それではどうぞ。
○
side文
ん〜、い〜い天気ですね〜。
開かれた襖からは外の天気が見え、
そして、
カコーン
…偶に聞こえるシシオドシの音。いいですね、それが心地良くて更に心の安らぎが加速されていきます…。
「あ~お茶が美味しいですね〜」
白玉楼の一室、まったりした空気の中で飲む上質なお茶をまた一口喉に流す。
いや~何気なく飲んでますが実はですね、今私が飲んでいますこのお茶はなんと幽々子さんが入れて下さったのですよ。それが実に良い腕してまして…是非私も学びたいものです。
……まぁ、
「ちょっと文!貴女なに外眺めて遠い目をしているのよ!!」
「ゆ〜か〜り〜!!よくも途中で捨ててくれたなぁオイ?」
「だから捨てた訳じゃ無いって言ってるじゃない!」
……これさえ無ければの話なんですけどね…。全く、わーわーぎゃーぎゃーと煩い方達です。
いきなりこんな始まりでは皆さんが着いてこれなさそうですので一先ず説明を…。
こんな事になったのは数刻ほど前の事ですね。紫さんの策により階段を使って白玉楼まで上って来た一進さんが我々の声を聞きつけて縁側から入ってきまして。
…そしたらもう…。
「『頑張ってね♪』の何処に捨ててない要素があるんだよ!こちとら有言通りに滅茶苦茶頑張る羽目になったんだぞ!」
「違うわよ!!別に嫌がらせで捨てた訳じゃなくってただ少しだけ―「ちょっと悪いけどこいつ借りてくぞ!」せめて最後まで聞いてよ!!」
…何と言うか…。
「もう!ちゃんとした理由があるんだからそう短略的にならないでよ!」
「ああ?俺には選択権は無かったってのに随分とワガママな事を仰りますねぇ紫さん?」
「うぐ…それは……」
このように面倒な事になってしまいまして…。
「……ハァ」
「……」
その為、私と幽々子さんに至ってはあまりの急展開で口を挟む事だって出来ません。
…襖を開けて、そして紫さんを確認するや否や笑顔で詰め寄る一進さん…。
因みにそんな張り付けられた笑顔の一進さんに私少々ビビりまして…机を挟んで向かいに座って居た幽々子さんの隣に避難させて頂きました。いや~良かったです。どうやら一進さんの怒りの対象は紫さんだけのようで……。
「う〜!文が逃げてるのが納得いかないわ!!普通彼女もコッチに来るべきでしょう!?」
「あやッ!?」
ちょ!私もですか!?まさかこのタイミングで無理やり巻き込まれるとは思ってなかったですよ!
「ちょっと紫さん!折角難を逃れていたのですから私に振らないで下さいよ!」
「…ん、ああ。射命丸はいいよ」
「ありがとうございます!!」
と、思いましたが…はい勝った!完全に勝ちました!いや〜流石一進さん感謝の極みです!!
