…なのにヒロインズの悪目立ちっぷりに霞んでいる状況…。
それではどうぞ。
○
side一進
はいどうもどうも久々の俺です。では、早速ですが今の状況をお教えしましょう。
現在の時間帯は濃密だった宴とその後の妖夢との余興が無事終わった後で大体日付変わったぐらい…。それなのに、色濃く残ってる疲労を引っ下げながらも未だに俺は休めないでいるんですわ。
……厳密に言えば
「アッハッハ驚きましたよ〜」
「俺のセリフだよ。…まぁ、うん。俺も久々過ぎて完全に油断してたから仕方ないと言えば仕方ないわ」
「いや~私としては皆が寝静まった頃合いにお邪魔したのですが…これはもしかすると私がお邪魔でしたかねぇ?」
「邪魔?おいおいおい何の話だよ?」
そうやってニヤニヤとした顔を崩さないのは射命丸文。
つい先程俺が使ってる部屋に入って来て、変な誤解を始めやがったし…しかも俺が暗に何もなかったと伝えてんのにこいつは信じる気もサラサラ無さそうだしどうすっかな。
はぁ〜あ、こっちもさ…買い物して料理して戦ってるんだから非常に疲れてるんだよ。お前もそれぐらい分かるだろ?
ってな訳でさ、変に勘繰らないで大人しく寝かせて下さい。
「本当に
「……チッ」
おっと失礼。射命丸がこっちの意図を何も汲んでくれないもんで図らずも舌打ちが出てしまったよ。
……あ~こりゃもう寝るのは諦めた方がいいな。うん諦めたわ。
で、こいつが何かほざいているのは取材と称してここに来た様なんだけど…誠に面倒な事に見事問題が生じましてね。
…その問題ってのを理解するには…先ず、本日集まってるメンバーと、更には夜も更けているっていう現在時間帯を掛け合わせてみるとあら分かりやすい。
「……スースー」
「…俺には寝てる奴だろうと起きてる奴だろうと何かする勇気なんて無ぇよ」
と言う事で案の定こいしが隣で寝てるんです。隣です隣、隣の部屋じゃ無くて文字通り隣で寝てたんです。
結局模擬戦が終わったあの後、俺は幽々ちゃんに適当な部屋をあてがわれて時間も時間だったからちゃっちゃと身綺麗にして普通に寝静まったんだよ。
体感的にそこからちょっとしたら射命丸が部屋に入って来て反射的に起きたのさ。で、俺と射命丸はほぼ同時にこいしの存在に気付いたって訳なんだけど…そこからの行動が早い事早い事。
『一進さーん。夜更けに申し訳ないですがいよいよもって取材に伺い――『スピー』…え?』
『ぁ〜あ…っんだよ疲れてんのに……は?」
『ぐぅ…Zzz』
…………。
……。
『……ああ成る程』スッ
『――ッ』ガッ!
俺自身内心パニック状態になってたのにちゃんと射命丸を止めたんだから凄いと思う。ってか起き抜けでよく動けた自分を褒めてやりたいよ。
…妖夢からでも借りたんだろうか…。若干大きいサイズの白い寝巻を着たこいしがいつの間にか俺の布団に入り込んでいて、それを見るや射命丸は何かを納得した様に襖を閉めるもんだから飛び起きて引き止める事になったし。
「さて、そろそろ取材を始めましょうか」
「もうお前スゲェよ。この状態でも結局やろうとするんだから」
俺が言うのも何だけどこいつって結構神経図太いと思う。確か幽香の時もなんだかんだビビりまくってたけどちゃんと自分の意思を発言してるし。
…これが新聞の為って言うんだったらさ…全く、こいつの開き直ってからの行動力の高さに素直に感心するよ。
「これでもかれこれかなり待たされましたからね。それでなくても無理に取材を決行しませんとまたオアズケを喰らう羽目にでもなりそうでしたので」
「結構我が強い奴が多いから尚更だよな…。それでなくても大人しいタイプの奴は振り回されやすいし」
前者が紫やレミリア、後者が藍さんやパチェさんって所かね。…なんだかんだでパチェさんなら面倒事を回避しそうだけど…まぁそんなとこだろ。
それに、オアズケなんて言われてもな…永遠亭から〜の幽香の家行き〜の白玉楼まで来てるから……あ〜思ったより可哀想な程後回しになってるわ。
「ま、それじゃ受けるよ。案外お前も苦労してるっぽいし」
そんな訳で大人しく射命丸の取材に応じる事にする。
そもそもの話だったら先生の下まで薬草運んだ時点でこいつとの約束が発生してたしな…いくら俺でも約束を違える事はしないさ。
……。
……でもさ?
