ここ数話のお陰で今後は後先を考えて登場するキャラを決めると心に誓えました。
それではどうぞ。
◯
sideこいし
「私の方は少しやる気になってしまいました」
妖夢の言葉と同時に、一瞬にして場の空気が引き締まる。
「……」
「フ――」
お進を見据えたまま続けられる細く…長く吐き出される息が、
「…おいおいおいおい、急に怖い事言うなよ」
妖夢の射抜く様な眼光にたじろいだのか、お進はそんな事を言って肩を竦める。
これが妖夢の凄みに少しでも負けない様にと発した言葉なら理解出来る。…でも、わたしはそうと捉える事が出来なかった。
……お進の顔には、そんな言葉とは裏腹に確かに面白い物を見つけたかの様な笑みが浮かんでいたから。
「……」
「無視かい…。まぁつってもそっちは待ち遠しいみたいだしな〜そんじゃあそろそろ……始めようかぁ!」
「――いざ!」
お進が話ながらも刀を構えて準備を整える。これで漸く模擬戦が始まると思った数瞬後…妖夢は掛け声と共に身を低くしたかと思ったら一直線にお進に――って速ッ!?
妖夢は爆発的な加速力で一瞬にしてお進に詰め寄る。そして、既に互いの刀が届く位置にまで踏み込みを済ませていた。
「お進!!左―」キィン!!
わたしの声が届くであろう前に刀と刀がぶつかり、白玉楼には甲高い金属音が響き渡る。
「始まったわね」
紫の声と共に静かに響く金属音の余韻が――って言うか……止めた!?
うっそ!!離れて見ているわたしですらスッゴイ速いと感じたのに!?
だって…近くに居た、それどころか向かって来られていたお進はわたし以上に速いと感じた筈じゃん!
「見えて…いえ、誘われましたか…」
「それでギリギリだけどな。正直剣閃は全く見えんかったよ」
当然お進が言ってる通り妖夢は踏み込みだけじゃなく剣速も非常に速かった。でも、それでもお進は何事も無いように平然と妖夢の凶刃を受け止めていた。
…まるで、初めから刀がそこに来るのが分かっていたかの様に…。
「いや〜しかし、用意してくれたのが抜身の刀で助かったわ。これでもし居合い斬りでもされてたら詰んでたかもしれん」
「余程の事が無い限りは立ち合いの状態で居合いは使いませんよ…それにしても一進さんは本当に刀を使った事無いんですよね?」
「しつけぇな、無ぇって言ったろ」
「…そうですか」
ギリギリギリギリ…。
お進と妖夢の話し合う声とともに刃が削れる音がこっちにまで聞こえる。
二人の間では僅かながら刀が行ったり来たりと、鍔迫り合いの膠着が続いていた。
「…片手なら弾き飛ばせるかと思ったのですが、想像以上の力をお持ちのようで」
「身体強化が俺の十八番だからな。それと…向こうに俺が怪我すっと心配する奴がいるから気が抜けねぇのなんの」
お進はそう言うと、言葉を続けながらも遠巻きに見ているわたし達の方に目を向けてきた。
うん…始めは都合がいいとか言ってたから何するのか不安だったけど…そこの所をちゃんと分かってくれてるならわたしは精一杯応援するよ。
「そうだよ!怪我しちゃダメだからね!」
「ハイハイ!…ったく、その心をもうちっと自分に回して貰い―「セイッ!」アッブネェ!!」
「うわ姑息ッ!?」
「これでも避けますか…素晴らしい反応速度ですね。…ですが!」
妖夢はお進のスキをついて迷いなく刀を振り切る。膠着状態が続いてたと思えばすり抜ける様に刀は振るわれ、刃先は注意を逸らしていたお進の眼前を通過していた。
「…クッソ!」
そして、残念だけど一度崩されてしまえばすぐには立て直す事なんて出来ない。一瞬でもスキを作っちゃったお進はなし崩し的に妖夢に攻められ続ける状態に陥ってしまった。
…それでも、お進はギリギリの所で妖夢の攻撃を回避してる。
……確かに回避してるけど…コレは…マズそうだね…。
「あややや…。一進さんは防戦一方…と言うよりアレはほぼ逃げの形ですかね?」
そう。的確な事に新聞さんの言う通りだ。
