受け入れ先は幻想郷   作:無意識倶楽部

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何でこんなに白玉楼が長いんだろう…当初じゃ2~3話の筈が基盤を整えるだけでそれを凌駕してしまいました。
長いのはいいんですがグダるのが恐ろしいです。


それではどうぞ。


第68話 苦労人の宿命

side一進

 

 

 

 

 

 

「よっこいしょ…ああ〜疲れた〜」

 

 白玉楼の食料事情に巻き込まれた俺、射命丸、妖夢は人里での買い出しを無事終わらせ、やっとの事で両手に買い物袋を引っさげながら白玉楼へと帰還する。

 

「――ックー」パキパキ

 

 一先ず適当な場所に荷物を降ろして…と、披露の溜まった肩と首の骨を鳴らす。あまり好かれない行動だとは分かってるんだけどやめられないんだよなぁこれが。

 

 …え?骨が太くなる?別に構いやしないさ。そんだけ荷物が重かった訳だし、大体そんな信憑性の無い話なんて俺は知ったこっちゃねぇよ。

 

 ……それにしても結構買ったなぁ。え~と、買った物をちょいちょいスキマに送り込んでた所為で総量を把握出来て無かったけど…うん。パッと見一世帯でも一週間は余裕で持ちそうなぐらい買っちまったわ。白玉楼って冷蔵庫あんのか?つっても冥界自体がこんだけ涼しければ(むろ)の中でも大丈夫そうだけどな。

 

 でも、買って来た食材を見て改めて思ったけどさ、こりゃ紫にスキマ開かせてホントに正解だったわ。手ぶらの状態でもメンドかったのに今度はこんな荷物持って白玉楼までの階段上れって言われたら途中で投げ出してるかもしれん。

 

「さて、そんじゃ仕舞うなり料理の仕度(したく)するなり始めっか」

「はい。…結局色々と手伝わせてしまいすみません」

「いやいや気にせんよ。…俺自身あの二人(紫と幽々子)の相手するのが億劫なだけだったし」

 

 妖夢が申し訳なさそうに謝って来るから正直に答えるけどさ、紫は兎も角幽々ちゃんを含めた状態を俺一人で相手出来るなんて思わないで欲しい。

 

 普通初対面の相手との距離なんて測りづらいもんだし、しかも幽々ちゃんって見た目ポワワーってほんわかしてるじゃん?でも、それが()()()()()()()から返って近づき難いってのが顕著に感じられるんだ。

 

「分っかんねぇんだよなぁ…ホント女心は嫌になるよ。……あ、いや、でも返ってそれぐらいミステリアスな方が女性としての魅力があるって指標になるかも」

「考え方が老人ですか…」

 

 なんて俺のコメントを射命丸は呆れた様に返し、若干の反応を示しながらも置いてある買い物袋を拾い上げて――。

 

「…ああすみません、あれだけの荷物で疲れているって事は思考だけでなく肉体的にも老人の域でしたね」

「ざっけんな!誰がオッサンだ誰が!!」

 

 流れるように俺に精神ダメージを与えていきやがる。

 

 流石にそれは聞き捨てならねぇ!って言いたいのはやまやまなんだけど…それより先にそそくさ移動する射命丸に言っておきたい優先事項が一つあるんだわ。

 

「つーかお前何一つだけで済ましてんだよ!絶対量を考えてもっと持ってけや!」

「あや〜?すみませんが何を言ってるのか分かりませんね〜」

 

 この野郎…。当然分かっているくせに楽がしたいが為にどう見ても軽そうな荷物しか運びやがらねぇ。妖夢を見習ってもっと荷物を持ってけってんだ。

 

 …って言うか一歩も譲らんけど俺の事を老人って言うならもうチョイ労わりの精神を見せろよ。俺なんてあまりの荷物の多さに往復までしてんだけど…。

 

「ったくよ…労わる気が無いならこんな好青年に向かって普通老人とか言うかい?こちとら身も心も純粋な――」

「やっと帰ってきたわね一進!ずっと待ってたんだから早く作ってちょうだい!」

 