「…くぅ…くぅ」
「…なにも夜中にやらんでもよくないか…?」
一先ず俺は寝るのを諦めて、幸せそうに寝ているこいしに布団を掛けつつも恨みがましく射命丸に向かって悪態を吐く。
ったく取材なんぞ明日でもいいだろうよ…生活サイクルの中でも睡眠ってのは結構重要なんだぞ?
「仕方無いじゃないですか。宴会中は忙しかったですしその後妖夢さんとおっ始めましたし」
「だからそんな事言われたって俺に非は無いだろ。殆ど幽々ちゃんと紫が無理矢理にやらせたって感じだったし…」
射命丸に言われてそんな言い訳をしてみるけど…ぶっちゃけ模擬戦自体は望んでやったんだけどな。俺自身も刀の感覚ってのを掴みたかったし。
ま、こいつの取材はちゃんと約束しちまったんだからさっさと受けてやろう。
「んで?この内容は新聞に書かれるんだろ?」
「そうですね。幽香さんからの命令に抵触しない範囲で書くつもりですよ」
…となると…魔界情報が抜かれた俺のプロフィールにでもなんのか?ん〜…つってもこんなの聞かれた事無いからな、都合がよく分からん。
「では、先ず初めに――」
まぁ、それは射命丸自身が手慣れてそうだし任せていいか。それにこいつの新聞で俺が幻想郷に知れ渡るだろうし丁度いいっちゃ丁度いいな。今後の仲間作りの時に全く知らない奴よりは多少でも新聞で見た事ある方が心開いてくれやすそうだし。
後はこういうので幻想郷の住民から見られる印象も変わってくるだろうから、極力好印象を持たせられるような回答を――。
「一進さんの好きな女性のタイプは何でしょうか?」
「好印象もクソも無いわ!!」
口悪くなってゴメンね?だけど叫ばせて貰うよ?予想はしてたけど一手目に持って来るとは思って無かったしさ。
「タイプってお前初っ端にそれかよ!既に基本情報すっ飛ばして最初からクライマックスになってんじゃねぇか!」
予想より遥かに早く聞かれた所為でつい叫んだけど何だこいつの取材!確かに俺も『そんなのも聞かれるかな〜』とは思ってたさ!思ってたけどさ!
「ええ。当然です」
「……え、えぇ〜…」
ちょいちょいちょい…サラッと…さも当然と言わんばかりにサラッと言われたんだけど…。普通こういうのってもっと無難な感じの質問をしません?…この先こいつの取材に応じるのが怖くなってきたんだが…。
「いや、さ、なんかこう…あるだろ?趣味だったり性格だったりもっと普通な質問が…」
「は?何をバカな事を。そんなん書いて誰が喜ぶんですか?」
「ガッデム!」
ダメだ
……第一新聞って購読者を喜ばせるもんじゃねぇんだけど…。
「ハァ…ダメですね一進さん。貴方は新聞と言う物を何も分かっていないです」
「…いや、そりゃそうだろ。第一新聞なんて書こうと思った事すらねぇもん」
ってかそれが新聞の真意だと言うなら俺は分からなくても一向に構わないんだが。
なんて俺の思いも束の間…射命丸は少し溜めて悟す様に新聞とは何かを教えて来た。
「……良いですか一進さん?新聞とは――」
……。
……ゴクッ。
どうでもいいとさえ思っていたが…これはこれは…。一段トーンを落とした射命丸に、俺は知らず知らずの内に引き込まれる形になっていた。
射命丸は開いていた手帳を静かに閉じて床に置き、ただただ、ゆっくりと握り拳を作り始めて――。
「1にゴシップ2にゴシップ!3から先はスキャンダルですよ!!」
……あらぬ事を熱弁し始めた。
「これぞ新聞を作る極意です」
「何も良くねぇし純粋に最悪だよお前!!と言うかそんなもん熱弁すんな!一瞬でもシリアスかと思って喉を鳴らした俺の立場を返せ!」
もういっその事FR○D○Yにでも改名しろよお前の新聞!読んだ事は無いけど椛とこいしがやめるよう言ってきたのがよく分かったわ!