お進は向かってくる妖夢を少しでも抑えようと刀で制してはいるが…基本的には後ろに下がる形で攻撃を避けている。
…妖夢の進撃を止める事が出来れば、確かに流れは変わりそうなんだけど…当然そう簡単にいく訳が無い。
「いや、
「うっ……。そ、そうだけど…」
巫女さんからキツい一言を言い放たれる。でも…うん、勝負の世界…か。
ははは…まだまだわたしの意識が低かったんだなぁ。
でも、巫女さんがこれからわたしの指導者になるんだし、それにわたしよりも数段戦う事にも慣れていたし学ぶ事もたくさんあるよね。
そして、そんな巫女さんに引かれたのか、亡霊さんや紫もそれぞれ思い思いの事を言ってきた。
「ちょっと〜、経験が浅いこいしちゃんにいきなりそのレベルを求めるのは酷よ〜」
「ええ、確かにそれもそうなんだけど…変なのは一進の方よ。…相手から目を離すなんて愚行を一進がするとは思えないも――」
キィン!!
っと、少し目を離したスキに再び激しい音が鳴り響く。見やればお進が妖夢の進撃を上手く止めた様で、二度目の拮抗状態となっていた。
「…やっと止めれたよ…。つーかそれ以前にやっぱ片手じゃツライわ」
「体格と力のお陰で振れてはいますが元々両手で振るものですからね…私としては片手相手に押し勝てないのが情けないですが」
「流石に力では負けられんよ。つってもこっからは左手解禁するけどな」
「―ッ!」
漸く妖夢の進撃を止めたお進は、拮抗状態でもう一つの手で柄を握る。すると、途端に妖夢の顔に苦痛の表情が浮かび始めた。
当然両手になれば片手で持ってる時より一段と力が入れやすくなるのは明白。だけど、妖夢だって簡単に引くわけにはいかない。
だって、そんな事したらさっきまでやっていた自分の攻めをお進にやり返されちゃうんだもん。そりゃ必死になるよね…ここで押されちゃったら攻撃から守りに一転して余計に攻めづらくなるし。
「このッ!」
「だが甘めぇ!!」
「ッ!?」
そして、妖夢が力づくで刀を押し返そうとした所…お進は刃を傾けて妖夢の刀身をなぞる様に一気に滑らせた。
しかもお進は自らの刀を使って妖夢の刀を遮り、そのまま妖夢に向かって袈裟斬りの要領で振り抜く。
…妖夢が力づくで来る事を見越してのカウンター紛いの攻撃。妖夢自身タイミングを合わせられてしまい押しを
相手の行動を読み切ったお進が生んだ不可避の一撃……。
「――クッ!」ガッ
だけど、そんな避けようの無いお進の一撃を、妖夢は咄嗟に束で受ける判断を下し寸前の所で刀を防ぐ。
そして、そのまま刀の勢いに乗る様後ろに下がり、お進からの追撃が来ない位置に身体を落ち着かせて回避に成功していた。
「はぁ…はぁ…」
「ふ〜ん…流石にそう簡単にはいかねぇか。じゃ、次はもうちょい踏み込みを深くして束ごと斬り裂いてやろうかね」
当たると思った一撃を回避されても、お進は特に気にする様子も無かった。
これも予定調和だと言わんばかりにお進は肩に刀を乗せ、脅し含む発言をしたり、色々と思考を繰り返しては袈裟斬りだの斬り上げだの、次に自分が行う行動を定め始める。
……一見すればこれは相手に自分の行動を教えるダメな行為。
だけど実際は――。
「…フェイクね」
「…ですね」
「うん。わたしもそう思う」
亡霊さんの言葉を聞くと、わたしも新聞さんに続いて軽く頷く。
さっきの発言はわざと相手に聞こえる様に言ったとすれば立派な心理的作戦となり得る。だからこそ、一概にお進の行動を否定する訳にはいかなかった。
「さ〜て、そうと決まれば仕切り直しと―「すみません一進さん」…お?」
駆け引きを含め色々と考えてた事が纏まったのか、お進は今度は両手で刀を構え直そうとしていたんだけど…徐に妖夢がお進の言葉を遮った。
…いや、遮ったと言うよりも、何か決意の様なものを秘めてる気がする。……なんの決意なのかは分からないけど…でも、何でいきなりすみません?