 そんな働かない射命丸に対して俺がブツクサと文句を言ってると、スパーンと豪快に襖を開けて紫が登場してくる。

 

 …どうやら白玉楼の何処かの部屋に居たんだろうけど俺達三人が帰って来た音を聞きつけたみたいだな。

 

「ね~早く〜」

「……」

 

 俺は両手に荷物を持ってる状態で厨房や室を行ったり来たりして忙しいってのに、紫がねだるように俺の背中に抱きついて来るもんだから厄介な事この上ない。ぶっちゃけた話邪魔と表してもいいんだが…。

 

 …ま、いいよ我慢しよう。紫がこんなやつなのはとっくに知ってるからさ。で、何だっけ?料理を早く作れって?

 

 

「……F◯ck」

「「Fu◯k!?」」

 

 あまりの問題発言だった為か、先に前を歩いていた射命丸と妖夢が驚いた様に振り返る。

 

 ……いや、よく考えりゃ当然と言えば当然だな……え~っと…さっきの暴言(?)はつい口が滑っただけだから大目に見て貰いたい…。

 

 無論良い子の皆は絶対に使ったらダメだぞ?冗談抜きで英語圏ではマジで禁句な言葉だからな。殴られても何されようとも文句は言えんさ。

 

 で、…確かに俺の口が過ぎてるのは理解してる…だが、だとしても俺は謝らんぞ!

 

 こちとら初っ端に疲れたっつってんのにさ、そんな『待ってました』と言わんばかりに意気揚々と催促されたら気が滅入るに決まってんだろ。

 

 大体紫はいつまでも人に頼ってないでいい加減自分でも作れるように努力をしろってんだ。

 

 

 …………。

 

 

「「「…………」」」

「…………」

 

 …………。

 

 

「…いや、スマン。冗談、冗談だって。お前ら本気に取るなよ」

 

 ……うん、『早速謝ってんじゃねぇか!』って言いたい気持ちはよく分かる。だけど悪いが俺にプライドなんてモノは存在しないからな。えげつないぐらい三者からプレッシャーを浴びせられれば素直に謝るさ。

 

 だってよ、怯えた様な雰囲気醸し出しときながらしっかり刀に手を掛けてる妖夢に、楽しそうと言わんばかりの表情を浮かべてカメラを抜いてる射命丸…。この時点で今後の選択を誤ったらヤッベェ事になるのは目に見えてんだわ。

 

 まぁそれでも、正直な所この二人の反応は正しいからこっちだって対応はしやすい。その程度の反応だったらどうにでも出来るしこの空気からでも笑いに変えて場を和ませれる自信がある。

 

 

 ……でもな?

 

 

「ふふ…ふふふっ…遂に一進が…私の魅力に…」

 

 

 …こいつ()の反応だけはリアルで頂けねぇ…。つーか見るのが恐ろし過ぎて後ろなんて振り返れねぇんだけど。

 

 これは絶対に無理だよぉ…何か冗談で済ませられない雰囲気になっちゃってるけど俺にそんな勇気は無ぇよ…。

 

 ってな訳でそんな事言われても果てしなく対応に困るだけだから即刻脱出したいんだ。

 

 だがしかし…紫は後ろから俺に抱きついた状態で尚且つ小声で言うもんだから助けて貰いたくても射命丸と妖夢は気付いてくれそうに無い。

 

 お~いどっちでもいいから助け船を――ヒィ!!回されてる紫の手が作務衣に中に入ってててて!!?

 

 ちょ!頼むお前ら早く助けろ!!俺の引きつりまくった顔とこの非常で異常な状況にさっさと気付かんかいコラァ!!

 

「一進くんはそんなにお料理が上手なの~?待ってる間紫がず〜っと自慢してきたのだけど…」

「ナイスタイミング幽々様ァ!!」

「? 幽々…様?」

 

 よっしゃ!俺のトチった返事の所為でちょっと疑問顔になってしまったけど女神降臨!!!もう嬉し過ぎて呼称が『ちゃん』から『様』になったけどどうでもいいわそんな事!

