それではどうぞ。
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side文
「ハァ…ハァ…」
一進さんが白玉楼に来てから十分近く…。それだけ経って漸くここの従者である妖夢さんが白玉楼へと戻って来ましたよ。
そして、疲労困憊でいらっしゃる妖夢さんの下に皆で集まりました所から前回の続きとなります。
あ、おっと皆さん、『前回もだったのにまたお前視点かよ』なんて思わないで下さい。元々は前回と今回で一つの話でしたのに、なんやかんやで伸びてしまった為急遽話を二つに分けた処置なのです。
「お帰り~妖夢~。遅かったわね〜」
「は、はい…。只今戻りました…」
一先ずそんなメメタァな事情は隣に置いときまして…私としてはこんなにも妖夢さんが息を切らしているのも気になりますね。
…一体何を思って慌てて帰って来たのでしょうか?私と紫さんが白玉楼に着いた時点で妖夢さんがいらっしゃらない事は気になっていましたが、幽々子さん曰く少しの間白玉楼を空けていただけの様ですが…。
「お疲れさん。遅かったな」
「貴方が…異常に速いんですよ」
それでも、一進さんは上がって来る階段の途中で妖夢さんと会ったそうですのにここまで妖夢さんの到着時間が遅くなりますか。
つまり私が何を言いたいかと言うと…疲れている所から察するに妖夢さんも相当急いだ筈なんですよね?と言う事は一進さんの移動速度がそれ以上に速かったって事なのでしょうかって事で…。
……ま、いいです。いや~それにしても妖夢さんが来てくれて助かりました。
幽々子さんはずっとのほほんとしていらっしゃいますし、一進さんには下手な事をすると
「よ、良かったです…」
あや?良かった?そちらも何か都合の良い事があったのでしょうか?
妖夢さんが息を整える様に呟いた言葉が聞こえたのですが…本当に一体何が良かったのでしょう……ってそれ以前によくよく見てみれば妖夢さんがいつもと違う様な感じが――。
「…い、一進さんが紫様と…お知り合いだと言う話が本当で良かったです」
…………はい?
「幽…幽々子様を危険な目に合わせては私は従者失格ですから…」
妖夢さんの呟き…。それにより私達の目は自然に近くに立っていた一進さんへと向かいました。
いや…だって…ねぇ?
「何をしたんですか…」
皆同様に気になっている様ですので一先ず私が代表して一進さんに事の説明を要求します。
……まぁ自分でも軽く考えてますがね。危険な目に合わせるって事は…これはもしかすると方便でも使ったのかと…。
「? 何も?」
「…此の期に及んでやってないと言うんですね」
なんで顔色一つ変えないのですかこの人は…。
私は妖夢さんの異常な発言が気になり一進さんに確認してみたのですが、残念ながらこの通り平然と嘘を吐かれてしまいました。
「…嘘
ですよね紫さん。こんな妖夢さんの様子を見て一進さんが何もしてない訳が無いですよね。
「問題無ぇよ。既に上の人間は納得させた後だから」
「そうよ〜妖夢。一進くんは私が呼んだのよ」
「そ、そうでしたか!それは申し訳ありませんでした!」
問題が起きる前の手回しが早い事で……ですがそれは属に問題無いとは言わないと思いますけどね。
結果的に妖夢さんを納得させていますが…おそらくさっきの妖夢さんの言い方から推測すると不審者扱いでもされていて、且つ強行突破でもした感じですかね?
…まぁ、疑いも晴れていますから別にいいんですが。
「いやしかし妖夢さん。そこまで疲れるなら飛べば良かったじゃないですか」
「私の場合は走った方が速いんですよ…それでも追いつけそうになくて…」
「ほう…遅いのは難儀な事ですね。幻想郷最速の私には分からない気持ちです」
……ん?でも確か妖夢さんって椛よりは速かった記憶が…あれ?と言う事は決して妖夢さん自身遅い訳では無いのでは?