「ほら早く〜お進の好きなタイプは?」
「だからこれは乗っけからやる質問じゃ無い――って起きちゃってるじゃんかよもう!!」
なんか
うん。ま、そりゃさ?確かにこんな騒いでるとなればすぐ横で寝てたこいしは起きると思ってたよ?
まぁ〜だけど場所を移動すんのも面倒だったし、どうせ新聞は幻想郷中に振り撒かれるだろうからいずれ見られるし別にいっかぁ〜って思ってたんだよ。
……ところがどっこい。
「綺麗で魅力的。そうでしょ一進?」
「それなら私も含まれそうね〜♪」
そう言うはスキマから現れてこいしとは逆方向に居る紫と、紫と一緒に来てスキマから顔を覗かせたままの幽々ちゃんの両名。
…お前らいつ来たよ?こいつらったらビックリする事に音も無く現れてナチュラルに部屋に入り込んで来たからな。…ま、幽々ちゃんは面白がっているだけのように感じるだけだから別にいいんだけど…それよりも両サイドの小競り合いが気になって仕方が無い。
「―クッ!」
「うにに〜」
俺を挟んで紫がこいしを遠のけようと押してる訳でして…。何がしたいんだよこいつらは…。
紫はこいしを押し退けようとするから必然的に俺に被さるようになっているし、こいしはこいしで離されないように俺の腕をホールドしてしがみついてくるもんだから間に居る俺が結構ツラい。
「おーい二人とも…」
声に出してみるが残念な事に止まる気配は無い。
紫がこいしを押した力が俺の腕を伝ってそのまま俺に来るもんだから体幹が悲鳴を上げている。立ってるならまだしも座った状態だと尚更キツイ。
でもな?そんなのは別に重要では無いのさ。流石に二人共考慮はしてくれてるみたいだから仲良く倒れる事も無いよ。
だから俺的な問題って言うのは、紫は兎も角こいしがサイズの合ってない服を着てる所為で身体のあちこちが若干はだけてしまっていて…。
「さて一進さん。それではそろそろお返事を」
「は!?ちょっ…は!?お前マジで言ってんのか!?」
この状態で回答を求めてんじゃねぇよ!アホか!?アホなのか!?両サイドで二人がワチャワチャしてんのに何故淡々と取材を続けようとしてんの!?
いや、どう考えてもわきまえようぜ。悪いけど射命丸…もっと状況見てもの言って貰いたいんだが…。
「ああ、でしたらいっその事その状態を撮らせて頂くだけでもいいですよ。それだけでも絶大に反響を呼びそうですから」
「よし分かった。傍聴者片付けてちゃんと取材に応じるから許してくれ」
「わッ!?」
「ちょ!?」
そう言って俺は隣で騒いでる二人を掴み、幽々ちゃんが顔を覗かせるスキマへと投げ捨てる。
…二人の扱いが酷かろうと何だろうと知った事か。俺の人生かかってんだからなりふりなんて構っていられないっての。
「あら〜無理矢理ね〜♪」
「まぁな。どうせ言っても聞かないんだからこの方が手っ取り早いだろ」
この場合俺が悪いのか二人が悪いのか知らんが、こんなとこ撮られたら今後詰むのは必然。ほら射命丸、頼むからカメラを収めてくれ。
「……しくじりましたね…寧ろさっきの状態を写真に撮って新聞作った方が盛り上がったのでは…」
「やめて。絶対にやめて」
「わ、分かりましたって。そんな切実な顔して懇願しないで下さいよ」
射命丸に泣き縋ろうとして若干引かれたが…よしよしこれで一安心。
…だって仮にも女の子と幻想郷の賢者侍らせてる写真なんて出回ったら今後は常に相手から警戒度マックスで対応されそうじゃねぇか。ましてやさっきも言った様にこいしは色んな所見えまくりだったし撮らせる訳には…。
「それでは女性のタイプをどうぞ」
「結局質問はこれなのかよ…」
いや、もう諦めたけどな。反論した時のこいつの反応を見た限りじゃマジで質問内容に疑問を持ってなさそうだったから変更は無いだろう。
それにしても女性のタイプね〜…ほぼ気にした事もないからなぁ…。
「妖艶妖艶妖艶妖艶……」
「うるせぇぞ外野」
