今回の話はいっその事って感じで時間軸を少しだけ飛ばしてみました、これで各々のキャラとの仲が良くなってしまってますがそこらへんは上手く順応してください。
それではどうぞ。
○
side一進
俺が監視兼療養生活として永遠亭で暮らして早一週間…その過程でここに住む人らとはまずまずの仲になったと自分では思ってる。
共に生活をしてみて永遠亭の皆はどんな感じの人でどんな生活を送っているかは大体理解したからな。
先生は完全に格上だからあまり巫山戯られない相手だけど…てゐと俺は何かと息が合う性悪コンビだし、何よりうどんと姫さんは弄ってて楽しいんだ。
まぁ~そんなこんなで、たとえ環境が変わったとしても俺は楽しい日々を過ごしているわけなんだよ。
そして現在俺は日課になりつつある竹林への散歩をしている所である。
「お?あったあった。いや~ホント
「オイてゐ…お前の籠スッカラカンなのに何故溢れそうになってる俺の籠にこれ以上入れようとするんだ…」
「ん~向こうにもたくさんあるウサ」
「聞けよ!」
さっき散歩って言ったな。アレは嘘だ。
いや、変にネタをブッ込んだのは謝るけど実際には嘘って訳じゃないんだぞ?
最初は姫さんに連れられてマジで散歩の筈だったんだが…いつの間にか姫さんは遊び相手と遊んでるし、俺は
まぁこの状況は現在目の前で筍掘っては俺の籠へ、筍掘っては俺の籠へと繰り返し俺の背負う籠に放り込む子兎が元凶と言っても過言では無いかな。
「そんな事言われてもてゐちゃんは箸より重い物を持った事無いウサ~」
「今お前の持ってる
見るからに箸より重いであろう道具使ってるのに何を巫山戯た事抜かしてんですかねぇこの子は……にぱーって可愛い顔したって駄目なもんは駄目だ!!
「ったく…筍堀り手伝わせてるくせに自分ばっかラクしやがってよ」
「揚げ足取りは卑怯ウサ。くふふ~それにそんな事言ってもいいウサか?」
「……なんだよ突然…」
人の顔見てニヤニヤと笑い始めたてゐを見て心なしか嫌~な予感がして思わず顔が引きつる…。
だが俺は屈しない!
さっき鍬使ってたのに加えて俺は先日お前が竹林にスコップでガッツリ穴掘ってたのを見てたし覚えてるからな!
……偶然うどんがそれに落ちたのを見かけて大爆笑してやったら酷ぇ仕打ちを受けたんだぞ。
若干逆恨みっぽいけど原因作ったのはこいつだから怒りの矛先的には間違っていないと思う。それに、永遠亭で暮らすのならばてゐの下になる事は絶対に避けないといけない。
「分からないのなら一進はその程度だったって事ウサ」
「……」
…………。
……いやいやいや…マジかよ…。
俺を見上げるほどの背丈しかないってのに、肩を竦めて薄く笑っているてゐのその姿からは全く似つかわしくない大物のオーラが感じ取れる…。
…………。
……。
…ええい!こんなちびっ子呑まれてたまるか!