「何でよ!?」
まぁどうやら紫さんは一進さんの回答に納得がいかないようで贔屓だ〜!差別だ〜!なんて仰っていますね…。
……ですが、普通に考えて贔屓や差別は無いでしょう。
「何でって言われてもな…」
「教えなさい!何で私は怒られてるのに文は許されてるいるのよ!それを教えてくれなきゃ――」
「首謀者じゃ無いからな」キッパリ
「……」
はいお疲れ様です。それでQEDですよ。同伴者の罪は首謀者より軽くなるのは当然ですからね。
「そ、それを抜きにしてもわざわざ遠くの席に逃げるのはオカシイと思う――待って待って待って一進!!」
「逃げてませんこれは避難です。そして真っ当な判断をして下さりありがとうございます一進さん」
そしてすみません紫さん。悪いのですがどうぞお一人で怒られて下さい。
「ねぇ〜?アレがウワサの…」
すると、少々置いてけぼりになっていた幽々子さんからポソポソと耳打ちをされました。
「はい一進さんですよ。一進さんなんですけど普段はもう少し……え〜と…」
「もう少し……どうしたの?」
煮え切らなく続いた私の言葉を疑問に思ったのでしょう。幽々子さんは小首を傾げて怪訝な顔をされていまいました。
…いや、だって返事がしづらいのも仕方無いじゃないですか!一進さん本人には言いづらく申し訳無いのですが……。
「…すみません。あれが正真正銘の一進さんです」
「?」
私の撤回が曖昧になってしまった所為で幽々子さんは更に不思議そうに首を傾げてらっしゃいます。
ですが、一進さんって普段から割とはっちゃけてますから常時あんな感じですよね?幽々子さんとの初対面の印象を気にしてフォローに回ろうとしたのですが…無駄でしょう。どうせそのうちボロが出ますよ。
「さて」
「!?」
そうして何やかんや幽々子さんと話している間に、紫さんと口論(?)をしていた一進さんは首根っこを掴む様に紫さんの襟の後ろを持って庭へと引き摺りました。
「――ッ!!―ッ!!!」
まぁ、そんな事されている所為で前襟が首に食い込んでしまい紫さんが必死にもがいている様が我々の前に映し出されているんですがね。
「―ッ!?ぐっ!ストップ一進!前!前締まっ―「知って…いや、締めてる」何で言い直し――てない!てない!それ結局変わってない!!」
はっはっは分かってます完全に確信犯ですよね。私も理解してやっていると思っていましたよ。
…まぁ紫さんを助けるのは追い追いにして…そんな事よりもスゴイですね。今一進さんは体格差にモノを言わせて片手だけで紫さんを持っているんですよ。
分かりやすく言えば…そうですね。後ろ襟だけを掴んだまま持ち上げて、自分の前でプラーンって状態でぶら下げている感じです。
「ちょっとやめッ!貴ッ女達もっングッ!…見てないで助ッけ――いい加減下ろしてよぉ〜!」
何かそろそろ紫さんが泣き入りそうですが大丈夫ですか?紫さんが話している最中に一進さんが度々襟をグッて上げる所為でちょいちょい言葉が詰まってます。
「ええい下ろしなさい!橙じゃあるまいしこんな猫みたいな運ばれ方―「あぁ?」……」
……あやや…ホントに何があったんですかね?一進さんの機嫌が際限なく悪いようです。
「…に」
「…に?」
?
に?どうしたのでしょう?紫さんが何かを呟いたかと思えば徐に手を軽く上げて――。
「…にゃ〜♪」
……。
……えぇ…。
……やっちゃいましたね紫さん。
一進さんの迫力に負けたのかは知りませんが、紫さんはそんな事をやってしまいましたよ。それもポーズ付きで…。
「………」
「………」
「………」
当然冷える空気…。おお、先程まで涼しかったのですが薄ら寒くまでなって来ましたよ。
「……何が『にゃ〜』だっての…。こっちは背部を冷凍されながら階段を走って―」パシャ
「「「………え?」」」
なんて冷めてしまっていた室内に響くシャッター音…。全く誰ですか!こんな面白そうな場面を我慢出来ず撮ってしまう様な人は!!
「…あ、あやややや〜…」
…無論私です。
いや!内心では大人しくしておこうと思っていたのですよ!いたのですが紫さんの行動につい身体反応して写真を撮ってしまいました。
いや〜不覚にも紫さんのあざとい行為にトキメキそうになったのは秘密です。そして……。
「……」
「……」ダラダラ
一進さんから向けられる目が非常に怖く冷や汗が流れます。
これは想像よりも遥かに一進さんの機嫌が悪そうですね。本人は何も口にはしてないのですが…無言の圧力がそれを物語ってます。庭に運び出されたのに大人しくなった所を見るに紫さんも悟ったみたいですね。
「オイ、射命丸…」
「…分かっています」
…当然私も悟ってますよ。現行的にシバかれる未来しか見えませんが…撮ってしまった手前言い逃れは出来ないでしょう。
「分かっていますが敢えて聞きます…。何でしょうか一進さん?」
一見すればナメている様に見えなくもありませんが…これで少しでも時間を稼いでこの状況を突破する策を――。
「……何で顔を引き攣らせてるのかは聞かないが別に許してやらん事も無いぞ」
「ホントですか!?」
よしきた!!必死に言い訳を考えていましたがまさか許されるとは!