 

 突然の幽々ちゃんの登場によって紫が正気(?)に戻ったらしく、少しだけ手が緩んだ一瞬の隙をついて逃げるんだよォ!

 

「上手…かは知らんけど振る舞った先々でやけに喜ばれてるから紫共々そこで大人しく待っとき!!いいか!?ちゃんと作ってやるから()()()待っとけよ!」

 

 そう言い残して俺は全力でこの場を離脱。こうまで言っておけば流石に厨房まで入り込んで来る事は無いと思うから一時の安らぎを得よう……そんでもって紫が落ち着くまで俺は厨房に立て籠もってやるからな!

 

「え!一進さーん!もう作り始めるんですかぁ」

「ああ!だから持つ物持ってすぐに厨房に移動!…後射命丸は()()()()()()()を二人に伝えといてくれ!」

 

 妖夢の疑問に答えるついでに、俺は一切振り返る事無く声だけを張り上げて二人に指示を飛ばす。

 

 若干宴会開始の時間が早いような気がしなくも無いし、本来なら俺が人里であった事を二人に伝えるのが通りなんだろう。

 

 だけど…ベクトルが違う身の危険を感じたからしょうがないしょうがない。殺意系の恐怖なら何とも思わんぐらいの耐性がついてるけど……そっち方面は…ねぇ?困るやん。

 

「はーい了解ですそっち(料理)は任せましたぁ。…あやや幽々子さん…。前々回ぐらいは私もナイスタイミングと思っていましたが…私的に今回はバッドですよぉ

「え?どういう事~?」

あと少しで絶好のシャッターチャンスが舞い込みそうだったって事です

 

 ……ん?

 

 …かなり聞こえづれぇけど…いきなり小声になった射命丸の言葉に俺はかなり引っかかる。

 

 

 …オイ待て…あいつ……もしかして…。

 

 

 ………………。

 

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 

「悪いな妖夢。ちょっと鶏肉切り出して来るからその刀貸して貰いたいんだが」

「はい?鶏肉ですか?いや、買って来ていますけど既に捌かれてますよ。…と言うか何故刀で切り出そうと?」

「……」

「?」

「…スマン忘れてくれ。一時の感情で動いても誰も得しないわ」

「???」

 

 "Be cool""Be cool" そうだ冷静になって料理しよう。何かに思いっきり集中して一回全部忘れちまうのが現状一番幸せになる近道だわな。

 

 

 

 

 

 …だが射命丸、これだけは覚えておけ。俺が助けを乞いていたのを()()()()()()ってのに自分のメリット(撮影)の為に俺を見捨てやがった代償はデカいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ってな感じで俺達は人里から白玉楼に帰って来た訳なんだが…取り敢えず現在の時間に戻すぞ。

 

 …ん?いきなり何言ってんだって?…ああ、↑でやってたのはただの回想シーンだよ回想シーン。俺の苦労を皆に分かって貰いたくて突っ込んだのさ。

 

 と言っても時間軸はそんなに飛んでないから安心して欲しい。現在の時間軸を説明すると既に宴会が始まって中頃って所だな。

 

 実際俺と妖夢は宴会が始まってから現在に至っても二人で料理に勤しんでるだけだし、あまり展開が進んでないのが理解して頂けると思う。

 

 ま、そんな感じで初めの方は宴会のメイン会場である外の庭からさ、実に楽しくワイワイしてたのが聞こえてた訳なんだけど――。

 

「は〜いおかわり〜♪」

「んぐッ!?…文ァ!こっちにも持ってきなさい!」

「またですかぁ霊夢さん!?私ウェイターじゃありませんって!少しはご自身でって言うか何で幽々子さんと競っているんですかァ!」

「食べれる時に食べないと勿体無いじゃない!あんたはグダグダ言ってないでいいから早く持ってきなさい!!」

 

 私は自分の皿を幽々子から死守するだけで精一杯よ!…って感じでさ…何でだろうね、楽しげな雰囲気がいつの間にか一転して殺伐としてきやがったよ。

 

