それではどうぞ。
○
sideこいし
「あんたが身を挺して護っていれば―「分かった!百歩譲って俺が―「あぁ~動いた後のお酒っていいねぇ~」
「「何一人で呑んでんだよ(のよ)!!!」」
「え?ちょ、ちょっとぉ!聞きなさいよ!」
巫女さんとお進と師匠の騒がしい言い合いが繰り広げられている中、わたしは声のした方に顔を向ける。
すると、そこには人里に買い物に行っていた巫女さんに暇だとかの理由で地上に来ていた所を無理やり買い物に連行された天人の人が立っていた。
「…ん、ああ、悪いわね天子。なんか嫌な予感がしたと思ったら案の定
「エッヘン!」
「…何故自慢気?」
なんて師匠は巫女さんの言葉に対して踏ん反り返って自慢する始末…。いや、そんな高揚したテンションでいられてもさ、ちょっと前まで身の危険に晒されてたわたしからすれば割と深刻なんだけど…。
…それにお進の言う通り、何も自慢出来る事じゃないと思うし。
「ふふん♪」
「……ああもう!!」
そんな胸を張っている師匠に呆れてしまったのか、巫女さんは指していた指を下ろして行き場の無い溜息を吐きながら縁側に移動し始める。
「…どいつもこいつも自由過ぎるわよ…はぁ〜あ」
「俺だって溜息吐きてぇよ…ただ見てただけなのに変な言いがかりつけられたしさ…」
「「……はぁ」」
は、ははは…。巫女さんとお進は嫌がらせかってぐらい大きな溜息を吐いてはお互いに愚痴り合ってる。
「おや一進、言いがかりってのは些か正しくないよ。私達がやりあってる時にさ、確かにお前さんは傍観を決め込んでいたじゃないか」
巫女さんとお進はお互いに疲れた様な顔をしていた所……あ~
……それにしても言いがかり?
ああ、師匠が境内を壊しかねない攻撃をしていたのにお進はそれを止めなかったって事かな?…う〜ん。まぁ師匠の言ってる事もあながち間違いじゃ無いんだよね。お進はわたしが師匠と戦ってる時も介入する気なんて無さそうに座って見ていたからさ。
しかも、転ばされたわたしを護る為に結界を張ってくれたのは巫女さんだったからね。確かにお進は何も動かなかったから師匠がそういう考えに至ったのも分からなくは無いよ。
…それでもわたしはお進を悪く言うつもりは全く無いんだけどね。だって、わたしはわたしでお進がわたしの事を信じてくれているから手を出さないでいてくれたのだと思っていたもん。
「…………ハァ」
「…人の顔見た後に思いっきり溜息吐くのも中々酷いと思うけどねぇ」
「ほら!一進、茶」
「あ?茶?……ああ、淹れて来いってか…。いや、別に淹れてやらん事も無いけどよ…もうちょい人に頼む態度があると思うぞ?」
お進はわたしと師匠が特訓してる時から座ってたから暇とでも思われたのかな?移動した先でくつろいでいるとお進は買って来た物を仕舞い終わった巫女さんにお茶を淹れる様催促されていた。
「あっそ。ああ、さっき新しいのを買って来たから出涸らしなんて使わなくていいわよ」
「聞く耳持たねぇのな…。はぁ…淹れりゃいいんでしょ淹れりゃ。……にしても出涸らしって…」
「うっさいわよ!そう思うのなら表の賽銭箱に入れるもん入れて来なさい!!…私なんてここ数ヶ月お賽銭を見てないのよ…」
巫女さんは小さく呟いたお進の声を耳聡く聞いていたみたいで、大きい声を出しながらビシッと賽銭箱に向かって指を指す。
……ちょ、ちょっとちょっと。数ヶ月お賽銭無しだったの?それでよく暮らしてたね…。