ホラどうです!日頃の行いが良い者はこういった時にでもしっかりと救われるのですよ!多少のミスは起こしてしまいますが勝つべく時に勝つ!それがこの私で――。
「……写ってるフレーム次第だが」
……まぁどうやら私の日頃の行いは悪いみたいですね。それだけはハッキリ分かりました。
さ〜てさて、撮った写真にはがっつり一進さんも写っていますから当然許されませんよね。これはどうやって切り抜けましょうかねぇ…。
「ねぇ〜?よ〜むは〜?」
お?
「…ん?妖夢?」
「階段を降りて行った筈なんだけど〜知らない?」
…ナイス!ナイスです幽々子さん!!
少しばかり一進さんから逃げる算段を巡らせていますと…いつまでも会話に入ってこれなかった幽々子さんが興味ありげに一進さんへと尋ねてくれました!
「そうですよ!!
「強調がわざとらし過ぎる!」
うるさいですよ話の流れは変えれる時に変えるのが鉄則なのです。他者に罪をなすりつけられるのであれば尚良いです。
…まぁ、結果的に大袈裟に言ってしまいましたが…確かにそう言われれば妖夢さんが一緒に居ないのは変ですね?白玉楼に来るまでの階段は一本道ですのに本当に会わなかったのでしょうか?
「そうだな。妖夢なら外で会ったけど…その前に挨拶が遅れたな。
「うんうん♪私は西行寺幽々子よ♪」
ふぅ…ありがとうございます幽々子さん。これで一先ずは私は一進さんの標的から外れる事が出来まし――。
「気軽に
「「幽々ちゃん!?」」
あっぶな!お茶こぼしそうになりましたよ!幽々…え!?幽々子さんが…幽々ちゃん!?…ハァ!?何を言ってるのですか!?
「文。驚くのも分かるけど落ち着きなさい」
すると、内心慌てていた私を見兼ねたのか、紫さんが私の肩に優しく手を置いてくれました。
「…あ、すみません紫さん。突然の事に少し動揺してしまいーじゃないですよ!なに私を盾にして後ろに隠れているんですか!」
私って肩に優しく手を置くって言いましたよね?すみませんが撤回します。優しかったのは一瞬だけで今では既に振り解けなさそうなぐらいな力で強く押さえ付けてきます。
と言うか一進さんに庭に連れ出された筈ですのに注意が幽々子さんに向いた途端一瞬で帰って来ましたよこの人!なんて手慣れた動きで私の背後に回ってるんですか!
「あ〜紫?もういいぞ?…十分楽し―んっん!もう許すから普通にしていいよ」
「ホント!」
いやいやいや『ホント!』って紫さん…。喜んでる所水を差すようで悪いのですが…完全に一進さんに遊ばれてました事が露呈しましたけどいいんですか…?