「立ち合って分かりましたので言わせて貰います。…すみません一進さん…多少の怪我は容認して下さい」
「……へぇ。おもしれぇじゃん」
いきなり妖夢は謝ったのかと思えば、お進に怪我の容認をして欲しいとの事。
おそらく、その真意はお進の実力を判断し…その上で手加減するのが難しい為本気を出さざる得ないと表していた。
「ちゃんと認めてくれたみたいで嬉しいよ。……だったら…こうだわ」
「……」
そんな妖夢の言葉をしっかりお進は理解したみたいで、適当だった構えから上段に刀を移動させ、
「……」
「……」
…ピリピリと、二人の緊張がこっちにまで伝わってくる…。それ程までに両者の間には張り詰めた空気が流れていた。
だからこそ思う。一体お進は何がしたいんだろう…。
刀は振りかぶってる状態だから当然身体は無防備に等しいし、それにあんな格好じゃ移動だってしづらそうだし…。
「お進!それじゃ妖夢の動きに対応出来ないよ!」
そんな訳でわたしはお進に注意の声を届かせる。
別に今更言われる事じゃ無いと思うし、お進はお進で何か考えがあると思ってるからそこまで口煩くする気も無いんだけど…もしもって事があるからね。
「ああ分かってるよ。だけど、俺は妖夢の剣戟を防ぎ続ける事なんて到底出来ないからな」
お進は妖夢から目を離さない様に言葉を返してくる。
確かにわたしの声に反応はしているけど…今度は不意打ちをされない様に意識の大半を妖夢に注いで一挙一動を見逃さない様にしていた。
「受けの姿勢じゃ勝てそうに無い。それならまだリーチの差に賭けて先に当てた方が可能性があるからな」
先に当てたもん勝ちだ。と、お進は続ける。
一長一短の修練。数度の立ち合いで妖夢との刀の扱いの差に気づいたお進は、今まで得た情報から僅かにでも可能性のある方を選択する。
思考力と判断力…そして精神面においての虚偽の駆け引き。これこそがお進が初めから持っていた武器であり、人妖等の種族とは関係無いお進自身の強さ。
「…大丈夫なのかしらね…。妖夢が速いのは分かってる筈なのにあんな刀の軌跡が分かりやすい構えなんてして…」
「大丈夫なんじゃ無いの?それに、あいつ受けじゃ無いって言ってるくせにやる事は待ちの一手じゃない。結局は妖夢が間合いに入って来るまで待って入って来たら振り下ろすだけでしょ?」
そうだろうね。唐竹のまま下手に動いて構えがブレるぐらいなら、そのまま妖夢を待っていた方が得策だよ。
何よりもお進の方が大きい分攻撃範囲が広いんだもん。折角のそのメリットを活用しない手はないからね。
…でも、裏を返せばリーチが長いって事は小回りが利かないって事にも繋がる…。その為、妖夢がお進の攻撃を掻い潜って懐に潜り込めばその時点でお進の形成がかなり不利になっちゃう。
……。
……これは、次で決まりそうかな。
「ま、当たれば勝ち、避けられれば敗け。メンドクサイ事抜きにしてこの一太刀で決まるわね」
「それもまた
「どんな経験をしたのか知らないけど一進くんは場を制し方が上手だわ〜♪力量は兎も角勝負の行方を自らの手に委ねたもの〜」
……『当たれば勝ち、避けられれば敗け』って事はやっぱり、巫女さんも次の一手で勝負が決まると予想してるみたい。