言葉の後半にいくにつれて、張っていた声もだんだんと小さくなっていく。…そんな訳で、わたしは次第に切実な感じがいたたまれなくなり、巫女さんのあまりの不憫さに心を打たれちょっとぐらいお賽銭を入れようと考える。
「入れるもん入れろ…って事は直訳すると金を寄越せって事だろ」
「…あ、あのさ巫女さん?少ないけど―「い〜や待てこいし」―っと。え?どうしたのお進?」
不憫な巫女さんの為に賽銭箱に向かおうとした所、わたしはお進に軽く腕を掴まれて再び縁側に座らされる。
不思議に思ったわたしはお進を見てみるけど…お進はわたしの方を見ずにその瞳は巫女さんの方を「…チッ」見ている……。
……。
「……え?舌打ち?」
「やっぱりな」
わたしは舌打ちの発信源だと思われる巫女さんと、何処か納得した様なお進の顔を交互に見ては首を傾げる事しか出来なかった。
「もう少しみたいだったけど…流石に諦めるわ。小銭なんかであんた達と険悪な関係になんてなりたく無いし」
「って言うぐらいなら最初から欲しがるなっつーの。こいしの優しさを弄びやがって」
「はいはい悪かったわよ」
…え〜と、巫女さんが続けた言葉のお陰でなんとなく分かったけど…今の話の感じからすると、もしかしてわたしからお賽銭を理由にお金を取ろうとしただけだったの?
「俺が外の世界に居た時に紫からチョロっと聞いただけだったけどよ…お前は幻想郷でかなりの重要人物なんだから生活出来ないレベルで金に困るって事はあり得無いだろ」
「そりゃね。何かと紫が援助してくれるから困る事は無いわ。でも逆に最低限度の事しか賄ってくれないから贅沢は出来ないのよ」
ああ成る程。だから他の人からお金を貰って、それを生活の質の向上に充てたかったんだね。
「最低限度でも支給されるだけいいだろ。こちとら生きるのに必死に働いてんのに財布が軽い事軽い事」
「…そう言えばあんたって、外界からこっちの世界に移り住んだの人間なのよね。それなら紫にでも頼んでみれば?何か工面してくれるかもよ?」
「全力でゴメン
そう言ってお進は世知辛そうに言葉を繋げる。
…まぁ、確かに巫女さんの言う通り紫はお進の願いなら大概の事をやってくれると思うよ。不満だけどそれだけお進は紫に気に入られてるし大切にされてるし…ホントは不満なんだけどね!
「って言うかあんたってこいしのとこの使用人じゃないの?財布が軽いって言ってたけど…まさかタダ働きでもしてんの?」
巫女さんは信じられないといった具合にわたしに非難の目を向けて来る…。
え、いや、わたしに言われてもどうしようもないって言うか別にタダ働きなんてさせてるつもりは無いって言うか…。それに、ウチで経済を握ってるのはお姉ちゃんだからわたしが非難されても…。
「ああいや、別にタダ働きじゃ無いよ。だけどどうせ使い道無いからあまり貰ってないって感じだな」
「わたしもお進も幻想郷で生きるのにそこまでお金が重要って訳じゃないから大して気にしてなかったよ」
そもそも何で巫女さんはお進がわたしのペットだって知ってるんだろ――ってああ、そう言えば紅魔館で会った時にわたしが自分で言ってたっけ。
…懐かしいなぁ。あの時は巫女さんにお進がわたしのペットじゃなくって、フランちゃんの所の従者だって思われていたんだよね。全く…お進の一番はわたしなのに皆勘違いするものだから困っちゃうよね。
……紅魔館…か。暫くフランちゃんに会えなくなっちゃってるけど…今はやるべき事があるからそっちを優先させないと。
「…お金が重要じゃ無いって…一体どういう感性してんのかしらね」
