似て非なるもの   作:八割方異形者

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環境が変わり遅くなりました。すいません(艦これアーケードしてました)


ディフェンスオブザハート

 中枢棲姫との面談が無事終了し、開放された気分のままに息を吐き出す。泊地に滞在する事は許されたが……これからどうするか。来た道を引き返しながら、思考を回転させる。

 まずはここまで案内してくれたタ級にお礼。あとはホ級とヲ級に無事終わったと報告するくらいか。歩く足を緩めず、あの三人が待っていると思われる地点を目指す。

 正直、誰も居なかったらさすがに泣く自信がある。

 

 「……疲れた、もう帰りたい」

 

 選択を間違えたら即終了という針のむしろ状態は、予想以上に自分の精神を削っていたらしい。口からうっかり素がこぼれ落ちるのを、隠す気力さえ湧いてきやしない。

 ひとまず生き延びたという安堵もプラスされ、疲労感がドンと身体にのしかかる。さらに倍、とならないだけまだ有情といった所……そんな考えもぼんやりと浮かんでくる。

 そんなくたびれた思考とは裏腹に、身体は冷静に上陸した地点に歩を進め――見覚えのある三人の姿が視界に映る。

 

 「ヲッ」

 

 最初に気がついたのは、二人の話に加わらず、どこか所在なさげにしていたヲ級。

 俺の姿を認識すると、どこか期待を込めた……いや、明らかに期待した様子で敬礼をしてくる。ホ級とタ級は何か話し込んでいる様で、こちらにはまだ気付いていないようだ。

 

 先ほどのやり取りがよほど気に入ったのか、それとも今までまともに挨拶を返す深海棲艦がいなかったのか。前者なら嬉しいが、後者なら……不憫というしかないだろう。

 その期待に対し返答をしない、無視を決め込むといった鬼畜行為は許されるだろうか――否、許されない。頭によぎった悪魔的選択を刹那で否定。即座にヲ級にむけて挨拶を返す。

 

 「ヲッ」

 

 話し込んでいた二人の視線が、ヲ級をちらりと見た後、敬礼をしたままの俺へと向けられる。

 

 「戻ッタカ」

 

 「……ソレ、気ニ入ッタノ?」

 

 「とても(トテモ)

 

 同じ単語が、同時に異なる口から発せられる。今更ながら、ヲ級の声……というか意味のある発言を初めて聞いた気がする。

 そんな俺達を見て、痛い子を観察するような生温い目でこちらを見てくるホ級とタ級(ニ名)

 その視線に若干居心地の悪さを感じるが、さらっと流して中枢棲姫との間であった事を手短に報告する。

 

 「ナルホド。コレカラハ工廠棲姫様、ト呼ベバ良イノカ」

 

 「工廠でお願いします。長いし、私は敬称を付けられるほど偉くも無いですから」

 

 俺は肩をすくめ、ホ級からの冗談が多分に混じった提案を丁重にお断りする。

 もっともらしい理由を並べたが、正直な所、姫様と呼ばれてしまった場合、違和感を覚えるというか、肌が粟立つというか。

 まあ、もう既に胸部に無い物があったり、大事な場所に存在していたモノが無かったりしているのだが、それはそれ。これはこれ。

 要は自身の精神安定を図る為のワガママである。

 

 「ひとまず挨拶は無事終わったので、私は少し泊地内を周ってきます」

 

 そんな本心を隠すため、多少強引に話を切り替える。中枢との思いがけない出会いもあり、精神的に疲れたため横になりたいという思いもある。

 先ほど見えた崩れかかった建物の中に休める場所があれば幸運なのだが、まずその場まで行ってみなければ判断がつかないだろう。

 ……とりあえず行動か。俺は軽く頭を下げ、その場から離れようと踵を返す。

 

 「工廠、私モ付イテ行ッテ良イカシラ」

 