それにしても…う〜ん…勝負の行方か〜。
わたし的にはお進に勝って欲しいし自由に戦ったとなると結果はどうなるか分からないけど…いざ刀を使っての勝負に限ったらやっぱり軍配は妖夢に上がると思うな。
「妥当なら妖夢さんですね。まぁ一進が勝つ為には妖夢さんの経験則に無いものが必要となってきますが…どうするのでしょう」
「ってか何時まで妖夢は見てるつもりなのよ。向こうが動く気無いんだからさっさと行きなさいよ」
痺れを切らしたのか、突然巫女さんが飽きた風にそんな事を口走る。
…いや、まぁ。確かに早く展開して欲しいとは思うけどさ…やり合ってる当人達にだってタイミングみたいなのがあるから好きにさせようよ。
「……霊夢」
「? どうしたのよ紫?」
すると、誰もが息を呑む場面が続く中、霊夢の言葉に何かを思ったらしい紫が小さく声を上げた。
「貴女なら、あの状態の一進にどう仕掛けるつもり?」
「妖夢と同じ様にって事?」
「ええそうね。札も針も無し、刀だけで攻める場合ならどうするかを聞きたいの」
「はぁ?どうするって言われても私は刀なんて使った事無いわよ…。でも、ま、左右にステップを入れるのが定石だとしてもいざそれを私がやるかって聞かれたら分からないわね」
「え?何で?」
巫女さんの言い分が分からず、ついついわたしも声を上げてしまう。
だって、お進の構えから移行出来る攻撃は振り下ろしだけしかない。だから的を散らす為に左右に身体を移動して進むのがわたしも定石だと思ってたんだけど…。
「それはね〜一進くんが妖夢の一太刀目を止めたのがいい例よ。多分初めから両手で持ってたら止められなかったと思うわ」
「そうなの?」
両手ではなく、片手だからこそ止められた…?
亡霊さんは興味深そうにお進と妖夢を見ながらそんな事を言ってきた。
それに、どっちかって言うと両手で持ってる方がどこに来ても対応しやすいんじゃないの?
「ああ成る程、合点がいったわ。だからこそ妖夢は一番最初に『誘われた』と言ったのね」
「紫も分かって無かったの?ま、そう言う事よ。一進くんが右手で刀を持っていたのは分かるわね?そして尚且つ同時に左足が前に出ていたのよ」
どうやら紫も理解したみたいだけど、わたしはまだよく分からない。
右手に持ってたのは分かるけど…左足?そんな所までは流石に注意深く見てなかったな…。
「え〜と…足を出してた方は身体を捻れる範囲が狭まる…。だから妖夢はお進の左側狙ったの?」
言い方を変えれば妖夢からしたらお進の右側に当たるんだけど…。まぁ取り敢えずわたしは実際にお進がやったって言う左足を出した構えを取って、右手を適当に振ってみてやっと気づいた。
と言うよりも当然と言えば当然の事だった。そりゃ自分の足が邪魔になるから左側から来る攻撃には対応出来なくなるよね。
「それで漸く半分正解。妖夢は一進くんとの体格差を考えて懐に踏み込んだってのも重要よ」
「体格差?リーチって事?」
「んん〜ちょっとそれとは違うわね〜」
え〜?折角気づけたと思ったのに正解はまだ遠いみたい…。それに、リーチとは別に体格差が関係する事?