「そう言うなって。つまる所恩返し的な?…俺が幻想郷に来てさ、衣食住まで提供して貰ったんだからそれ以上は求め過ぎな気がするだろ」
「……そういうものなの?」
「そういうもんだよ」
「…ふ〜ん」
…で、ちょっと待とうかお進。何か感動的な事言ってるけど衣食住の提供?財布が軽い?お金が無いって?いやいやいや何言ってるの。それは――。
「どうしたのよこいし?」
「あり得…え!?あ…い、いや!何でもないよ!」
「はぁ?」
わたしは唐突に巫女さんに声を掛けられたものだから驚いてかなり不審な反応を返してしまう。その所為で巫女さんはスゴく不思議そうな顔してるけど…いや、だってさぁ…。
「だ、大丈夫大丈夫♪ホントに何でも無いから♪」
「…そう?」
「そうだよ♪」
…………。
……あ、危なかったぁ…。巫女さんにお進がそれっぽい事並べて平然と嘘ついてるなんて絶対に言えないもん…。
そもそも、衣食住のうち衣は紅魔館と人里の物だし…食はお進が自分で作れるし、住居なんて色んな所転々としてるから
それにさ、お進はお金を持ってないなんて言ってたやつ…さっきは流したけどちゃんと給料とかでお姉ちゃんから渡されている筈だったよね?そんな訳でお進のお財布にお金が無い訳では無いんだよ。
…因みにさっき巫女さんと天子がお進を人里に連れてったら色々サービスがあったと思うし…。まぁ、それはお進自身が里の人に申し訳ないと感じて申し出なかったみたいだったけどね。それだけ白玉楼での買い出しの時に優遇して貰ったみたいだし。
「んじゃ、まぁ取り敢えず賽銭の代わりに湯呑みにでも茶を淹れて来てやるよ」
メンドくさいけど、とお進は折角座ったのにみたいな感じを出して渋々腰を上げる。
…そしておそらくお進の言葉にはさ、お茶を淹れてくるのが賽銭の妥協みたいな意味が含まれているけど…その実結局は初めから巫女さんの頼みを聞いてるだけなんだよね。
「どうせ他の奴も飲む――と思ったけど…どう考えても
「おう!私にゃコレがあるからねぇ♪」
そう言っては師匠は自分の持ってる伊吹瓢を傾けてその中身を呑み続ける。…言わなくても分かるだろうけど当然中身はお酒だよ。
確か酒虫(だっけ?)をなんやかんやして作った瓢箪らしいんだけど…ただの水を大量のお酒に変えたり出来るんだって。わたしも師匠が面白がって前に一回呑ませてもらったんだけど……アレは口に入れた途端痛みが広がるただの刺激物…兵器と言っても過言じゃ無いレベルの代物だったよ。
……オエッ。うぁ〜…いらない事思い出しちゃったら頭痛くなってきた…。
「…あんたって本当にメンドくさい人間よね…どうせやるなら最初からやりなさいよ」
「ホントホント。私は今日初めて会ったからよく知らないけど、結構変わった人間みたいねこいつ」
「…そんなハッキリメンドくさいって…んな事言われても実際問題変人だからどうとも言えんよ」
「あ、そこ開き直るんだ」
わたしが痛んだ頭を押さえている間に巫女さん達の会話が行き来する。
……う〜ん、話を聞いた感じだと…やっぱりお進は変わった人間って思われちゃうんだね。そりゃ捉え方は色々あるだろうけど――あ、いや……お進の今までの軌跡から考えたら、寧ろお進ならそう思われても仕方無い様な気がしてきた…。
わたしはもう慣れちゃったからあまり気にならないけど、レミリアや亡霊さんみたく、お進の事を不思議な人間って捉えてる人は少なからず居たんだよね〜。やっぱり慣れてない人からすればお進は変わってるのかな?
