投稿するのは初めてとなりますので、色々と拙い点があるかと思います。
どうぞ、よろしくお願いします。
――夢を見ている。
俺は闇に塗り固められた空間の中を、一人ふわふわと漂っている。
身体は動かず、上下左右の感覚もあいまいだ。
「じゃあ、俺は――生まれ――転生――か?」
ふと、闇の中から聞き覚えのある誰かの声が聞こえる。
その誰かは声を弾ませ、まるで新しい玩具を与えられた時のように喜んでいるように聞こえる。
「然り。そのかわり――代償――」
なにかの音が頭に響く。
それは判を下す閻魔のような、地の底から鳴り響く質量を感じる音だった。
状況が理解できぬままに、その誰かとなにかの会話が進んでいく。
会話は電波状況が悪いラジオのようにノイズが走っており、聞き取れない。
いったい何を話している?
転生や代償などといった、穏やかではない単語が聞こえる事が、さらに不安に拍車を掛ける。
「了承した。では、よい生を」
なにかがそう告げると、ふっと誰かの気配が消え去った。
残されたのは、いまだに状況が掴めない俺と、そのなにかだけ。
「さて」
なにかが近づいてくる気配を感じる。
その気配はすぐそばで止まり、告げた。
「さて……お前はどうする?」
「哀れな――よ」
それに答える間も無く、ありえない夢は唐突に終わりを告げた。
寒い。冷たい。息苦しい。
それが次に感じた感覚だった。
目を開ける。ぼやける視界。まるで水の中にいるような…いや、実際に水の中にいるのか?
言葉を発しようとしても、意味を成す前に空気の泡となって水面へと消えて行く。
疑問ばかり頭に浮かんでくるが、いい加減息が苦しくなってきた。ひとまず呼吸をしなければ。
そう思い立ち、光が射す方角へ泳いでいく事にした。
「ぷはっ」
水面へと顔を出し、新鮮な酸素を肺へ取り込む。自分で思っていた以上に、水中に長い間居たようだ。
身体が欲するままに息を荒げて呼吸をする。
落ち着いてきたところで、周囲を見渡す。周囲は青い海が広がり、遠くに白い砂浜、上空にはこれまた青い空が広がっている。
「なんだこれ。海……か? また随分と現実感のある夢だな」
……いや。夢にしては感覚がリアルすぎる。味覚は海水によるしょっぱさで埋め尽くされているし、ギラギラと肌を焼く陽射しの熱さまで感じる。
水に関する夢なんて、それこそ寝小便を現実でしない限りは見ない……だろう。
流石に日本地図を布団に描くような年ではないと、混乱した頭で結論づける。
「駄目だ、頭が回らない。ひとまず陸に上がるか」
先ほどから聞こえる自分の声が、透き通った――少女のような声だという違和感を無視しながら、俺は砂浜に向かった。
砂浜に上がり、再度自らの状況を確認する。
現在俺が立っている場所は砂浜。正面には鬱蒼と樹木が茂っており、日が射しているにもかかわらず、地面には黒々と影が落ちている。
一つ息を吐き出し、砂浜の上に腰を下ろす。
これは……どういうことだろうか。
昨日はアルバイトが終わった後、まっすぐ家に帰り寝たはずだが……。
「―――わからない」
自分の脳みそで理解できる状況ではないと判断し、溜め息をつき首を振る。
その勢いで、水を滴らせた長い黒髪が、海草のように頬に張り付いた。
いや、これはもう認めるべきだ。
まさか、ありえないだろうそんな事。
二つの相反する思いが湧き上がってくる。
俺は自分に起こっている変化を確かめようと、飛び上がるようにして立ち上がり、波打ち際まで走る。
海水を含んだ黒いロングブーツが、地面を踏むと空気を押し出しガポガポと気の抜けた音を立てる。
それに若干の苛立ちを感じつつも、俺は波打ち際に屈みこんで穴を掘り、そこに海水を溜めて自分の姿を映した。
「これが……俺?」
後頭部付近で結われた、左右で長さの違う二房の黒髪。
一般的にはツインテール……と呼ばれる髪型だろうか。
右の房は腰の辺りまで、左の房は膝の辺りまで伸びている。
肌は透き通るように白く、染みの一つもない。
そして両目は深海の様な深い青色。
冷たい印象を与えるであろうその目は、不安に彩られ、力なく揺れている。
心臓の動きが早くなり、自然と胸に右手を置く。
手に程よい弾力が感じられ、慌てて自分の身体を確認する。
「……胸がある」
胸筋ではなく、胸板でもない。
膨らみはささやかなれど、これからの成長に期待せざるをえない、可能性を秘めた胸が自らの胸部に存在している。
……いかん、雑念よ去れ。現実逃避は後回しだ。
頭を左右に振り、着ている服を再度見直す。
全体的に黒で統一されており、インナーはビキニ、その上にホットパンツを履き、上着はパーカーを羽織っている。
さらに左肋骨の辺りと右わき腹に、バーコードのような模様が刻まれているのを確認できた。
「この服装と顔……まさか」
状況を考えて導き出された、現在の状況に乾いた笑いがこぼれる。
少なくとも、俺の記憶ではエイリアンが攻めてきたとか、人類が絶滅の危機だとか。
日常がマストダイな状況ではなかったはずなのだが……どうしてこうなった。
「ある日、目覚めたら見知らぬ場所で、BRSになっていたと」
自己確認するように、そう呟く。
頭の中は、相変わらず疑問と困惑がぐるぐるとレースを繰り広げている。
「……本当に、訳が分からない」
何気なく空を仰ぐ。
空は俺の気分を嘲笑うかのように、雲ひとつなく晴れ渡っていた。
む……難しい。
書くということがこうも難しいものとは。