 案の定幽々ちゃんは存分に食べてる上に、人里で偶然会った霊夢も参加する事になっちゃって今ではこの二人の為に料理を作っていると言っても過言ではなかろう。

 

 で、そんなさえ渡る喧騒を適当に聞きつつも――。

 

「今回のお話は私、藤代一進が白玉楼の厨房の中からお送りしてます。グツグツ…コトコトと、煮込んでいる鍋からはとても良い匂いが立ち昇って――」

「何訳の分からない事言ってるんですかぁ!吹き溢れそうになってますから早く奥の釜戸の火を調整して下さいッ!」

 

 俺のセリフを掻き消す様に響くのは妖夢の叱責。いや、だって疲れるのも仕方ないじゃん。お前もだけど俺だってかれこれもう3時間は作りっぱなしで参ってんだよ。

 

 正直に言えばメッチャ疲れている。それでも料理を続けているのは料理自体が嫌いという訳では無いってのと、食べてる奴が喜んでくれているからってだけの理由でギリギリ手が動いてるんだよ。

 

 …ぶっちゃけいつ投げ捨ててもおかしくない状態ってのは分かって貰いたい。

 

「なぁ…これっていつまで続く―「聞かないで下さい」…すまん」

 

 もう素直に謝るさ。俺が謝るのはおかしいだろうけど鬼気迫る…つーか泣きそうな妖夢の顔を見たらなんと言えないんだもん…。

 

 あぁもう!…参ったな。終わりが見えねぇ…。

 

 あいつらの食欲を甘く見てたってのもあるんだろうけどここで妖夢が落ちてしまったら完全に詰んでしまう。二人で切羽詰まって作業してんのにこれを一人で行うなんて考えられん。

 

 だから、俺が謝る事で妖夢の精神が保ってくれるのなら何度でも――。

 

「は、ははは…幽々子様相手に料理を正気でやってたら心が持ちませんよ…」

「……」

 

 …あ、察した。今更謝った所でなんの助けにもならねぇからこの作戦全く意味無ぇわ。

 

「…そりゃツラかったな。現在進行形で俺も味わってる訳だけど次回からは遠慮願いたいわ」

 

 ってな訳で同情系にシフトチェンジ。これで多少なりとも妖夢が頑張りゲージが増えてくれるなら万々歳だよ。

 

「白玉楼の厨房に立っただけで何と無くだけど理解出来たけどさ…。ここで料理を続けてるお前はスゲェよ」

 

 だって、ここって妖夢と幽々ちゃんしか居ないって言ってたくせになんとまぁシンクが広い事広い事。ましてや釜戸が四つ並んでいてもはや食堂かよ〜なんて笑っていたよ。

 

 ……今では頰が引き攣るだけで口角なんて一切上がらないがな。

 

「全く、人使いの荒い……。あぁ一進さん!これとこれ持って行きますね!後すみませんがまた三皿程持って来ますので場所空けといて下さい」

 

 射命丸は文句を口にしつつも厨房で出来上がった品を外へ持って行っては今度は逆に平らげられた皿を厨房まで戻しに来る作業を繰り返している。

 

 ……うん。それはいい。射命丸がパシられてるのを見過ごしさえすれば食器の上げ下げ自体に文句をつける訳じゃないんだ。

 

 

 問題は――。

 

 

「…向こう()にどれだけの大人数が居るんでしょうか…」

「大人数の八割方を占めてんのはお前のご主人様だけどな」

 

 

 俺達が二つ作ってる間に皿が三つ返ってくるこの現状。

 

 

 ……果てしなくおかしい。何故だ、手の掛かるものなんて作ってないのにこんなにも手が回らない状況に陥るもんなのか?