それに、お進は自分自身が楽しいと思える事を第一に行動する節があるからさ、行動原理そのものの理解がイマイチ難しいんだよね。
「そんじゃ淹れて来るか。茶葉は買って来たやつを使えって言ってたけど…適当に淹れてくりゃいいんだろ?多分紅魔館みたいに数種類も茶葉があるとも思えないし」
「悪かったわね同じものしか買って来てなくて!私は緑茶が好きなのよ!」
「いや別に悪いなんて言ってないんだが……つーかそもそも幻想郷で茶葉なんて栽培出来んのか…?」
巫女さんの言い分も尻目に、お進は若干の考えを含んだ言葉を言い残して巫女さんに言われるがままにお茶を淹れる為神社の奥へと消えていく。
ん〜…茶葉の栽培?確かにわたしも聞いた事無いけどなぁ…。と言うか茶葉に限らず色々な物が幻想郷で流通してるけど、その殆どは紫が外から持って来るか忘れられて幻想郷に流れ着くの二択なんだよね。
「…霊夢ってば…さも当然の様に買って来たって言ってるけどさ…お金払ったの全部私なのよ…」
「んあ?そりゃ災難だったね。私はお金を持ち歩かないからさ、霊夢にたかられた事なんて無いよ」
そんな感じで、恨みがましく巫女さんを見ては溜息を吐く天子が師匠に向かって愚痴を言っていた。…うわぁ…エゲツないなぁ巫女さん…運ばせたどころかお金も全部出させたんだ…。
「あ、そう言えばさぁ霊夢〜。何でさっきの訓練を途中で止めたんだい?もう少しで決着がつきそうだったじゃないか」
「はぁ?」
師匠はお酒を呑んでる手を下ろして、少し残念がる様に巫女さんに向かって不完全燃焼だったと文句を言い始める。
……いや…あのさぁ師匠?完全に決着がついちゃったらそれはそれでわたしが大怪我してたと思うんだけどそこの所どうなの?
呆れるわたしを余所に、師匠は巫女さんに寄っかかる様に身体を預けてその脇腹辺りをせっついている。
「鬱陶しいわよ」
「まぁまぁ♪…んで?どうなのさ?」
「ハァ〜…何で訓練を途中で止めたって言われてもそりゃ止めるわよ。やられんのが
「へぇ〜困るねぇ〜………え?」
「どうしたの師匠?」
一体何をそんなに驚いてるんだろうね。師匠は巫女さんの言った事を聞いた途端に目を見開いて……ん?…やられるのがわたしだったら困る?
……。
……え?
「「え!?」」
「何よあんたら。何が『え!?』よ」
「そ、そりゃ驚くさ!霊夢なのに他者の心配事をするなんて何事かと思うよ」
「『なのに』ってどう言う意味よ!」
師匠が驚いた様に声を荒げる側で、わたしも一緒になって巫女さんの言葉に驚きを隠せないでいる。
何せ、巫女さんは日頃から人に対する対応がぶっきらぼうだったり、素っ気無い態度をとってるからてっきりそういう事にはドライな人間だと勘違いしてたよ。
「ったく…あんたの言い方が引っかかるけど…まぁいいわ」
他者への対応の仕方はどうであれ、避けようが無かった師匠の攻撃が迫った事に対して心配してくれるなんてわたしはとても嬉しい気持ちになる。
案外巫女さんは周りの人に優しいーー。
「だってこれ以上石畳壊されちゃ堪らないもの。ホント、嫌な予感がしたから急いで帰って来て良かったわ」
「……」
「ハッハッハ!あ〜良かった!それでこそ霊夢だよ」
前言撤回。やっぱり巫女さんは巫女さんだったよ。そして師匠?そんな楽しそうに笑われてもわたしは一向に笑えないからね。
はぁ〜あ。さっきまでの自分の考察が全くもって見当違いすぎたみたいでどっと疲れたよ。巫女さんは所詮自分の神社が心配だったみたいで、一片たりともわたしには気をかける気は無いみたいだね。
「いや、いやいやいや!ちょっと待って!皆平然と流してるけどやられてるのが私なら止めないってのは―」