「追いつけないって…だからそれは
「…そうなんですかね…?私的にはこの二つはいつも持ち歩いてるのであまり関係無いと思いますが…」
…私も妖夢さんと同意見です。刀如きでそこまで速度に影響が出るとは思えません。…ですから――。
「ほほう。一進さんも地面の上でならなかなかの速度を出せる様ですね」
「いや知らんがな。そんな面白いものを見つけた様な目をされても俺自身は一片たりとも自分が速いとは思って無ぇよ」
「ですが妖夢さんはそう仰っておりますよ?」
「あいつ個人から見るとそうなるだけだろ。第一俺はこの世界の平均的な指標を知らん訳だし」
そんな謙遜を…。実際言うと貴方が置き去りにしたそこの妖夢さんは、貴方が言うその指標の中でも上位にくる存在なんですよ。
その妖夢さんが一進さんの事を速いと仰るのですから…。
「…ふっふっふ♪」
「…どうしよう紫。なんか嫌な予感しかしねぇわ」
「こと速さだけに限れば文の幻想郷最速発言もあながち嘘じゃ無いわ。だからそこら辺の拘りがあるんじゃない?」
「…俺がその称号を危ぶませるレベルか確かめたいってか?…傍迷惑過ぎんだろ」
いやいや一進さん。私は貴方に迷惑を掛けるつもりなんてさらさらありませんよ。ただ単純に一進さんが私相手でも通用するか少しだけ楽しみなだけです。
…ま、当然手は抜きませんけどね。
最速を謳ってる私は過去魔理沙さんに負けかけた事があります。ですから、もう油断する事はありませんのでそこら辺は悪しからず。
「妖夢〜やっと帰って来た所悪いんだけどおつかいに行って来てくれるかしら〜?」
「…おつかい…ですか?」
「そう。おつかい〜」
そして唐突に話の腰を折る幽々子さんはマイペースと言うか何と言うか…。しかも見て分かるぐらい疲労している妖夢さんを使うのは何とも言えません。
「ちょ〜っと頼む事が出来ちゃったのよ〜。お願い妖夢〜」
「え、ええ。それは構いませんが何を急に?」
「えっとね〜一進くんの歓迎会で宴会でもしたいからその食材を買ってきて欲しいな〜って」
「ああ、それなら買いに行かなくとも問題無いですよ。朝確認しましたけど備蓄は十分にありまし―「無いわよ〜」…は?」
……あ。
…すみません。私、この先のオチ分かりました。
「…ああ成程ね」
紫さん…も当然気付いていますよね。一進さんは何の事だか…みたいに不思議そうな顔をしています。あ、紫さんがちょうど一進さんに耳打ちをして事の内容を教えています。
……あややや、ドンマイです妖夢さん。幽々子さんと食料、申し訳ありませんが結びつく事柄は一つしか見当出来ませんので買い出しは必須になりますよ。
「…無い?…え?朝の時はありましたよ」
「うんうん♪あったわね〜」
……いや、ちょっとちょっと妖夢さん…。幽々子さんが言いたい事は普通貴女が一番初めに気付けるのでは?…妖夢さん自身は知らないと思いますがあのような荷物を持っていたら嫌でも人里で有名になりますよ。
「妖夢…ふと思ったのだけど食べても食べても無くならない食べ物って素敵だと思わない?」
「食べても食べても――え?…え、えぇ。そんな物があれば私的にも家計的にも非常に助かるのですが……ってまさか!?」
「さっき♡」
「何してくれてるんですかぁ!?」
漸く理解が追いついた様ですね。
おそらく妖夢さんの言う通り備蓄はあったのでしょうけど…ご愁傷様です妖夢さん。幽々子さんが綺麗に平らげられたようです。
「よろしく〜♪」
「よろしくじゃないですよ!先日買い足したばっかりなんですよ!?と言うか私が料理していませんのにどうやって食べたのですか!?」
「ん〜それは〜」
「……藍からの念話で『幽々子様の言う事なら逆らえませんね』なんて自嘲的な事を言ってきたのはこういう事だったのね」
「藍さぁん!!!」
これはこれは藍さん…まさか妖夢さんの知らない所で幽々子さんに食事を作らされていたのですか可哀想に…。
そして、人里の人間を騒つかせる程の食材を買い込んでも幽々子さんであれば2日持たないんですね。若干白玉楼のエンゲル係数が気になってきました。
妖夢さん同様に従者をしていらっしゃる咲夜さんとは人里で度々お会いして、買い出しは苦労しているとお聞きしますが流石に