なんか紫が後ろの方で呪文唱えてるけど…絶対に言わんぞ。俺はそんな事で洗脳なんてされないからな。
…でも、何と無く言い分から考えてみるにこいつは『大人な女性』とでも言って欲しいのか?…まぁ分からんでもないが…残念だな。本音を言うと
……つーかそんな事はどうでもいいんだよ。ほらどっか行けって、いつまでスキマから覗いてんだっつーの。
「わたしわたしわたしわたし……」
そんでもってこいし。お前はそこまで言ったらそれは既にタイプでも何でも無い事に気付いて欲しい。
「…ハァ」
普段だったらここまで悩む事でも無いと思うし、射命丸の質問にスッと言えたかも知れないんだが…今だけは少し溜息を吐きたい…。
いや、だって二人が聞いてる状態でってなったら話は別だろう。
妖艶…仮にも大まかに分けると
いや嬉しいけどな。二人から想われてタイヘン〜なんて舐め腐った言動は絶対にしないと誓えるよ。
……さて、どうしよう。
…………。
……。
……あ〜。
「……俺と気の合う子?」
大丈夫大丈夫。問題を後回しにした様な気しかしないけど俺にはこれが精一杯なんだからチキンとか言わないでくれ。
「…けっ」
なんて俺の返事を射命丸はつまんないと言わんばかりの声を出してペンを動かしてメモを取り始める。
…何故にそんな目で見下されなきゃならんのだ。いいだろ別に。これで二人が変に争う事はしないと思うから俺的には名案だった訳で…。
「やったぁ!!」
「逆に考えるのよ私。気が合うからこそ一進が私に冷たい態度を取るって解釈すれば…」
「…頭痛くなってきた」
…オイオイまさかそうきたか…。
…いや、ハッキリとどっちかを選んだつもりは無いんだけど紫がポジティブ過ぎやしません?普通ああ言ったらそう解釈されます?
「……紫さん。それ自分で言ってて悲しくないですか?」
「……わたしは紫の事嫌いじゃ無いよ?」
「おい、頼むから二人して煽るなよ」
なんて反応をしている紫に対してことごとくダメージを与えてゆく射命丸とこいしの両名。
折角紫自身は自己解釈で納得してくれていたのにさ、そんな同情紛いな事言って紫が
…でも、まぁぶっちゃけ、紫の言ってるのもある意味正しいから一概に否定はせんがな。紫は何つーか…言うなれば悪友とかそんな感じだよ。
「一進!私は嫌われてる訳じゃ無いのよね!?」
「ん?あ〜ハイハイ嫌いじゃない嫌いじゃない」
「ちょっと!かなり対応が雑なんだけどホントに大丈夫なの!?」
「いやいやいや大丈夫だって…そこまで心配せんでも俺がお前を嫌う訳無いだろ」
あまりに必死な紫に思わず俺も素の対応を返してしまう。そもそも紫には『幻想郷に来る』ってのと、『式による能力向上』ってので多大な程に恩義を感じてるからな。
…それに、幻想郷にとって害悪でしかない俺の事を支持してくれてるメンバーだし。
そんな大恩がある筈の紫をさ、それでもこうやって弄られるのは偏に俺自身が紫との距離が近いと感じてるからだと思うんだわ。
親近感があるからこそ、取り繕う事もせず平然とぞんざいな扱いをしてるって言っても過言は無いしな…そこら辺は特別だから自信を持ってくれてもいいんだぞ。
……ま、
「幽々ちゃん、悪いけど明日の朝飯作ってやるから紫とこいし連れてって」
「了解よ〜♪」
「既に幽々子が手懐けられてる!?」
「わたしも!?」
「さぁ行きましょ〜」
そんな事は当人の前では言わんがな。
…うんうん。それにしても料理の力って想像以上に凄いんだなぁ…ナイス幽々ちゃん。あっという間に皆の気配が遠のいてったわ。
「…………」
「そんじゃ残りも手早く済ませようぜ」
「は、はぁ」
…何時までも引っ張る訳にもいかないし…明日、早めにこいしに伝えなきゃな。
……あんだけ傷ついた後だけど今ならまだ正常に戻せるだろう。でも、どう言ったって自分のやり方を否定されりゃ傷つくもんだからな…。
あ~あ、気乗りしねぇよ。
人が多いと話が進みませんね。後数話で次の場所に向かわせる努力をします。
それではまた次回。