「俺かお前の違いだろ?…だったら権力か……立場だな」
「くふふ〜♪」
…うわスッゲェ腹立つ…。けれどどうやら当たっていたらしく、てゐは絶対の自信からくるであろう笑みを浮かべてこちらを見てくる。
てゐの持つ絶対的なアドバンテージ…確かにそれを出されてしまえば流石に俺もてゐに従うほか無くなってしまう。
「…だけどそれこそそんな事言われてもだろ」
明らかに俺が不利なのだが…取り敢えず言い返せる材料を見つける為に、先ほどてゐの言ったみたいに言い負かされないよう言葉を返す。
そもそもの話、俺は自分の一存無しで永遠亭に滞在する事になっているんだ。だったら感謝して働きはすれど他の奴の仕事をこなさないといけない義務は無い筈だろう。
「『そんな事言われたって〜』何て言っても無駄ウサ。一進が文句言った所で
「だから文句言わず働け…と」
え〜と…てゐの言うように永遠亭のメンバーというのは少々理解し難いのだが…なんていうか立場や実力の力関係がごちゃごちゃになっているんだ。
分かりやすく言えばなめられるか否か、その為俺はてゐの下にはならないように日々奮闘していたわけで…。
「そうウサ。先ず第一に
「…やっぱそうくるか」
「当然ウサ」
てゐの言いたい事は大いに分かる。つまり俺は永遠亭に置かせてもらっているんだから働いて当然、コキ使われて当然っていう考えなんだろう。
…くっそ…言い返せる材料も見つからないし着々と俺の立場が悪くなってるな……。
「それが嫌だったら出てっていいウサよ〜。何かの理由で里に戻れないからこそウチにいる一進が他にどこに行けるのか見物だけどね」
「……行けねぇっつーの」
というより行かせてもらえないって言うのが正しいがな。
俺は生まれながらにして魔族との繋がりを持っている。その為、今後俺が幻想郷に居られるかは紫の采配次第で決定する事になっている。
まぁだから結局の所紫の答えが出るまでは相当の実力者である先生によっての監視って事で処置が落ち着いてるわけなんだ。
てゐは俺がここに置かれている理由を知らないからなぁ…かといって本当の事言うわけにもいかないし……。
……ん?いや待て…先生の監視なんだから。
「俺を永遠亭に置くって決めたのは先生だぞ?」
「…………あ」
「ふふふふ!なぁてゐ?今のお前の発言は先生に対しての文句として受け取っていいのか?いいんだよな?」
ふぅ危ねぇ危ねぇ…てゐのうっかりミスのお陰で俺は難なく自分の立場を盛り返せるようになったよ。
「…………」
ふっふっふ…それじゃあ今度は攻守交替といきましょうか。
教える必要があるか分からないが…永遠亭のカーストの頂点に君臨してるのは当たり前だが先生だからな。
てゐも言っていたが上下関係の上に当たる先生の決定を覆すのはまず不可能だろう。
「てゐちゃ〜ん?今日でどっちが上かハッキリつけようか?」
「……ウサぁ」
涙目になりながら小さい身体を更に縮こませてぷるぷる震えだす姿を見てちょっと楽しい気分に――ゲフンゲフン。
うん。俺が完全に悪役になってる事は自分でも自覚してるけど…てゐもかなり頭が回るタイプだからこういった漬け込める時に漬け込むしか上になる方法が無いんだよな。
…さて、先生という味方がついてる今このチャンスをどう活かそうか……。
「あんた達は何下らなそうな事で言い合ってるのよ…」
そんな事を言いながら現れた第三者の登場によって、俺は思わず思考を中断してそっちに目を向ける。
「おお姫様!もう終わったんですかぁ」
「チッ…」
妹紅とやり合ってた筈の姫さんの介入によって話を逸らされてしまった。
…あ〜あ、せっかくいい感じにてゐを追い詰めれそうだったのによ…。
「え、ええ。アイツとの殺し合いは終わったのだけど…。一進…今私に舌打ちしなかった?」
「は?してねぇけど?」
『何言ってんだこの人』みたいな顔をして俺は姫さんに向かって首を傾けながら平然と嘘をつく。
「そう。それならいいんだけど…。で?あんた達は結局何を言い争ってたのよ?」
ハッ、俺の人生振り返りゃ相手にバレないよう顔色一つ変えずに嘘つく事ぐらい軽い軽い。
まぁ、それでどうやら姫さんは俺らが言い争っていたのはまず気づいていたみたいだな。
だけど自分自身は妹紅とリアルで争っていた為流石に内容までは聞こえてなかったらしい。
「いや〜私が少〜し一進をコキ使おうとしてたんですがね〜」
てゐはヘラヘラとしたいつもの笑みを浮かべてこれ見よがしに俺から離れて行くのが微妙にムカつくが一先ずは納得しておこう。……あれ以上虐めるのもどうかと思うしな。
そして姫さんへの説明に関してはてゐがしているが…内容に都合の良い嘘が混じってなければ下手に訂正はしなくていいだろう。
「へぇ珍しい…てゐが言い負かされたの」
「と言っても自爆したのは私ウサ」
ま、そうだな。てゐが先生を引き合いに出してくれてなかったら俺だって言い負かされそうだったし。
「それにしても居候だからって理由はやめた方がいいわよ。一進は仮にも患者なのだから」
「仮にもって何だよ」
確かに怪我の方は治ってるし俺は元気過ぎるから姫さんの言ってる事に納得出来なくは無いけど…こちとられっきとした患者だっつーの。
「ああゴメンゴメン!気を悪くしたなら謝るけど私が言いたいのはそっちの方じゃ無いのよ」
「は?」
「ええ〜!そこまで言っちゃうウサか〜!」
「別にいいでしょ。既に一進だって身内みたいなものなんだし」
なんぞ?そっちの方じゃ無いってどういう事だ?それにてゐのこの反応も気になる…。
「簡単に説明するのも難しいんだけど…鈴仙は兎も角私と永琳も居候と言っても正しいと言えば正しいのよ」
「…はい?」
姫さんと先生も居候?え、どゆこと?簡単に説明してくれてるらしいけどそれでもなんのこっちゃ分からんぞ?