 呼び止める声が耳に入り、その場から離れようとした身体をそちらに向ける。

 

 「いえ、そこまで世話になる訳にも」

 

 「案内役ハ必要デショウ? 貴方、迷子ニナリソウダシ」

 

 半ば語尾を食う勢いで、タ級が俺への同行を申し出てくる。たしかに、全く周辺の状況がわかっていない状態で一人歩きをしたら迷子になるかもしれない。

 その申し出はありがたいが、どこかタ級の雰囲気がおかしいように感じる。出会ってからの期間は短いが、ここまで強引に話を進める印象は受けなかったが。

 

 「分かりました。一緒に行きましょう」

 

 タ級の意図は不明だが、わざわざ断る理由も見当たらない。こちらとしても単独行動するより安心だ。

 

 「私ハココデ少シ休ム」

 

 「見回リ……シテマス」

 

 二人はどうするのか視線で問いかけると、どうやらこの場所に残るようだ。少し残念だが、無理強いもできない。

 俺は軽く二人に手を振り、先ほど見えた建物に向けて足を進め――ちょうど、振り返ってもホ級とヲ級の姿が視認できなくなった位の所で、タ級が思い詰めたような声色で話しかけてくる。

 

 「工廠、ゴメンナサイ」

 

 突然タ級がこちらに向けて頭を下げ、謝罪してくる。

 俺はいきなりの謝罪が理解できず、疑問符を浮かべたままタ級に視線を向ける。思い当たる節がないが、俺に謝罪をしなくてはならない事をタ級はしたのだろうか。

 

 「貴方ヲ私達ノ仲間ニ入レヨウト、汚イ手ヲ使ッテシマッタワ」

 

 ごめんなさい、とタ級は一度頭を上げた後、重ねるようにもう一度頭を下げてくる。タ級が謝罪しているのは、先ほどの交渉中にあった、ホ級に対する事だろうか。

 たしかにあれは、一種の人質といっても過言ではなかったし、その時は感情的にも納得はできなかったが……今の俺には相手を責める気持ちは無い。

 中枢棲姫からの命令ならば、従わなければタ級の身が危険に晒される事になるだろうし、もし自分がタ級の立場であったとしても、恐らく同じ事をするだろう。

 この世界ではどうか不明だが、基本、上司の出した命令に従わないのはよくない事だろうし。

 フォローになっているかはわからないが、別に気にしていないし、あの状況なら仕方がないという事をタ級へ伝える。

 

 「貴方、何時カ悪イ人ニ騙サレソウダワ」

 

 一つ溜息をつき、タ級が心配そうにこちらを見つめてくる。どこか呆れられているような雰囲気を相手から感じるのは気のせいだと思いたい。

 

 「大丈夫、人には騙されませんよ。深海棲艦ですからね」

 

 軽く、冗談めかしながら断言する。

 いくら俺が元人間であると主張しようが、 人と艦娘(あちら)にとっては戯言にしか聞こえないだろうし、対話する事は不可能だろう。

 ゆえに騙される等の選択肢は存在しない。言葉より先に鉛玉が飛んでくるのは簡単に思い浮かべる事ができる。

 

 「ソウネ、私達ハ――深海棲艦ダモノネ」

 

 俺の返答に対し、タ級は一瞬不思議そうに視線を泳がせたが、すぐに合点がいったようだ。

 タ級はおかしげに顔を緩ませながら、それでいてどこか安心した様に、俺に向かって笑いかけてくる。よく分からないが、俺の返答はタ級の心配を払拭するものであったようだ。

 

 「時間ヲ取ラセテゴメンナサイネ、行キマショウ」

 

 要は、俺に謝りたかったという事でいいのだろうか。話を切り上げ足早に先へ進むタ級を、わからないままに追いかける。

 結局どういう事なのか、その後何度かタ級に問いかけるが、笑顔ではぐらかされるばかりで満足のいく答えは得る事ができなかった。


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