「だって〜妖夢が『半霊を探して来ます!』なんて言って家を空けたからじゃない〜」
「空けたと言っても4時間ぐらいですよ!?しかも今から昼ですのに食べてどうするのですか!食材が無いと昼食作れませんよ!?」
「私はたくさん食べたから一進くんの歓迎会までいらないわ〜」
「私の話ですよ!!!」
…うわ~怒るに怒れない従者って職はホントに遣る瀬無いですよね。ま、なんて事を思いますから私は誰かの下に付き従うってのが性に合わないんでしょうけど。
と言うか最初の方で妖夢さんがいつもと違う雰囲気に見えたって言うのは半霊が居なかったからですね。…知りませんでした、あれって勝手に何処か行くんですねぇ…。
「前回買った食材の費用もそこそこしますのに…更に新たに買い足すとなれば貯金が厳しいを通り越して最早赤字になりますよ…」
「ん~?そうだっけ?まぁ足りなくなったら紫が何とかしてくれるでしょうし別に問題は無いわね」
「……」
いや、幽々子さん…それは些か周りを当てにし過ぎでは?足りなくなれば紫さんを当てにするってどれだけ投げやりなんですか…。紫さんも呆れた様に考え込んでしまってますよ。
と言うよりも自分の家の経済状況ぐらい認識していましょうよ。普段から全部妖夢さんに任せっきりなんて主人がこれでいいのでしょうか…。
「…え~っと幽々子?とても言いづらいんだけどちょっとその事で伝えたい事があるからいいかしら?」
「?」
おーい幽々子さーん。そんな不思議そうな顔しないで下さーい。
そりゃいくら親友だとしても紫さんだってそう易々とお金を渡す事なんて出来ないでしょう。
「…幽々子様。食事の方は私が何とかやりくりしますから紫様にご迷惑をかけてはいけませんよ」
あ、ヤバいです。あまりにも妖夢さんが甲斐甲斐しくて少し泣きそうになってきました。妖夢さんは紫さんが白玉楼への金銭支援を断る事を理解して、前もって幽々子さんを
「大丈夫よ~妖夢~。ね?紫?」
「……悪いわね幽々子」
「……え?」
…おっと…これは風が変わりましたね…。先ほど一進さんに弄られていた姿は何処へやら、紫さんを取り巻く空気が一段と重いものに変わりました。
「……」
「……」
……ゴクッ。
「以前なら兎も角、今は藍が金銭管理をする事になっちゃってウチはお小遣い制だから無理だわ」
「何ですかそれぇ!!」
しょっぼ!!紫さんがお小遣い制って……一体何の為にシリアスムードにしたんですか!!
「藍さんが管理って…何でお前ん家そんな事になってんだよ…」
「……貴方を探しに外界に行った時に少し使い過ぎちゃってね。可愛い服とか美味しそうな物見たらつい…」
「貴女は我慢の出来ない子供かなんかですか!!」
「……紫からの支援が無い…。どうしましょう…」
「そして幽々子さんは何本気で深刻そうな顔しているんですかぁ!!」
紫さんの家の事情に幽々子さんの食費問題…。ここまで来ると予想以上にお二人の主人っぷりに難が有り過ぎていっその事笑えてきますよ。
「……いや、何か俺が来た所為で慌ただしくなってるけどさ、別に持て成しとかそんな事しなくてもいいぞ?急に来たのはこっちだし、ましてや元を辿れば紫がスグに連れて来なかったのが悪いんだし」
すると、流石にこんな状況を見かねたのか、一進さん自ら歓迎会(?)を辞めさせて場を収めようとしています。
「ん〜ん、ダ〜メ♪私が一進くんを歓迎したいからするのよ。ね?妖夢?」
「………はい。それでは私は食材を買って来ます…」
「は〜い行ってらっしゃい〜」
…言わされましたね。完全に幽々子さんに言わされましたよ妖夢さん。
……ハァ…仕方ありません。
「妖夢さん。私も手伝いますよ」
「…すみません助かります」
「いえいえ」
正直に言うと少し不憫に思ったので…とは言えませんからね。それに私も場所の提供をして頂いているので少しは働きませんと。
「買い出し…か、だったら俺も行ってくるか」
「あや?一進さんも手伝ってくれるので?」
「ああ。予め買って来るもんが分かってる方が作りやすいからな」
お!いいですねいいですね!気が効く方は素敵ですよ一進さん!そしてさりげなくご自身も台所に立つのはさらに好感度高いです!