「何でこうも色んな奴が私の神社で暴れるのかしらね。後処理がメンドくさいったらありゃしない」
「いやぁ悪いね霊夢」
「またシカト!?って言うかさっきの言葉の意味なら私なら助けないって事よねぇ!」
天子は巫女さんの言ってる事から、仮に自分がその立場なら助けて貰えないと理解したみたいだね。ギャーギャーと必死になって声を荒げてるんだけど…巫女さんと師匠は我関せずに涼しい顔をしている。
「…あ〜、天子?多分巫女さんは大前提に石畳の安否を気にしてるだけだから、護る護らないは殴られる側の強度によるんじゃないかな?」
ほら、わたしの場合は弱いから拳の衝撃が地面まで届いちゃうけどさ、天子だったらそこまで師匠の拳に打ち負ける事は無いみたいだし地面への影響も無いって訳で…。
あまりにも天子が可哀想に見えた為、わたしは軽くフォローに入って天子の気持ちを和ませようと試みる。
「強度ぉ〜?……あ、じゃあつまり私は霊夢に実力を認められているって事じゃない!」
「…うわ〜お、そう解釈しちゃったか…」
あまりにも天子がポジティブに考えるものだからわたしは顔を引きつらせた笑顔でしか返せなかった。…まぁ、わたしにしろ天子にしろ、どちらにせよ喜べる様な事じゃ無いんだけどね。
「…くっくっく、まぁ境内が壊れようが壊れまいが、私が壊せなかった結界を瞬時に張るなんて流石じゃないか」
「あ、あれってやっぱり結界だったんだ…」
未だに笑っている師匠の言葉を聞いてわたしは刻前の出来事を思い出す。体勢を崩されたわたしに迫る師匠の拳を一体何が隔てたのかと思ったら…あれは巫女さんが張った結界との事だった。
確かに、わたしに師匠の拳が当たる直前に微かに巫女さんの声が聞こえていた…。つまりは、あれほど恐怖を抱かせる師匠の拳を、巫女さんは結界だけで阻む事が出来るぐらいの実力を持っている証だった。
「そりゃあんたの場合張んなかったら石畳ごと壊していたでしょうからね!…ったく!!ここ最近でいくつ張り替えたと思ってるのよ!」
「だから悪かったってぇ〜。まぁ、紫は霊夢の修行嫌いをとやかく言ってたけど…あれだけ出来るならこの子の修行は安心して霊夢に任せられるさ」
「あぁ?……ああ成る程、私を試したのね」
「二シシシシ♪」
試した?一体何を……ああ!
口に手を当てて笑ってる師匠を余所に、わたしは師匠と巫女さんの言ってる事を考えて漸く結論に辿り着く。
「……そっか」
…成る程、そう言う訳か。師匠は、わたしとの修行と名目を付けておきながらも、ちゃんと注意を張り巡らせて巫女さんの実力も測ってたんだね…。
…わたしと戦ってる時、巫女さんの気配に気づいた師匠は、丁度良いからと巫女さんが介入出来る様に場を整えて更には猶予を与えていた。
あまりに師匠の思考が先を行っていたけど…その理由は単純。ただ偏に、巫女さんがわたしに修行を担えるか否かを師匠は確かめたかった様だった。
「……いや、霊夢?壊れた石畳張り替えたのも私なんだけど…石用意したのも私だし…」
「うっさい天子!あんたはもう用済みだから萃香連れてさっさと天界にでも帰んなさい!」
「用済み!?ちょっ!あんたの買い物手伝ってあげたのに帰れって何なのよ!」
巫女さんは空気を読まない天子を厄介払いするかの様に手で払って、暗に帰らせようとジェスチャーをする。そして、そんな巫女さんの行動に天子は憤慨して食って掛かかる様に非難を浴びせていた。
……まぁ、強制的に買い出しを手伝わされたり、財布として使われたり。…そんな扱いなら天子が怒りたくなるのも頷けるけどね。
わたしは巫女さんに飛び掛かった天子が撃墜されてるのを尻目に、今まで忙しかった事を少々頭の中で纏め始める。