 

 そんな所為で広いシンクには洗うのも面倒に感じられる程積み上がった食器類の数々。しかし、カマドは四つともフル稼働して常に火の番をしていなければならない。

 

 それでも作ったそばから皿が返ってくるから積み上がる一方で――。

 

「んふふ〜今回は人数も少ないし遠慮する必要は無いからいっぱい食べるわよ〜♪」

 

 ……………。

 

 うん。ちょっとあの人が何言ってんのか分からないわ。何?いっぱい食べる?ハッハッハ、幽々ちゃんって結構理解に苦しむ言葉を言いなさる人だね。

 

「………」

 

 あれ?妖夢は理解しちゃったのかな?幽々ちゃんの言葉を聞いて急に顔なんて青ざめさせちゃってさ。

 

「もう暫くは終わらない様ですね…」

「…妖夢、俺ってホントに客人なんだよな?地獄からさらに下に落とされるとは思って無かったよ」

 

 ツー、とうっすらと涙が滑り落ちそうになるけども頑張って堪える。分かってたさ!いくら現実を直視したくなくても俺だって理解してるよコンチクショウ!!!

 

 幽々ちゃん曰く、これは俺が客人だから持て成そうって手筈だったんだけど…それが一体どうしてこうなった!?

 

「…すみません」

「あ、いや…こっちこそスマン」

 

 なんて俺の言葉に本気で泣きそうな…否、死にそうな顔して妖夢が答えてくるもんだから現状の異常さを再認識する。

 

 ヤバい…。超絶にヤバい…。でも、極論言えば料理人二人で回んないなら三人に増やせば解決しそうじゃんって単純に思うだろ?

 

 まぁぶっちゃけたらさ、そう。そうなんだよ。その単純な答えで解決するんだよ。…とは言っても射命丸は外と食堂―じゃなかった、厨房を行き来してるからこっちに留まるのは期待出来ないんだ。

 

 後、一番の驚き要素なんだけど…なんとこいしが霊夢と一緒に宴会に参加して来たんだよね。何かここ最近博麗神社って霊夢が住む所で厄介になっていたみたいで霊夢が連れて来たんだ。

 

 そこでさ、嬉しい事にこいしは『私も手伝える!』って言ってくれたんだけど…如何せんゆっくり作るなら兎も角、こんなハイペースで作るとなると指とか切りそうで些か不安だからな。技量も分からん子を厨房に立たせる訳にはいかないんだよ。

 

 俺と妖夢は既に立ってるし、射命丸は別で頑張ってるし、残りは霊夢とこいしと幽々子と紫…ダメだ誰も作れそうに無い。やっぱりこいしの手を借りるべきかなのか…?くそ、せめて既に箸を置いてるらしいから紫が料理出来るなら……ハッ!藍さん!藍さんが居るじゃないか!!

 

「紫ィ!藍さんを急遽こっちに呼んで欲しいんだけど!」

 

 俺は外に居る紫に聞こえるよう声を張り上げる。

 

 そうだよ!何も賭けに出る必要なんて無いじゃないか!万能の藍さんの手が加わればこの状況を脱する事も容易―「『すまない一進』だそうよ〜!」

「何故ぇ!?」

 

 おいおいおいマジかよ!折角の逆転の一手を思い付いたってのにここで否定されるのは精神的にキツいって!

 

 ってか何だよ藍さん!幻想郷に来た当初は紫の世話や仕事でてんてこ舞いだからってしょっちゅう俺に手伝わせてたクセにこういう時は――。

 

「『一日に二度は流石に持たない』って〜」

「二度?」

 

 …………あ。

 

 …そう言えばそうだ。藍さんは今日の朝妖夢が知らない間に幽々ちゃんに料理を作ったって言ってたな。…まぁそれなら俺も文句なんて言えないわ…。

 

「手ぇ止まってます一進さん早くよそって下さい!…文さーん上がりましたよー!」

「…ん、ああ…」

「もう室内で食べましょうよぉ!私は一体何往復すればいいんですかぁ!?」

 

 少し考え事が長かった所為か止まっていた手を動かす様に再び妖夢に叱責されてしまう。その為俺は言われるがままに皿に盛りつけた後、文句を言いながらも慌ててやって来た射命丸に皿を渡してまた次の料理に取り掛かる。

 

 なんという流れ作業。まるで自分がコンベアーの前に立たされる作業員の様にすら感じて来てしまう。

 