うむむ…。向こうで向かい合ってる二人を見ると明らかに妖夢の方が小さいのは分かるんだけど…それがどう関係するんだろう。
「あややや…こいしさんの場合はご自身より小さい方と相対する事が先ず無さそうですからねぇ…」
「いいとこレミリアとどっこいどっこいでしょ。なら基本は周りを見上げる形になってるから気づける訳無いわ」
「…って言うけど相手の姿勢なんて足をついて戦わない限り気にならないじゃない。それも近距離限定の話だし」
姿勢…?どうやら体格差でもそれが大切になってくるらしい…。新聞さんや巫女さんに続いて、紫がそんな事を言っているからわたしももう一度考えてみる。
小さい相手と相対すれば必然的に刀を振り下ろす動作を求められている…。横に薙いでも
だから当然下向きに刀を振る事が多くなるし、強く刀を振り下ろすには身体を前に倒した前傾姿勢の方が良いから……。
「踏み込んで斬るなら威力があるからこそ妖夢はそれを封じたの。結果的に妖夢は一進くんの攻撃力を弱める為に懐まで入り込んだのよ」
「懐に潜り込まれた以上お進は踏み込めなくて、それどころか逆に身体を起こさざる得なくなる…」
当然目の前に相手が居るならば
そうなったら左足を後ろに引くしか無いけど、そんな事したら尚更刀の威力が落ちちゃうし…。
「もっとも、一進はわざとそういった構えを取る事によって妖夢の初撃を防いだんだけどね」
「…あ」
そっか!だから『誘われた』なんだ!
お進は初めから妖夢の動きに追いつけないと考慮した上で、予めスキを作っておいて妖夢の攻撃を誘導…そして初撃を防いだんだ。
「だけど、初撃で妖夢も誘われた事に気づいたからにはその方法はもう使えない」
確かに…これはそう何度も使える手段じゃない。相手の心理を掌握した上での読み合いだからいくらか確率は上げられるけど…それでも確実とは言い難い。
「だからあいつは次の作戦に出たんでしょ」
「定石を狙っているのか、それとも更に裏を狙っているのか、一進さんは読みづらいですからね」
わたしが傍目から見たって理解出来る事が少ないからなんとも言えない…。ましてや今までの一連の動作にそれだけの意味があったなんて思いもしなかった。
…言動や所作全てが相手を出し抜く為の一手であり勝利に繋ぐ為の一手。まさしく、これが戦いなんだと実感する。
「フッ!」
短く息を吐いた妖夢が覚悟を決めた様に、止まる気配も見せず一気に距離を詰める。後は、間合いに入った妖夢をお進が捉えられるかどうか……。
「セァ!!」
「ッ!?」
予想通りお進の掛け声と共に振り下ろされる刀。
……だけど、
「「早ッ!?」」
わたしと紫の声が重なる。それほどお進の行動がわたし達にとって予想外であったから。
速い…では無く、早い。
決してそれはお進の剣速が速い訳では無かった。
ただ…。
「何でそのタイミングで!?」
単純に振り下ろすタイミングが余りにも早かった。
焦りか、それとも妖夢の速さに合わせられなかったのか、お進は妖夢が間合いに入る前に刀を振ってしまっ―「まだよ」
すると、亡霊さんがわたし達を制する様に声を上げる。
お進は刀を完全に振り下ろした訳じゃなくて、その途中…ちょうど妖夢に切っ先を向ける感じで――。
「まさか突きですか!?」
新聞さんの声と共にお進の行動を理解する。
振りじゃなく、突きでの攻撃ならタイミングなんてものは全く必要無い。向こうから来てくれているその途中に刃を置いておくだけで十分に効果がある。
「クッ…」
妖夢は瞬間的に距離を詰めていた為に急には止まらず、刀の右か左、咄嗟の判断でどちらかに避けざるを得なくなっていた。
「ですが、右か左…どちらかに行った瞬間を一進さんは振り抜くつもりでいますよね」
「……多分どっちからでも行けるわ」
「はい?何言ってるのよ霊夢。文の言った通りに叩き斬られるわよ?」
巫女さんは不思議な事を言ってるけど…ここまできたらお進の有利は覆らない。お進の方が腕力で優っている以上妖夢は防御する事すら出来ないからね。
「…ふ〜ん面白いわね。だけど、多分妖夢なら――」
「甘いです!」カイィン!
「チッ!」
…………え?
弾かれ…た?
「妖夢なら、刀を弾いて真っ直ぐかしらね〜」
「そんな!」
数刻遅れた亡霊さんの言葉通りに妖夢はお進の刀を弾いていた。
確かに…刀同士での力の押し合いならお進は負けなかった。
だけど、今回はしっかりと刀を振れる妖夢に対してお進は刀を前に突き出してるから勢い自体が全くつけられない!