そもそも、わたしは師匠の言ってた通り白玉楼に行く前までは師匠に修行を手伝って貰っていたんだよ。勇儀からの推薦もあった事だしスムーズに引き受けてくれたからね。
でも、タイミングが悪い事に今師匠は天界の領土の一画を(勝手に)貰うって話をしてたみたいで、今はそっちのゴタゴタに巻き込まれているの。
だからわたしは、博麗神社の家事を引き換えにこれからの修行は霊夢に受け持って貰うって事になってるんだ♪……まぁ、今日は最後の締め括りって事で師匠にやられたんだけどね…。
「あのねぇ萃香…。ちゃんと修行つけれるか~なんて、そんな事心配される謂れは無いわよ」
「いや〜、霊夢なら『面倒だから〜』みたいな事言って適当にやりそうじゃん。私も勇儀の奴に頼まれたからにはそれなりに結果を残したくてさぁ」
「…なら頼まれたあんたがやりなさいよって言いたいんだけど…もういいわ。そんな話をする事すら面倒だもの」
巫女さんは諦めた様に溜息を吐いて、自分の頭に手を持っていって何かを考える様に小さく唸っていた。
…今二人が話し合っているのは、これからのわたしの修行についての事なんだよね。師匠は勇儀からの頼みってのと、自分が鬼であるが故に約束を守ろうと、何かとめんどくさがりの巫女さんに修行の念を入れてくれている。
…本当にありがたい事だよ。わたしは強くならないといけない理由があるからね。
「…おいおいおい…俺が茶淹れてる間に何が起きたんだよ。…天子の奴に至っては気絶してるし」
「あ、お進」
そんな巫女さんと師匠の会話が無くなってきた頃に、奥の部屋からお進がお盆といくつかの湯呑みを持って縁側へと戻ってくる。……まぁ極力見ない振りしてたけどそろそろ天子の心配をした方がいいかもね。果敢にも巫女さんに挑んだ挙句、ものの見事に脳天にグーが振り下ろされてたし…。
「…分かった分かった…。こうなったら一遍私のやり方をあんたの前で見せてやればいいんでしょ」
「……う~ん…それもそうだね♪」
「ってな訳でこいし、来なさい」
天子を気絶させた本人は天子の事なんて見向きもしないで、何食わぬ顔でわたしを呼んでるし……。
……。
……ん!?来なさい!?
「ちょ、ちょっと!今不穏なワードが聞こえたんだけど!?」
「聞こえてんなら早く庭に下りて来なさい。近くでやってあんたは兎も角私の神社が壊れでもしたらやってられないもの」
「わたしの身より神社を心配してるなんて今更ツッコまないけど…今からするの!?」
「そうよ」
そうよじゃないよ!!いや、え!?だ、だってわたしさっきまで師匠と修行してたんだよ!!万全の状態ならまだしもこんな疲れた状態でやるの!?
「あ~…霊夢?霊夢さん?こいしの修行を手伝ってくれるのは非常にありがたいんだが…折角淹れた茶が冷めるぞ?」
「ありがとうお進!」
わたしはお進のファインプレーに思わず抱きついて感謝する。流石にお進もさっき師匠と修行したばっかりのわたしを不憫に思ってくれたのか、遠回しに巫女さんを止めようと横合いから口を挿んでくれていた。
「茶?気にしなくて大丈夫よ」
「…グットラック、こいし」
「え、ええぇ…」
いやいやいや…もうちょっと頑張ってよ。そんなさ、もう諦めて行ってこいみたいな顔されても…。
「冷める前に終わらせるから」
そして不穏過ぎる言葉を放つ巫女さん…。
あ~もう!どうやら師匠に引き続きわたしの第2ラウンドが確定したみたいだね…。
大幣を持って庭に下り立って歩く巫女さんの後姿を見て、わたしは猛烈に溜息を吐きたくなった。
9千近く書いておいて話が全然進んで無い事に驚きを隠せません。次回からは視点を一進に戻して展開を早める様心掛けます。
それではまた次回。