なんて俺が頭にクエスチョンを浮かべていると、何かを諦めたようにてゐが溜息を吐いて補足を入れてくる。
「…永遠亭のメンバーだと元々この竹林に住んでいたのが私だけなのさ」
まぁ他にも妖怪兎はいたけどね。と、てゐは説明の補足をしながら僅かに歩を進めて再び筍採りに行動を戻していた。
「懐かしいね〜。当初姫様とお師匠様がこの竹林に来たのは月人から逃げ隠れる為だって言うのさ」
「ホント懐かしいわ。…かなり昔の事だからね」
ふむ…。俺も姫さんと挨拶した後に少しだけ姫さん達についての話は聞いたけど……それの更に深い話って所かな。
「姫様が月から来たってのは知ってるよね?」
「理由含めて言ったわよ。外の世界の物語でもあるから一進自身理解が早かったわ」
「蓬莱の薬っていう不死になる薬の罪で地上に落とされたかぐや姫なんだろ?まぁそのまま月に帰らずにいるけどさ」
俺はてゐに姫さんから聞かされた事を軽く教える。
姫さん…なんとまぁ輝夜は皆さんご存知の竹取物語に出てくるかぐや姫本人だと言うのだ。
相違点があるとすれば、月に戻ってなかったり全く物語に出ていない者がとてつもない影響を受けていたりと色々あるんだが…。
「うん間違ってないね」
「更に教えてあげると私は私のワガママで地上に残ったのよ。永琳はそんな私について来てくれたのだけどね」
「……」
「全く、月の奴らに連れ帰られてたまるもんかっての!帰ったら帰ったで何されるか分かったもんじゃ無いわ」
快活そうに笑っている姫さんが目に映るものの…俺の中にはそんな姫さんと裏腹にゆっくり、ゆっくりと薄暗い気持ちが溢れてくる。
「それで姫様の為に一緒に来た月人を全員殺したお師匠様もお師匠様だよねぇ。あぁ因みに八雲紫が姫様達の逃走を手伝ってたんだよ」
「…へぇ」
紫が二人の逃走に一枚噛んでいた…。だから先生は紫から俺を任された時に紫に従うって言ってたのか。
俺の中で疑問だった事が一つ解消されるものの…それでも、俺の中に
だって、話を聞いた限りだと……。
「笑って言う事じゃ無いだろ…」
「はは…まぁ…ね」
罪を犯して地上に落とされたのも、ワガママで地上に残っているのも良い事では無いとは思う。
だけど、それ以上に。
「連れ帰らされたら何されるか分かんないって何だよ」
ある程度は予想出来るけどそんな事は信じたく無い。
言っていい事なのか少しだけ迷ったが、姫さんもちゃんと理解しているようだったから俺は深く踏み込む。
「……」
しかし、思った以上に俺の言葉が効いたのか…姫さんは目を伏せて押し黙ってしまった。
「……」
「まぁまぁ落ち着きよ、一進だって強がりたい時はあるだろ?」
口に出した以上引き下がれなくなった俺を見かねたのか、珍しい事にてゐが助け舟を出してくれる。
「……」
「……」
そんなてゐの気遣いでも拭えそうになかった空気が流れていたのだが…今度は笑わずに顔を上げて、憂いの表情を浮かべた姫さんの声が沈黙を破る。
「…確かに私は許されない大罪を犯したわ」
ザアザアと、竹林に流れる風が騒々しい音を奏でているがそんなものは俺の耳には入らなかった。
「軽い思いつきで永琳まで巻き込んでしまったし、他人の人生まで狂わせてしまった」
風に髪をなびかせて言い放つは己の後悔。
まだ少ない時間しか共にいないから知らないが、俺は姫さんを天真爛漫な人だと勝手に思っていた。