「まさか俺が言った事をそのまま言い返されるとはな…」
『甘い』の発言に対して苦々しくお進は呟く。でも、お進の持つ刀は妖夢によって呆気なく遥か遠くに弾き飛ばされてしまったからどうする事も出来ない…。
…すぐに刀を取りに行ける距離でもないし、徒手だったら流石にお進も万事休すの状態……あれ?
……。
…おかしい…鍔迫り合いになるとは初めから思って無かったけど、流石にあそこまで飛ぶのは――。
「…なんてなぁ!!」
「「「――ッ!!」」」
急に轟くお進の叫びに、わたしや妖夢を含む何人かの身体が硬直する。
お進は刀を弾かれてしまったというのに驚く事も気にした様子も無く…寧ろ、嬉々とした様子で妖夢を迎え撃とうと距離を縮める。
…逡巡の迷いさえ見せないその動き、そしてそんな判断が下せるって事は…。
「…お進は…自分から刀を捨てた…」
「そうみたいね。ん〜、だとしたら初めから手に力なんて入れて無かった様だから…これは一本取られたわね」
お進の刀を弾く為に一度刀を振ってしまった妖夢。刀を捨てた事でリーチを失った代わりに絶好のチャンスを得たお進。
だけど、既にお互いかなり近づいてる為にリーチ差なんて無いに等しい。ここまで来てしまったら先に体勢を整えたお進に絶対的なアドバンテージがある。
「まだです!!」
それでも尚妖夢は諦めなかった。
妖夢は半歩後ろに引く事でお進の間に僅かながらの猶予を作る。そして、振り上げてしまった刀を自分の手元に引くと同時に回転する事で再びお進に刀を向かわせる。
確かにあったお進の絶対的なアドバンテージ…。しかし、それでも妖夢の返す刀は尋常じゃない程速く……。
ギィン!!バシィ!!
二つの音がほぼ同時に鳴り響く。
「……射命丸…」
「はーい終了です。互いに納めて下さい」
そう言ってお進の拳を止めたのは、さっきまでわたし達の隣に居た筈の新聞さん。
「……冗談だろ…」
「嫌ですね〜。そんな血気盛んにならないで下さいよ〜」
「…いや、そういう意味じゃ無かったけどもういいわ」
「いや〜はは~危ない所でしたね〜」
お進の拳を受け止めていた手をヒラヒラと振りながらお進と妖夢の模擬戦を終了させる。
いつ飛び出したのかも悟られず、そこそこ距離があったのにも関わらず瞬間的に二人の間に入る異常なまでの速さ。間違いなく新聞さんも強い妖怪の一人だと認識する。
「…少し本気になり過ぎじゃないかしら?こんなの当たったら一進が怪我するわよ」
「悪かったわ〜。ほら妖夢も謝りなさい」
そしてもう一方、お進の拳を止めたのは新聞さんだったけど、残った妖夢の刀を止めていたのは紫だった。
お進の胴体にまで迫った妖夢の刀。だけど、それは当たる手前でスキマから出ている紫の扇子によって阻まれている。
ただの…かは分からないけど、妖力を込めた扇子を指で摘んでるだけで妖夢の刀を完全に受け止めていた。
……。
……は、はは…ははは……。
「……なぁ、どっちが早かった…?」
「…妖夢ね」
「妖夢さんです」
「…そっか」
いくら頑張ろうと思っても上には上がいるこの世界…。
ハァ…ホント溜息が出ちゃう…わたしがお進の隣に立てる日が来るのかなぁ…。
もうこいし視点は勘弁して下さい死んでしまいます(私が)。
ここまで長引くとは思ってもいなかったのですよ。かと言ってうどんの時の様に無理やり終わらせることも出来ず…。
問題は半霊のフラグを回収してないって事です……皆様は気にして無いと思いますが…。
それではまた次回。