲われたが、理性が邪魔をしたので

 現在の姿は黒ビキニっぽい服一丁で収まっている。

 

 「……明るい内に周囲の確認をしておくか」

 

 とりあえず、いつまでもこのままではいられない。なにか意味のある行動をしなくては。

 身体の状況や今までのこと、これからの事を棚に上げ、俺は島の探索をする事にした。

 

 「といっても、森に入るのは……怖いな」

 

 島の全体像は不明だが、森の中で迷ったらこの砂浜に戻れる保証は無い。

 もし、森の中でさ迷ったあげく、毒を持つ虫や、蛇、獣などに襲われたりしたら?

 もし、その状態のまま日が暮れた場合、さらに危険な状況になったりはしないか?

 嫌な想像が、際限なく頭からボコボコと湧いて出てくる。

 

 「島の周囲を回るか。もしかしたら誰か居るかもしれない」

 

 思い立ったが吉日。さっそく行動を開始する事にした。

 生乾きの服を着直して、サクサクと砂を踏みしめながら進む。

 木の枝や空になったラムネの瓶、ポリタンクらしき物など様々な漂着物が確認できる。

 なにかに使えるかも知れないと、使えそうなものを集めながら先に進む。

 

 「ラムネの瓶があるって事は、これを造った人がいるって事だよな」

 

 姿が変わってしまっても変わらない物があるんだと、変な安心感を覚えながら探索を進めていく。

 次第に砂地に岩が混じるようになっていき、岩場へと景色が変わってきた。

 急な斜面、勾配が立ちはだかるが、不思議と苦労することなく進む。

 

 外見は15、6才くらいの少女にしか見えないが、恐らく高い身体能力なんだろう。

 もともとは、人類側が用意した地球外生命体(エイリアン)への最後の切り札……という設定だったか。

 そんな重要な人物になってしまった俺が、何の因果か右も左も分からない状態で途方にくれている。

 そのギャップがおかしくて、少し笑ってしまう。

 

 岩場を抜けると、目覚めた場所と同じような砂浜が目の前に現れた。

 ただ違う所があるとすれば、砂浜にコンテナらしき物が打ち上げられている事か。

 近くまで寄ってみた所、全長は5、6メートルくらい。これもどこかの船から流れ着いたものだろうか。

 扉部分は半ば開いており、そこから入り込む事ができそうだ。

 扉の前に収集してきた漂流物を置き、扉の前に立つ。

 3度、ノックを行い反応が返ってこないことを確かめる。

 

 「……失礼します」

 

 侵入するという行為への背徳感か、はたまた現代社会ですり込まれた作法か。

 コンテナ内部に面接官がいたなら「どうぞ」と返答があるだろうという挨拶をした後、中に身体を滑り込ませる。

 当然、中には誰もおらず、挨拶に対しての返答もなかった。期待はしていなかったが、ちょっと寂しい。

 

 日光が照り付けたせいか、中は夏場のビニールハウス、浴場のサウナのような蒸し暑さだ。

 コンテナの中はがらんとしており、貨物物らしきものは見当たらない。食料や飲用水があればという甘い考えは見事に打ち砕かれてしまった。

 一つ舌打ちをし、踵を返そうとしてふと妙なものが視界に入る。

 あれは……いわゆるバケツだろうか。緑のカラーリングに白抜き文字で「修復」と描かれている。

 

 「………………まさか」

 

 拾い上げて中身を見てみると、中身は水色の液体で満たされている。

 味も見ておこう。疲れが取れるかもよ。と本能が理性に囁くが、鋼の精神でそれを押さえ込む。

 しかし、これがあるというという事は。俺が居るこの世界は。つまり。

 

 「艦隊これくしょんの世界……」

 

 理性が逃れられない現実を、突きつけてきた。

 

 俺は頬をつまんで、そのまま上下に引っぱる。

 やわらかな頬肉が、指を押し返してくる。まるでつきたてのお餅のような感触だ。

 

 「ああ……痛いな、普通に」

 

 知らない世界で独りになってしまった心細さか、強く引っぱりすぎた痛みか。

 目の奥が熱くなり、涙で視界がぼやけてくる。

 今までのことが夢で、ここで覚めてくれれば笑い話にできそうだったが、やはり現実は非情らしい。

 戦わなきゃ、現実と。という事か。さすがに訳の分からないまま命を失うのは、非常に嫌である。

 泣くのは後にして、衣食住を確保せねば。俺はこぼれそうな涙をぬぐい、生き残る為にどうするか考える。

 

 

 「使えそうな物はコンテナの中に……っと」

 

 ぶつぶつと呟きながら、此処にくるまでに集めた漂流物を入れていく。

 ひとまず、このコンテナを拠点にして動いたほうがよさそうだ。

 居住性はさておき、雨風をしのげる場所が確保できただけでも幸運と思わなければ。

 

 ふと、海上の方面から何かが羽ばたくような音が聞こえる。

 反射的にそちらに目を向けると、海鳥の群れが一斉に飛び立つのが見えた。

 なにか違和感を覚え、飛び去った跡に目を向ける。海は先ほどと変わらず凪いでおり、平穏そのものだ。

 なぜ、あの鳥たちは飛び立ったんだろうか。まるで、なにかから逃げるような印象を受けたが。

 

 目を凝らしてみると、飛び去った海面に筒の様な物体がちらりとのぞいているのが見えた。

 それは徐々に海面へと浮かび上がり、その全容を俺の目前に現す。

 表現するならそれは―――人と機械が混ざったような異形だろうか。

 ドラム缶の様な円柱型の胴体、その中央部には女性の形をした上半身。にしては両腕がやけに筋肉質である。

 胴体部分の両側と上部には数門の砲塔があり、もし発射された弾を受ければ、紙のようにこの身を貫くと想像できる。

 

 そんな異形が、こちらに向かってくる。

 フワフワと左右に揺れながら、確実に、ゆっくりと。

 全身が総毛立ち、歯がカチカチと音を立てる。

 頭では逃げろ、と警鐘が鳴り響いているが、恐怖という名の圧力に身体は縛り付けられ、全く言うことを聞かない。

 叫び声を上げようとしても、口は空気を求める魚のようにパクパクとするだけで、喘ぐような声しか出すことができない。

 足の力が抜け、ストンと尻餅をついてしまう。それは未知の脅威に対する恐れで、身体を支える役目を膝が放棄した結果だった。




ブラウザ版の深海勢もかわいい。

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