似たような立場であるレミリアは大いに自身の事を着飾り、尊大さを振りまいていたのに対し姫さんは笑う時には笑うまるで子供のような人だった。
それが、今やどうだ。
「それでも、そんな過去でさえ後悔しようとしないで生きているのが私の悪い所なのかしらね」
と、平安の世の魅了した彼女が見せる大人の顔。
そんなものを見せられれば俺は口を
「はぁ…私から言い始めたってのになんか悪いわね。先に帰るから
「了解。私達は適当に時間潰しとくから姫様もお気をつけて」
「ええ」
そう言って竹林を後にする姫さん。
今日もいつも通り姫さんに連れられて小一時間……。いつも通りの日課だと思っていたけど予想外な事を聞かされた為頭を抱えたくなる。
「…小難しいけどさ。楽観そうに生きてる人も、悩んで生きてる人もその実内心では何考えてるのか分からないってのが生き物として普通だよ」
「その典型が姫さんだってか?」
前者の方…楽観的に生きてるってのがおそらく姫さんの事らしいよな。
てゐにどんな思いが働いたかは分からないが…頭を抱えた俺に追加の補足を入れてくれる。
「そうは言わないよ、ただ難題は一つだけじゃないって事を教えといてあげる」
「…メンドクセェ言い方すんなよ」
「答えを教えたらそんなの難題じゃないからね。しょうがないしょうがない♪」
そりゃそうだ。俺だって問題を出す側となれば相手の悩む顔が見たいからな、呆気なく答えを言う事は決してしないだろう。
「そいじゃ、姫様から仰せつかったんだから面倒でも見ましょうかね~」
「だな。…暇だしいっそ筍焼いて食うか?」
「いいね〜。けどライターでもあるの?」
「んや、無ぇけど既に焼けてるやつなら向こうにあるだろ」
そう言って俺は姫さんと妹紅がやり合っていた所々焦げているリアル竹藪焼けた状態の跡地を指して焼けてそうな筍を探す。
「ああ成る程ね。
「流石の俺でもそこまで鬼畜な事はせんよ。――お?あったあった、ほれ」
地面に埋まってたから若干土ついてるけど…その分は皮剥ぎゃ大丈夫だろ。
「人参なら嬉しいんだけどね〜」
「いらないのか?」
「いる!」
なら最初から素直に受け取れよ。
俺達は腰を下ろして一息吐く、周りを見回すとそこは焼けてしまった一部を除いて、縁側から見えていた通り竹ばっか生えてる風景は何とも風情漂う――。
「逃げてんじゃねぇ輝夜ァ!」
「復活から早々元気だなお前は」
「うるせぇぞ一進!!あいつはどこ行きやがっ―グゥ!」
はいはい、うるさいのはお前だからな。だから俺は取り敢えず持ってた筍を妹紅の口に捩じ込む。
「姫さんは帰ったよ。そんで勝負の方はお前の負けだったぞ」
「わひゃひはまけてにゃい!」
「ハハッ!口の中に残ってるから何言ってっか分かんねぇよ」
…ホント…何言ってんかのか分からねぇ奴だよなぁ…。
……姫さんにしろてゐにしろ……どいつもこいつもよ。
妹紅とは輝夜に連れられてって初日に出会っています。寧ろ出会ってる事にしてください!
50話で輝夜が言った面白そうな事を思いついたってのが一進と妹紅を会わせる事だったってわけで…。まぁ本編でちゃんと出会ってるシーンまで書けば良かったんですがそこまで考えていなかったもので。
…プロットをマジで考えた方がよさそうですね。
それではまた次回。