「いいわよ行かなくて。二人に任せて貴方は私達と話してましょ♪」
「そうよそうよ〜♪」
「え、いや…俺も―「紫〜一進くんが私達と一緒に居たくないって言うのだけど〜」…ええぇ…」
なんて紫さんと幽々子さんが親切心で動こうとした一進さんを引き止めます。…何でしょう…一進さんに非は無いのですが上げた好感度を下げたくなりました。
「……悪い、二人とも…」
「気にしないで下さい。そうでなくても一進さんは幽々子様の言う通りお客人ですから雑用なんてさせられませんよ」
「いいですいいです。なんか初めからそんな感じがしてましたから」
紫さんが一進さんにご執心ですからね。おそらく幽々子さんも同様だと思いますから…一進さんは大物の心を惹きつける魅力でもあるんですかね?
…ま、私からしたらどうでもいいですけど。
「でしたら紫さ〜んせめてスキマを…」
「何?私を見捨てた癖に私を働かせる気?ラクなんてしないで飛んで行きなさい」
「…マジですか」
見捨てたって…器小さいし根に持ちすぎですよ。それにスキマで送ってくれるぐらいパッて出来るのですからやってくれてもいいじゃないですか…。
「紫ぃ…」
「ダメよ!流石に一進の頼みでも今回は譲れないわ!これは文の行動が招いた自業自得の結果よ」
と、一進さんが非難の目で紫さんに訴えてくれているのですが状況は
「文さん。一先ず私達は人里に向かいましょう?」
妖夢さんは紫さんの度量の小さい事をさして気にした様子も無く自力で行く事を提案してきます。
……ハァ、そうですね。ここで渋っていても悪戯に時間が過ぎるだけで私の取材時間が無くなってしまいますから紫さんを動かす事は諦めましょう。
「う~ん…射命丸も妖夢も少し待て。…なぁ幽々ちゃん」
「? どうしたの〜?」
そんな事を言って一進さんは私達を引き止めた後、何かを思い付いた様に幽々子さんに話し掛けています。…何でしょう、いい案でもあるんですかね?
「俺はさ、これでも人里じゃちょっとした有名人なんだ」
「…それで?」
そうらしいですね。私も地霊異変の新聞を人里に配りに行った際に一進さんの名前を聞きましたよ。
行った先々で噂が立っておりましたし…ましてや慧音さんも阿求さんに至っては私が配っていた新聞を一進さんの事を載せた記事だと勘違いまでしていましたし。
「多分だけど着いて行ったら食材が安―「お願いしてもい〜い?」くなるから…」
……。
「……」
「?」
「…あ、ああ。行ってくるよ」
説明を途中で切られ、尚且つそれが予想以上の早さだったが為一進さんを含めこの場の皆さんが少し惚けてしまいましたよ。
それにしてもなんと判断の早い人ですか。一進さんが食料をコネで沢山買って来れる=沢山料理が作れると言おうする前に幽々子さんはその解まで導き出しましたよ。
いやまぁ、これで多少なりとも経済的負担は収まりますし、荷物だって三人なら楽になるでしょうから私は構わないのですが。
「ちょっと幽々子!」
ですが厄介な事に紫さんは納得していない様でして声を荒げます。いいじゃないですか、少しぐらい男手を借りても…。
「何勝手に一進を向かわせようと―「俺は紫に料理を振る舞いたかったんだけどな」ハイ人里の前まで繋いだわよ。これでいい?」
うわ…チョロ過ぎじゃないですか…。あれほど渋っていたというのに少しの会話だけで紫さんにスキマを開かせますか。
これが好意の差なんでしょうけど…一進さんはホント面白い取材対象ですね。
「上出来だな。んじゃ行くか二人とも」
「(凄い人ですね…)」
「(ええ、まぁ。私も会ってまだ間もないんですが驚かされる事ばかりですよ)」
魔界とか魔界とか魔界とか……後、魔界とか。ダメですねそれのインパクトが強過ぎてどうしても他が希薄になってしまいます。こんなんで取材とか一体何を聞きましょうかね。
「おーい行かんのか?」
「あ、今行きますよ」
「すみません財布の準備を…はい行きましょう!」
さて、おそらくは宴会中か宴会後に時間を取って貰いますが…帰って来るまでに取材内容ぐらい考えておきますか。
……魔界なんて下手な事をすれば幻想郷に波乱を呼び兼ねません…これは扱いには十分に注意しませんとね。
おそらく口調等を修正すると思いますがそれでも読みづらさが改善しない様な気がします…。やはりここはギャグ路線に変更―(殴
それではまた次回。