「一進さん?今楽しんだって―「フィルム壊されたいか?」はい何でもありません!幽々子さんとお話ししていて下さい!」
流してくれたかと思いきやばっちり私の撮影を覚えているじゃないですか!…クッ、私の命の次に大切な物を壊されては堪りません…これはもう暫く一進さんに下手な事言えなくなってしまいましたが甘んじて受けましょう…。
「んで、…う〜んと……幽々ちゃん…か。百歩譲って幽々さんじゃダメかい?なかなかに馴れ馴れし過ぎてハードル高いんだが…」
「え〜気軽でも良いのに〜。ま、じっくりいきましょう♪よろしくね〜
おっと、そちらは幽々さん…に落ち着きましたか。いやまぁそうなるでしょう、初対面であんな呼び方出来る方なんてそうはいませんからね。……まぁどうやら幽々子さんは違うみたいですけど。
いや〜しかし、紫さんとまでは言いませんが私だって幽々子さんと知り合って長いんですけどね。スゴイですね一進さん!ここまで幽々子さんが積極的になる事は無かったと記憶してますよ!
「……」
って…どうしたのでしょう?こんなにも美しい方が積極的になって下さっているというのに…一進さんは喜ぶどころか何やら神妙な面持ちで思案しています。
「…えっとな〜幽々さん?…その呼び方は少しばかり勘弁して貰いたいんだが…」
「え〜!呼ぶのも呼ばれるのもダメなの〜!結構気に入ったのに〜」
「…すまんな。そればかりは諦めて貰うしか―「嫌よ」……」
ほほう、一進さんも子供扱いされるのは恥ずかしいのですかね?
そして幽々子さんは両方とも断られたのが相当嫌だった様ですね…遂には頰を膨らませてそっぽ向きましたよ…。
「一進さ〜ん」
「……チッ…分かったよ…」
ですので現状を解決出来る方に託します。一進さんがどちらかを妥協して頂ければ幽々子さんの機嫌も良くなるでしょう。
一進さんも長い長考の末、決断もとい諦めたように小さく息を吐きました。
「………なら幽々ちゃんと呼ばせて貰おう」
「それなら私は一進くんと呼ぶわ♪」
「そっちですか!?」
うぇ!?そっち!?そっちを取るのですか!?迷った挙句まさかの幽々ちゃん呼びとは!逆に一体どれだけいっくん呼びには嫌な思い出が詰まっているのですか…。
「幽々子が幽々ちゃんならそうねぇ、私はゆかりんで♪」
そして貴方は相変わらずブレない人ですね…。なに幽々子さんに対抗意識を燃やしているのですか…。
「紫。寝言は寝てる時にしか言っちゃダメだぞ?」
「紫…。流石の私もそれは無いわ…」
「……え、何?もしかして私だけアウェイ?――何で目をそらすのよ!」
すみませんがアウェイです。助けを求める様にこっちを見ないで下さい。『私なんて苦労して漸く名前で呼んでくれる事になったのに…幽々子は初対面でイキナリ親密になるなんてズルいわ!』…知らないですよそんな事。
「じゃあ一進くん。改めて聞くけど妖夢はどうしたの〜?」
「遅かったから置いてきた。ま、刀携えてたから仕方ないのかもしれないけどな」
「……ふ〜ん」
ああ、やっぱり会ったには会ったのですね。ですけど妖夢さんが遅い為に途中で置いて行く事に――え?遅い?
……妖夢さんが遅かった!?
「ちょっとすみません!遅かったって事はもしかして…一進さんは妖夢さんを走って置き去りにしたのですか?」
「おう」
いや、おうって…そんな当たり前みたいな顔されましても…。
「…ぜぇ…はぁ…はぁ…速過ぎですよ」
なんて事を話していると…外から息を切らしている妖夢さんの声が微かに聞こえてきました。
「…噂をすれば来たな」
「妖夢さーん!大丈夫ですかぁ!」」
庭に出て声のした方を見ると……
…と言うかマジですか
「あら〜壊れちゃってるわね〜」
そして幽々子さん…貴女は余裕あり過ぎです…。何はともあれご自宅を壊されているのですから驚くなり何なりもう少し反応しましょうよ…。
1~2話ぐらいのストックはありますが連投が出来ませんので悪しからず。これから大学の方で実習のレポートや報告会がありますし修正もあるのです。
それではまた次回。