「あ!!食器がもう無い!」

「…真っ白に燃え尽きそう…」

 

 はい仕事追加。実質の死刑宣告。クソが、作ってるだけでもギリギリなのにその上皿まで洗えってのかよ。

 

「普通さ、屋敷の食器が無くなるまで食べるかね?」

 

 ここまで来てしまったら流石に俺達に非は無いだろう。あからさまに幽々ちゃんが食い過ぎなのが原因ですわ。

 

「普段ならもっと幽々子様が節制してくれているのでここまで大変じゃ無いんですが……今回は満足するまで続きそうです」

「マジかよ…」

 

 もう既にこちとら限界を超えそうだってのにまだ続くのかよ!!いい加減にしないとそろそろ買ってきた食材だって尽きるぞ!

 

「妖夢〜」

 

 すると、件の幽々ちゃんの声が徐に聞こえてくる。

 

「あ、はい!!…満足して下さい満足して下さい満足して下さい……」

 

 切実過ぎて涙出そうになったわ……つっても俺も妖夢と考えてる事は同じだけどな。

 

 ……よしっ!この際神でも悪魔でも何でもいい!だからこの無限地獄から解放してくれ!

 

「作るスピード落ちてるわよ〜。藍ちゃんみたくもっと早く出来ない〜?」

「「………」」

 

 …なん…だと。

 

 まさか……続くどころかペースアップを所望します?

 

「……」

「妖夢〜?聞こえてる〜?」

「……はい」グスン

 

 悪魔や…。ピンクの悪魔が居りますわ…。回想で女神とか言ってたけどアレ撤回な?

 

 

 ……ハァ…。

 

 ……うん。もういっそ殺してくれ。

 

「…藍さんはよくお一人で幽々子様を満足させられましたね…」

 

 なんて、俺が現実から目を背け始めた所で妖夢から独り言の様な呟きが放たれる。

 

 幽々ちゃんが満足?するわけねぇだろこの調子で!奴さんの胃袋は質量保存の法則さえも無視してる様な代物だぞ!

 

「それは藍さんが一人だったから幽々ちゃんの方が我慢したんじゃねぇの?」

 

 その方がまだ納得出来るよ。ましてや妖夢だって毎日の料理は節制して貰ってるって言ってるからな。

 

 そもそも俺だって妖夢だって、手慣れている奴二人で相手してるけど追いつかないってのに一人で相手するのは不可能かと…。

 

「いや…でしたら備蓄されていた食材が残ってる筈ですよ…」

「…ああそっか、だから俺らが買いに行ったんだったな」

 

 そうだそうだ。ちょいと忙し過ぎて人里まで買い出しに行ってた事なんて頭から抜け落ちていたよ。

 

 確か最初の方で妖夢は宴会ぐらいなら開ける程の量は備蓄してるって言ってたから…つまり…。

 

 

 …その量を藍さんは一人で……。

 

 

「やっぱスゲェや藍さん…」

 

 俺らは二人掛かり(射命丸入れたら三人)でも参ってるのに藍さんは一人でやってのけたって言うのかよ。…スゴいと言うかここまで来たら寧ろ畏怖の念を抱けそう。

 

「さて…」

「すみません…もう暫しの辛抱ですので…」

「ああ、いいさいいさ」

 

 実際ここまで来たらもう些細な差だよ。…あ~あそれでもダル過ぎる…過労死って保険適用されたっけ…。

 

「一進さん。無事生き延びましたら…その時は文さんを含めて一杯やりましょう」

「……そうだな」

 

 言えんわ。そんな事言われたら内心既にギブアップモードに入ってたなんて流石に言えんわ。

 

 

 ……ったく、料理を作ってやるっつっただけでこの疲労感かよ…。…ハァ~ア…安請け合いはもうこれっきりだな。

 

 

 




唐突過ぎる霊夢とこいしの登場に驚いてます(私が)。ですがそろそろ出さなければこいしの未登場が続きそうでしたので思い切ってやっちゃったぜ☆
…うん。扱いをどうしましょうか…。


それではまた次回。

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